なんだかんだでもうすでに三十年ぐらいは過ぎている。
ちなみに作者的には原作から200年以上前を想定しています。
虚化事件から差し引いても長い年数を隊長職についてたと思うので。
あの九番隊の事件から早くも四年ほど過ぎた。
席次が一つ上がるかと思ったのだが、その事件で京楽隊長と九番隊の隊長が卯ノ花隊長に進言したらしい。
『あれだけの戦闘力を医療部隊で発揮させないのは勿体ない』と。
「どうされますか?」
そのように聞かれても答えは一つだ。
まだ俺はここで恩を返せてはいない。
この人に認められなければ意味がないのだ。
「若輩には過ぎたこと、まだ精進の余地がありますので四番隊に籍を置かせていただきたい」
そう言うと微笑んでいた。
試していたのだろうか?
俺は立ち上がり隊首室を出ようとする。
「目の前にぶら下がる栄誉に簡単に飛びつかない謙虚さ、好感が持てますよ」
いずれはさらに素晴らしい栄誉があなたを待つでしょう。
そう言われると、俺は頷いて自分からも伝えに行くと言って出ていった。
「そうか、残念だ」
九番隊の隊長と話をする。
こちらの固辞を受けて、後日席官の異動が発表された。
今まで空位にしていたのも、きっとなまじばかり元副隊長の能力が高かったのだろう。
あの時に元副隊長が投獄されたので、重症を負わされた第三席が順次昇格。
奥さんだった第七席も第五席に。
元々、昇進の時期と重なったらしい。
「そうか、君らしいねぇ」
京楽隊長にもその旨を伝える。
笑ってはいたが勿体ないといった顔だ。
確かに九番隊の隊長に後につけるだろう。
最年少の副隊長という名誉もある。
だが、恩を返す前に行くのはいかがなものか?
あの人に後ろ脚で砂をかける事はしたくない。
「ほんまにアホやなぁ」
仕事終わりに、矢胴丸さんに誘われたので一緒に食事をとる。
他の奴にも聞いてもらって笑ってもらえばいい。
そう言って愛川さんと鳳橋さん、久南さん、猿柿さんも一緒に食べている。
「というより、あの京楽隊長と卒業試験でやりあったなんて初めて聞いたぜ」
皆が頷く。
卒業試験の内容は猿柿さんだけしか知らない。
それも鬼道の部分だけだ。
「あの人、強すぎて木刀圧し折るのが精一杯でしたよ」
もしあの試験が総合だったならもうすでに向かい合った時点で決まっていただろう。
しかし、圧し折ったというのが恐ろしい事実なようで……
「タケルの力はきっとこの同期の中でも優れているね、実質副隊長を斬っているし」
それはそうだが……
あの斬魄刀の凶悪さは異常だ。
だがそれを差し引いても、俺を鍛えてくれるあの人に比べれば弱い。
きっとあの人に勝てるのは総隊長ぐらいだろう。
「四番隊を馬鹿にしている人も居るけどね」
久南さんが言う事に鳳橋さんと猿柿さんが頷く。
それは仕方のない事。
重要性に気づかないのであれば、血みどろになって戦いの中で死ぬのみ。
「卯ノ花隊長には偉そうに言われへんくせになぁ」
あの人に偉そうにするとか死にたがりですね。
穏やかなだけの人じゃあないんだから。
怪物じみた強さを持っている。
逆鱗に触れたら何人の死傷者が出るやら。
「まあ、隊長格だからそれは流石に……」
礼儀知らずか命知らずでしょう。
そう思ってあとは黙っておく。
「まあ、話逸れたけど皆はこいつの決断についてどう思うかって話や」
すると愛川さんは揚げ物をつまみながら話しだす。
自分にその話が舞い込んだらの仮定で考えたのだろう。
そして出した結論は…
「俺も勿体ないとは思うな」
折角の大きな誘い。
今の隊に愛着はあるが、やはり成り上がってなんぼじゃないのか?
だからちょっと今回のお前の決断には賛成できない。
そう言ってまたもやつまんでいく。
「うんうん、いずれは隊長になって別の隊の人を副隊長にしたら仲のいい隊にできるよ」
久南さんも頷きながら、隊長職につく未来もあるから引き受けても損はない。
だから即答でも良かったんじゃないの?
そう言って欠伸をする。
同意者が二名。
これはかなり自分が馬鹿な決断をしていると思い知らされる。
だが俺は間違ってはいない。
「僕は断わっても良いと思うな、だってタケルはそれ目当てって感じでもないから気まずくなっちゃうし」
義理堅い人が聞いたら嫌うだろう。
それに今回のケースに限らない事だが、いきなりよそ者が入ってくるのは抵抗がある。
そしてその理由が実力であっても見ていないものに納得はできない。
いくら言っても眉唾物に聞こえるし。
「ウチもそうやな、自分で努力してその席勝ち取りたいわ」
それを言われるとそれもそうだとみんなが言う。
見方ってそれぞれあるもんだなと笑いながら、今回の事は結論付けた。
次はワイワイと皆が自分の夢を語ろうかという雰囲気になる。
すると聞きなれた声が聞こえた。
「まあ、先に隊長になるのはワイや」
呼ばれていないが平子さんが来た。
その言葉を聞いて鳳橋さんと愛川さんが口角をあげる。
そんな簡単に行くわけないというように不敵な形で。
「いや、俺がなるな」
始解も覚えているし、虚の撃墜数もかなり多い。
そう言って愛川さんが張り合う。
すると鳳橋さんも負けじと言い張る。
「僕ももう『具象化』が見えているからね、卍解で一気に差をつけられるよ」
凄い事なんだが張り合っているとみっともない。
研磨しあえる間柄だからいいが、女性陣ほったらかしで言いあうのは感心しない。
「任命するのはちゃんと試験うからんと話にならんけどな……」
そう言って、猿柿さんは串焼きを頬張っていた。
呆れているとかではなく、話について行く気がない。
この人は支えることが夢。
つまり上に立って顎で使うという気持ちは現状さらさらないのだ。
「うちも将来的にはあいつ支えんとあかんし」
京楽隊長の性格を知っているからだ。
二人は明確な目的をもって副隊長を見てる。
久南さんは別に深くは考えてはいないらしい。
「そう考えると俺の明確さの無い事……」
いや、卯ノ花隊長に認められるという目標はある。
それはしかし今の場所でなくてもよかった。
言えるのは、あの場所であの人の力になる事。
そして、いずれは見合う力を持ったうえで隊長職につきたい。
宴が終わる。
皆、話に夢中で今回は飲んでいなかった。
その為、飲み直しという事で平子さん達はおでん屋に向かう。
猿柿さんは隊舎に戻るらしい。
久南さんはお土産を拳西さんへ持っていった。
「さて……帰ろう」
この後も鍛錬が待っている。
俺はあの日、強くなりたいと願った。
其れだけど、どこまで強くなりたいのだろう?
あの人を越えた強さなのだろうか?
自分でも強さの目的地がわからない。
「今回、あんたはひよ里を副隊長に任命する夢がかなう所やってんで?」
帰り際にいやらしい顔をして矢胴丸さんが言ってくる。
一度不自然だと思われたので沸き上がった思いを素直に伝えた事がある。
だが、それが猿柿さんを副隊長に置く事と何の関係があるのだ?
確かにそんな事もできるかもしれない。
でも俺はあの人の夢を知っている。
「あの人の目標や夢を邪魔するかもしれないのなら、そのような真似はできない」
あの人の夢を邪魔したら、あの人は怒るだろう。
あの人に言葉を聞いてもらえない。
それは嫌だなと思えた。
あの人と話す時間も俺に構ってくれるのも心地よいものだから。
「真っ直ぐにあいつを慮るのはええことや」
それは男性として評価は高い。
ひよ里を大事にしたいって願いがにじみ出てると言われた。
でもな……と否定の言葉が続いた。
「いつまでもこんな幸せは続かんこと、よく覚えとき」
寿命もある身や。
欲しいものは欲しい。
好きなもんは好き。
そんな我侭を押し留めて機会を逃したら、馬の骨に取られていくんやで。
そう言われて、少したじろぐ。
最後の言葉を聞いた時、わずかに苦しい思いがよぎった。
同時にあのモヤモヤ、黒い泥が沸き上がるような感覚も。
「自分がどうしたいか、それに正直になり」
後悔だけはするな。
それに呑まれた苦しみにあんたはきっと耐えられへん。
耐えれても無理していくだけや。
切欠一つでせきとめたものが一気にあふれ出してしまうくらい脆い。
それだけは肝に銘じとき。
そういって手をひらひらをさせて矢胴丸さんも帰っていった。
大人な女性に諭されるという話。
恋を知らないがもやもやするというような状態。
黒い感情は『嫉妬』です。
指摘などありましたらお願いします。