ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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今回で一応は藍染戦への導入まで書いております。
多分数話ほどでこの戦いも終わると思います。


『逆様の世界 - Upside down World-』

日番谷の卍解が俺に対して襲い掛かってくる。

それを回避すると次は雛森副隊長が放ってきた火の玉が飛んでくる。

片手でその一撃をこともなげに受け止めると、俺の周りに灰が漂っているのが見える。

息の合った連続攻撃に対して歯軋りをする。

大した損傷も受けないのだがこうも簡単に藍染の術中にはまっていると思うとイライラしてくる。

仮にも護廷十三隊の隊長格が……。

もう少し何とかならなかったのか?

 

「唸れ、『灰猫』」

 

俺は切り刻まれているが血は流れない。

所詮、薄皮程度だろう。

持ち合わせている霊圧の差が出ている。

悪いが攻撃してくる相手に対して、俺は手加減をしてやる気は全くないぞ。

 

「攻撃してくる以上は反撃される事を覚悟しろよ、若輩共」

 

そう言うと次は吉良副隊長の攻撃が飛んでくる。

それは綱彌代が鬼道で弾く。

この連続攻撃に対して『仮面の軍勢』の皆は庇いに来ない。

元々の目的は藍染であり、『鏡花水月』での同士討ちの後始末までは範囲外だからだ。

それにこいつら相手に負ける訳が無いという信頼の表れである。

 

「あの結界ごと藍染の間合いに入って催眠への懸念も消さないとな」

 

座標から著しくずれない限り追尾型なのが嬉しい。

これで無理なのは藍染が霊圧で強引に吹き飛ばした場合だ。

当然、藍染がそれをすると隙もできるので斬りかかられる事間違いなしだが。

 

「お前ら……しゃらくさいからまとめてかかって来い」

 

狛村や東仙、綱彌代の三名を引き剥がす。

あの人たちの援護に入った方がましだ。

 

「護廷十三隊の隊長格が数頼りとは情けない」

 

腕で檜佐木と射場の攻撃を受け止める。

そのまま跳躍して開脚の形で顎を蹴り上げる。

その次の瞬間、松本と雛森の頭を掴み頭をぶつけさせる。

吉良の胸倉を掴んで日番谷に向かってぶん投げる。

 

「くっ!!」

 

それを回避する日番谷。

しかし、それも意味を成す事は無い。

それを先回りすればいいからだ。

 

「弱いな」

 

そのまま首に腕を回して力を込める。

日番谷は大した抵抗もできずに、俺に絞め落とされた。

俺と藍染は同等ほどの強さだ。

そこから考えればたとえ天才が居ても、今の彼ではまるで叶わないだろう。

 

「次はどいつが来るんだ?」

 

浮竹隊長か?

京楽隊長か?

はたまた山本総隊長か?

 

「催眠の術中でもわかったわ、お主が藍染ではないことがな」

 

山本総隊長が浮竹隊長と京楽隊長を抑えて言ってくる。

それは良いですね。

 

「斬る時に放つ霊圧が明らかに違っておる」

 

流石にそれを軽視はできないという事だ。

ならば己の勘を信じたのだろう。

 

「行くんだ、ワンダーワイス」

 

流石に総隊長が言えばこれ以上騙せないと察したのだろう。

藍染がそう言うと虚が一人動き出す。

それは山本総隊長に向かって行く。

そして藍染は斬魄刀に手を添えて……

 

「破られた以上解除しました、真っ向からやらせてもらいます」

 

そう言って刀を構える。

『鏡花水月』が有るから強い訳じゃない。

元から強い男の真剣勝負の姿勢だ。

こうなると最早厄介以外の何物でもない。

 

「まずは……貴方からとしましょう」

 

そう言って藍染がゆらりと動き始める。

標的は……

 

「砕蜂隊長!!」

 

砕蜂はその言葉を聞いてすぐに行動へと移した。

何名にも分身して回避。

それに対して藍染は高位の破道。

 

「くっ!!」

 

砕蜂が後ろを取りに行く。

その軌道を読んでいたのか後ろ回し蹴りを藍染が放つ。

其れで蹴り飛ばす。

それを東仙が受け止めようと動く。

 

「甘いな、『禁』」

 

指を向けてただ一言。

其れだけで東仙の動きが封じられる。

 

「忘れられちゃあ困るねぇ」

 

京楽隊長が攻撃を仕掛ける。

それを受け止めて剣戟が始まる。

始解をしていて『遊び』をしているというのに藍染は余裕綽々である。

 

「『白』」

 

白い隊長羽織と自分の服装で危険な色を躊躇いなく言う京楽隊長。

刀を受け止めるも二刀目が掠る。

 

「くっ!!」

 

掠っても肩口から血が滴る。

規律ゆえに起こってしまう状況。

だがそれでも藍染の目はじろりと京楽隊長を見据えていた。

 

「『赤』」

 

冷静に言って本気になる藍染。

あの京楽隊長よりも速く動く。

だが京楽隊長もただでは転ばない。

藍染に向かって『廃炎』を放ち、血で濡らした箇所を燃やす事で被害を食い止めていた。

 

「いやはや、参ったねぇ」

 

まさか優勢だと思えば即座に切り返してくるとは。

あっさりと斬りつけられてしまう京楽隊長。

順応性が高いし閃く分、虚をつく戦いかたでも対応していくな。

頭脳戦ではここにいる中では敵なしだろうから、一度出した策はもう通用しない。

こうなれば真っ向勝負が一番楽かもしれない。

 

「やはり『斬拳走鬼』の全てが桁違い……」

 

先ほど攻撃を受けとめた砕蜂隊長の呟きが聞こえる。

未だに腕が痺れているのだろう。

 

「まだ止めませんよ」

 

そう言うと結界から出る足音。

人海戦術はたいして意味がない。

やはり一対一では分は藍染にある。

となればもはや出るのは決まっている。

 

「ワイは出るで」

 

あんたが出ても頼もしさが感じられない。

百十年前と同じ結果になりそうだな。

 

「ウチも話の続きせなあかんからな、藍染」

 

ひよ里さんもできれば無理はしてほしくはない。

卍解の連続攻撃もこいつなら切り抜けるだろうと考えているからだ。

 

「止めてやるのは俺の役目だ、藍染」

 

霊圧を開放して歩む。

ぶれないようにと思いながら視線を向ける。

こういう場合に本来は出てくる役目の山本総隊長は、こいつが作った改造虚のせいで全身に火傷を負った。

吉良副隊長と雛森副隊長で回復させている。

 

「それは許されへんなあ」

 

市丸が『神槍』を発動して伸縮させる。

俺はいち早く気付いてその矛先に先回りをする。

 

「かあぁ!!」

 

上に跳ね上げてひよ里さんへの攻撃を逸らす。

そしてようやく来た援軍。

藍染の後ろから攻撃をする黒崎君。

そして市丸の後ろには英くんが居た。

 

「あんたは俺が相手させてもらうよ」

 

英くんが市丸を引き剥がす。

攻撃を平然と乗り切った藍染に驚いている黒崎君。

その一連の動作で時間が稼げたのか。

 

「『逆撫』」

 

世界が逆さまになった。

驚いてじたばたするひよ里さんを受け止める。

これは事前に分かっていても面倒だな。

 

「卍解はしないのですか?」

 

平然としている藍染。

これの打開策は全包囲攻撃。

こいつがそれを思いつかない訳が無い。

まだ卍解で頭を掻き乱した方が良かったのではないか?

 

「抜かせ、まずは小手調べや」

 

こいつは馬鹿だ。

少なくともそう思った。

 

「貴方はあの夜から何も学んでいない」

 

そう言って冷たい目のまま、攻勢を仕掛ける藍染。

それを容易に避ける平子。

俺は動こうとしている黒崎君を制止する。

 

「面倒だから動かない方が良い」

 

初見で十分に動けるとは思えない。

対応ができるのは現状、ひよ里さんか俺しか残っていない。

 

「卍解をしなければ私の『鏡花水月』に遠く及ばない」

 

あっという間に攻防の差が出る。

僅かに腕を掠めた藍染に対して脇腹を斬られた状態になる平子。

きっと戦力差を見積もると虚化を使っても意味は無い。

 

「やるやないか……『天地逆撫』!!」

 

ようやく卍解か。

『逆撫』に加えて『行動』や『事象』が反対になる。

『行動』や『事象』が反対になる能力。

範囲も限られてはいるがここにいる五人以外は特に影響は無いだろう。

 

「面倒ですけど……」

 

頬をかいて余裕綽々の藍染。

もうこりゃ決まった。

卍解も大した効果が無いという証明だ。

慣れるまでが速すぎて気の毒だな。

 

「貴方の卍解も始解も私の『鏡花水月』と似ているのが敗因ですよ」

 

こいつの理解力は埒外の一言に尽きる。

僅かな時間で全てを見抜いていた。

 

「真子のアホは勝たれへんわ」

 

ひよ里さんが呟く。

最初から微塵も勝てるなんざ思っていない。

 

「終わらせますね」

 

そう言うとそこから先は一方的な戦いだった。

鬼道を使うとそれより上位のものを返す。

速く動けば常に後ろに回られる。

全てが逆さまの世界で良くこれだけできるものだと感心すら覚える。

 

「がっ……」

 

そして終わりは唐突だった。

やり取りの中で優勢を保ち、一瞬の隙を上手く作り出した藍染。

その一瞬で脇腹を深く斬られてしまい崩れ落ちる平子。

逆さまに感じた世界が戻っていく。

刀を壊さなくてもいいのか。

万事休すというものだ。

 

「死なない程度に撤退したらいいんじゃないか」

 

平子の頭を掴んで投げる。

因みに脇腹の傷は治しておいた。

治さず死なれたら何か言われそうだしな。

わたわたとするがもはや無意味。

今の動きで優劣はついた。

 

「次は俺が相手をしよう」

 

そう言うとひよ里さんが前に出た。

まずは自分も戦おうと思ったのか?

でも無茶はさせられない。

肩を掴もうとするが、体を動かす事が出来なかった。

 

「これは……『九曜縛』」

 

無詠唱で僅かにでも止めようとしたのだろう。

事実、すぐには壊せない。

 

「ウチも強くなったんやで、藍染」

 

ひよ里さんは刀を抜いている状態だったが緊張感を張り詰めさせる。

藍染はその姿を見て苦笑いをしていた。

 

「実力差は理解されていますよね?」

 

そんな事、この人が把握していないわけないだろ。

分かった上で見せたいのだろう。

皮肉にもお前が離した事によってついぞ知らないままになった『卍解』を。

 

「引き際は知っとるで、『八岐大蛇斬捨御免』」

 

ひよ里さんがそう言って振った一撃。

俺と同じように受け止めようとして藍染は八方向の斬撃を喰らう。

 

「がっ……」

 

血が滴り落ちている。

流石にあいつでも無理だったか。

普通の攻撃に見えるよな。

 

「まさか八方向同時斬撃……?」

 

超速度かどうか見まがうほど。

それでも看破してきた。

藍染もどうするか考えている。

 

「もう一発!!」

 

六十四の斬撃。

『黒棺』をやって重力で押しつぶそうとする。

しかし軌道で重なってしまうと同時かつ幾倍にも跳ね上がっているだろう。

そういったものが突破して襲っていく。

 

「これも突破しますか…」

 

数発は活きた斬撃。

それを上空に飛び上がって回避する。

 

「中々良い卍解やろ?」

 

ウチも伊達に研鑽の時間を過ごしてへんで。

ひよ里さんがそう言って笑う様は眩しい。

藍染も微笑んでいた。

 

「あの日に手を取れていればよかったのに…」

 

藍染が曇った顔をするとひよ里さんが見据えて言う。

まるで藍染を救うように。

 

「全員が全てを知ればお前の苦しみは理解されるやろ」

 

そしてその役目を果たすのはここにいる。

視線をこっちに向けてきた。

 

「ここで交代ですか」

 

俺がそう言って前に出る。

藍染もさらに真剣な目になる。

 

「行くぞ!!」

 

俺はそう言って踏み込む。

それに反応する藍染。

しかし、それより速く斬撃が繰り出される。

 

「くっ!」

 

俺の斬撃が藍染の服を切り裂く。

そこに追撃の蹴りまで追加された。

遅すぎるでしょ、あんたら。

 

目の前には見知らぬ死神。

そして特殊な鉄甲を付けた四楓院元隊長。

相変わらずの下駄と帽子、そして作務衣を纏った喜助が居るのであった。




とりあえず今の隊長格と斑鳩の差はわかって貰えたと思います。
冬獅郎の場合は吉良を投げられた時点でかなり不利です。
視界が塞がるその一瞬が命取りです。
真っ向勝負の一対一ならまだそれなりに勝負になったかもしれませんが。

指摘などありましたらお願いします。

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