ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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藍染戦です。
もっと長くしようと思ったのですが、短くなりました。
書きたい部分はかけたのでよかったです。


『粉骨砕身 - Powdered Bone Crushed -』

藍染達は車谷の『土鯰』の力で隆起した地面に行く手を阻まれたが、こともなげに進んでいく。

そんな中、気配に気づいてこちらに振り向いてきた。

ゆらりと動くが殺気は最高潮。

百年以上前でもこんなに溢れ出させた事は無かっただろうに。

 

「はあっ!!」

 

事ここに及んで今更俺達を試す事は無い。

全身が唸りをあげた斬撃。

遂に藍染が本気になったのだ。

 

「があ!!」

 

こちらも気合を込めて刀を振り抜く。

流石に覚醒した霊圧だと一段と凄まじい。

安堵できる部分は藍染の霊圧を感じているという事。

つまり、まだ俺と藍染はかけ離れた舞台ではない。

 

「くっ!!」

 

刀を振り切った瞬間に体が悲鳴を上げる。

痛みが体中に拡散される。

視界が一瞬ぼやけてしまう。

そして堪え切れずに口から血が噴き出した。

普段なら決してあり得ないであろう、片膝をついてしまう。

 

「タケル!!」

 

ひよ里さんが藍染の攻撃を六十四の斬撃で止めながら俺を庇う。

ああ……見せてしまったか。

でも、あなたに初めに見られたならば納得できる。

 

「大丈夫ですよ……」

 

さっきも吐き出しそうになっていた。

限界は来ている。

ここで庇われてもすぐに治るわけではない。

このまま戦わせてほしい。

 

「そこの奴ら逃がしてあげてください」

 

そう言いながら藍染と対峙する。

ひよ里さんは苦しそうな顔を浮かべている。

大丈夫だと笑顔で返していた。

やせ我慢で嘘でしかない。

でもあんな顔を見たくはない。

 

「藍染隊長の手を煩わせる必要ありまへん」

 

そう言ってギンが俺の前に出る。

そして……

 

「『卍解』、『神死槍』」

 

卍解の刀を俺に向けてくる。

こいつに負けるわけにもいかない。

刀を握り締める。

 

「喰らってもらうわぁ」

 

そう言って振るってきたギン。

しかしその衝撃は何時まで経っても来ない。

視線を寄せるとその攻撃の先は……

 

「なあ、藍染はん」

 

胸を貫かれている藍染だった。

ここで藍染を騙す芝居をするかよ。

相変わらず恐ろしい野郎だぜ。

 

「ボクの刀はそんな速くもないし、長く伸びまへん」

 

今までの能力の中に多少は嘘が混じっていたのか。

藍染がそれを見抜けてない訳が無いだろうに。

ましてやこの場面の裏切りも織り込み済みではないだろうか。

 

「刀の欠片に猛毒があってその一欠片が今あんたの中に入ってる」

 

そう言うと藍染の胸にギンが手を添える。

そしてほくそ笑んで呟いた。

 

「『死せ』『神死槍』」

 

胸の中心に穴が開いた藍染。

そこから抜き出すギン。

確かにその手には『崩玉』が有った。

 

「よこせ、抜き出してやる」

 

お前の求めている魂魄をな。

ここまで成熟したら抜き出したところで影響はないも同然。

あいつからしたら作成過程の為にしか見ていなかっただろう。

 

「松本副隊長の分、お願いします」

 

そう言うので抜き出してやる。

普段通り機材が有るからできる芸当だ。

マユリに準備は必要だとよく言われていたからな。

 

「この飴を舐めさせたら問題ない」

 

飴の形になった魂魄。

そして輝きを放つ『崩玉』。

やはり所有権はもう藍染にあるのか。

 

「速く行け!!」

 

藍染が刀を振りあげている。

流石に命の危険まで感じさせたら怒るか。

 

「逃がさないよ、ギン」

 

俺とほとんど同じ速さの振りおろし。

ギンに関して言えば万事休すと思われた瞬間、藍染の攻撃を弾く投擲が有った。

その視線の先には傷付いた英くんが居た。

 

「これならば……いける!!」

 

一瞬、三分の一となった速度。

ギンを俺が抱えて最速で離脱。

当然のように体が軋んだのは言うまでもない。

 

「お前、俺を無視してギンを斬る余裕があるのか?」

 

全力同士。

ブレも今は無い。

望むのはあの日のような力。

蝕まれる中に燃える心。

 

「貴方で手一杯になるから無理ですよ」

 

構える藍染。

刀を互いに振るう。

刀が衝突しあい、一拍置いて金属音が甲高く鳴り響く。

 

「かあっ!!」

 

再度鳴り響く。

火花が目の前で散る。

鍔迫り合いとなる。

 

「ふんっ!!」

 

俺が力技で押し込む。

その瞬間、藍染の足が動いていく。

その軌道は読み切っている。

 

「甘い!!」

 

てこの原理と跳躍の合わせ技で藍染の後ろを取る。

腹部への蹴りでそのまま崩そうと思ったようだ。

俺相手に心を散漫させると厳しくなるのに。

 

「後ろへの突きで対応できますよ」

 

静かに反撃をしてくる。

頬に傷がついた俺。

背中を斬られた藍染。

何度でもこのやり取りは続くだろう。

 

「流石に浅かったら意味なしか」

 

復元とも言うべき状態。

時間の針を巻き戻されたような感覚だ。

 

「その体に深い一撃を叩き込まないと話にならないようだ」

 

力を込めると傷んだ霊圧の棘が体の中に刺さる。

激痛が走る。

しかしそれでも隙は作らない。

 

「『禁』」

 

六連続詠唱。

藍染を数秒留める程度の効力しかない。

だがそれでも己の一撃を叩き込むには十分すぎる。

 

「『五龍転滅』」

 

こちらの縛道を無効化するように放つ。

片手で放ってきたという事はもう一つ。

 

「『飛竜撃賊震天雷炮』」

 

極大の光線が打ち破る。

其れで俺の縛道を分散していくか。

やり方を変えるか。

 

「『黒棺』」

 

破道の九十番台。

詠唱破棄の六連。

其れで押し潰せはしない。

ならばこの手しかないだろう。

 

「なっ!?」

 

藍染の足元が陥没し始める。

徐々に地面へ埋もれていく中で次の手を打つ。

 

「『廃炎』」

 

左手で炎を放つ。

そして右手で二重詠唱。

 

「『闐嵐』」

 

炎を纏った旋風が出来上がる。

それをさらに連続で放ち続ける。

徐々に熱が増していくが声も全ては布石。

 

千手(せんじゅ)(はて) 届かざる闇の御手(みて) 映らざる天の射手(いて)

光を落とす道 火種を(あお)る風 集いて惑うな我が指を見よ

光弾・八身(はっしん)九条(くじょう)天経(てんけい)疾宝(しっぽう)大輪(たいりん)・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎(こうこう)として消ゆ」

 

背後から長細めの三角形の光の矢が無数に出現する。

藍染に狙いは定まった。

手を下げて最後の一文を紡ぐ。

 

「破道の九十一『千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)』」

 

藍染に向かって無数に降り注ぐ。

しかもこの量が六連続。

 

「かああ!!」

 

集中砲火とともに突撃。

風を突っ切って眼前に迫り、振りあげる。

 

「喰らいやがれ!!」

 

左肩から右の脇腹にかけて大きな傷が出来上がる。

血が噴き出して手応えが有った。

 

「まだ終わってはいないですよ」

 

藍染がそう言うと脇腹を切り裂かれてしまう。

だがそれがどうしたと斬撃を返す。

お互いの肉体から血飛沫が舞う。

 

その血飛沫の量と比例するように戦いは激化していく。

体の活動限界まで幾らかは知らない。

願わくば勝利を。

こいつの停止を只管に。

痛みに耐えて、歯を軋らせ、何度目か分からない斬撃を繰り出す。

 

「ぐっ!!」

 

藍染の再生を超える速度の斬撃。

それゆえに徐々に傷が深くついていく。

藍染はそれを打開するために回避をしようとする。

しかし、ぶれていない俺を相手では難しい。

 

「『五龍転滅』」

 

逃さないと言わんばかりの攻撃を俺は放っていく。

それに対して藍染は後ろに飛ぶが無意味。

 

「『寒晒』」

 

藍染の足元を凍結させていく。

そこにさらに踏み込んで斬撃を放つ。

 

「『黒棺』」

 

俺に向かって藍染は放ってくる。

重力場が景色を歪めていくがなんとも思わない。

氷に罅が入って砕けていくのが視認できた。

 

「ちっ!!」

 

浅い切り傷。

それを修復する前に再度繰り出す。

こちらの太刀筋が少しずつ読めてきたのか、掠る程度にしようと試みている。

 

「まだまだ速くなるぜ」

 

もう一段太刀を速くする。

驚愕こそはないが無防備に藍染は切り裂かれた。

血が口の中へと貯まる。

 

「ぶぅ!!」

 

顔に向かって血の目潰しを放つ。

霧のようになった其れは数瞬、藍染の視界を奪っていた。

 

「しゃあ!!」

 

切り裂くも後ろに飛んでいた。

良いだろう。

もう一撃叩き込んでやる。

 

「速い……」

 

藍染の呟きが聞こえる。

『崩玉』の進化が完了する前に叩く。

 

「ここが勝負所だ」

 

後ろを取って切り裂く。

更に髪の毛を掴んで引っ張る。

逃がしはしない。

鬼道ではなく物理的に。

形振りは構ってはいられない。

 

「はっ!!」

 

俺は横に一文字へ切り裂きに行く。

それを藍染は防ぐが足元がお留守だ。

そう言わんばかりにこちらは続けて水面蹴りを繰り出す。

 

「お見通しですよ」

 

笑みを浮かべて跳躍。

そこから振り下ろしてくる斬撃。

それを受け止めるが同時に『黒棺』を使ってくる。

 

「ちっ!!」

 

後ろに下がると向こうが詰めてくる。

その速度も徐々に速くなっているな。

 

「突っ込めばいいわけじゃないぞ」

 

鞘に収めた俺を見ても怯みはしない。

恐怖していては勝てないという事を藍染は知っている。

 

「はああっ!!」

 

突っ込みながら振り下ろしてくる。

それに対して俺は居合の要領でその速度を凌駕する。

藍染の斬撃よりも速く到達した其の攻撃は勢いを止めて藍染の胸を切り裂いた。

もう、何度目か分からない血飛沫が舞う。

その瞬間、藍染の目がギラリと光ったような気がした。

 

「ふふっ、今更この程度の痛みなど……」

 

藍染は今の攻防で胸を切り裂かれた。

しかし、それでも藍染は怯む事無く此方の動きをしっかりと見ていた。

その眼を見たら次に反撃の一手を用意しているのが分かった。

その証拠にあえて斬らせるために、振り下ろしたはずの刀を途中で止めていた。

 

「嫌なもんだな……」

 

刀を跳ね上げるように動かすと予想したのだろう。

それがずばり嵌まる形となり、好機を逸してはならないと藍染は即座に攻撃へと移った。

最早そうなると回避は不可能。

一本取られたと素直に感嘆する。

 

「貰った!!」

 

僅かに空いた隙間。

そんな箇所に対して、狙い澄ました藍染の一撃が入る。

痛みと臓腑の焼けるような感覚が広がっていく。

 

「よしっ……あとはここから」

 

藍染の突きが俺の腹部を貫いた。

その瞬間、俺はやっとこの機会に恵まれたと笑みを浮かべた。

その笑顔はあの凄惨たるものになっているのを藍染の瞳の奥から察する事が出来た。

 

「捕まえた……」

 

至近距離。

防ぐ事も逃げる事もおおよそ不可能な間合い。

これが最初で最後の機会だろう。

 

「くっ!?」

 

刀で斬り上げるよりも遥かに速く反撃を喰らう。

その危険性を肌で感じ取ったのだろう。

藍染は即座に刀を抜いて防御態勢に入る。

 

「この一撃は全力で放つもの、そんな防御は紙屑にも等しく……無意味だ」

 

俺はそう言って振り下ろす。

藍染の刀を持つ片腕ごと斬り落とす。

右肩から歪な形ではあるがめり込んでいく。

その勢いのまま振り抜いていく。

一拍置いて血が噴き出していく。

 

「はぁっ……」

 

その姿を見て呼吸を一つ吐き出す。

全身全霊の一撃。

これ以上無いほどの会心のものだった。

その一撃で藍染を全力で切り裂いた。

 

「あれっ?」

 

おかしいな。

前に進めない。

追撃をしなければ。

なのに……

 

「なぜ、地面がせり上がってくるんだ……」

 

地面に叩きつけられた感覚が広がる。

視線を向けると足元が見える。

あぁ……そうだったのか。

 

「俺の方が倒れたのか」

 

体中に激痛が走る。

視界は明滅する。

足を動かすこともままならない。

 

「さようなら、誰よりも私を苦しめた人よ」

 

口と胴体から血を滴らせながらこちらを見下ろしている。

体には夥しいほどの斬られた痕。

そう言って去ろうとする藍染。

ふざけるな。

そう思うとまた火は燃え盛る。

痛みすら撥ね退けていく。

足を掴んでそれを支えに立ち上がり睨み付けた。

 

「終わらせてはいけない、お前を……」

 

両手で構えて足を引きずる。

その姿を見る目には哀れみすら感じ取れるものが有った。

そんな目で見られる程、落ちぶれてはいないぜ。

 

「お…前を見捨て…る…訳には」

 

しかし体の調子は心とは真逆に残酷な現実を叩きつける。

意図しない状態で卍解が解除されていく。

命が危険にさらさている証拠だ。

それでも致命傷を与えなければいけない。

そうすれば止まるから。

 

「何故そこまで……」

 

苦しそうに胸を押さえる藍染。

ここまでしてくるとは思わなかったのだろう。

つくづく温かさを知らなかった男だ。

 

「お前にとっちゃボロボロの約束だとしても……俺には守るべき約束だからな」

 

全力で振り下ろす。

すでに始解の状態。

霊圧だけの一撃。

それが藍染に刻まれると同時に俺は膝から崩れ落ちた。

 

.

.

 

「なんであんたはあの攻撃を避けなかった?」

 

到着していた黒崎一護が私に問いかけた。

最後の一撃だけ見たような感じか。

私がむざむざと斬られた事がそんなにおかしいかね?

確かに回避は容易だった。

だが心に響いた声が有ったのだ。

 

「避けてはいけないと思っただけだよ」

 

全てをかけてでも私を止めようと望んだ。

後ろを振り向けば済む話をここまでこじらせてしまっていた事を感じた。

あの日からあの人はずっときっと……

 

「私があの場所に来るのを待っていたのだろう」

 

自分だけが前を見ていた。

しかしそれは破滅への道。

戻って止まってしまえばよかったのに。

あの日からあの人は一度でも私へ軽蔑の意思を持っていなかったのだ。

 

「黒崎一護よ、これが最終決戦だ」

 

君の霊圧が感じられないのは単純な話だ。

君は何かしらの力を用いた事で急激に強くなった。

そしてその結果、私よりも一段階上の強さになってしまったという事。

だがそれでも成長を続ける私にとっては超越する可能性が有るのだがね。

 

「その代償はいかほどか計り知れないが」

 

彼は被害を食い止めたいと思うだろう。

ならば丁度いい丘が向こうにある。

 

「あの場所で雌雄を決しよう」

 

そう言って私は向かう。

その後ろに黒崎一護が居る。

これで終わりだ。

勝つにせよ、負けるにせよ。

 

.

.

 

「行かねぇと……」

 

体を這いずらせる。

血がこみ上げて吐き出す。

最早、真赤な色ではなかった。

体がボロボロになっているのを示すように黒さが増している。

 

「動かんでええ!!」

 

響くような声。

俺の腹の方に腕を差し込んでいる。

 

「うちが運んだる」

 

虚化してたひよ里さんに抱えられていた。

昔は引きずられていたというのに……

 

「ここまで蝕まれてもあいつの事信じるんやな?」

 

その問いに頷く。

仮面の奥で微笑んでいるのが分かった。

 

「お前らしいな」

 

きっと同じ立場なら諦めきれへんまま同じ事をしていた。

そう呟いていた。

 

「戦いは他に任せる事にはなったとしても、その後に手を差し伸べるのがお前の役目やで」

 

そう言っていると別の腕が抱え込んでくる。

視線も高くなった。

 

「ボクの方が抱えられるさかい、行かせて貰います」

 

ギンが抱えていた。

その後ろには英くんもいた。

全員が見届けるようだ。

到着まで俺は僅かでも体力を回復させよう。

そう思って脱力をして揺られるままとなっていた。




ギン、生存確定です。
元々ギンは死なせる予定が無かったのでこういった理由にしました。
藍染の強さに叶わなかったのではなく、コンディションの悪さが有ったという感じです。
千年血戦編でも強くなる藍染とは横一線の予定です。

指摘などありましたらお願いします。

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