ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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今回で一応破面編は終わりです。
次回からは少しずつ飛ばしながら『死神代行消失編』に入っていこうかと。


『勧誘 - invitation - 』

藍染たちの判決が出てから一週間後。

十二番隊に三番隊、五番隊、九番隊の書類を持ち込む。

今は人員整理や雑務や任命。

それを副隊長が代理として行っている。

なら、今持ち込んだ書類は誰がやっているのか?

それは当然…

 

「イヅルもまだまだ遅いなぁ」

 

けらけら笑いながら処理をしていくギン。

苦も無くやっているし余裕が見て取れる。

 

「雛森君がこういうのは得意だったのがありがたいね、君たちと比較したら少ないものだ」

 

片手間に終わらせていく藍染。

教育が行き届いているのが見て取れるほどの少なさだ。

こういう部分もこいつの長所だよな。

 

「自分が率先していたのであまり変わりませんね」

 

檜佐木は下手な方だった。

綱彌代や東仙がやってきたというのも有るだろう。

見事な三人三様だな。

 

「これが終わったら運搬してくるから、実験の薬剤の調合とか頼む」

 

事務の仕事以外に開発局でも手伝ってもらっていた。

結果を書き纏めるのは東仙。

薬剤の調合や物資の点検はギン。

実験の補佐は藍染。

 

正直、手伝ってもらってから効率は上がっているらしい。

席次を与えられないのが歯がゆいとマユリは言っていた。

流石は慈愛が脊髄から生えているような男だ。

 

「一段落したから交渉してくるか……」

 

肩を回して現世へと向かう。

本当ならば五番隊の隊長は平子にしたくない。

俺がやるか喜助に任せたいところなんだが……

まず俺は藍染たちの監視役でもあるため不可能。

喜助も現世が気に入ってるとしたら無理。

消去法で仕方なく、本当に仕方なくあいつに頼むのだ。

 

「おっす、喜助」

 

『浦原商店』の前で掃除をしていた喜助に声をかける。

研究でもしていたのだろう。

独特のにおいがする。

 

「何かあったのか?」

 

喜助が挨拶の返事をしてくるよりも速く聞いていた。

すると喜助は頷いて話し始めた。

黒崎君の死神としての力が無くなったこと。

それを取り戻させる為の開発を行っているらしい。

 

「俺の霊圧は貸せないな……」

 

こんな傷んだもの渡したら彼の体に損傷が起こる。

開発部分の協力しかできないだろう。

 

「それが用事じゃないでしょう」

 

喜助が言ってくる。

そうだったな。

こいつに回りくどく言っても無理だ。

すっぱり言おう。

 

「五番隊の隊長になってくれないか?」

 

一瞬揺らぐ。

しかし平静に努めて一言。

 

「お断りするッス」

 

やっぱりな。

こいつの事だから引き受けないとは思っていたよ。

 

「平子さんが居るじゃないッスか」

 

あいつに頼みたくないからお前に頼んでいるんだよ。

俺の顔がそう語っているのが分かったのか、喜助はため息をついた。

 

「僕の技能を買っているからこそ声かけたのはわかりますけど、それなら夜一さんじゃダメですか?」

 

お前より引き受けてくれそうにないのに?

どうやったらあの人をもう一回隊長職に復帰させられるんだよ。

 

「非常勤の隊長って感じで…」

 

誰が許すんだよ、その制度。

それで推進してくれるの砕蜂隊長ぐらいだよ。

奇数日はお前で、偶数日を四楓院元隊長にしたらいいの?

 

「平子さんを嫌がる理由は分かりますけど背に腹かえられないでしょ?」

 

お前が引き受けてくれたら万事解決なんだよ。

全く……嫌な手間が一つ増えたな。

 

「三人ほど空いているはずですけど頑張ってくださいね」

 

分かったよ。

とりあえず行ってくる。

あの人たちも仕事してるだろうから、すれ違う事もある。

 

「一番可能性あるのは……」

 

鳳橋さんだろう。

あの人は困っている人を見過ごせない性分だ。

 

「そして、平子だ」

 

あいつに任せたくはない。

最悪、五番隊の隊長兼監視役をする。

それほどまでに嫌悪している。

きっと四十六室といい勝負が出来ているだろう。

 

「あとは拳西さんだな」

 

間違いなく久南さんもついてくる。

平隊士でもいいのなら入れるだろう。

流石に檜佐木にその気がないのに副隊長の地位は渡せない。

 

「着いたは良いが相変わらずだね」

 

辺りを見回すと殺風景。

何も無いようなところに工場や廃墟。

そこで住んでいるのだからな。

雨風が凌げているだけ問題ないのか。

 

「さ……無人か確かめますか」

 

霊圧の感知で三名。

一人は四楓院元隊長。

そして、矢胴丸さんと鳳橋さんか。

 

「失礼しますよ」

 

皆さんが談笑している中に入っていく。

思わぬ来客だったのか。

驚いているがそこは大人。

平静を取り戻して椅子に座る事を勧められる。

少し待っていると黒い墨のような飲み物を持ってきた。

 

「これ…本当に飲めるんですか?」

 

聞いた瞬間、三人とも噴き出す。

四楓院元隊長なんて腹を抱える始末だ。

 

「それは『コーヒー』って奴や、それに自分らが飲まれへんもんを客に勧めるわけないやろ」

 

安心して飲めや。

そう、矢胴丸さんに言われて口に含む。

なんて苦さだ、口中に広がっている。

たまらず歯を剥きだして目を瞑る。

そんな姿がおかしかったのか、噴き出す音がまた聞こえた。

 

それを見ながら飲み進めていく。

一拍置いて矢胴丸さんが口を開いた。

 

「どうせ仕事の関連やろ?」

 

三人も隊長が抜けたらそりゃあてんやわんややろな。

真剣な目でこちらに言ってくる。

その通りですよ。

 

「鳳橋さんと拳西さんを再度登用したいんです」

 

これは一任された俺の勝手な判断。

あれから百年、ろくに優れた奴らは出てこなかった。

悪く言うと育てられなかったという所。

よく言うと奴らが突出していた。

 

「最年少の副隊長、護廷十三隊随一の天才、お主の一番弟子の代わりなんてすぐ出るわけないのう」

 

頭を掻く四楓院元隊長。

そんな人材が大量に居たら盤石ですよ。

 

「だから自分が知ってる限りの人材に声かけているんじゃないですか」

 

今の副隊長たちを上げても第三席が副隊長ほどってわけでもないし。

そこでピンときた。

平子を入れなくても済むことが。

 

「綱彌代を五番隊にすればいい気がしますね」

 

よく考えたら隊長経験者だったな。

そうなっても手薄なのは九番隊においては三席と隊長だ。

 

「真子は入れといた方がええで」

 

矢胴丸さんがそんな事を言ってくる。

何かしら理由があるのだろう。

この人には助けられてきたからな。

そう思って耳を傾けた。

 

「現世におっても役たたんから適当なとこにあてがってくれや」

 

理由を聞いて溜息が出そうになる。

それ、ただの厄介払いじゃないですか。

まあ、なんにもなしにリーダー面とやらをしていたらしい。

因みに『リーダー』とは『筆頭』や『率いている者』という意味合いで考えればいいらしい。

 

「それに真実知ったらあいつの顔を見たくないと思ったからや」

 

多分ほとんどの共通事項だと思いますけどね。

こっちはもう憎しみしかないですよ。

 

「まあ、使える人材なんやから使っとけって話やな」

 

あの人のサボり癖知ってて言ってます?

因みに『サボる』という言葉はどうやら現世の西洋当たりの言葉が語源らしい。

絶対に雛森副隊長の負担が大きくなる。

藍染の有能さを見ていたのならば尚更だろう。

 

「駄目かどうかも分からないし、やらせてみたらいいんじゃないか?」

 

鳳橋さんも賛同する。

別に憎しみとかなさそうだな。

とは言っても擁護する気持ちも今やなさそうだが。

 

「鳳橋さんも戻ってきてくれませんか?」

 

俺は頭を下げてお願いをする。

その提案に対して、鳳橋さんは一度驚く。

しかし、次の瞬間平静な様子を見せてきた。

 

「懐かしい人物からそこまで評価されているのならば、戻らないわけにはいかないさ」

 

笑顔で応えてくれる。

この人は変わらないな。

本当に優しい人だ、いつか騙されそうなほどに。

 

「おっ、帰ってきおったか」

 

四楓院元隊長が言うと全員が帰ってきた。

とにかく次は拳西さんと話すか。

立ち上がって近づいて荷物を持つ。

珍しい来客に目を丸くしていたが問題ない。

 

「大方予想はつくんだがよ、座ってからでいいよな?」

 

その言葉に頷く。

そして座ったと同時に俺は声をかけていた。

 

「抜けてしまった九番隊の隊長職へ復帰していただけませんか?」

 

拳西さんはその言葉に一瞬戸惑う。

頭を掻いて唸って考えている。

 

「それって決めたらすぐに復帰しないと駄目なのか?」

 

今の副隊長たちの支援をしていくから一か月程度なら待てると思いますよ。

それ以降となると流石に催促ぐらいはさせてもらいますけど。

そう返したら拳西さんは少しほっとしたような顔になって顔を引き締めた。

 

「なら、今の生活から抜けて今一度隊長になるのもいいな、その勧誘受けるぜ」

 

そういって手を差し出してきた。

俺はその手を握り返す。

来てくれるのは嬉しかったが、現世にも愛着が有るだろうにとも思えた。

 

「何せお前の眼鏡に叶ったってわけだからよ」

 

それはそんなに凄い事なのか?

そうは思ったが口には出さない。

これで十分狙った人材からの確約を貰う事が出来た。

しかし、拳西さん単独の勧誘となれば納得しない人がここには居る。

 

「なんで拳西だけ~、私も声かかってもいいじゃ~ん」

 

案の定、久南さんが頬を膨らませてじたばたとする。

そんな姿を見て拳西さんはため息をついていた。

それを見た俺は助け舟を出した。

 

「戻ってきても良いですけど、席官か平隊士しかありませんよ?」

 

そう言うとピタリと止まる。

拳西さんは『余計な事は言うな』と視線を送る。

笑顔になって椅子に座りなおした。

 

「良いもん、拳西が戻るなら私も戻りたい」

 

席次は関係なく戻りたいから戻る。

相変わらずな人だ。

でもそれがこの人の長所だよな。

 

「そうなると真子も復帰の勧誘か?」

 

こうなると仕方ないと踏んだのだろう。

諦めたように拳西さんは息を吐き出す。

そして一拍置いてからこっちを見てきて質問をしてきた。

 

「まあ、五番隊も空席になったんで」

 

本来ならば勧誘はしなくても良かった。

しかし、空席については本当の話だからぼかしておく。

俺のその返答を聞いて拳西さんは頬をポリポリと掻いた。

 

「本当に面倒なもんだな」

 

これでも百年前に比べればまだましだったんじゃないですか?

思い返すと二番隊は大前田さんが隊長代理、三番隊は射場さんが隊長代理。

五番隊は藍染が就任。

七番隊は狛村、九番隊は東仙を十番隊の隊員でありながら一時的に代理として立てさせるように推薦。

八番隊は影響なし。

俺が十番隊から離れたことで綱彌代が隊長に就任。

十二番隊はマユリと俺が隊長、副隊長に就任。

実に四人もの空席を開けてしまった事件。

 

「戻ってきませんか?」

 

来てくれませんかなんて言わない。

こいつ相手にいかにも来て貰いたいとかいう下手に出る空気を出したくない。

そう言うのを感じ取っているのだろう。

ひよ里さんや愛川さんのように察している人は苦い顔をしていた。

 

「給与とかどないなるねん?」

 

そこは俺の一存で決められはしない。

それは総隊長と応相談だな。

こじれても綱彌代を立てればいいだけだから、そこは心配していない。

 

「それはあんたの交渉でなんとかしろ」

 

俺が言ったから増減するとかでもない。

それにそんなに金が欲しいなら仕事を真剣にしろという話だ。

 

「そんな口聞くんかいな、お前が来いって言うとるのに」

 

その上から言ってる感じに少し腹を立てる。

勧誘したけどそこまで必死じゃなかったんですけど?

別に絶対来いなんて言ってませんけど?

 

「いや、別に来たくなければ来なくてもいいよ」

 

あんたの代役だって用意できるんだよ。

今までのつけってものさ。

冷たくされるのも考えとくべきだったな。

 

「ここまで言われたら終いやな」

 

ひよ里さんが笑いながら言ってくる。

ここまでボロボロに言われるだけの事してきたんだ。

いうなれば俺達の百年を失わせた張本人。

 

何故困らないのかと言えばそれは若手の大抜擢は別に悪いものではないからだ。

朽木隊士や海燕といった十三番隊にも粒はある。

俺達ならそいつに足りていない部分を補ってやれる。

その時点であんたにはこだわらなくてもいい。

 

どうしても必要と言えば鳳橋さんと拳西さん。

まずサボり癖がない事。

更に人の面倒を見たり率いる事が十分できる人。

これが大きい。

サボるし壁作る人って時点でかなり悪い評価を受けているという現状に気が付かないと。

 

「分かった、分かった、自分で交渉すればええんやろ」

 

平子が投げやりに言ってきた。

あっ、そうですか。

本当にどうでもいいのでするりとかわす。

 

「じゃあ、これで三人は整ったな」

 

それで俺の役目は終了。

給与面は総隊長任せではある。

しかしそれなりに色は付けるだろう。

 

「帰るとしますか」

 

そう言って立ち上がる。

食事ぐらいしていけと拳西さんが言う。

しかし速くこう言った報告はしておかないと後後に問題が生じる。

 

「帰るのついて行ったるわ」

 

俺の気配にいち早く勘付いたのだろう。

それはこの場所を出ていくというよりは何かが有る。

そう思ったのかもしれない。

ひよ里さんが出ていく俺に付いて来て少し歩き始めた。

 

「ウチと二人で話したいことが有ったんやないんか?」

 

やがてみんなの姿が見えなくなった時に、ひよ里さんが口を開く。

やはり気づいていたんだ。

その話は誰にも聞かれたくない。

だから言わずに去ろうとしていた。

 

「そこの公園で話そうやないか」

 

そう言われて俺はひよ里さんと近くの公園の椅子に腰かける。

隣に居ると心臓が高鳴る。

それを悟ってきたかのようにこちらへ視線を向けてきた。

その動作を口火にいきなり俺は目的の言葉を投げかけていた。

 

「戻って来て貰えませんか?」

 

自分を勧誘する話を隠したがっていたのは、ひよ里さんにとっては予想外だったのだろう。

その言葉にひよ里さんは驚いて目を見開く。

鳳橋さん達の勧誘だけで終わりだと思っていたのが分かる。

それだけで終わらせるわけがないというのに。

 

「それは命令からくる要望か?」

 

冷静さを取り戻してひよ里さんが聞いてくる。

俺はその問いに首を振った。

それが一体どういう意味なのか。

この人に分からないわけではない。

真剣な眼差しに変わる。

 

「お前の個人的な気持ちってわけや」

 

その言葉に頷く。

ただ只管にこれは俺の思いだ。

俺は我慢できずにひよ里さんの手を掴む。

 

「なっ!?」

 

驚愕しているが俺は止まらない。

あの頃に比べるとあまりにも貧相な細腕ではあるがひよ里さんは振りほどけない。

今、思いの丈を伝えよう。

 

「誰よりも近くで貴方の笑顔が見たいんです、貴方の支えになりたいんです、これは百年経っても変わらない」

 

座っていたおかげで背中を丸めれば声を楽にかけられる

しかしその結果、手を握っているこの状況では顔が非常に近い。

それは互いの吐息がかかりそうなほど。

これ以上近づけば口づけになりそうなほどだ。

 

「離さんかい、助平が!!」

 

ひよ里さんが叫んでこっちが掴んでいだ手を振りほどく。

ひよ里さんは顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。

 

「百年前と同じような言葉と熱量はさすがに反則やで」

 

久々に昔を思い出して赤面してしもうたわ。

そう言ってひよ里さんは掌で顔をパタパタと仰ぐ。

 

「言っておきますが今の言葉に嘘は混じってませんよ」

 

俺は真剣な眼差しで射貫くように見る。

それを見たひよ里さんは口元を僅かに上げている。

 

「お前が人の心を弄ぶような真似できるなんてはなから思てへん」

 

せやから信じるよ。

そう言われた。

 

「……ちょっと待ってくれや」

 

指折り、ひよ里さんは数え始める。

それは色々な事を思案しているのだろう。

そして一拍置いてこちらを見る。

 

「直ぐには行かれへんな」

 

色々と用事とかもある。

一か月ぐらい待ってくれ。

その言葉に頷く。

 

百年も待ったのだ。

今更一か月が何だというのか。

 

「阿近とか眠六號をダシに使わへんかったのは褒めたるわ」

 

指をさし向けて言ってくる。

こういう時には自分の言葉で勝負しないといけない。

そういう人ですからね。

これぐらい直球じゃないと貴方には響きはしない。

 

「一か月後、迎えにこいや」

 

そう言って、ひよ里さんは来た道を戻っていく。

俺は頬を緩ませないように気を付けながら、尸魂界へと戻っていくのだった。




ひよ里も復帰させるようにしました。
斑鳩にとって平子の株はストップ安を更新中です。
ただ、悪い人材ではないから仕方ないみたいに最終的に声掛けはしたという感じです。

平子ファンには申し訳ありませんがご理解のほどお願いいたします。

指摘などありましたらお願いします。

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