次回で破面編終わり宣言は勇み足だったと後悔しています。
あの約束の日から一か月後。
既に鳳橋さんと平子は入っている。
鳳橋さんは吉良副隊長とは良い関係のようだ。
気が合う部分もあるが、どうも現世での知識で合わない部分もあって戸惑うらしい。
相談はよく来るようになった。
吉良副隊長にはとにかく根の詰めすぎには気を付けるように忠告しておいた。
暗さはあるけど真面目な奴だからな。
良い奴なのに勿体ない。
「あの、平子隊長を見ませんでしたか?」
おずおずと話しかけてくるのは雛森副隊長。
どうやら脱走されたらしい。
その事実に溜息をつく。
これなら奇数日に四楓院元隊長で偶数日に喜助の方が良かった。
半分は仕事やってくれるんだもんな。
もしかしたら砕蜂隊長が奇数日に来てくれるかもしれないけど。
「あいつは探してくるからとにかく、五番隊の重要な書類は十二番隊の阿近三席に渡しておいてくれ」
藍染がとにかく整理をする。
即時必要なものは印鑑を借りさえすれば筆跡でごまかす。
久々の方法だが仕方あるまい。
「全く……嫌な役回りだよ」
自分を悪だと自覚していない男。
未だに実行した藍染が悪いと思い込んでいる。
念の為に言うがその種を作ったのは平子である。
さらに遡ればそれだけの能力があった俺に責任転嫁をするだろう。
しかしそれはあまりお門違いだ。
仮に俺が鳥とするのであれば……
高く速く飛べる才能。
狩りがとてもうまくできる能力。
それらを十全に発揮するなと言っているようなもの。
翼が折れてしまい、嘴も割れて、足を引きずる鷲や鷹。
それと同じ振る舞いを健康でありながら演じ続ける地獄。
「もういっそ殺してくれと言いたくなるかもな」
速く見つけなくてはならない。
あの人を迎えに行かなくては。
霊圧探知を行うものの感知ができない。
霊圧を消しているのか、もしくは……
「おい、君」
五番隊の隊舎に戻って隊士に声をかける。
振り向いたら一瞬、顔が強張った。
久しぶりにその反応を見たよ。
「地獄蝶の数は足りているかな?」
申請なり出して取っていってもらわないと困る。
数の管理が間違えて居たら後々が危ない。
「一羽足りません……」
青ざめる隊士をなだめる。
何処かに指紋は残るはすだ。
それを採取してしまえば問題ない。
「見つけた……」
指紋を特殊な眼鏡で確認。
そして採取した指紋を百年前から現在にかけての隊長の指紋と照合する。
「案の定だったな」
数秒で結果は出た。
平子が地獄蝶を使って現世に向かっていたのだ。
迷惑な男である。
そしてその事実を伝えると隊士は安堵の息を吐いた。
「雛森副隊長にはすぐには連れ戻せないと伝えておいてくれ」
それだけ言うと十二番隊の方へと戻る。
そして眠六號に言って地獄蝶を貰う。
何故、急いでいるのかとは聞いてこなかった。
俺がこれだけ急ぐ相手などこの世において二人。
ましてや現世に行くとなれば絞られてしまう。
「迷惑な事ばかりしてくれる、あのおかっぱ野郎」
そう言って『浦原商店』の前へ出た。
既にひよ里さんの気配がある。
俺は浦原商店の地下へと入っていった。
「遅かったな」
拳西さんが言ってきたのを皮切りにひよ里さんが睨んでくる。
腕を掴んでいるのは平子だった。
本当にお前最低な奴だな。
ひよ里さんの気を引く為とはいえそこまでするのか。
「そこのおかっぱが仕事放り出してここに来てたんですよ」
そう言っても平子は嘘をつくなという顔をする。
ひよ里さんからの信頼は俺よりあるんだと誇示するように。
ひよ里さんも俺の顔を見る。
「言っておきますけど、これが嘘かどうかは他の五番隊の奴に聞けばわかりますよ」
自分を信じてもらえないにしてもそこで真実を知る事はできる。
拳西さんは頷いていた。
無駄な言い訳をしたらひよ里さんの機嫌を損なう。
俺はそれが怖かったのだ。
理由があるにせよ約束を守る事が出来なかった。
其れで戻って来てくれなければと思ってしまった。
「嘘ついてないのはどうやら……」
ひよ里さんが平子から離れる。
スタスタとこっちに向かってくる。
怒りの顔は変わっていない。
説教が始まるのだろうか?
「お前のようやな」
あんな小動物みたいな顔してるやつが嘘つけるはずないやろ。
そう言ってこちらに寄ってきた。
そして平子には打って変わって冷たい視線を向けてきた。
因みに怒りの顔は無くなっている。
「相も変わらず、サボってまで迎えにくんな」
こいつが約束してたのをほったらかしてるって言われて一瞬でも信じたウチがアホやった。
そう言って案内係だろと言わんばかりに手を引いてくる。
「嘘までついて来た時点でお前の性根があれから変わってないか容易に想像できる」
平子に冷たい言葉を投げかけるひよ里さん。
拳西さんもその後ろについてくる。
その横には久南さん。
がっくりした顔で平子が来ていた。
「戻ったらすぐに手続きするんで三人ともお願いしますね」
一番隊に行ってから話をする。
採寸を取って羽織等の発注。
これは現在の見栄えが気に入らない時にするものだ。
その後に九番隊隊長就任あいさつ。
これはもう拳西さんの担当になる。
十二番隊は同様だがそこまで大仰ではない。
まず顔見知りが多すぎるからである。
隊長、副隊長、三席、四席。
上位に名を連ねるものが知っているので問題は欠片も無い。
更に悪く言うと人の出入りに今の十二番隊は無頓着だからな。
「任せろよ、こういったものも礼儀は学んだからな」
そう言って到着するとすぐに一番隊の隊舎へと向かう。
一か月前と同じように話は進んでいった。
人事権は俺にあったから久南さんやひよ里さんも問題なしとのこと。
給与面は追って連絡をよこすと言っていた。
「流石に当時とは物価も違うからな」
それでも実際は昇給しているらしい。
これは鳳橋さんからの話だ。
俺は開発ばかりしていたからまた貯金まみれ。
それを気にした事は無かった。
「現世でも当時と今じゃ変わるんやから当たり前やけどな」
そう言って四番隊の隊舎に皆で入っていく。
採寸の予定だからだ。
俺が拳西さんを取る。
女性隊士である虎徹副隊長が久南さんとひよ里さんを取っていく。
卯ノ花隊長は多忙の為、頼めなかった。
まあ、同時にするとしても隊長に取らせるってのは、依怙贔屓に見えるからこの方が気が楽なんだけど。
「あれから義骸のせいで変わってないですね」
これから環境で変わるかもしれませんが。
本当なら義魂の取り込める力や装置が用意出来ればそれで解決する。
「まあ、そんなもんだろう」
そう言って服を着直して男子の更衣室から出る。
すると虎徹副隊長が少し疲れた顔をして出てきた。
「動きすぎですよ……」
久南さんにやられたようだ。
あの人の奔放さも相変わらず。
胃に穴が開いてしまう場面もあるだろう。
「お疲れ様」
そう言って頭を下げる。
後で労いの意味を込めて何か茶菓子でも用意しよう。
「行こうよ、拳西」
それだけ言ってそそくさと四番隊の隊舎から出ていった。
礼儀を学んだのは拳西さんであって久南さんは違うのだろう。
というより百年前から本当に振る舞いが変わらない。
「迷惑かけたな、嬢ちゃん」
ひよ里さんも頭を下げている。
後で差し入れするさかいな。
そう言って俺と十二番隊に向かう。
「お前の後釜か、あの子?」
そう、ひよ里さんが聞いてくるから首を振る。
俺の後釜は『山田清之助』と言って今の七席の兄だと伝えた。
「そいつは今は貴族の病院で偉い地位に居ると聞いています」
元からずれている男ではあったが有能。
それを正しく評価されたのだろう。
卯ノ花隊長からもそれなりに言われていたからな。
「代替わりの部分で言うと、昔馴染みが隊長になったりしてますよ」
綱彌代の後から来た隊長が志波一心。
黒崎君の父親だ。
そいつが松本を連れてきて、その松本が日番谷を連れてきた。
それが土台となって今の十番隊が出来た。
「百年でかなり変わったんやろうな」
その言葉に頷く。
一番隊と四番隊、八番隊、十一番隊、十三番隊は変更なし。
二番隊は砕蜂、三番隊はギン、五番隊は藍染、六番隊は朽木白哉が台頭。
七番隊は狛村、九番隊は東仙、十番隊が綱彌代、十二番隊がマユリだ。
実に八名の変化が有った。
更に十番隊は二回ここから代変わりしている。
東仙の隊長就任と同時に綱彌代が移籍して志波が襲名。
志波の失踪事件が勃発したので日番谷が襲名と言った感じだ。
「このままあいつの態度が変わらないと本当に五番隊から放り出すかもな……」
そう考えると一回変わっても問題は無いだろう。
見る目が無かったとでも言えば放逐できる。
後々、総隊長から推薦を募ればいい話だからな。
結局それだけの努力が見えていない。
戻ってきたのは能力もあるから。
しかしそれでも俺としては隊首試験の時から変わっていない。
飛びぬけていたわけではない。
あくまで従来の隊長と比べたら強いって感じだ。
総隊長は言わずもがな。
そこに付き従う雀部副隊長、教え子である京楽隊長や浮竹隊長に勝つのは無理だろう。
俺と卯ノ花隊長、更木と比較してもかなわない。
平子も鬼道とか撃てるのだがあの精度であれば更木には通用しない。
「そうは言うけど後任おるんか?」
いますよ、とびきりの奴が。
それにあいつの方が慕われやすい。
きっとあいつなら藍染ともうまくやれてもおかしくなかっただろう。
「十三番隊の志波海燕ですよ、あいつは優先度見極めている系統なんで良いんです」
何処かの誰かとは違いますからね。
それに慕われていますし浮竹隊長からも信頼されています。
綱彌代が百年前に受けてくれなかったら頭を下げてでもあいつを任命していたかもしれない。
「あのガキなら大丈夫やろな」
ガキ扱いするくらい離れてますもんね、俺たち。
卍解も持っているだろうから資格は十分だ。
五番隊にもすぐ馴染むだろう。
「だからあいつは死に物狂いで頑張るしかないんですよ」
同性の方が良いなら綱彌代もいる。
その時点で十分居場所が無いからね。
雛森副隊長直々の話が有れば踏み切れる。
「離れて見れば悪い所がボロボロ出るんやな」
そういうもんでしょう。
こっちが色眼鏡で見ている事も認めますけどね。
それでもこの一か月でサボった回数も一度や二度じゃない。
ましてやわざとこっちの好感度を下げる真似。
どれをとっても隊長の座に居るものがやる事ではない。
恥を知れと言いたい。
「真相知ってから反吐が出ますよ、あの草履顔は」
努力は無し。
実力も虚化の分だけの上昇。
まあ、日常を生き抜く為と言われると多少は目を瞑ります。
しかし、聞く所によれば仕事こそやっていたものの重要部分は人任せ。
情報収集は四楓院元隊長。
開発は喜助とひよ里さん。
本来率いる者として己が率先する部分をしていなかった。
「せめて実力が格段に上がっていればまだ評価できましたけどね」
上がったつもりだろうけどまず、藍染が手を抜いてたのはバレバレだったからな。
あれじゃ上がってないのと一緒だよ。
藍染でもひよ里さんのは見た事なかったし、見ても対処しんどいから喰らった。
明確な攻略法が無い以上は次も喰らってしまうだろう。
もしかしたら平子にも勝てるんじゃないだろうか?
あと、平子の卍解は強力なのに活かせていない。
全方位にしかも弱く遅くやればいい。
概念の反転を解除しても斬撃で倒せる。
「お前と比較するのはお門違いやろ」
百年前の時点で今より強い更木剣八に引き分け。
その時点で危うさがにじみ出ている。
更には戦闘力からの『零番隊』昇進の打診。
列挙されたらそれもそうだと思う。
「それなら尚更仕事で成果出さないと」
そう言うとひよ里さんは笑っていた。
しかしその目は冷たかった。
「俺がこんなに平子の事こき下ろしているの怒ってます?」
そう聞くと大笑いして首を振った。
その目は冷たくは無かった。
どうやら本当に俺に向けてはいないらしい。
視線が平子の方に向いているのがきちんと確認できた。
あいつは何しに戻ってきたんだという眼差しだった。
「ただ、出戻りしたらそれこそ居場所ないやろな」
あいつを憐れむ気持ちで置いとけばええやろ。
憐れむって言ってる時点でもうほぼほぼ虫の息みたいなものなんですけどね。
「そうこう話している間に着きましたよ、懐かしいけど今や薬品くさい十二番隊隊舎へ」
そう言った俺のすねを蹴ってくる。
足を抑えて呻く俺に対してひよ里さんは言い放ってきた。
「余計な事は言わんでええ」
全く持ってその通りですね。
そう言ってひよ里さんは入っていく。
百年間、来ていないとは思えない勝手知ったる我が家のように歩いていく。
平然と一直線に副官室へ。
マユリの奴は今日も虚圏へ行ったらしい。
ひよ里さんが復帰する旨は伝えておいたんだけどな。
「大きさ変わらんけど……似合うか?」
そう言って出てきたのは百年前の姿から変わらぬひよ里さんだった。
目頭が熱くなる。
思い出が駆け巡っていた。
「とても……似合っていますよ」
声を絞り出す事しかできてなかった。
そして顔を背けている。
そんな姿を見てひよ里さんは背中を叩いてくれていた。
「本当に帰ってきたんだな」
阿近がひよ里さんに言う。
珍しく少しだけ声が震えている。
お前も嬉しいんだろうに。
素直に表現しろよな。
「相も変わらない小ささダネ」
マユリもいつの間にか帰ってきた。
俺が現世へ行った直後に向かっていたんだろう。
「副隊長復帰やけどよろしく頼みます」
そういうひよ里さんにマユリはにやりと笑う。
だが次の瞬間、目を細めていた。
「とは言っても十二番隊に戦闘部隊を作るのでその指導を任せる予定ダ」
研究部分以上に今回で兵力に疑念が生まれたのだろう。
実際、並の隊士ばかりで練度は落ちているからな。
「洗練された強さが多くないと、もし今後藍染のような奴らが攻め込んできたら一溜りもないダロウ」
それを可能とするための指導力ならば有るはずだ。
そう言われて任命される。
しかしそれではお前の研究の補佐は誰がやるんだ?
「ネムが私の補佐をするから、そちらは傑を補佐に頑張りたまえヨ」
成程ね。
しかもマユリの事だ。
藍染たちも使うだろう。
人員に関しては杞憂に終わった。
「あいつもああ見えて護廷十三隊の事考えているんやな」
去っていくマユリの後ろ姿を見ながらひよ里さんが呟く。
普段は口に出しませんけどね。
不器用ともいえるんでしょう。
「まあ、今の奴を鍛え上げても期間が短ければ席官並みがずらずらぐらいが関の山」
流石に隊長格と同列は簡単には出てこない。
当人の才能も多少は必要となってしまう。
まあ、努力は万人において当然の話なのだが。
「それでもないよりはましやろ」
其れに席官並みが増えるって言うてる自分が異常って気づいとるんか?
ひよ里さんが言ってくるが頬を掻く。
だってそれくらいは持ってほしいですからね。
「とにかくこれから頼みますよ、新副隊長としてね」
そう言って俺はひよ里さんに頭を下げる。
すると任せろと言わんばかりに力瘤を作った。
華奢であるが故に噴出しそうになったが、我慢する。
「ただ、お前の事をこき使わせてもらうで」
これでもウチは大きな空白期間が有るんやからな。
ひよ里さんはそう言って隣に並んで歩き始める。
ようやくあの日の続きを見る事が出来る。
目の前が燦然と輝いているように思えるのだった。
平子の評価がガンガン下がってしまいそうな本作。
本当にファンの方には申し訳ありません。
嫌いというわけではないのですが、本作での憎まれ役の為こういう描写になっております。
理解のほどお願いいたします。
今回で本当に破面編は終了です。
ひよ里が復帰したことで現世は英が『仮面の軍勢』に協力する立ち位置となります。
前回の流れを変えて普通に海燕を五番隊に就任させれば、原作のようにルキアの副隊長が可能になる事に気づいて後悔。
誤字など指摘がありましたらお願いします。