次回からは一気に飛ばしていく感じです。
よくよく考えたら『死神代行消失編』は別に出番なくても良いと思いました。
『日常 - Days - 』
十二番隊隊舎近くの道場にて。
俺達は隊士の中でも戦闘能力にたけたものを集めて鍛錬していた。
途轍もないほどの才気は感じていない。
才気だけならば研究に居る久南さんの妹である。
本当にあの姉妹、凄いよ。
「喜助になってから研究ばかりしてたから後進を育てるなんて思わんかったわ」
汗を拭くひよ里さん。
息は切れてはいない。
他の奴らは膝を着いたり、這いつくばっている。
俺は鍛錬ならば問題はない。
「三席、一戦お願いします!!」
やる気のある隊士が声をかけてくる。
そのやる気は良いだろう。
ひよ里さんに斬魄刀がいいか、木刀がいいか視線を送る。
「斬魄刀使え」
木刀で勝っても意味は無い。
実戦を想定させなあかん。
そう言われたので斬魄刀を使う事にする。
「全員、両端に寄らんと巻き込まれるで」
そう言うと全員が端による。
こっちもやり方考えるんで警戒心むき出しにしなくてもいいんですけどね。
「いつ始めますか?」
相手が悠長にも聞いてくる。
お前はひよ里さんの俺に対する忠告を聞いていなかったのか?
実戦を想定しろと言っただろ。
「もう始まっているよ」
合図して始まる死合は無いぞ。
突きを放つがそれを転がって避ける。
「転がっても振り下ろされれば意味無いで」
ひよ里さんが行動を指摘する。
隊士はそれに気づいて横に避ける。
振り下ろしていた腕を止める。
「範囲が広い分、体勢を整えるのも僅かに時間を要する」
薙げばそれだけで終わり。
そう思っても無意味だ。
その動きを見て、ひよ里さんが助け舟を出す。
俺はその思惑を超えて攻撃を出さないといけない。
「俺の思考力まで鍛えられるじゃないか」
ここまで計算していたのだろうか?
有り得る話だ。
「薙いではいけないならばこれだな」
相手の正中線をめがけて突きを繰り出す。
転がる前に足に当たる。
機動力を奪いに行けばいい。
「足だけ防いでしゃがめ!!」
ひよ里さんの指示が飛ぶ。
それを想定してしゃがむ前に跳躍する。
「流石に形状変化は良いだろうな……」
こんな馬鹿みたいに大きい奴を延々振り続けるわけにもいかない。
相手に軌道が読まれたりもあり得る。
最速で振ればひよ里さんの指示より速く斬れるんだろうけどな。
それはきっと今回の組手お目的ではないだろう。
頭を柔らかくしろって事だ。
「正直にはやらないぜ」
そう言って踏み込む。
相手の斬撃を回避していく。
その軌道に先回りするように切り込めとひよ里さんは言った。
斜め後ろに飛ぶ。
先回りをするのは良いがこちらも回避行動が事前にとれる。
「んっ?」
後ろに気配が有った。
俺が回避する事も織り込み済みの動き教えましたね?
柄で斬撃を受け止めてまたもや距離を取る。
「俺の動きなんてお見通しだから面倒だ」
全然違う動きでもしないといけない。
仕方ない。
「初めての頃と同じような動きをするか」
まだ、始解が大きくなかった頃。
そして死線しか見えなかった日々。
俺は『浅打』に戻して動き始めた。
「ふっ!!」
相手が先に仕掛けた斬撃を受け止める。
それを滑らせるように受け流していく。
地面を擦るようなギリギリの所へ飛び込む。
「なっ!?」
空ぶってしまった相手の懐へ入り込んで居合の抜刀。
それは回避を許しはしない。
薄皮ではあるが切り裂く。
首筋に刀を押し当てた。
「勝負ありや」
そう言ってひよ里さんが止める。
その後、回道で治療を施した。
初心におけるがむしゃらさを引き出した。
今までの洗練された動きは逆に相手に読まれるという事。
それを一から見直すというためにしてくれたのだろう。
「自分の課題は見てて気づいたやつもおるやろう」
攻撃の動きがほとんど機械にも似た正確さ。
一つしか手がない場合の手詰まり。
それはほとんどの隊士に当てはまる。
基礎的な動きや対応力。
それらの欠如も見て感じたならばその弱点の強化に勤しむこと。
弱点を放り出して長所だけ鍛えるのは実力が近くないと殆ど意味をなさない。
そう、ひよ里さんは忠告をした。
相手に同系統が居た場合に動きを忠告されると戦いにくい。
これは相手の陣営に優れた観察眼が居ないと成り立たない。
もしくはよく知っている者が裏切っている可能性。
前例は稀な形でもあるが一応警戒する事。
後者に関してはよく観察してその相手に対する理解を深める事が一応の対策だ。
「お前らをこの鍛錬を繰り返す事で精鋭に変化させる」
覚悟して付いて来い。
ひよ里さんはそう言って全員に体を清めて疲れを取るように促した。
そして俺に視線を向けてきた。
「初心に帰って少しはすっきりしたやろ」
確かに今までとは一味違った戦い方ができた。
隊長になってからは出来なかった泥臭いような感じ。
これも含めて自分じゃないか。
随分冷たい真似をしたなと思える。
「円熟した技術や老成した精神の下地を一度掘り起こして混ぜて再度強さを見直すのも道や」
こちとら百年の間はそういう事を繰り返してきたからな。
いらん部分は斬り捨てて良い所は取っていけばええ。
大きな戦いはまだしばらくない。
そう、ひよ里さんが言ってくる。
「体を休めて少しでもあの日に近づくんや」
お前のその状態を見れば体が酷いのは分かる。
こんな事でしか救ってやれんのが情けない。
百年を傷つけたのに。
苦虫を噛み潰したような顔でひよ里さんが言う。
それに対して頭に手を置いてあげる事しかできなかった。
「治すには生死の境を彷徨わないといけませんから」
きっと喜助の温泉。
あれはちょっとしたものを真似ただけだとあいつは行っていた。
その温泉の『本物』にはもしかしたら想定以上の効果があるかもしれない。
そしてそれを使えるのは『回道』の創始者。
其れすなわち……初代四番隊隊長『麒麟寺天次郎』。
つまり零番隊が出張る事になる。
「ままならんもんや……」
溜息をつくひよ里さん。
そんな悲しそうな顔をしないでほしい。
まだ望みはあるのだから。
生き抜きたい心の支えがあるのだから。
あの日の答えすらまだ聞けてはいない。
其れで死ぬなんざまっぴらごめんだ。
「必ず生きてあの日々を取り戻せるようになるんです」
俺たち全員が体や強さと言った部分が戻ってはいない。
もっと言ってしまうと追放された皆が義骸や変身を用いたものだった。
だから場合によっては全盛期を迎えているのに、変わっていない人もいるだろう。
そうなると手順がかなり手間取りそうなものだ。
「できる事はするから遠慮すんなや」
元気で居てくれて感謝って言ってたけど、それじゃあうちの気は済まへん。
だから頼むで。
そう言われるとこちらもなんとしてでも治そうと躍起になる。
「貴方とまだ楽しい日々を過ごしたいですからね」
笑顔を浮かべてひよ里さんを見つめる。
目をじっと見た後、笑顔を返してくれた。
お互い心ではわかっているが声には出さない。
それをしなくても通じ合えているのだから。
「そのためにはお互いに生きていかんとあかん」
そうひよ里さんに言われて俺は頷く。
こんな事が有って生きていく。
「貴方が居れば頑張れる」
そう、俺は行って道場から出ていく。
気だるさが有る以上、無理はさせられない。
普段ならば疲れもないが、自分の手の内を知った人が指示したから倍以上は疲れてしまった。
.
.
やっぱり体は良くないな。
去っていく後ろ姿を見てつくづく思う。
昔の面影はもはやその心だけ。
肉体もはちきれんばかりの筋肉の鎧に包まれたものから随分と変わってしまった。
それに伴ってあの恐ろしいほどの強さすら霞んでいくのが分かる。
なんでこないな事になるんやろう。
「あのままやったら幸せやったのに……」
会いに行けば依存が深まる。
自分を律する事が互いにできなくなってしまう。
それを恐れてしまった。
その結果あれだけの状態にさせてしまった。
たった一人孤独に結果も知らず身を壊し続けた。
それがどれだけの苦痛か。
寂寥感が胸を満たしても吐露できず。
苦しい顔を見せるわけにもいかず。
「只管にウチらの為に走り抜けた」
恩を一つも返さずに。
どれだけそれが情けのない事か。
あいつは許すだろう。
其れではいけないのだ。
それに甘えてしまってはいけない。
「これで返さんかったら……」
愛される価値も。
見てもらう価値も。
答えを待ち続ける価値も。
「微塵も有ったらあかんやろ」
その言葉への返答はない。
うちらの為に人生の何年間も捧げたあいつの為に返すにはただ一つ。
あの日から常に問い続けた。
自分の胸にある思い。
信頼できるか否か。
一緒に居て楽しいか否か。
それはぐるぐると回り続けていた。
関係の崩壊を恐れはしなくとも。
幸せになれるのか。
あいつは幸せでいてくれるのか。
でもあの再会の時の顔を見たら決心はついた。
あの日の様な健康なお前になったその時には……
「ウチの人生をくれたるよ」
それでお前が喜ぶならば。
一緒に歩もうと今でも本気で思ってくれてるならば。
言葉は風に消えて行ってもこの自分の中にだけ有る誓い。
百年の問いにようやく出た答えだから。
ウチは絶対に忘れへん。
.
.
道場での鍛錬をしていた翌日、斑鳩三席から私は任務を貰った。
いつもの書類の仕事ではない。
わざわざ一番隊の隊舎の地下。
監獄に用事を出したのだ。
許されているとはいえやはり委縮はする。
頭を下げて隊長室へと向かう。
全員からの視線が痛い。
「失礼いたします」
入っていくと山本総隊長と雀部副隊長がいた。
「あやつからの用事であろう?」
そう聞かれるので頷く。
わざわざ『無間』にまで行かねばならない事が有るのだろうか。
そう、山本総隊長が問いかけてきたので思い当たる事を言ってみた。
「おおよそ次の脅威に対して少しでも戦力の増強を行うつもりではないでしょうか?」
たとえそれが重罪人でも。
そう言うと指をさしてどの口がと返された。
間違いない。
肩を竦めて私は入っていった。
「本当に見通しのきかない暗闇だな」
霊圧の感知も難しくなる。
目的の相手はかなりの手練れ。
あの人もそこまでして対策を打ちたいなんてな。
「まあ、滅却師の頭領に対しての警戒は当然か」
警戒をしている事に越した事は無い。
本拠地は私でも不明。
しかし、思い当たるのはあの人から聞いた事が有る。
かつて見たひずみがあるらしい。
そこから逆算したら内部に作られている。
悪く言えば手遅れという事だ。
「珍しい客人だ……」
いきなり目の前に現れた。
初めから近くに居たのか。
もしくはこちらが見つけられなかったのだろう。
「色々とあるようだな、上では」
見上げながら感慨深くもなく淡々と言う男。
しかしその霊圧は押し寄せる嵐のようだ。
ゆらりと立ち上がってくる。
痩身痩躯とも言えよう姿。
しかし見た目では判断してはならない。
「貴方の力を貸していただきたいんですよ、監視役の望みでね」
その言葉に僅かに驚きの色を見せる。
自分を開放したがる物好きがいるなんて想像できていなかったのだろう。
あの人は自分たちの居場所に害をなす相手には清濁併せ呑んでいいと思っているからな。
無論、私もその意見には賛同している系統だ。
「死刑囚ともいえるこの俺を?」
聞き返してくるので頷く。
其れで本気だと知ったのだろう。
考えるために再度座り込んだ。
「貢献されればこの『無間』からの解放も十分あり得ます」
自分とは違い、体験から生まれた判断で重罪になる事柄を証明した存在。
しかし今となれば分かっているはずだ。
いや、分かってなくても感じ取る。
その実現をするには零番隊さえ相手どらないといけない。
そしてさらに強い『剣八』がいる。
到底実現不可能なものであると。
「貢献したら開放としてもこちらとしては別段何かあるわけでもない」
自分が今の場所に満足しているならな。
暇と思う心も何もありはしない。
死が俺を迎えるまで何もないのと同じ。
「何かなくとも貴方にはしていないことが有るでしょう、例えば刀との会話とかね」
たしか聞いたところによると体験したことがきっかけでいきなり目覚めたらしい。
しかも特殊な状況だった。
その為、我々が始解に必要な事も何もかもが欠如しているはずだろう。
「刀との対話でも楽しめと?、良い冗談だ」
興味が無いというように。
この系統はおおよそ斬魄刀が真逆で付き合えないのだろう。
私の場合は頑なに口を閉ざしているので別だが。
「そうは言っても貴方は奇妙な形で始解も飛び越えた人だ、故に理解していないでしょう」
私の方もあまり人の事は言えませんがね。
その言葉に思う所があったのか。
顎に手を当てて頷いて立ち上がる。
「まあ、損はしないだろう」
鍵が付いたままというのも窮屈なんだが。
そう言われると開放する。
生憎、どうこうしてしまおうという敵意が薄い。
「では行きましょうか、痣城元隊長」
伴うはかつての剣八。
あまりにも過剰と言える戦力の増強。
ここまでする価値がある。
あの人の力になれる喜びを感じながら『無間』を出ていった。
小説キャラも登場。
本当ならば他の奴も出した方が良いのですが、痣城だけにしておきました。
千年血戦では本来はいない、もしくは終盤に出陣したキャラによる遊撃部隊がさらに増強。
四十六室からしたら(自分達からすれば)凶悪犯を無罪にさせられそうで怯える毎日という感じです。
誤字など指摘が有りましたらお願いいたします。