軽々と死なないようにという事で打ち出しているという感じです。
そして主人公の出自を明らかにしました。
痣城の解放以降、二ヶ月が経過した。
其れでの流れは変わらない。
彼はマユリの『超人薬』を飲んで『対話』をしようと試みていた。
とは言えど元々すでに卍解の為、逆行するのは時間がかかる。
きっとこの想定している期間内に終わる事は無いだろう。
「しかし剣八の中でも無機質さが際立っているネ」
マユリが言ってくるので頷いて返す。
剣八には珍しく戦闘における意欲がない。
そして、何より興味深い事柄を求めていないのだ。
彼は魂魄の天秤を求めている。
常にそれは均衡していないといけない。
その為にはすべての感情を排してしまった存在。
機械の如く動く死神を必要とした。
ある種、義骸の作りの一つではある。
「体験を聞いたところによると凄惨なものであるが故にああなったようだな」
だからこそ善悪と言ったもの。
感情というものを必要としないのだろう。
単純に何も考えずに実行されれば幸せ。
それを脳裏によぎらせたのかもしれない。
「少なくともここに今いる奴らの大半は裏切りとかは有るだろうに」
マユリの言葉に頷く。
そう言われればそうだろう。
だが当人が負った哀しみまでは、こちらの価値観で断じる事が出来ない。
自分達に大小あるからと押し付けるわけにもいかない。
「貴族って言うのはついて回ると改めて思うよ」
自分の出自とかを思い浮かべて思う所もある。
名前で誰も特別扱いもしないから楽だった。
貴族の出だからと言って誰も頭を下げない。
「もともとは貴族だからな、君は」
マユリが言ってくるので鼻を掻く。
かと言っても下級といった所だ。
本家の鼻つまみ者になってしまった俺には何ら関係ない。
原因は今と過去の二つにある。
過去に怒りのままに四十六室襲撃未遂。
今では藍染たち罪人の開放といった行動。
「事件さえなければ、今頃は上級貴族に格上げされていただろうな」
そう言って笑い飛ばす。
隊長でありながら、現在の礎を作った。
子供たちがもはや護廷十三隊に入っている奴らもいる。
しかも、そいつらが貴族から来ていますというのも大きい。
研究畑ではマユリとの共同もあったが有名になってしまった。
零番隊から直接の勧誘。
功績だけを羅列すると途轍もない。
「人脈だけで言えば五大貴族と肩を並べる事が出来る」
四楓院家、志波家、綱彌代家、朽木家。
そこいらとは繋がりがあるからな。
しかも浅くもない。
「欲にまみれた奴らなら喉から手が出るほどのものばかりだな」
全くそう言った事なんて計算していない。
この繋がりは巡り合わせでしかないのだから。
「まあ、俺の家の事よりも目先の状況についてはどうだ?」
今後の滅却師の動きが気になって調査を頼んだ。
今までの確執から戦わないという事は無い。
総隊長が仕留めなかったことでさらなる脅威へと変貌していると考えていいだろう。
「歪みの観測は無し、しかし確実に侵入している可能性はある」
あの時のようなものが出現していないのか。
しかし、相手の動きから考えればもう既に入り込んでいてもおかしくないという事。
光と影という解釈の場合は奴らは影を使って転移ができるというわけだ。
「影を作って忍んでいるのならば影を作れないようにすればいい」
つまり発光させるという事。
影を作る事もできないほどの光で、相手が別空間からしか出てこれないようにする。
「この程度なら一か月あれば十分だ」
自分達の施設だけでも守れる状態にする必要がある。
滅却師の新しい情報の開示があれば言ってくれ。
マユリがそう言うので俺も頷く。
「奴らが虚を抹殺する理由を知っているカネ?」
無論知っている。
そう言って頷いた俺を手招きする。
教えろという事か。
「奴らの魂魄には虚への耐性が全く無いんだ」
猛毒だからこその恐れ。
喰らえば崩壊してしまう。
だから取り入れる事も無理。
相手にも中和できる方法があれば問題ない。
「じゃあ虚の霊圧を注入すれば勝ちが見えるのか」
一応、自分達も危ないんだけどな。
そういうものを考えたら軽率にその策は使えない。
「ただ、ありとあらゆるものを利用するのは賛成だ」
とにかく今は十二番隊の練度をあげて迎撃させる。
こっちも後輩や教え子たちに声をかけている。
引退したやつらも頼りになる粒はあるからな。
いずれ来る戦いは現役の護廷十三隊だけでは足りない。
「とはいえど初めに犠牲があるのは否定できない」
全くの被害なしは無理だろう。
それほどの自惚れはない。
確実に三桁を超える死者は出る。
「そればかりはどうしようもないものさ」
この予想できる戦いにおいてはあくまでも取捨選択を。
それをしなくてはいけない。
例え誰であれ例外にあらず。
「遺書の準備をしておけよ」
真剣な眼差しでマユリに言う。
すると普段とは違った眼差しで見返してきた。
「もうそんなものはあの日に隊長になってから書き続けているよ」
一拍置いてマユリが喋る。
死を恐れているのがおかしい事ではない。
「君がそう言うのは予想外ではあったがな」
恐れずにいるのは、いつ来ても良いと思っているからだ。
それが終わりであったとしても文句ひとつも言わずに去る覚悟。
それを持つものだけさ。
「昔はそうだったが今ではな……」
護らなければいけない人。
護りたい場所。
それがあるから恐怖心がある。
置いて行ってしまう事に対して。
「君にもそれなりの感性や感情があったって事さ」
そう言ってくるマユリ。
大きな仁を有するが故に思いは芽生えた。
当然、思いは強くすることもある。
だが時にその人を縛り付けてしまう。
「いやはや、本当に百年いてやっと君のそう言った面を間近で見たんじゃないかね」
君は見えないように顔を背けたりしていたからな。
もしくは表情がまるで分からないように被ってもいた。
収穫があったとだけ思うよ。
そうマユリは告げて笑いながら去っていった、
「あいつも今度の相手の強大さには少し思う所があるんだろう」
其れこそ揶揄うなんて真似をしないといけないぐらいには。
黒崎君の問題は現状、喜助に丸投げしている。
「俺達にできる事をすればいいんだ」
戦力についても増強しないとな。
少し副隊長たちに言い含めておくか。
俺はひよ里さんを連れて三番隊へと向かった。
「で……イヅルに卍解を教えておけと?」
隊舎に通された俺達は鳳橋さんに頼む。
本来ならば全体の練度をあげてほしい所なんだけどな。
それが無理でも卍解を副隊長が覚えておいてくれると助かる。
「でも僕は自分が習得できたところで誰かに教えてもすぐには無理だよ」
別に数か月でしろと言っているんじゃない。
それは後々まで見据えての習得の予定だ。
二番隊にも話をつけるがそれなりに親しい奴らに声をかけておきたかった。
「習得してくれるのが一番ですけど地力が上がってくれないと」
副隊長の地位にいる相手は探してもすぐには用意できませんからね。
人材不足は身に染みてわかっているはずですよ。
「僕も教えてみるよ」
そう言ってくれたので別の場所に行く。
しかし、次の二番隊では砕蜂隊長自ら『諦めろ』と言ってきた。
金勘定しかしていない奴が出来るわけ無いと一蹴された。
更にその次の四番隊でも『戦闘部隊ではないので不要』と断じられた。
「次は五番隊か……」
顔を出したくない。
そんな勘定が出ていたのか、ひよ里さんに叩かれる。
これも立派な仕事だと。
「で……案の定居ないと?」
雛森副隊長が申し訳なさそうに言ってくる。
あれ以降、関係は修復された。
とは言えどこちらも逆鱗に触れる言葉さえなければ何とも思わなかった。
そこまで気に留めてすらいなかった。
「とにかく隊長には伝えといてください」
最悪、十二番隊に顔を出したら教えるんで。
不憫すぎるから助け舟を出しておいた。
流石にそれは感じ取っていたのか、ひよ里さんも苦笑いだった。
「次は七番隊だな」
狛村は二つ返事で聞き入れてくれた。
流石にそこまでの練度は難しいだろうが、少なくともその一歩手前には持っていく。
正直な物言いにこっちも頷く。
「八番隊は京楽隊長だし、あの子の斬術は……」
伊勢副隊長は失礼ながら戦闘力が高いわけではない。
鬼道こそ天才的ではあるが。
斬術をやっていたのを見た事は無い。
「そう言えば六番隊は何で飛ばしたんや?」
ひよ里さんが聞いてきた。
確かに飛ばしたのは気になりますよね。
ひよ里さんの問いに頭を掻きながら俺は答える。
「六番隊はもう習得しているんですよ」
前の事件の時に強くなることを思ってね。
結果としてはなかなかの力はありますが特殊な能力ではない単純なものです。
「拳西の所の奴とあのチビ助隊長の所の奴ぐらいか」
更木や草鹿は無理だと思っている。
そして海燕も習得済み。
そうなるともうその二つしかない。
「一番今までで声かけた中でも可能性がありそうなやつですよ」
九番隊で檜佐木副隊長が居たので声をかける。
拳西さんを呼んできてくれたのですぐに話に入る事が出来た。
「なるほどな」
話をすると頷く拳西さん。
確かに戦力の増強は必要。
更に後進を育てるというのは必須事項。
「一護の奴が短期間で手に入れた奴取り寄せといてくれよ」
分かりました。
俺はそう返答して去っていく。
最後の十番隊の隊舎へと向かった。
「で……またサボってんのか?」
平子に冷たい視線を向ける。
そして日番谷隊長と話をする。
こっちの目的を聞くと松本副隊長が苦い顔になった。
卍解を手に入れるためにとてつもない修行をすることになるのは明白だからだ。
「死にたくないならそういった事せんと駄目や」
ひよ里さんが一喝する。
一応言っとくけど全ての副隊長が対象になっとる。
習得できんでも実力の水増しって奴が重要なんやで。
「まず、どこぞの誰かさんのせいで負担増えてる副隊長さんもおるからなぁ……」
平子の方を見る。
もしこいつがこのままやったらこっちの三席が教える事になるやろ。
この時期に面倒ごと増やすなよ。
ひよ里さんは最後にそれだけ言って、俺と共に十番隊から出ていった。
「視線は胸にはいかんみたいやなぁ」
こっちを見ながら言ってくる。
ああ、ティア・ハリベルの時という疑惑の前科があるからな。
「目を見て話さないと伝わらないでしょ」
ああいった人には揶揄われているんで無理に相手したら駄目です。
かわすのが吉。
「とにかくこれで釘は刺した」
強くなってくれれば御の字か。
そう言ってくるひよ里さんに頷いて返す。
あとは黒崎君の問題で手助けできればいい。
そして自分たちの戦いに向けて精進する事。
これで少しでも尸魂界の平和につながればいい。
空を見上げて霊王宮がある方向へ視線を寄せるのであった。
主人公は元々貴族生まれ。
しかし、下級なのでそこまで威張れるものではありません。
放浪者って感じでも良かったのですが、この設定にしました。
そして、先んじて卍解の修行へ入ります。
全員習得できなくても少しは強くなるのでやらない術はないです。
指摘などありましたらお願いします。