ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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ちょこちょこ原作キャラも出てきます。
次回からまた時間を飛ばしていこうかと思います。



『掃除 -Sweep-』

矢胴丸さんのあの言葉を考えて数日が経った。

俺の中で猿柿さんに対する思い。

それは徐々に抑えられなくなる肥大していく。

それが何というのかは、俺にはよく分からない。

 

「一体これは何なのだろう」

 

卯ノ花隊長に聞くのは少し違うと思った。

言えばきっと答えは導き出される。

しかし自覚していない中でのそれは、きっと俺の中に食い違いが生まれそうだ。

 

「あの、少しよろしいでしょうか?」

 

非番の日に歩いていると後ろから声をかけられる。

その聞いた事もない声に対して俺は振り返る。

声の主を見た瞬間、非常に大柄で驚いた。

どうやら特徴的な服装と髪形から察するに鬼道衆の人だろう。

こうして会うのは初めてだな、もともと表舞台には鬼道衆は立たないから無理もないが。

 

「平子さん達から聞いているとおもいますが、ワタシは有昭田(うしょうだ)鉢玄(はちげん)と言いマス」

 

ハッチと呼ばれていた人か。

今日、初めて見るぐらい会えなかった。

普段は裏方だから、こちらとの接触が今までなくてもおかしくはないな。

 

「私以上に優れていると聞いて…一つ何番台までならば無詠唱で可能ですか?」

 

あれからかなりの時が流れているからな。

あくまで聞いているのは噂程度のものだと思う。

ここは虚飾もなしに相手へ正直に伝えるとしよう。

 

「破道は八十八、縛道は八十一まで、詠唱ありきならば両方九十番台まで使用できます」

 

今は刀が中心の戦いをしている。

その為、鬼道を使う事も現状では少ない。

しかし鍛錬馬鹿なので衰えない程度には鬼道も練磨している。

その結果が鬼道衆の大半より優れているのならば嬉しい限りだ。

 

「素晴らしい……なのになぜ鬼道衆には入らなかったのデス?」

 

これは有昭田さん個人の純粋な疑問だろう。

俺としては元々死神希望だったのもある。

そしてきっとこれは憶測の話だが……

 

「戦闘能力の高さと回道を修める事で単騎能力の向上、虚の討伐に重きを置くようにしたかったのだろう」

 

そう言った理由からきっと初めから四番隊所属となった。

後で回道をするよりは初めに収める方が効率がいい。

其れに沁みつかせておけば、いずれ離れても十分使える人材へと成長する。

ただ、それ以外にもなんだか大きな野望のようなものが見える。

まるで純粋な善意で鍛えようとしているわけではないような。

 

「なるほど、護廷十三隊の戦闘能力を底上げするための……」

 

有昭田さんとそんな事を話していると一人が近寄る。

隊長格と同じような威圧感。

ずしんと音を立てて近づいてくるのは迫力がある。

 

「お疲れ様デス、握菱(つかびし)鉄裁(てっさい)第一鬼道長」

 

そう言って握菱さんに、有昭田さんが頭を下げる。

こちらも有昭田さんに倣って、握菱さんへお辞儀をする。

握菱さんは俺の顔をじろりと見て微笑む。

 

「これほどの霊圧、素晴らしいものですな」

 

握菱さんはそれだけ言って去っていった。

それについて行く有昭田さん。

どうやら本当に一目見たかっただけのようだ。

 

「暇なものだな」

 

俺はそう呟いて久々にぐるりと回る。

すると、二番隊の隊舎まで来ていた。

そんな中で何かしら、無いものかと思った。

そしてそんな気持ちでぐるぐると回ると当然見つかってしまうわけで……

 

「おい、貴様何をしている!!」

 

男が大きな怒りの籠った声をかけてくる。

こいつの事は知ってはいるが、礼儀を知らん奴だな。

まあ、礼儀で言えばこちらも勝手に別の隊舎をうろうろしているので大差はない。

 

「そうがなり立てるな、(フォン)家のものよ」

 

別の隊舎に赴いてはいけない決まりはない。

それとも力づくで追い出すか?

 

「俺はこの先に用があるのだ」

 

俺がそう言ってある方向を見る。

興味をそそられるものがあった。

それは……

 

「これが『蛆虫の巣』か」

 

入るには扉を見る限りでは、どうやら鍵が必要な構造だ。

そして、その鍵は高位の席官が管理するようだな。

隙を見て奪うのは容易だが……

 

「あくまで俺の考えを理解できる奴が居ればの話だ」

 

そんな相手が居ない限りでは鍵を奪っても得はない。

絵空事と思える事を実現させられる頭脳の持ち主。

それは得てして危険分子に数えられる。

何故ならば極刑を免れないであろう次元のものだからだ。

だから優れた頭脳が欲しければここを観察するのが近道となる。

 

「さて……」

 

連行されていく奴らを見る。

あれは違う。

あれも違う。

そう思いながら全員が入るのを見届けるが、眼鏡にはかなわない。

 

「定期的に来るか」

 

そう言って俺は去っていく。

そんな中、警報がけたたましく鳴り響く。

これは……

 

虚が大勢出現。

測定上ではこちらも席官を八名投入。

俺と平子さん、愛川さん、鳳橋さん、拳西さん、久南さん、猿柿さん、矢胴丸さん。

まあ、十分な数ではないだろうか。

 

「治療部隊としての腕を買ってるのか、それとも剣の腕を知った人が推薦したのか」

 

俺一人だけというのが解せない。

もう少し危機的な場面を想定して、投入するべきではなかろうか。

推薦した人たちが安易に分かる。

 

「ハッチおらんけどこの面子なんて初めてちゃうか」

 

平子さんがそう言って全員が斬魄刀を抜く。

しかし相手が予想外の行動を仕掛けてきた。

今までの出現場所とは全く違う空からの襲来。

 

「ギャゴオオオオ」

 

吠え猛りながら降ってきて俺達を分断する。

矢胴丸さんと猿柿さんと愛川さん。

久南さんと拳西さん。

鳳橋さんと平子さん。

俺だけ単騎にされるとかいう嫌がらせ。

そこで三人組になってるうちの一人と組ませろ。

 

「虚が知恵をつけたか……」

 

囲んできた。

これでは支援ができない。

しかもその中には初めて見る代物がいた。

教本でも載っていない相手。

しかし一度話に聞いたので覚えている。

 

中級大虚(アジューカス)が二体とは……」

 

最下級大虚(ギリアン)だけでも今回は数体。

他の場所ではこいつらが一体いるのかどうかなのに。

強さに当てられたのか?

 

「まあ……」

 

斬る分には困らないか。

俺は斬魄刀を両手で握って駆けだす。

全ての奴らの動きが緩慢。

囲っているのに意味のないこと、この上なし。

 

「弱いぜ……」

 

まずは頭から一刀両断。

返す刀で横に真っ二つ。

瞬く間に二体の討伐を完了させる。

 

「次いくぞ!!」

 

そう叫び、さらに進んでいく。

向こうが攻撃を放つよりも俺の方が速い。

図体がでかいだけの奴に負けはしない。

 

「ガアアアアアア!!」

 

舌が襲い掛かってくる。

それを切り裂き、懐へ。

相手がいくら波状攻撃を仕掛けても無駄。

鬼道を使う必要もない。

 

「残りはお前らだけだ」

 

都合、七体の最下級大虚を討伐。

その肉片を喰らう豹のような中級大虚。

きっとこいつが首領格。

その前に現れたのが鹿のような見た目の中級大虚。

 

「私が相手をしよう、死神」

 

低く構えてくる。

それに合わせて構える。

呼吸の合間に集中が高まる。

失敗は死と心に刻みつける。

 

「名前を聞かせてほしい」

 

戦う相手の名を聞く。

殺すのであればその名を刀に刻むために。

死ぬのであれば己を命を奪ったものへ敬意を表するために

 

「我が名は『キルシェル・ホルガ』」

 

そう言うと蹄を鳴らして、突っ込んでくる。

高速移動で何体にも見える。

しかし、本体はただ一つ。

 

「そこ!!」

 

相手の顔を狙って突きを出す。

相手は殺気を感じ取ったのだろう。

体をよじってかわす。

それに対して距離を詰めて、下から斬り上げる。

 

「この速さについてくるか」

 

まだまだ遅い方だ。

しかし、比較対象に比べればの話だ。

最下級大虚に比べれば雲泥の差である。

 

「生憎ながら、その大きい霊圧で分かる」

 

霊圧を操作しても捕捉は可能。

相手は呼吸を一つ置いてさらに接近。

こちらの刀の間合いを潰しに来た。

後ろに下がろうにも角の一撃がある。

 

「確かにそれも手ではある」

 

しかし、こちらとしてはそれも楽にしのげる。

後ろに下がらずに攻撃をするのみ。

蹴りを放つ。

それをぐるりと回って回避をする。

無防備な背中へ一撃を見舞おうとしているのが感じ取れる。

 

「それが罠とは知らないで」

 

機微がわかってはいない。

戦いで無防備とは相手の失態。

そう思っているのだろう。

しかし、それがお前の失態をあぶりだすものだったとしたら?

 

「ハアッ!!」

 

相手が飛びかかる。

振り向かずに切り裂く。

感触としては肩口といった所だ。

それなりに斬れたな。

 

「何故だ!?」

 

相手の顔は驚愕に包まれている。

完全にこの一撃で勝負がつく。

そう考えたに違いない。

 

「羽織に僅かに当たったら気づく、それに角という形状のせいで空気が変わる」

 

剣が空気を裂くような感覚。

それを三十年近く味わっている。

しかも自分を切り裂く攻撃として。

挙句の果てにはそれが常時なせいで殺気も何もない。

それに比べればこいつの攻撃なんて気づいて当然のものだ。

 

「あの人が相手なら今頃背中が血みどろで倒れているがな」

 

死にたがりと言われても仕方ないほどだ。

罠とか関係ない。

全てを剣術の流派を収めているのではないかと思う技量。

斬れぬものなしという一撃。

その前では小僧の思惑なんて子供だまし。

 

「まるで私より強い相手と戦った事があるような口ぶりだな」

 

ざりざりと地面を擦る。

そして角の一撃を見舞おうと接近。

それを見切るように動く。

 

「あるようなではないぞ、キルシェル・ホルガ」

 

角を掴んで突撃を止める。

そしてそのまま力を込めて曲げていく。

しなりの限界を超えていくように徐々に罅が入っていく。

 

「戦ってきたのだよ」

 

その言葉と同時に角を圧し折る。

ごろりと大きな角が二つ。

キルシェル・ホルガの眼前に落ちる。

 

「なっ……!?」

 

自慢の角が無残にも砕け散る。

それは相手の戦闘意欲を削ぐには十分すぎる。

顔面に頭突きをする。

硬かったが相手の鼻が潰れた。

 

「お終いだ、キルシェル・ホルガ」

 

俺は刀を振るう。

その一撃を腕を交差して受け止める。

息も荒く、捕まえたというように笑みを浮かべている。

 

「喰らえ……」

 

紅い光線を放つ。

当然、その一撃をかわす余裕はない。

直撃してしまう。

だが、それで倒されるほど甘くはない。

 

「効かないな」

 

煙をあげているだけ。

あの人が鍛えてくれたからだ。

それに常に霊圧をしっかりと制御している。

刀が食い込んだ状態ならば防御に回しても弾かれないと読んで、全て防御の方に運用したのだ。

 

「この…化け物め…!!」

 

その言葉を放ったと同時に俺は深々と切り裂いた。

血を噴き出しながら倒れていく。

これで一体撃破。

最後の一体が食事をやめてこっちを見る。

頭だけが残っているのも面白いな。

丸々喰いきると思っていたのだが。

 

「キルシェルが負けやがったかよ」

 

食事を終えてさらに霊圧を上げた相手。

名を名乗る気はない。

そう態度に出ている。

いいだろう、それならば俺の記憶には残さないだけの話。

 

「あいつと比べるんじゃねえぜ、死神!!」

 

一瞬でこちらの後ろを取ってくる。

それをかわすと次は横に。

高速移動か能力なのかは不明だ、縦横無尽に動き回ってくる。

 

「『響転(ソニード)』についてこれねぇか!!」

 

なるほど、移動手段の方だったか。

探りを入れようとしているのに気づかないとは。

つくづく、自分たちの流れで戦いたがる。

相手を見ていない。

だから罠にはまったり、相手が隙を見せているかどうかの思案もない。

 

「瞬歩によく似ているな」

 

そう言って後ろを取る。

相手が驚き、噛みついてくる。

短慮だな、それならば羽織だけを噛ませてやる。

 

「牙を失え」

 

一気に羽織を引っ張る。

その勢いで相手の牙が抜け落ちてしまう。

そして頭部に強烈な蹴りを見舞う。

固い皮膚ではあるが俺の体格であれば力負けはしない。

 

「くそが……」

 

そう言ってこっちを睨む。

牙は超速再生で治っていく。

こいつ以外の奴が致命傷だから全く感じていなかった。

 

「お前じゃあ俺には勝てない」

 

俺は刀を構えて相手を見る。

次の初動を制してそのまま切り裂く。

二度とこいつに再生の隙は与えない。

 

「ほざいてろ!!」

 

そう言って相手が突撃をしてくる。

それに対してこちらも接近。

受け止めて首相撲の形をとる。

 

「掴まったらお終いだ」

 

俺は強烈な蹴りを腹部へ叩き込む。

大してそれ程の苦痛はないはずだ。

しかし、幾度も繰り返せばどうなるか。

当然、内臓を揺さぶられてしまう。

 

「ぐっ……」

 

これは溜まらないと思ったのだろう。

相手が嫌がるそぶりでこっちと距離を取っていく。

その下がった瞬間、俺は刀を抜く。

俺は踏み込み、両手で構えた刀を振り下ろす

刀が軌道を描いて煌く。

その軌道の終着点にたどり着いた時。

相手を右肩から左の脇腹にかけて切り裂いていた。

 

「ちくしょうが……!!」

 

血飛沫を上げながら相手は膝をつく。

その深い傷から夥しい量の血を流しながら立ち上がろうとする。

だが、その一撃の影響があまりにも大きいのか、足元がよろめいている。

相手は舌打ちをして悪態をついているが、既に戦いは終わっている。

 

「とどめだな」

 

息も絶え絶えだ。

ここでこの虚を仕留めてやる。

俺は足に力を込めて駆けだしていく。

 

「我らの王を死なせはしない……」

 

しかしそうしようとした俺の足をキルシェル・ホルガが掴む。

既に意識が朦朧としているというのに……。

掴んでいるのは極めて弱弱しい力でしかない。

自分たちを統率するものを最後のあがきで逃がすつもりか。

俺はその足を振り払い、再度相手を斬りに走る。

 

「てめぇはこの俺がいずれ……この『グリムジョー・ジャガージャック』が殺してやる!!」

 

グリムジョーが光の帯に包まれたまま、黒い穴の中へと消えていく。

……逃げ足が速い奴だぜ。

あの光の帯でこちらの攻撃を全て遮断していたのもあるんだがな。

 

「ちっ……」

 

俺は舌打ちをして、鞘に刀を収める。

斬った虚全員が息をしていない。

力なく、霊圧を発する事もなく横たわっている。

合計八体の討伐が完了していた。

 

「大丈夫か!?」

 

猿柿さんが駆けつけてくれた。

後ろには鳳橋さんがいる。

心配無用と後ろを親指で指し示す。

 

「なんやねん、この数……」

 

そう言って猿柿さんが驚く。

頭だけが残った最下級大虚の残骸。

そしてほとんど綺麗な状態の中級大虚の死体。

それを見て、驚きを隠せていない。

 

「初めて見るような形態の虚まで居るんだけど」

 

鳳橋さんがキルシェル・ホルガの死体を指さして言ってくる。

まあ、真央霊術院の教科書には載らないですよね。

まず、出会うこと自体が希少な存在ですからね。

一応、この状況における補足説明だけはしておこう。

この存在が何なのかも詳細に。

 

「つまり、強い奴が攻めてきていたという事か」

 

俺の話が終わってから、愛川さんが簡潔にまとめる。

相手が強いというのは間違いではない。

あの霊圧を考えると隊長格でも面倒だろう。

 

「まあ、中級って事は今回より強い相手もいるんでしょうけど」

 

俺はそう言って立ち上がる。

今回の虚の数は正直に言ってしまうと、隊長格が出て解決する内容だ。

それを席官八名で一体を除いて討伐。

この成果を報告したらきっと褒章があるかもしれない。

もう一つ言える事が有るのならば……

 

「少数精鋭とはいえど四番隊が一人だけってどうなのか」

 

こればかりは万が一のことを考えてほしい。

例え今の若手が豊作だとしてもだ。

全員を治しながら呟くのであった。




今回出てきていたのは破面になってない状態の昔のグリムジョーです。
傑の実力で言えば並みの隊長格以上は確実にあります。
それが卯ノ花隊長の鍛錬のたまものです。

指摘などありましたらお願いします。

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