ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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日常回です。
リアルで忙しかったこともあり、短いものになりました。


『遅い歩み - Srow Step- 』

副隊長達の卍解開放。

その指令からはや数ヶ月。

もうあの藍染との戦いから八か月は過ぎていた。

十二番隊の道場では今日も刀の打ち付ける音が響く。

ひよ里さんの的確な指示で回避したり反撃する隊士。

その指示を凌駕する動き、もしくは想定外の攻撃で打ち倒していく。

その鍛錬のおかげですっかり新入り時代の泥臭さが混じった別の形が出来上がっていた。

 

「連戦連勝されるとやっぱりお前の規格外の強さを痛感するな」

 

ひよ里さんが俯いた状態で言ってくる。

自分の指示は間違っていないはずだ。

そう、自信があるのにそれを凌駕していくのが辛いのだろう。

 

「実際、百発百中でこっちの攻撃の軌道とか読んでいるんでそこまで悲観しなくても良いですよ」

 

まず、元隊長にまでのし上がった奴が弱体化したとはいえ傷つけているんですから。

これが並の相手なら傷なんかついていない。

貴方の指示があってあいつらは伸びている。

そう言うと顔をあげていた。

少しばかり気が楽になったというように。

 

「ただ、これだけこっちの練度があがる中、他の結果はあまり芳しくは無いですね」

 

未だに卍解への覚醒は無し。

実力こそのびるが毛の生えた程度。

元々の目的からは間に合えばいいのだが。

 

「まず全員が手に入るかは才能も有ってなんぼや」

 

時間はかかるのが普通。

焦っても良くはない。

しかしそれでいい訳じゃない。

結局育ってもらわないと今後の展望が不安になる。

 

「お前に百年育てへんかった付けとは言うたら酷やな」

 

俺を見ながら頬を掻いて言ってくるひよ里さん。

まず、自分の隊の副隊長を育てる奴が少ないから。

藍染や市丸もそうだし、東仙も狛村もやっていない。

お前ら元々できる奴なんだから。

 

「次世代の若者たちに期待したくもなりますよ」

 

自分達だって永遠にここに従事するわけじゃない。

命こそ捧げるが過ぎ去れば去っていく。

尽き果てた先でも構わない。

後の存在が芽吹いてくれるならば。

 

「買ってはいるけど建前臭いな」

 

ひよ里さんにそう言われると苦笑いで返す。

事実だったからだ。

狛村が俺を越えられなかったように。

射場や檜佐木も狛村や拳西さんを越えられないだろう。

 

「あいつらの助けになれるという前提で、爺になるまでやれたらいいんですけど」

 

そう言って握り拳を作る。

命が燃え尽きるその日まで。

 

「治療せんと無理やな……」

 

俺の顔を見て言ってくるひよ里さん。

あれ以降悪くはないがよくもならない。

 

「可能性に縋らないといけないのが歯痒いもんです」

 

空の向こうを見ていた。

その視線にあるものは『霊王宮』。

やる規模の違いや技術。

それによって治せるだろう。

 

「それが可能という事は未曽有の危機がここに押し寄せるという事」

 

さらに拡大していけば曳舟さん達にも被害が及ぶ。

本来ならばそこまでしないのが護廷十三隊の務め。

 

「死なないようにしてくださいよ」

 

そう言うとひよ里さんに蹴られる。

どの口がほざいているのかといった具合に。

今や俺の体調が深刻なため、言えたものではないのだ。

 

「しかしそう言えば気になる事がある」

 

ひよ里さんが顎に手を当てて考え込む。

その仕草は微笑ましい。

しかし背筋に冷や汗が垂れたのを感じる。

こういう時に気にしている事はこちらの痛い部分を突く事だ。

 

「眠六號の斬魄刀は一体何なんや?」

 

やはり聞いてきたか。

今の今までひた隠しにしてきたこと。

自分達の筋肉と遺伝子情報から作られた存在。

そこに持たせたものは俺と涅の斬魄刀の欠片より鋳造されたもの。

 

「見た目は曲がりくねった刀剣ですが能力は俺に近いものです」

 

外見はマユリ。

中身は俺。

その特徴を持つ斬魄刀。

 

「大きくなっていないのですが、その要素は無いのでしょう」

 

そうなるともう能力は気づきそうなものだ。

相反するもの。

俺が『老い』であるのならば……

 

「まさか『若返り』か?」

 

きっとそうでしょう。

だがそれはあくまで可能性。

大規模な力はあの子では使いこなせない。

きっと一人相手の時が良いだろう。

其れに卍解をしないとその力は使えませんからね。

 

「ほとんど反則級やな」

 

確かに時を戻したり進めたりするのは明らかに異次元。

どんな相手も赤子ならば恐れる事なく捻りつぶせる。

老いの力は老人といわず骨になるから尚更だ。

 

「あの子が白打と鬼道で刀を使わないのが良いですよ」

 

護衛で使えますし筋は良い。

しかしあの子はもともとはこちらにとっての夢の結晶。

血生臭い戦いの世界に踏み入らせたくは無かった。

蝶よ花よと愛でて育ててやりたかったのが本音だ。

 

「いざとなれば当時のお前の刀が飛んできてたもんな」

 

それは当然の事。

貴方の為に命を懸ける事は確定事項。

しかしそれと天秤にかけられてしまうと困り果てるのがあの子なのだ。

 

「あの子は我が子ですから」

 

己の身を分けた存在。

それはきっとどうあがいても切れない絆。

 

「ほんまにあの子には甘いな」

 

貴方にも十分甘いと思いますよ。

頭を掻いてそういう気持ちを見せない。

 

「あの子は俺は前線に出しませんからね」

 

相手の相性も有るだろう。

しかし死なれては困る。

『完璧』ではないからだ。

次の発展だってあるのだ。

眠六號とれっきとした呼称がある、あの子には十分すぎるほどの自我が芽生えている。

ただの義骸ではない。

ただの魂魄ではない。

あの子をもう一度作る事はできない。

 

「できればあなたにだって引っ込んでいて貰いたいんですけど……」

 

聞いてくれませんよね?

俺がそう言うとひよ里さんは頷く。

分かっていたことだ。

しかし苦い顔になるのは止められない。

 

「心配せんでもしぶとい女や」

 

そんな顔せんと信用しとけ。

そう、ひよ里さんは言う。

信用はしている。

信頼もできる。

ただ、失う事が怖いから。

だから心配してしまう。

 

「あんなことがあれば再度失う事に耐えられませんよ」

 

しかも二度と会えない。

サヨナラでもあの時とは重みがまるで違ってくる。

 

「そうやったな……」

 

失う恐怖。

守るという強い心でそれに支配されないようにできる。

ただよぎらないようにはできない。

それはこの姿だから。

あの日のように、もしくはあの日よりも強ければ。

こんな思いに、焦燥感に襲われることもない。

 

「うちが約束したる、お前より先に死ぬ事は無い」

 

約束破る女に見えるか?

そう言われると弱い。

貴方は嘘なんてついたことが無い。

信じる以外の選択肢が無いです。

 

「一年、一か月、一週間、一日、一時間、一分、一秒でも俺より長く生きてくれないと承知しませんからね」

 

そう言うとひよ里さんにくすくすと笑われる。

真剣そのもので言っているのが分かるから。

揶揄っているのではない。

いつまでも変わらぬ心に賞賛を込めているのだ。

 

「任せんかい」

 

背中を叩いて答えてくれる。

深呼吸をして俺は真剣な眼差しに変わる。

 

「さあ、特訓を始めましょうか」

 

振り向きざまにそう言うと刀をすでに抜いていた。

全ての術を開放する。

貴方の強さの底上げは個人的な任務ですが。

 

「かかってこんかい!!」

 

その言葉を皮切りに斬撃が衝突する。

変わらぬ日々を過ごしているのだった。




眠六號の斬魄刀の能力公開。
またプロフィールを更新しておきます。
因みに千年血戦では斑鳩は『特記戦力』ではありません。
ボロボロ前ならどうか分かりませんでしたが。

何かしら誤字などの指摘がありましたらよろしくお願いいたします。

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