ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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ユーハバッハ戦です。
そして時系列を一致させました。
次回は二次侵攻と虚圏の両方の戦いを書いていく予定です


『蹂躙 - Greatest Quincy-』

「はっ!!」

 

開戦の狼煙を上げるのは俺の薙刀の一撃。

それを相手は動く事もなく防ごうとしている。

一体何のつもりだ。

 

「蒼都のように私は甘くはないぞ」

 

相手は弓矢でこちらの一撃を難なく弾く。

そして連射してくる。

その速度は確かにさっきまで戦っていた滅却師とは段違いだ。

 

「しかし……」

 

打ち払う事自体は不可能ではない。

こちらが薙ぎ払うと再度番える相手。

だが間髪を入れない銃弾の雨霰。

 

「思ったより速い攻撃だな」

 

弓矢を放つ事ができなくなった相手。

再度、相手が防御した瞬間にこちらは薙刀を振り回す。

 

「はあっ!!」

 

攻撃を振るったら、それを回避して距離を開けるが無意味。

指を向けて再度あの鬼道を放つ。

 

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ 縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』!!」

 

六の光の帯が相手を捕らえる。

これならば防がれる心配もない。

あの防御法ならば打開できる。

 

「貰った!!」

 

その瞬間、怖気がはしる。

光の帯が既に砕けていたのだ。

捕まったふりをして弓矢を番えていた。

距離を取る事も出来ないこの時を狙っていたのだ。

 

「餌に食いつくのは仕方ないな、若さというものよ」

 

そう言うと極大の光の一撃が俺を包む。

矢も大きくなれば光線と遜色無い。

威力も大きく衝撃も相まって、皮膚も裂かれて血が流れる。

意識が飛んでしまいそうな強烈な一撃。

 

「がはっ……」

 

しかし俺は倒れ込む事も許されない。

相手は腕を伸ばして俺の首根っこを持っていた。

 

「脆い命だな」

 

持ち上げられたまま言われる。

今の攻撃でかなり消耗させられたがまだ腕は動く、足も動く。

それにこいつの腕一本も斬ってない。

 

「やってくれ……」

 

俺は指を動かす。

それを『一思いにやってくれ』と思った相手は力を籠め始める。

しかし次の瞬間……

 

「ぬっ!!」

 

水の斬撃が相手に迫っていく。

俺の横から迫るという事は相手に当たるという事。

俺を通り過ぎた以上、もはやとる手段は一つ。

 

「やってくれる!!」

 

俺を離して回避する。

しかし、足が地面に着いた瞬間にこちらは懐に入っていた。

 

「喰らえ!!」

 

唸りをあげる斬撃。

袈裟斬りを斜め下から繰り出す。

当たった体から伝わる異質な感触を感じながらも斬り上げていく。

 

「愉快だ」

 

首筋に到達していたがそこから紋章の様に線が入っている。

ただ、それだけで鋼を凌駕する硬度が存在していた。

薙刀は刃こぼれこそしないが腕に痺れをもたらした。

 

「その覚悟に感嘆すら覚える」

 

死を恐れていないのではない。

ここで食い止めねば更なる地獄が始まる。

それを自分で感じているからなのだ。

 

「しかしその覚悟も無意味だ」

 

赤い半円形が相手を包む。

それは絶対防御と言って差し支えの無い代物。

さっきのあの手応えを持った存在が外部に顕現したのだから。

 

「はっ!!」

 

コヨーテ・スタークが弾丸を放つも微細な罅を入れながら弾かれていく。

ティア・ハリベルの水の斬撃も同様であり、罅は一瞬入るも修復が瞬く間に行われている。

血で形成されたものであることは理解できたがどうするか。

 

一点集中させてその隙間から砕くか?

同時展開されていたらもはや打つ手なし。

だが睨み合いをするにせよ相手が上なのだ。

四の五の言ってはいられない。

なりふり構ってもいられない。

 

「スタークさん、連撃で砕いて貰えませんか?」

 

俺の提案にスタークさんが頷く。

おおよそ考えは一致しているのだろう。

ハリベルさんにも目を向ける。

砕いた後の発想も分かっているのか頷いた。

一世一代の博打を打つ。

正直これしかもう手立てはない。

 

「これで無理ならば準備しとけよ!!」

 

撤退をする準備という事だろう。

これが刀を使う相手ならば傷を負わせられただろう。

隠し持たれていたら発動しないのが手痛い所だ。

 

「いくぜ、リリネット!!」

 

罅が入っていき直ろうとする最中に何度も何度も弾丸がめり込む。

徐々に亀裂は大きくなっていく。

その一瞬を逃さずに合図を出した、

 

「今です!!」

 

相手の修復する規模よりも大きな力。

それは十分に溜まっていたのだろう。

後ろから斬撃の気配を感じ取る。

 

「はっ!!」

 

ハリベルさんが射出した大きな水の斬撃。

俺はそれに跳躍して乗る。

その加速で砕けた場所に飛び込んで切り裂きにいった。

 

「うおおおお!!」

 

そして勢いのまま振り切っていく。

感触としては悪くはない。

しかし着地後に見たのは絶望という他ない光景であった。

 

「中々いい一撃だったな」

 

浅い傷で俺を見下す相手の姿。

その姿に怒りすら覚える。

折角入れる事が出来た一撃だったのに。

こんな傷ならば相手の戦力を削いではいない。

三人がかりでこれなのだ。

相手に各個撃破されてしまうと頭数が減ってしまい、さらに勝てなくなる。

敗北の二文字に関しては既に三人の脳裏によぎっている。

すると声を張り上げてティア・ハリベルが叫んだ。

 

「皆、共倒れよりはましだ、行け!!」

 

ハリベルさんが俺とスタークさんを逃がそうとする。

俺が立ち止まろうとすると抱えられていた。

俺が走るよりも速い速度で戦いの場から逃れていた。

銃弾の反動を推進力に変えているんだろう。

 

「お前さんは良い奴だ、虚なのにそうやって仲間だと思ってくれる」

 

俺は単純な男だ。

救われたのならばその恩を返したい。

たとえ相手がそういう思惑が無くてもだ。

 

「でも分かっているんだろ、勝てないのは」

 

俺は悔しいが頷く。

未だに相手の奥の手が見えていない事。

そして地力の差が大きい。

あのままやっても、ハリベルさんの言う通り全員が負けていただろう。

 

「今は耐えるんだ、あいつに痛い目を見せる機会は必ず来るんだからよ」

 

それはきっとかなり時間を使う。

今すぐではない分、被害は大きいし逃れられない。

壊滅的なものもあり得るだろう。

 

「あいつが一番統治に向いているからな……影響が大きいぜ」

 

俺のような無気力や戦いに生きている奴は一部には好かれるがな。

それ以外は皆あいつを慕ってやがる。

そう言われると確かにと納得してしまう。

 

「追手を迎撃しながら仲間を搔き集めましょう」

 

ある程度離れた所で下ろされた俺は提案をする。

速くこの状況を打開する。

 

「そうだな、あいつら全員いたら幹部倒しながら弱点は見抜けるかもしれねえ」

 

そう言って俺達はその日から虚圏を彷徨う。

食事は何とかできるが滅却師の数は非常に多い。

追ってくる数は常にこちらの十倍ほど。

強くなっている感覚こそあるが精神的な疲労が大きい。

 

「今日で何日目だ?」

 

スタークさんが聞いてくる。

破面たちもぞろぞろと移動を始めている所を考えると、今日で三日は過ぎただろう。

ハリベルさんを救出するにも頭数が一向に増えない。

 

「徐々にこれが伝播すると破面たちの密告もあり得ますよ」

 

そう言うとスタークさんが頭を掻く。

出来ればこの決断はしたくなかったのだろう。

 

「二手に分かれようぜ、埒が明かねえ」

 

俺はその提案に頷く。

三日経ってろくに足取りが辿れない。

ならば分かれて範囲を広げる方が効果的だ。

 

「ご武運を…」

 

そう言って拳を打ち付けあう。

虚と言えども分かり合える。

呉越同舟とも言えるがそれはそれ。

そんな事を考えて逆方向へ進んでいく。

 

「で……なんでお前が初めて会う奴なんだ?」

 

あれから一日彷徨ってようやく見つけたのはノイトラ・ジルガだった。

相変わらず鍛えているようだが……。

 

「会うなり失礼だな、テメェ」

 

そう言って苛ついた顔を向ける。

俺はそれも構わず会話を試みる。

 

「滅却師の侵略に気づいているか?」

 

俺の質問にノイトラは頭を掻く。

そして欠伸をしていた。

退屈なのだろうか?

 

「あそこ見ろよ、気づいてるっての」

 

そう言うとノイトラは親指で、ある方向を示す。

そっちを見たら数十名の滅却師が白骨化して積まれていた。

どうやら死んだ場合は腐敗も何もなく白骨に変わる仕組みのようだな。

 

「力貸してくれ、一人じゃ勝てねえ」

 

そう言うとにやりと微笑む。

助けを求めてきたのがおかしいからではない。

少なくとも自分に手傷を負わせた相手が勝てないという相手。

その存在に胸を躍らせているのだと表情で分かる。

 

「どれくらい強いんだよ」

 

例え期待していても誇張している可能性もある。

その結果、しょうもない相手だったら力を貸す気にはならないのか。

其れとも相手の強さを知ってさらに想いを馳せたいのか?

 

「俺とスタークさんにハリベルさんの三人がかりで傷を負わせられなかった」

 

そう言った瞬間、ノイトラが笑みを浮かべる。

そいつに勝てば実質最強だからな。

こいつとしては願ってやまない強者の戦だろう。

 

「上等だ、そいつと戦ってみてぇ、案内しろ」

 

そう言ってノイトラは立ち上がり、俺はまだ人員が必要と言って歩いてみる事にする。

数分ほど歩いていると何かしらの気配を空から感じる。

どうも遠い所のようだ。

 

「どうやら人みたいだな?」

 

空から何人か落ちてくるのが確認できる。

滅却師の増援かこちらの増援なのか。

生憎、詳細は分からない。

 

「それは質問か?、質問なら俺はあんなもん知らねぇぞ」

 

其れもそうか。

これで事態が好転すればいいんだがな。

スタークさんはどうしているだろうか。

少しばかり考えるのであった。




結果は惨敗。
まあ、更木剣八に勝つ相手だから無理もないです。
ハリベルが本作では全滅しないために殿をして捕らえられるという形にしております。
キルケ・オビーあたり次回登場予定です。

指摘等ありましたらお願いします。

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