ガーベラに寄り添うネリネ   作:勿忘草

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昇進に関してなので時間を少し飛ばしました。
次回は打診みたいな話でもやっていこうと思います。


『名誉 - Honor - 』

あの八名での大虚討伐。

あれから数日たったころ。

京楽隊長や浮竹隊長も謝っていた。

無理もない。

軽率な判断で少数精鋭を向かわせてしまった。

結果として死者は出なかったが、出ても何らおかしくなかったのだ。

しかしその戦果を見合う事があった。

それは昇進。

全員が対象となっていた。

 

「いやー、命の危機から頑張った甲斐があったなぁ」

 

その祝いの席でみんなで酒を飲む。

愛川さんが笑顔で飲み干していた。

その言葉に鳳橋さんも頷く。

 

「まさか一桁台にまで一気に上がるなんてね」

 

そう言って冷ややっこをつまむ。

今回の昇進で愛川さんと拳西さんが第五席。

鳳橋さんと矢胴丸さんと久南さんが第六席。

平子さんが第四席。

やはり主席卒業者、そこは同期でもずば抜けている。

 

「俺の隊長への道が開けたで、今の上位席官でも大虚の討伐はなかなかに骨が折れるって事や」

 

このままいけば、隊長までは卍解を習得すればいける。

そう言っている。

俺も卍解を手に入れてみよう。

始解の五倍か十倍。

それだけの力があればあの人も認めるだろう。

 

「でも……」

 

皆が気の毒な視線を投げかけてくる。

誰よりもあの場所で虚を打倒した。

最下級大虚以上に危ない、中級大虚の一体討伐。

それだけの実績を残していたのに。

 

「卯ノ花隊長は辛口やなぁ、あれだけやって九席か」

 

浮かれてはいけない。

それを教訓として教えてくれたのだろう。

事実、皆より低くても波風は立たなかった。

京楽隊長たちの意見は卯ノ花隊長が理由をつけて引っ込めた。

 

「それ言ったら猿柿さんもあまり上げてもらっていないですよ」

 

そう言うがどこ吹く風という顔だ。

骨子に揺るぎがない。

だから気にも留めていないのだ。

 

「次の異動があったりしたら上げすぎても洒落にならんからなぁ」

 

一つあげるにしてもあの騒動で第三席に任命したら副隊長になるもんな。

そう考えたら、すごく難しい。

 

「まあ、亀のように遅くてもええやん」

 

そう言ってこっちに来いと手招きされる。

すると盃に酌をされる。

慰めてくれているのだろうか?

 

「お互い低いもん同士ゆっくり飲もうや」

 

そう言って自分の盃を差し出してくる。

それに酌をし返す。

飲み干してつまみを食べる。

二人だけの流れで居られる。

些細な幸せを感じている。

 

「あいつらのように上がられへんのは仕方ないわ」

 

隊長の考え次第や。

うちの所も一緒。

副隊長からの言葉でも言う事聞かへん、独断の形もあるし。

そう言われると苦笑いするしかない。

 

「曳舟さんを支えるのが到達点やから、別にええねんけど」

 

そう言って酒を飲んで、盃を差し出してくる。

それに酌をしていく。

自分も飲み干して、盃を差し出す。

 

「はいはい」

 

微笑んで酌をしてくれる。

そして二人で盃を打ち合う。

この人の優しさがとても心地よい。

がさつらしいけど芯はこういった面倒見のいい人。

年下で頑張っている自分を見てくれる太陽のような人。

そんな事を思っていると、いつの間にか酒がみんな進んでいる。

ここでお開きという事でみんなが店を出る。

酔った人たちを運んでいく。

まだ飲み足りない人たちは二件目へ行った。

 

外に出た時に俺は猿柿さんの腕を握る。

何か言いたい事があるのだろう。

それを感じ取ったのか。

皆に言って二人で店の前に残っていた。

 

「あの……」

 

互いに素面。

そんな中、こんなことを言うのは恥ずかしい。

でも、我慢はしない。

 

「なんや?」

 

これはただのお願いだ。

胸の高鳴りを緩やかに。

喉が乾かぬようにする。

 

「これからは下の名前で呼んでもいいですか?」

 

俺の言葉を聞いてきょとんとした顔を浮かべる。

顔が熱い。

血が顔に回るのが感じられる。

 

「深刻そうな声で言う事ちゃうやろ」

 

笑顔で言ってくる。

そして近づいてくると、頭を下げるように手ぶりで示す。

それに従うと頭に手のひらを置かれる。

ワシャワシャを髪の毛の形を乱されるほど撫でられる。

 

「呼びやすいように呼びぃ」

 

そう言って去っていく。

足元はしっかりとしていた。

肩を震わせている。

悲しいとかではないのだろう。

まるで堪えているような形だ。

 

その後ろ姿を見送って自分も四番隊の隊舎に戻るのだった。

 

.

.

 

あの酒盛りから数日後。

異動が発表される。

自分はおおよそ上がっていないだろう。

そんな事を考えていた。

すると卯ノ花隊長から隊首室にくるよう、声をかけられる。

 

「貴方の席次についてなのですが…」

 

そう言って椅子から立ち上がる。

緩やかな歩の進め方。

夜での斬り合いという名の鍛錬。

その時に見せる姿から反転したような穏やかな姿。

 

「良く今まで頑張りました」

 

三十年以上の鍛錬。

回道の腕たるや卯ノ花隊長には劣るが尸魂界全土において現在二番目。

それは殺意に満ちた夜の鍛錬での傷を癒すために伸ばしたもの。

 

「私の右腕として働く名誉、つまり副隊長に任命いたします」

 

俺の前に立ち、あるものを差し出す。

それは肩につける勲章のようなもの。

『四』の字と隊花である『竜胆』が映えていた。

 

「皆さんからの不満は……」

 

いきなりの上昇。

それに対して、先輩が不思議に思う事は無いのか?

そう感じて聞いてみた。

 

「貴方を九席に任命してから、皆に聞いての決断です」

 

高ければ甘いという人もいる。

ですが低くすることで辛い評価を与えたように見せる。

するとそれより戦えない上位の席官は罪悪感を持つ。

その心理を利用したと言っていた。

 

「元より中級大虚を倒せる時点で隊長格に相当した実力を持っているのは明確」

 

それに書類仕事や雑務をきちんとこなしている。

条件が全て揃っていた。

むしろ今までの席次が低すぎた。

それが一部ではなく四番隊以外でも思われ始めた時を狙っていたのだろう。

 

「今以上の精進を期待していますよ」

 

そう言われて隊首室から出ていく。

肩に副官章をつけることを義務付けられている。

それをつけて外に出た。

十二番隊に行っていた。

数日までに低い者同士と言ってくれたのに自分だけ抜け駆けをしてしまった。

申し訳なさで身が刻まれそうだ。

 

「怖いな……」

 

冷めた目で見られるのではないだろうか。

話も聞いてくれなくなるのではないだろうか。

そう考えると苦しくなる。

 

「おやおや、どうしたんだい?」

 

十二番隊の隊舎の玄関に行くと声をかけられる。

曳舟さんだった。

自分と同じように『十二』の文字と『薊』があしらわれた副官章をつけている。

この方も同じように副隊長になったんだな。

そう思うとますます気が重くなる。

『お前が曳舟はんと同じ階級なんて認めへん』とか言われそうだ。

 

「ああ、ひよ里ちゃんだね」

 

自分の目的を即座に見抜かれる。

そして曳舟さんはこっちが止める事もなく呼びに行った。

しばらくして出てきた。

 

「異動の結果知らせに来たんか、お疲れ」

 

そう言いながら胸を張っている。

どうやら第五席へ昇進。

曳舟さんが副隊長となった。

 

しかし俺の顔色が悪いのを分かっているのかしげしげと見る。

そして副官章を見つけると察したように頭をかいて溜息をついていた。

 

「全く……そんな事で顔色悪かったんかい」

 

前に飲んだ時から一変した立場。

それが負い目になっている。

その気持ちすらも見抜かれていた。

 

「お前が頑張っとるんを同期で一番知ってんのはうちや、むしろ当然の結果やと思うとる」

 

歩いてきて腹を小突く。

腹筋で痛みはない。

 

「次は卍解やな、頑張りや」

 

お前が隊長になったら二人きりで酒でも飲んだるわ。

そう言って十二番隊の隊舎へ戻っていこうとする。

 

「約束ですよ、ひよ里さん!!」

 

大きな声で言う。

すると振り返って満面の笑みで『約束や』と言って、手を振って中へ入っていった。

そのやり取りを見ていた曳舟さんは少しいやらしい笑みを浮かべている。

まるで悪戯の相手が見つかったようなそんな感じの笑み。

 

「下の名前で呼ぶようにしたんだね」

 

仲が良くていい事だ。

でもねと一拍置いて真剣な顔になる。

 

「あの子を泣かせたら容赦しないよ」

 

保護者のようなところだけじゃない。

かわいい妹分。

それを泣かせて怒らぬ姉貴分は居ない。

 

「俺だってあの人の泣き顔は見たくはないですよ」

 

きっと辛くなる。

優しい人を傷つけたという事実が自信を苛まさせる。

 

「心の中で徐々にひよ里ちゃんが大きくなると思う」

 

そうなっていった時に、どうするんだい。

そう問われる。

その答えは決まっている。

あの人が欲しいと思うのだろう。

心を自分のものにしたい。

自分を見ていてほしい。

あの人の太陽でありたいし、あの人が太陽であってほしい。

 

「きっと生まれて初めて独り占めしたいって思います」

 

我侭に。

思うがままに。

あの人を慈しむ。

きっとそれは間違いなんかじゃない。

純粋な思いに曇りがなければ。

 

「健全な男の子だったんだねぇ」

 

好意を持った終着点。

きっとそれはいろいろな形。

でもその中でも一番単純なもの。

 

「傍に居てほしいんです」

 

それだけ呟いて空を見上げた。

その言葉に嘘はない。

そう示すように雲一つない澄み渡った空だった。




恋愛っぽくなればいいなと思っています。
地味に昇進ペースが速いです。
ただ市丸の三席に比べたら格が違いすぎますね。

指摘などありましたらお願いします。
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