原作ではなかった展開はあります。
今後は敵陣営も原作では死んでない奴が死んだり、死んだ奴が生きてるというのはあります。
あれから三日後。
阿散井君が来たが、黒崎君は来ていない。
彼は特異な存在だから一時的な離脱だろう。
俺は神兵を用意してもらうも、調整程度にしかならなかった。
和尚が手合わせをしてくれるも結局半分の力にされないように気を付けるのが精いっぱい。
始解と卍解は乾燥するからいいがあの能力は無効化できない。
上手くやらないとそのまま削られて弱くなってお終いだ。
今日は珍しく速い段階で稽古が始まった。
「『鉄風殺』」
裏破道なる和尚独自のもの。
前回の千里通天掌。
技が豊富なのは年の功というものだ。
「だが……」
真似が出来ないとでも思ったか?
霊圧と鬼道なら引けを取らない。
手を振り上げて切り裂くように勢いよく振り下ろす。
「ぬぅ!?」
龍の顔が切り裂かれる。
その風圧で和尚が後ずさった。
その一瞬が致命的になるのが分かっているので稽古は終わった。
「おんしは何故強くなった?」
一段落して和尚が聞く。
単純な事だと俺は思った。
強くなければ護りたいものも護れない。
我々は『護廷十三隊』なのだ。
ならば血反吐を吐く事があっても、死を覚悟するような事が有ろうとも強さを手に入れる。
「なるほどな」
その答えに和尚が頷く。
護廷十三隊の隊士としての手本のような答え。
まあ、全員が全員そうではないから何とも言えない。
「仮に護らないほど荒廃していたら弱いままで良かったのか?」
その問いには首を振る。
自分が望んでいる道なのだ。
その時は再興させていく。
「結局はあの場所に骨を埋めるのがおんしの定めか」
ならば誰かに会えなくなるという事も何もかもを含め我々の誘いを断るだろう。
仕方なき事。
そう呟いて立ち上がる。
「相手の動きに合わせてもう降りる準備を始めるべきじゃ」
今回の相手はここに攻め入るかもしれませんよ?
俺がそう言うと笑い飛ばす和尚。
「巨悪と分かっているのだ、覚悟しておる」
全滅や最悪の事柄も予測しているはずだ。
それが無い様に俺達がこの場所を守る。
「さあ、もう戻る時じゃ」
滅却師どもの歌を知っておるかと和尚は聞く。
『9年で力を取り戻す』の説までしか俺は知らない。
そう言うと和尚が頷く。
「奴らはおよそその時期に合わせる事に間違いはない」
おんしの大事な友や仲間の為に奮い立つ時じゃ。
胸に寂寥感は有れど。
戦わねばならない。
「あの御方に恥じぬ戦いをする」
ひよ里さんと共に戻るべき場所へ向かおうとする。
さ……行きますか。
「皆さん、世話になりました」
麒麟寺さん、曳舟さん、二枚屋さん、修多羅さんがいた。
皆に頭を下げる。
あそこでへばっている阿散井君たちは放っておこう。
「わわっ!?」
ひよ里さんをおんぶする。
素っ頓狂な声をあげるが止める気はない。
自分のこの体を試してみたいのだ。
「暴れないでくださいよ」
そう言って飛び降りる。
風の抵抗を俺が受ける形で、流星のような速度を保ってぐんぐんと地上が近づく。
降りるのは流魂街の方になる。
「到着しましたよ」
俺がそう言うとひよ里さんはするりと降りて背中を蹴られる。
こちらに何かを言う事も無くずんずんと瀞霊廷へ歩いて行った。
まあ、あんな事されたら恥ずかしいよな。
「あっ、斑鳩副隊長……ですか?」
瀞霊廷に到着したら虎徹副隊長から声をかけられる。
ひよ里さんと一緒に居るとしたら俺ぐらいだ。
しかし行く前と後で変わりすぎた。
この虎徹副隊長の反応は仕方ない。
「そうだが、卯ノ花隊長は?」
本来、俺に話が有ればあの人が直々に来る。
しかし、ここに来ていない。
それが何を意味するのか分からない俺ではない。
だが、きちんと確認がとっておきたかった。
「卯ノ花隊長は…」
その顔を見たらわかる。
あの人は己の役目を遂げるだろう。
全て果たし、次へと憂いなく残せること。
それほど幸せな事があるだろうか。
「貴方宛ての手紙です」
俺はそれを受け取る。
その字は普段の筆跡ではある。
しかし、開いて見える字は全く違っていた。
『八千流』として書いた手紙だろう。
「辛いだろうに、よくぞ届けてくれた」
虎徹副隊長に頭を下げる。
顔をあげると悲しい顔のままこちらに声をかける。
「貴方も同じでしょうに」
それは違う。
俺は既に分かっていた。
別れる日が来る覚悟があった。
貴方より百年以上前からもう心が定まっていた。
「敵襲が来たら貴方が四番隊を引っ張るしかない」
俺が四番隊に戻って救護をしてもいいのだが相手は殲滅を狙っている。
攻めて先に潰す方が効率がいいはずだ。
「俺は十二番隊に戻る」
そう言って戻っていくがやはり体が軽い。
今までよりも心なしか早く到着する。
勝手知ったるものなのですいすいと入っていく。
「あれ、誰だよ?」
そんな事を言う隊士もいるが問題なし。
マユリに言えばいいだけだからな。
「今戻った」
隊首室に入ると大掛かりなものを作っていた。
こちらに振り向くのも一瞬。
マユリはすぐにその開発に目を向けていた。
「隊首室に無断で入ってくるとはネ」
そうは言うが第三者の目が必要だったのだろう。
顎で開発中の存在を示して、どう思うか問い掛けて来た
「これって志波家の砲台だろ?」
相手が霊王宮へ攻め入った際の防衛として侵入方法を考えたのだろう。
結論としては元より入る方法から模倣した方が速いという事。
遅ければそれで全てが終わってしまうからな。
「そうだヨ」
流石は五大貴族の代物だと呟くマユリ。
これの開発は骨が折れるだろう。
しかもこれは成功しても大きな弱点を抱えてしまう。
「だが本家が技術の粋を集めている以上、このまま作ると一発撃ったらおしゃかになるだろ」
其れにあれ以外にも何か絡繰りがあるはずだ。
あの『空間の歪み』が意味するものを解明しないといけない。
「あれについては解決済みサ」
『移動エネルギー』となる存在。
それは莫大な量が必要となる。
そこまで分かっているが回収に向かわせる人員がいなかった。
「急襲されると奴らの分は割けないからな」
市丸と東仙を回せるという状況になったのだから向かわせるしかない。
時間は稼げるが協力者となっている喜助と四楓院さんも力を貸してほしいものだ。
無論、マユリの前では言えないが。
「砲台について指摘するのは良いがどうする気かネ?」
まあ、批判なりするだけなら誰でも可能だからな。
俺が知る限りの知識と推測で考えうる対応を出そう。
「目の前で一回見たがあれは鬼道の編み方を複雑にして強度と飛距離を伸ばしている」
おおよそそれを応用して霊圧を増幅させたりそれなりに安定させる事も出来るんだろう。
侵入するにもあの人達の乗り物ではない以上、遮魂膜を破った後に不安要素が残る。
だから向こうよりも鬼道を編み込んで霊圧増幅装置を組み込む。
そう言うとマユリがにやにやとしていた。
「いやあ、五大貴族の技術を盗んできていたとハ、もっと速くに言ってくれたまエヨ」
そう言うと本腰入れて開発が進んでいく。
俺の霊圧と鬼道がそのまま機構へ組み込まれていく。
増幅装置がいくつか入り込んでいくが強度の低下を招かないように細心の注意を払う。
「言っておくが全部付き合いきれないぞ」
俺は戦闘面で最前線に立つ必要がある。
今回の被害だけでこの第二波を止めないと壊滅がさらに進む。
其れこそ臨時の制度を制定する事になる。
「分かっているトモ」
君がこの部分の根幹を紐解いていけば後はなんとでもできる。
増幅装置の開発も必要だガネとマユリは言う。
並の奴らが努力しても運用できそうにはないからな。
「隊長、計器が!!」
阿近からの通信が入る。
あの慌てようから考えて計器が完全に壊されたという事だ。
俺は背中を向ける。
「奴らを退治してくる、眠六號とお前にここは任せるぞ」
そう言って出ると真っ暗になった十二番隊の隊舎。
面影を残していない状態だ。
「ありゃりゃ…こいつは」
気だるそうな声が聞こえる。
視線を向けるとそこには滅却師が居た。
こいつはどうだろうか?
「いやいや、あんたがおっかねえのに、その後其処に居る奴と隊長さんなんざやってらんねえよ」
そう言うと滅却師は早々と去って行った。
追いかけたりする真似は出来ない。
まずは相手の戦力を一人でも多く蹴散らす事だ。
「阿近、悪いが任せるぞ」
そして三人に『天挺空羅』を行う。
俺は九番隊へ行く。
市丸は十番隊。
藍染は五番隊。
東仙が七番隊だ。
「これは壊されたんじゃなくて上書きか……」
空は暗くなっている。
建物も瀞霊廷の面影も徐々になくなっている。
奴らは影を使ってこの算段を百年前から立てていたのだろう。
九番隊の所へ向かうと今まさに戦いを行うところだった。
拳西さんが相手と向かい合っている。
檜佐木副隊長が横たわっている状態で、睨まれている相手が不敵な笑みを浮かべていた。
気配に勘付いた拳西さんが大きな声で叫ぶ。
「誰だ!!」
そう言って振り向いた敵と鳳橋さん。
その隙をついて拳西さんが檜佐木副隊長を回収する。
これも事も無げに出来るなんて百年近くの空白があったとは思えない。
相手とすぐに距離を取ってこっちに視線を向ける。
「檜佐木の奴を頼む」
そう言って拳西さんが檜佐木を投げ渡す。
全く、久南さん達に特訓付けて貰ってこれとは情けないぜ。
もう少し頑張るか情報を渡せる程度の軽傷に抑えておけ。
「檜佐木の治療はしますけど、試し切りの相手として俺にあいつ下さいよ」
拳西さんにそう言うと頬を掻く。
そう言って治療に取り掛かっていく。
瞬く間に終わっていき立ち上がる檜佐木。
相手もわざわざ待ってくれていたようだ。
「悪役に不意打ちで勝っても面白くあるまい」
そう言って顎を触っている相手。
愚かな奴だな。
戦いが始まった時点でどちらも悪だというのにそういう事をほざくか。
俺がお前の立場なら不意打ちして即座に仕留めていたよ。
「強いお前が戻って来たか確認してやるよ」
そう言って拳西さんが離脱する。
俺が相手の前に立つ。
「俺の名前は斑鳩傑、お前の名前は?」
構えて相手の名前を問う。
全力で相対するのだからせめてもの礼儀である。
藍染造反以降は酷い体だった為、相手の勝敗の歴史にも名を刻ませてはならないと断じただけ。
「悪役に名乗る名前など持ち合わせておらぬわ!!」
そう言って相手は急接近をしてくる。
こちらの高さに対して潜るように低く構えてくる相手。
こちらの死角にいきなり潜り込んでの奇襲の時点で、さっき言ってた不意打ちに当たる気が済んだがな。
「ふんっ!!」
脇を閉めて小振りにした拳が脇腹へと放たれる。
直線と曲線を描く軌道が連続して迫る。
中々の速度だが俺の目にはきちんと捉えられている。
「かっ!!」
その拳を刀で逸らす。
そしてそのまま中段に刀を構える。
自分から斬りに行く事は無い。
「攻撃しないとはとんだ腰抜けの悪役もいたもんだ!!」
こっちには策が無いと思い込んだように相手が駆けてくる。
俺は試し切りをするといったんだぜ。
お前が躱す事の出来ない間合いになるように調節した。
引く事も出来ないほど進んだこの状態ならば必ずこの斬撃は入る。
「一太刀を決めたいから猪みたいに突っ込むのを待っていたんだよ」
俺が抱いた確信は自身を裏切る事は無い。
俺は横一線に薙いでいく。
筋肉にめり込んでいく、骨をも断ち切る、それは滑らかに素通りするように。
深くなかったのか臓器に触れる事は無く、腹部の筋肉や肋骨が手応え無くすっぱりと斬られた。
俺は断ち切った相手に言葉を投げていた。
「不用意に近づくなんざ、愚の骨頂だ」
俺が放った刀の一撃を見抜けなかったのだろう。
相手は何が起こったのか分かっていない。
すると相手には、腹に横一文字の傷がはしる。
そして一拍置くと血が噴き出してきた。
「がふっ!!」
致命傷は逃れても決して浅いものではない。
臓器はまだしも欠陥や腹部の筋肉と骨にまで影響はある。
最悪、臓器が外気に触れてしまうほどだ。
相手は痛みや呼吸の苦しさが分かりやすい形で出始めていた。
肩で息をしたり、顔色が青白くなっていたりといったものだった。
そんな相手が血を吐いて苦しいこの状況を打破する為に動き始めた。
「があっ!!」
飛びかかるようにして脇に腕を差し込んで抱き着いてくる形。
これでは相手から距離を取る事が出来ない。
更には頭部をこちらの腹部に押し付けて、完全に身動きを取れないようにしてくる。
「面倒な真似をするな!!」
俺としては速く決着をつけたい。
その頭を退けようと両手で掴んだ時、相手は顔を上げてきた。
「かかったな!!」
今までの行動は芝居なのだというように。
顔を上げた際に見えた目から苦痛の色が消えていた。
血色も青白く無くて健康体そのもの。
しがみついている腕も肩と連動して上下に動いてはいなかった。
「何っ!?」
離れ様がない状態にされて相手が不敵な笑みを浮かべる。
その作戦の正体が何なのか?
その答えについてはすぐに分かったのであった。
「『スター・フラッシュ』!!」
覆面の星形部分から光線が放たれた。
回避もできないように仕組まれた一撃。
俺は霊圧を高めて致命傷にならないように歯を食い縛って耐える準備をしていた。
「ちっ……」
光線で腹部の中心を打ち抜かれて片膝をつく。
万全の体というのも相まって警戒心が緩んでしまっているな。
『崩玉』を取り込んだ時の藍染もこんな気分だったのだろう。
脱線してしまったが思考をこちらに戻す。
回道で回復を試みようとした瞬間、相手が再度急接近をして拳を振るってきた。
「討ち取ったりぃ!!」
顔面に拳を喰らう。
額を合わせて砕いても良かったんだがな。
伝わった衝撃は骨を砕くには至らず。
血を流させるには至らず。
しかし、嘆きの言葉を漏らさせるには十分なものであった。
「…この程度かよ」
相手の拳を顔面に喰らった。
光線で腹部もやられた。
しかしこんなもので負ける俺ではない。
致命傷と言えるものでもなかったからな。
「ぬっ……」
平然としている俺に強靭かと思ったのか。
喜びの顔を浮かべて拳を回す相手。
しかし、俺は対照的に冷め切っていた。
「つまらねえ、こんな程度の相手に檜佐木副隊長は負けたのかよ」
さっきの発光して虚を突いたのを勘定に入れず、まともにやった場合こちらへ損傷を与えられていないじゃないか。
肉弾戦が主で矢を放つ事はしない滅却師なんて初めてだ。
こんな相手ならば『風死』でも切り刻めただろうに。
譲ってくれといった手前、悪く言いたくはない。
しかしこれだったら普通に拳西さんや鳳橋さんが余裕で勝てるほどだ。
「お前、本当に幹部級か?」
光線をそう捉えていけばいいのだろうが、火力が優れていない。
相手が本気を出していない可能性もある。
そうであれば相手の怠慢なのでこちらが対処する事はできない。
俺は相手の実力に疑問符を浮かべて問いかけた。
「……舐めるなぁ!!」
相手が怒って拳を繰り出す。
弱体化していたとしてもこれならば、ニャンゾルやバズビーの方が手応えがあった。
復帰後、始めの相手がこれとは悲しいばかりだ。
俺は冷めた目で刀を抜き始める。
「余興はお終いだ、行くぜ『年輪』」
相手の攻撃が俺の腹部を捕らえる。
しかしそれでも意味はない。
何故ならば止まらないのだから。
意に介さず上段に構える。
「はっ!!」
呼吸を吐き出して一閃。
相手はぐるりと白目をむいた。
花が咲くように、左右に開いていく。
とは言っても花と比べるのが失礼なほどこちらは醜悪に映るが。
「駄目です、斑鳩三席!!、傍らに居る子供から先に……」
檜佐木副隊長が俺に言ってくる。
いや、そういうのは先に言っておけよ。
すると遠くにいた少年が息を大きく吸い込んでいた。
一体何をしようというのか。
「頑張れ頑張れ、スーパースター!!」
真っ二つになっている相手に声をかける少年。
すると徐々に相手の体が動いていく。
真っ二つになっていた体が引っ付いて立ち上がり始めた。
「ンッンー、良い切れ味だがこのスーパースターであるマスクド・マスキュリンにかかればこの通り!!」
成程、相手は二人で一つの滅却師なのか。
少年が回復役で攻撃役はマスクド・マスキュリンというわけだ。
力瘤を作るような構えでこっちに言ってくる相手。
血も失ったがそう言う部分でも完全回復が出来ているのか。
余り頻発するとこういうものは失血死もあり得るからな。
だが……
「何度も斬らせてくれるのか?」
一度ではなくそれこそ俺の気の済むまで。
そんな最高の存在。
最上級の巻藁じゃないか。
口元が歪む。
きっと鏡を見たら禍々しい笑みなのだろう。
「悪い事は言わねえ、マスキュリン」
俺の浮かべた顔を見た拳西さんが相手へ忠告をする。
それは相手が気の毒だと視線で語っていた。
「仮に不死身なのならば……」
鳳橋さんも髪をかき上げながら言う。
卍解を使う予定だった二人は臨戦態勢を解いてはいない。
「お前は地獄を見る事になるだろうよ」
何を言っているんだという顔をするマスクド・マスキュリン。
この二人は嘘はついていない。
「こんなでくの坊に吾輩が地獄を見せられるなど……莫迦も休み休み言いたまえ!!」
鉄拳を振るうマスキュリン。
しかしその拳は俺に届く事はない。
それどころか、どちゃっと何かが落ちた音がした。
「へ?」
素っ頓狂な声をあげるマスクド・マスキュリン。
そんな隙だらけになるとどうなるか今から思い知らせてやる。
「呆ける暇は無い」
袈裟斬りで斜めに真っ二つ。
返す刀で首を落とす。
そして相手を正中線から叩き切る。
相手は都合六つの肉の塊となった。
「これが斑鳩傑だ……」
手を叩き賞賛する拳西さん。
相手がこうもあっさりとやられるとは思っていなかったのだろう。
「本気になれば赤子同然なんだね」
二人がかりでやろうとしていた相手。
それがこんな無残にやられてしまうなんて。
そう言って肩を竦める鳳橋さん。
「頑張れー、スーパースター!!」
子供が応援するが無意味。
またもや引っ付き再生していこうとする。
そして呼吸が出来るようになったのか、声を出そうとするが。
「……!?」
再生したはずなのにまたもや絶命しているマスクド・マスキュリン。
その絡繰りは奴が再生した直後に切り裂いている。
速度は脳の指令から即行動に移して受けきれるかどうか。
気づいた時には斬られている世界だ。
「今からしばらくの時間、付き合ってもらおうか」
そこからマスクド・マスキュリンは地獄を味わう。
俺に幾度となく斬り殺される。
そして子供が健気に信じるが故に何度も何度も再生を繰り返す。
「や……め…てくれ」
マスクド・マスキュリンは手を前に差し出し、不意打ちでもなく心からの降参を口にする。
しかし、お前らはたくさんの隊士を殺した。
その時点でそんな命乞いを聞くつもりはない。
ただ、これだけ切り裂かれて気が触れる事も無く立ち上がるのは素晴らしいな。
その姿に免じて、せめて最後は土に還るがいい。
「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる
爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形、結合せよ、反発せよ、地に満ち 己の無力を知れ
破道の九十 『黒棺』」
完全詠唱の『黒棺』はその一点に降り注ぎ、マスクド・マスキュリンという存在をかき消したかのようだった。
塵一つ残らず地面だけが大きく陥没していた。
「もう、声を出す事も出来ないほど恐怖が張り付いたかよ」
とどめの斬撃をジェイムズという子供に放つ。
其れで絶命を感知した結果、次の場所へ向かう。
既に鳳橋さんと拳西さんは別の場所に向かっていた。
多分自分たちの持っている隊だろう。
「近いのは狛村か」
そう言って俺は走り出す。
徐々に霊圧の感知が冴えていく。
ひよ里さんは十三番隊へ行っている。
浮竹隊長の代わりに海燕と守護に当たっているのだろう。
痣城は二番隊に向かっているのが分かる。
「さあ、喰らいなさい!!」
丁度狛村がいる場所にたどり着いた時、相手が雨霰のように狛村へ霊子の弾を放つ。
矢の系統だがあれだけで大して損傷は与えられないはずだ。
だが、苦い顔をしているのが見える所から考えてそんな易しいものではないのだろう。
「くっ!!」
『黒縄天譴明王』と己の巨体を使い、後ろに居る平子と雛森隊長を庇おうとする。
其れで無理な分は藍染が補っているのだろう。
「狛村、俺が馬鹿な真似をしたせいで不在の中、十分やってくれたな」
狛村の前に立って刀を振るう。
相手の攻撃が到達する速度を超える。
いや、あの弾が体に、あるいは地面に到達したら何かあるのかもしれない。
いずれにせよ狛村たちに向かっていた弾の全てが霧散した。
「えっ、私の攻撃が……」
相手もその光景には驚いている。
俺は相手をよく見て頭を動かしていた。
今度の相手は先ほどのマスクド・マスキュリンに比べると相手の装いが全然違う。
装いが違うところから推理したら、おおよそあれが本気なのだろう。
こちらで言う所の卍解と思って良い。
其れならば狛村が完全に防げなかったのも納得だ。
「一体何が起こったの……?」
雛森副隊長が呟く。
まあ、あれは鬼道を使った方が良かっただろう。
見る事が出来なければただいきなり霧散しただけで理解が難しい。
「切り裂いたんだよ、あの一瞬でね」
藍染が伝えてくれたので助かる。
とは言ってもそれでもおかしな事だと思っている雛森副隊長。
あんな一瞬で出来るわけない。
そう思っているんだろうな。
「百を超える年の間、貴方の帰還を待っていました」
忠義を誓うものとして。
礼節備わった者ゆえに頭を下げる。
全力の姿はそれほど昔の彼方にあったのだな。
「よく思い留まってくれた」
俺は頭に手を置く。
命を置いていく真似をせずにいてくれた事に。
約束を違えずに待っていてくれた事に感謝をする。
「あとは俺に任せておけ」
俺は構えて相手を見る。
翼のような物があるから飛び立っていく。
こっちを見下ろしてにやにやと笑っている。
「あんたそこのワンちゃんより強いってわけ?」
生意気な口をきいてくる女だ。
狛村の巨体を沈める事も出来ていない。
とは言ってもそれなりに傷は負ったようだが。
その問いに俺は自信満々に頷いた。
「ああっ、ここからは俺、斑鳩傑がお相手しよう」
相手が俺を値踏みするように頭から爪先まで見る。
相手は時折首を傾げたりしているが、一体何がしたいのかよく分からない。
俺が先制攻撃を仕掛けてもいいんだが、相手の反応が少し気になっていた。
相手は納得したのか腰に手を当てて何度も頷いていた。
「名前は何という?」
構えて相手の名前を問う。
相手はそのままの姿勢を崩さずこちらを見ながら臨戦態勢のまま言葉を発する。
「バンビエッタ・バスターバインよ、覚えてそのまま死になさい!!」
その言葉を言い終えると、バンビエッタ・バスターバインが霊子の弾を放ってくる。
矢とは違うがこれがミソなのだろう。
見上げているとバンビエッタ・バスターバインは指をこっちに向けていた。
「一回凌いだぐらいで甘く見るんじゃないわよ」
そう言うと霊子を弾に打ち込んでいる。
まずは先着する一撃を回避する。
すると……
「なっ!?」
俺の近くの地面が爆発した。
これでバンビエッタ・バスターバインの能力は『爆発』を司るものなのは十分理解できた。
こりゃ、ますます狛村ではしんどいというのは納得できる。
「これが私の力であり聖文字『E』、『
バンビエッタ・バスターバインはさらに雨霰の如く降らせていく。
目の前を覆うほどの量だがそれで打ち倒せるとでも思ったのか。
俺はお前が相手をしていた狛村左陣より俺は強いのだぞ。
百年待ち焦がれ練り上げた男よりも。
零番隊に頭を下げねば壊れる阿呆の為に忠義を尽くす男よりも。
だからこそ俺は……
「皆の心に報わなければいけないのだ!!」
ひよ里さんだけに感謝を述べてはならない。
慕ってくれていた東仙要、狛村左陣、藍染惣右介、市丸ギン。
兄貴分であった鳳橋さんと拳西さん。
その人たちの事を想い、全力を込めて打ち払う。
全ての爆弾が俺に着弾する事も無く、別の場所で爆発して霧散した。
バンビエッタ・バスターバインの攻撃は俺に届いていない。
だというのにバンビエッタ・バスターバインは俺を見下ろして笑っていた。
「何笑っているんだ?」
回避されたはずなのに相手が笑みを浮かべる理由に気づけない。
だから相手に俺は言葉を投げかける。
すると相手は鬼の首を取ったような雰囲気で、こちらに勝ち誇り言葉を発していた。
「分かってないから笑ってんのよ、間抜け!!」
次の瞬間、背中で爆ぜる。
成程、間抜けというのも分かる。
さっきまで真剣そのもので打ち払っていた男は同じとは思えない姿を晒していた。
一方向だけだと断じたのは早計だったようだ。
其れならば『逆撫』で対処が出来るというのに。
「がっ……」
痛みが背中に広がる。
片膝を突く事はしないが熱で痛む。
意識が飛ばずに相手を見据える。
こいつら、幹部級の奴らは揃いも揃って面倒な能力を備えているな。
「全方位とはな……そりゃ対処が厳しい訳だ」
どこまでの範囲かは分からない。
それに藍染たちをまとめてやりたくても仮に回避されたら自分に降りかかる。
今は前方に意識を向けさせて不意打ち気味に行ったからよかった。
もし狛村を庇った際にやっていたら意識して動いていただろう。
「だがそんな豆鉄砲で俺を倒せると思っているのかい?」
背中の痛みも抑え込んで相手へ向かって行く。
その態度が気に食わないのか、相手は手を上にかざして睨んできた。
「一発が無理なら百でも千でも当ててやるわよ!!」
降り注ぐ爆破を伴った流星群。
俺は切り裂く事も無くずんずんと前進していく。
当然当たっていくが霊圧を展開して被害を押さえる。
「行くぞ……」
そう言って俺は足に力を込めて、視線を相手に向ける。
今から切り裂く。
その殺気だけは届いたかもしれない。
相手の顔は引きつっていた。
「せりゃあっ!!」
ただの跳躍で眼前へと俺は迫っていく。
相手は爆撃で撃ち落とそうとする。
しかし俺は落ちはしない。
俺を両手で握った刀を上に構えて相手の眼前に至った。
「はっ!!」
上段から振り下ろす。
絶命する一撃を持って奴を斬り落とす。
その決意に勘付いたのか、相手も一瞬で顔を引き締めて対応していく。
「そんなの有りな訳!!」
怒りの声をあげながら、爆撃を使った勢いと旋回を行う。
こちらの攻撃をかわして上空へいくバンビエッタ・バスターバイン。
しかし俺もここで逃がす気はない。
片手に持ち替えて俺は目を逸らさず狙いを定める。
「流石に落ちる事しかできないでしょ!!」
こちらの次の状況を考えて笑うバンビエッタ・バスターバイン。
並の相手あらばそうだっただろう。
しかしここに居る相手は並じゃない。
次の手も十分考えているもんだ。
「『蒼火墜』!!」
鬼道の反動を使って落下せずに追撃を行えるようにする。
その勢いのまま相手へ迫る。
これで終わらせてやる。
「くっ!!」
再度羽搏いて俺の斬撃の範囲外へと逃げていった。
斜め上空に居るが問題ない、何度でも追いかける。
「いい加減にしなさい……」
バンビエッタ・バスターバインは俺とは逆方向に手を向ける。
一体何をしようというのだ?
「気になるがこのまま切り裂くのみ!!」
そう言って再度鬼道で上昇を試みようとする。
それに合わせてバンビエッタ・バスターバインが弓矢を放っていく。
その推進力と更に矢継ぎ早に霊圧を打ち込み爆破させる。
そして爆風でさらなる推進力を得てこちらへ突っ込んできた。
「しつこいのよ!!」
頭突きを喰らわせてくる。
攻めの一手を繰り出してきたか。
流石にそれは効くな。
「くっ!!」
背中を打ち付ける前に受け身を取る。
その瞬間にバンビエッタ・バスターバインが爆弾を放ってくる。
雨霰の如く質量が襲い掛かってきた。
「ふんっ!!」
再び刀で全ての爆撃を霧散させる。
一つ一つの質量、爆発の威力、爆発の規模。
それらが総じて小さいのだが誘爆という部分で底上げをしてくる。
「上手くいかないわねぇ」
手を振って残念そうに呟いている。
この部分だけ見ると無防備だが、実際は視線も外さず集中している。
さっきのマスクド・マスキュリンに比べて油断が無い。
「さっきは折角追い詰めたのに残念だ」
あそこで動揺すればそこで勝負はついていた。
そう踏まえるとバンビエッタ・バスターバインは非常に冷静に対処をしていた。
動揺して隙が生まれなくとも、あの場面で俺に向かって爆破攻撃を仕掛けた場合でもそこで決着だった。
「まあ、これでも勝てる気しかしないけど…」
刀を振るって相手を見る。
そんな余裕綽々な態度が気に食わないのだろう。
バンビエッタ・バスターバインが指を差してこちらを睨み付けているのであった。
今までで一番長い文字数かと思います。
前回みたいに相手の幹部がかませみたいになっていますが、マスキュリンもバンビエッタも傷を負わせていたりしているので弱い訳じゃありません。
アスキンはマユリとの勝負も避けたので、それと同格+勝ってもマユリに疲弊した状態でやられそうなら避けるよなって事で勝負は無くしました。
何か指摘等がありましたらよろしくお願いします。