僕➟真斗
君➟由紀
〜由紀サイド〜
「じゃあいつもの時間にいつもの場所集合な!【あれ】も忘れんなよ!」
真斗がいつもより少し離れた距離からそう叫んだ。
「うん。わかった。」
それから私は一人で帰路に着いた。
4畳半の狭い和式の部屋。布団と木の勉強机だけが置かれ、壁には所々シミができてる。私の家は普通ではない。
一言で言えば貧乏、である。
父親は小さい頃に死んでしまった。ある事故で…
それから母はたった独りで私のことをここまで育ててくれた。
母には本当に感謝してる。ありがとう。
そんなことを考えていたら部屋のドアが少し開いてその隙間から母が顔をのぞかせながらこういった。
「ごめんね、由紀。今からお母さんお仕事行ってくるからまたお留守番しててもらえる?」
私はもちろん、
「うん。わかった。いい子で待ってる。」
笑顔でそう答えた。
すると母は、
「そう。由紀は利口ね。じゃあ行ってきます。」
と言って家を出て行った。
唐突かもしれないけれど、母はとても美人だ。ほんとうに。私も自分では思わないけど周りからはよく容姿を褒められることがあるので、母親似なのかもしれない。
なんてことを昔母にしたら、母は笑いながら、
「そう?でも由紀の中身はお父さんそっくりよ?」
なんて言われて少し照れくさかったのを未だに覚えてる。
あれはどういう意味だったのだろう…
それからしばらく経って、只今2時12分。
私は【あれ】を持っていつもの場所に向かっていた。
完全に遅刻した。
真斗は優しいから許してくれるとは思うけど…
悪いことしたなぁ。
そう思いながら街灯もない暗い道をひたすらに走っていた。
〜真斗サイド〜
由紀のやつ、おせーな。
途中で事故ったりしてなきゃいいけど…
そう思いながら俺はベルトに結んだラジオの天気予報を聞いた。
「今夜から明日の夜にかけては全国的に晴れるでしょう。」
どうやら雨は降らないらしい。よかった。
それから2分後に由紀がきた。
「おそいぞー。由紀…って荷物多いな!?」
「へ?そ、そうかな?そんなことないと思うけどなぁ…」
「まぁいいや。それより早く始めようぜ。」
「うん!始めようか。」
「「天体観測!!」」
「うしっ。じゃあまずはほうき星から探そうか。」
「うんっ!」
俺の家は一言で言えば、金持ちである。
きっとこの辺で、というか日本の中でも指折りなくらいの権力と資本を有する財閥だ。
だけど俺はそんなあの家が大嫌いだ。
小さい頃から親からは勉強、勉強。
英才教育?経営学?
知ったことか。
俺はあんなクソ親父の跡を継ぐ気はない。
あいつのせいで母さんは死んだ。
あいつのせいで…
だから俺はあいつのことは、あいつのことだけは許さない。
でもこの時間は、こうして由紀と二人きりで星を眺めている時間だけは全てを忘れさせてくれる。
きっとあいつにも辛いことや忘れたいことだってあるだろう。
でもこの瞬間はこの時間だけはそんなものから、世の中のしがらみから解放してくれる。
この空間は、この時間だけは壊されたくない。
永遠に続いて欲しい。
どうすればこの先ずっと二人で星を眺めていられるんだろう…
未来を知りたい。未来を見てみたい。あぁこの望遠鏡に未来が映ってればいいのに…
「あっ!真斗、真斗!ほうき星だよね?これ!やった!
初めて見つけられた。やったー!」
どうやら由紀がほうき星を見つけたらしい。
「よかったな…」
「うんっ!すっごい嬉しいよ!」
何だかこいつを見てると未来の、いや明日のことですら考えるのがバカらしくなってくるな。
今を楽しめればいい、そう思ってるんだろうな。由紀は。
「よしっ!この調子で俺も見つけてやる。うぉーー!!」
「あははははっ。がんばれっ、真斗!」
〜由紀サイド〜
星を眺め始めてから大体2時間くらいだったところで、
「そろそろ帰ろうよ。」
完全に眠くなって来た私は真斗に声を掛けた。
「うん。もうちょっとだけ待って。」
もう…
真斗の悪い癖だ。夢中になったことは時間を忘れてやり続ける。
でも、まぁ、なんていうか…嫌いじゃない、けど…
それからさらに1時間くらい経過して流石に真斗も諦めたのか、
「じゃあ帰るか!」と言ってきた。
やっと帰れる、そう思った私は眠すぎてうまく回らない頭で歩き始めた。その時、耳に真斗の叫びが聞こえた。
「由紀っ!危ないっっっっ!」
次の瞬間、私は…
〜真斗サイド〜
結局ほうき星見つからんなかった。
由紀は何で見つけられたんだ。
コツでもあんのかな?
「なぁ、由紀…」
言いかけたところで俺は、あることに気づいた。
由紀が俺より10メートルくらい離れた場所を歩いている。
なぜかとても嫌な予感がした。
あいつは夜が弱い。いつもだって最後の1時間位はあいつを寝かせて俺が一人で星を見てる感じだからな。
だから俺はあいつの元に駆け寄ろうとした。
でも、次の瞬間…
カンッカンッカンッカンッ
電車が来た音だ。
由紀はまだ渡りきってない。
線路のど真ん中にいる。
まずい…このままじゃ…
「由紀っ!危ないっっっっ!」
俺は咄嗟に叫んだ。
でも、その声は届かなかった…
プァーキキィー
グシャッミチャッグチャビチャッ…
車が急停止できないのに電車が急停止できるはずがない。
ようやく止まった電車の下には、由紀のものと思われる足首や手首、
割れた望遠鏡のレンズが転がっていた。
「ああぁぁぁ…ウワアアァァァァァァァァァアアアアアアア!!!」
嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ!!
そんな…
由紀が…ゆきが…ユキガ…
その日の夜。
由紀のお通夜が厳かにとり行われた。
未だに信じられなかった。
由紀の母親がこれでもかと、泣いていた。
あの電車の運転手は顔面蒼白で、震えていた。
俺は信じられないくらいに震えていた。
信じられないんじゃない、信じたくないんだ。
あいつが死んだという事実を、現実を受け止めたくない。
それから由紀の墓を作ってお供え物をしてとりあえずの式は終わった。
ちなみに俺の親父は来なかった。
仕事が忙しいから来れないらしい。
でも今はそんなことどうでもいい。
みんなが帰ってからも俺は一人で由紀の墓の前で突っ立っていた。
ただひたすら呆然としていた。
あれから2日、3日経ったろうか。
流石におかしいと思った近所の人が俺を病院に連れて行った。
されるがままに連れられていった俺は重度の鬱だと診断を受けた。
自分では分からなかった。
というか、それすらどうでもよかった。
死んでしまいたいと思った。
そうすればどれほど楽か…
そんなことを永遠と考えていたら1年、2年、5年…と経っていった。
そして気付けば70年という月日が経っていた。
その間、気がつけばずっと何かを探していた。探し求めていた。
それは由紀がいた頃のあの夜の幸せの定義でも、
ましてや由紀が死んだことで生まれた悲しみの置き場でもない。
生まれてからずっと探している、きっと死ぬまで探し続けている
何かがあったんだ。
俺と由紀をつないでいた何か。
俺と由紀の間で煌めくほうき星…
今まで見つけてきたものは覚えている。
あのクソ親父のとの喧嘩、母さんの愛情、そして…由紀との思い出。
俺と由紀が知らない何か…
それがきっと俺たちをつなぐほうき星だったんだ。
でも由紀はあの時、そのほうき星を、見つけた。
それは少なからず俺と由紀を繋ぐための希望だった。光だったんだ。
未来へ続く一筋の光。
きっとあいつには、由紀には見えてたんだ。
だからあいつはいつだって輝いてた。
なのに俺は、俺は…
今からでも、間に合うのかな…
今からでも、一人ででも、追いかけてみよう。
君が見たその光を。
2番までです。
その先の歌詞も知ってるは知ってるんですけどちょっと話を続けるのが無理っぽいので…