白竜に憑かれた少女も異世界から来るそうですよ?   作:ねこです

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第8話

 安全を知らせるための鐘が〝アンダーウッド〟に鳴り響く。

 濃霧が晴れ、一晩遅れの満月と満天の星々が輝く中、〝アンダーウッド〟の住人や〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟の同士は彼方此方で忙しなく動き回っていた。

 そんな中弥白はディーンの足元にいる飛鳥を見つけ、翼を羽ばたかせて降下する。

 飛鳥も降りてくる弥白の姿を確認し、声を上げた。

 

「望月さん! 良かった、無事みたいね」

 

「はい、飛鳥も怪我はないようですね。………ところで、耀は何処です?」

 

「春日部さんなら、急にあっちの方に飛んで行ったわ。何だか慌てていたみたいだけれど」

 

 耀の姿が見当たらず、周囲を見回しながら首を傾げる弥白に、飛鳥は大樹の方を指差しながら答える。

 

「ふむ。ならとりあえず耀を探しましょうか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 弥白の提案に飛鳥も頷き、ディーンをギフトカードに戻す。弥白が飛鳥を抱え、2人は大樹の下にある地下都市に向かって飛んでいく。

 2人はまず地下都市内の彼女達が泊まっていた宿舎に向かい、崩壊し瓦礫の山と化した宿舎で項垂れへたり込んでいる耀を見つけた。

 飛鳥と弥白は何やら様子がおかしい耀を見て首を傾げ、近くまで歩いて行くとそっと声を掛ける。

 

「………春日部さん? どうしたの?」

 

「何か大事な荷物でも駄目になりましたか?」

 

 2人が声を掛けた瞬間、ビクッ‼ と耀は背筋を跳ねさせる。その様子は見られてはいけない場面を見られた子供のようで、ぎこちない動きで振り返った彼女の顔は真っ青だった。

 そんな友人を見た飛鳥は驚きながらも、心配そうに耀の下に駆け寄る。

 

「か………春日部さん? ちょっと、顔が真っ青よ! 大丈夫⁉」

 

「あす……か………!」

 

 消え入りそうな震える声を上げ、耀はふらつき震えながら立ち上がる。その直後、折れた大樹の根が耀の頭上に降り注いだ。

 耀の近くに寄っていた飛鳥もろとも、2人を押し潰そうとした大樹の根は、

 

「せい」

 

 と弥白のやる気のない声と共に、腕を振って発せられた衝撃波によって粉々に砕けて吹き飛んだ。

 突然の事に飛鳥が驚いていると、いきなり耀が旋風を巻き上げ2人に背を向けて飛翔する。

 

「あ、ちょ、ちょっと春日部さん⁉」

 

 いきなり逃げ出した耀を呼び止めようと声を上げるが、彼女は振り返ることなく行方をくらませた。

 珍しくおろおろしている飛鳥を尻目に、弥白は耀がへたり込んでいた場所に転がっている何かの残骸を手に取る。

 

「………これは、ヘッドホン?」

 

 え? と疑問符を浮かべた飛鳥が近寄ってくる。彼女が目にしたのは、コナゴナになったプラスチックか樹脂のような何かの欠片、コードのような物、そして革製のイヤーパッドだった。欠片とコードはともかく、2人はイヤーパッドには見覚えがある。

 

「これ………もしかして十六夜君の………?」

 

「恐らくそうでしょう。わたしの記憶に間違いがなければ、ですが」

 

 顔を見合わせる2人。飛鳥は一瞬、耀が盗んだのでは、と考えた。それならば彼女が突然逃げ出した理由も説明できる。

 だが、すぐにそんな事はありえない、とその可能性を一蹴する。確かに彼女が悩んでいたのは事実だが、だからといってそんな行動に出るはずがないと。

 飛鳥は気を取り直して立ち上がり、弥白に声を掛けた。

 

「とりあえず春日部さんを探して事情を聞きましょう。お願いできる?」

 

「ん。任せてください」

 

 頷いた弥白は手持ちの自動人形をありったけばら蒔き、耀が飛んで行った方向に向かわせる。大型の自動人形は殆ど本拠の防衛等に回しているが、索敵用の自動人形はそれなりに数を揃えている。耀を見つけるのにそう時間はかからないだろう。

 耀が見つかるまでできる事もないため、2人はとりあえずヘッドホンの残骸や自分達の手荷物を回収しながら待つのであった。

 

 

 

 結論から言えば、耀はすぐに見つかった。

 地下都市の人気が無い裏通りで膝を抱えていた耀を捕まえ、現在は避難民が集まっている区画に移動している。

 一先ず彼女を落ち着かせゆっくりと事情を聞いたところ、耀の鞄の中にヘッドホンが入っていたらしい。当然本人に入れた覚えはなく、ヘッドホンを見つけた直後に巨人に襲われたそうだ。その後は弥白達も知っている通りである。

 

「ええと、話をまとめるとこういうことね。春日部さんが荷物をまとめた後、犯人は十六夜君のヘッドホンを持ち出し春日部さんの荷物の中に紛れ込ませた。………これが可能なのは?」

 

「――……私?」

 

「春日部さん以外でっ!」

 

 多少余裕が出来たのかそんな事を言う耀に、飛鳥は苦笑いしながら言いなおす。

 その飛鳥の隣で、今まで黙っていた弥白が口を開いた。

 

「その件ですが、耀のギフトで何か手掛かりでも掴めませんか? とりあえず可能な限り回収しておきましたが」

 

 回収して袋に入れておいたヘッドホンの残骸をテーブルに置く。

 飛鳥はその手があったか、と両手を叩き、頷いた耀はエンブレムを手に取った。そしてエンブレムの匂いを確認した耀は、途端に顔を歪ませる。

 

「春日部さん、どう?」

 

「………うん。犯人は分かった」

 

 けど、と言い淀む。犯人は分かったが、彼女にはなぜ彼がそんな事をするのかが分からなかった。

 何か事情があったのかと考えていると、3人の下に三毛猫を抱えた猫耳と鉤尻尾の少女がやって来る。

 

「あ、いたいた! どうもですよー常連さん! 向こうの方で打ちひしがれていた、三毛猫の旦那さんを連れてまいりましたー!」

 

 猫耳の少女、飛鳥達がよく行っている〝六本傷〟のカフェテラスの店員は手を振りながら元気よく挨拶をする。

 

「えー? でも本当に、この世のドン底みたいな顔で参ってたじゃないですか」

 

 店員の発言に三毛猫はニャーニャーと鳴きながら何かを言っているが、やはり飛鳥と弥白にはさっぱり分からない。

 耀に名前を呼ばれ、ギクゥ! と三毛猫は猫耳の店員の腕の上で跳ねる。店員から三毛猫を受け取り、耀は悲しそうな顔で問いかけた。先ほどの流れや耀の発言を聞く限り、どうやら犯人は三毛猫らしい。

 三毛猫から話を聞き、しばし瞼を閉じて考え込んでいた耀はゆっくりと顔を起こし、

 

「………飛鳥、弥白」

 

「はい」

 

「何?」

 

「やっぱり犯人が分かっただけじゃ駄目だ。何とかしてヘッドホンを直さないといけない。………手伝ってくれる?」

 

「ええ、喜んで。………と言いたいところだけれど、」

 

 飛鳥はヘッドホンの残骸を見下ろし、次に弥白の方を見る。飛鳥と耀、そして三毛猫と猫耳の店員の視線が弥白に集まるが、弥白はきっぱりと、

 

「無理です」

 

 首を横に振って言い切った。はっきり言って、彼女はここまでコナゴナになっているヘッドホンを直すなど物理的に不可能だと考えていた。

 それでも耀は、このメンバーの中で一番頼りになりそうな弥白になんとか食い下がろうとする。

 

「………。ええと、もう少し頑張ってみない? なんていうかこう、魔術でいい感じに」

 

「耀は魔術を何だと思っているのですか? 確かに道具の損傷を修復する魔術もあるにはあります。ですが、この状態から復元できる程の性能はありません」

 

「………仕方ないわね。ヘッドホンを直すことよりも、十六夜君の機嫌を取る方向で考えを進めましょう」

 

 弥白の発言に飛鳥も早々にヘッドホンを見限り、他の手を探そうと提案する。

 耀としてはなんとしても元に戻したかったが、弥白が無理というのなら無理なのだろう。最後の希望とばかりに店員の方を見るが、彼女も曖昧に笑って首を振るだけだ。

 

「でも………機嫌をとるって、どうやってとるの?」

 

「そうね。第一候補としては………ラビットイーターを黒ウサギとセットで贈る、とか」

 

「飛鳥、ツッコミ不在でボケても意味が無いので巻きでいきましょう」

 

 そうね、と飛鳥は苦笑しながら頷く。この場に黒ウサギがいれば確実にハリセンを振り下ろすのだろうが、残念ながら今はいない。

 横で話を聞いていた猫耳の店員は、ここぞとばかりに口を開いた。

 

「それでしたら、ウチの店でお詫びの品を用意したらどうでしょう。大抵の物は取り揃えてますよ? とりあえずこのゴタゴタが片付いた後になっちゃいますけど」

 

 鉤尻尾を振らしながら提案する店員。こんな状況でも商魂たくましい話である。

 3人は顔を見合わせ、頷き合った。一先ず意見は纏まったらしい。

 

「それじゃあとりあえず、その案でいきましょうか」

 

「うん」

 

「では、次は黒ウサギ達と合流しますか?」

 

「いいえ、黒ウサギの方から来てもらいましょう。早くヘッドホンの代わりになる物を探すためにも、それまで私達は復旧作業を手伝いましょう」

 

 弥白の発言に首を振って提案する飛鳥。黒ウサギとジンが何処にいるか分からない以上、闇雲に探し回るより向こうから見つけてもらった方がいい。地下都市では既に瓦礫の回収作業等が始まっている。人手が必要なので、こちらを手伝った方がいいと判断したのだ。

 その後、テーブルから立ち上がった3人は三毛猫を店員に預け、作業現場に向かうのであった。

 

 

 

 ―――巨人族の襲来から1時間後。

 〝アンダーウッド〟の同士を中心に、南側の住人で動ける者達は総出で復旧作業にあたっていた。前夜祭の間に建て直さねばらない以上、今は一分一秒が惜しいのだろう。

 飛鳥達も瓦礫の回収作業を手伝っていたが、そこに三毛猫を抱えたジンと黒ウサギ、ジャックとアーシャの4人と1匹がやって来る。黒ウサギは問題児3人を発見すると同時にぴょん、と跳ねて耀を捕獲し、少し離れた場所まで引きずって行った。

 ずるずると黒ウサギに引きずられながら、耀は困惑の声を上げる。

 

「く、黒ウサギ………?」

 

「見つけましたよ耀さん! 全くもう、詳しいお話は三毛猫さんよりお聞きしましたよっ! どうして黒ウサギに相談してくださらなかったのですか⁉」

 

「え、えっと………巨人族が襲ってきてそれどころじゃ、」

 

「その話ではありませんっ! 収穫祭の滞在日数の事でございます! 相談してくだされば、黒ウサギや十六夜さんや………飛鳥さんや弥白さんだって、耀さんを優先的に参加させました! なのにどうして相談してくれなかったのですかっ⁉」

 

 黒ウサギに肩を掴まれた耀は、ブンブンブンブンと激しく揺さぶられながら問い詰められる。このまま続ければ脳震盪でも起きそうな勢いである。

 飛鳥と弥白は止めた方がいいだろうか、と考えながらも静観していた。

 

「で、でも、ゲームで決めるっていう約束が―――」

 

「ゲームは所詮ゲームでございますっ! 我々は同じ屋根の下で暮らし、同じ苦楽を共にし、同じ旗の下で戦う同士です! 悩んでいることがあるのなら、まずは我々に相談するのが筋でございますっ! ましてや………耀さんが、戦果を誤魔化すほどに悩んでいたなんて………! 黒ウサギは、まるで気づいておりませんでした………‼」

 

 ハッと黒ウサギの言葉に3人はお互いを見た。

 そして、3人の視線は自然にジャックに集中する。

 

「ジャック………貴方、」

 

「ヤホホ………ここに来るまでの道中、彼女とお話しさせてもらったのですが………どうやら、まずいお話だったようで」

 

 ジャックはポリポリとカボチャ頭を掻き、黒ウサギは半泣きになりながら3人を見つめる。

 

「〝ウィル・オ・ウィスプ〟のギフトゲームは………皆さんが一緒にクリアされたと。ジャックさんから伺いました。素晴らしい連携プレーを見せてくれて、凄く参考になったと………敗北したゲームを、とても誇らしげに語ってくれました」

 

「………っ……」

 

 切実な声を上げる黒ウサギに、3人は何も言えずに俯いてしまう。

 堪らずに、飛鳥が前に出て弁明した。

 

「ち、違うのよ黒ウサギ! 春日部さんに話を持ち掛けたのは私で………!」

 

「いえ。わたしと飛鳥で、です」

 

「違う。私が悩んでいたから2人が気を遣ってくれて、」

 

「………いえ。そんな気を遣わせたのは黒ウサギにも責任がございます。黒ウサギの過度な期待が、皆さんと小さな壁を作ってしまったのです。本当に………申し訳ありません」

 

 4人がお互いに頭を下げる。

 三毛猫を抱いたジンは耀に近寄り、声を掛けた。

 

「耀さん。ヘッドホンの件ですが、」

 

「っ………。本当にごめん……なさい」

 

「いえ、壊れてしまったものは仕方がありません。僕から代案がありますので、聞いてもらえますか?」

 

 ジンの突然の言葉に、耀は思わず驚いて顔を上げる。まさか彼から提案があるとは思わなかったのだろう。

 しかしその時、〝アンダーウッド〟に鐘の音が響き渡った。少し離れた場所で復旧作業を行っていた者達は皆一様に手を止め、すぐに混乱が広がっていく。

 そこに、網目模様の樹の根から木霊の少女が飛び降りてきた。

 

「大変です! 巨人族がかつてない大軍を率いて………〝アンダーウッド〟を強襲し始めました!」

 

 直後、地下都市を震わせる地鳴りが一帯に響いた。

 

 

 

 地下都市から地上に出た一同が見たのは、半ば壊滅状態になっている〝一本角〟と〝五爪〟の同士達だった。鐘の音が鳴らされてからの僅かな時間に、一体何があったというのか。

 全員が面くらって驚いていると、空から旋風と共に一体の鷲獅子が舞い降りてきた。相当激しく戦っていたのか自慢の翼は度重なる戦闘で荒れており、後ろ脚は深い切り傷を負っていた。

 鷲獅子、グリーは耀の隣に降り立つと何かを訴える様に鳴き声を上げる。

 グリーが鳴き声を上げる最中、琴線を弾く音が響いて耀はハッと顔を上げた。琴線を弾く音は二度三度と重なり、音色の数だけ最前線の仲間達が次々と倒れていく。音源から離れている耀達でさえ、意識が飛びそうになった。平気そうにしているのは弥白ぐらいである。

 

「あの音色で見張りの意識を奪われ、二度の奇襲を許してしまった。今は仮面の騎士とタマネギ? のような鎧を着た騎士が戦線を支えていますが、それも何時まで持つか分からない、だそうです」

 

 グリーの悲痛な声を黒ウサギが翻訳し、弥白は仮面の騎士? タマネギ? と疑問符を浮かべる。

 対照的にジャックとアーシャは驚嘆の声を上げた。

 

「仮面の騎士………⁉ ま、まさかフェイス・レスが参戦しているのですか⁉」

 

「ま、まずいぜジャックさんッ! もしアイツに何かあったら、〝クイーン・ハロウィン〟が黙ってねぇよッ‼ すぐに助けに行こうッ‼」

 

 麻布に火を付けて巨大な業火を纏ったジャック。その上にアーシャが飛び乗り、2人は最前線を目指す。残された耀達は、再びグリーに状況を尋ねた。

 通訳した黒ウサギ曰く、竪琴の音色は近くで聞くほど効力が高く、仮面の騎士も攻めあぐねている。前回の戦闘時、サラも力を抑えられていたそうだ。効力の高さから見て神格級のギフトなのは間違いない。

 竪琴を操っているのは深めのローブを纏った人間で、今は何処に居るか分かっていない。巨人族が従っていることから竪琴の術者が指揮者の可能性が高い。

 そしてグリーが空から確認した巨人の数は500以上。戦闘を請け負う〝一本角〟と〝五爪〟は既に壊滅状態と想像以上に厳しい状況だ。

 話を聞き言葉をなくす耀達。しかし、ジンが一歩前に出て意外な言葉を口にした。

 

「大丈夫。僕に考えがあります」

 

「………え?」

 

「先ほど〝サウザンドアイズ〟からギフトが届きました。もし敵の巨人族がケルトの末裔だというのなら、このギフトで敵の戦線を瞬間的に混乱させられるはず」

 

「ほ、ほんとに?」

 

「はい。………しかし、それだけでは足りません。竪琴の術者を破らねば同じ事を繰り返すだけです。術者を逃がさないためにも………耀さん。貴方の力が必要です」

 

 ジンの言葉に耀は驚いたように瞳を瞬かせるが、すぐに眉を顰めた。

 

「………それは、私に見せ場を譲るということ?」

 

「違います。僕の予想が正しければ、耀さんの力が必要な状況に陥るはず。貴方でなければできないことです」

 

 真っ直ぐに耀を見つめ返す。同情で見せ場を譲られたのではないか、という勘繰りはその視線で消え失せた。

 

「………わかった。作戦を教えて」

 

 

 




 いつも筆が遅くてすみません。3巻もあと2話ぐらいで終わりますかね。もうすぐ弥白についてあれこれ触れないといけないと思うと今から胃が痛いです。
 それと感想を書きたくなるような面白い話を書けるようになりたいです。はい。

 話は変わりますが、どうしたら問題児の二次創作は増えますかね。二次創作を書くのに必要な情報は大体出揃った感じするので、もっと増えてもいいと思うんですが。まぁ軽いノリで手を出すには向かない作品ですけど。
 誰か問題児×ブラボとか書きたいと思ってる人いませんかね。

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