白竜に憑かれた少女も異世界から来るそうですよ?   作:ねこです

39 / 45
第15話

 それは正に、意思を持つ〝災厄〟と呼ぶに相応しい所業だった。

 大地に這い蹲りながら藻掻く2つの頭を持った純白の怪龍と、それを丸太のように太い前足で踏みつけて見下ろす黒い龍。

 黒龍の全身は悠久の時をかけて形作られた禍々しい黒曜の鱗に覆われ、その頭部には異常発達でもしたかのような長大な龍角が並び立っている。そして何よりも異質なのは、その額で輝く宝石のような橙の瞳だった。視たもの全てに災厄と破滅を齎すその瞳は、恐ろしくも惹かれる程に美しい光を放っている。

 対する純白の怪龍は翼を折られ、双頭の片方と右前脚は原型を留めていない程に砕かれていた。それでもなお抵抗の意思を見せる怪龍に、単眼の黒龍は躊躇なく前足を振り下ろす。

 

「Gya………!!?」

 

 短い悲鳴と共に夥しい量の血を吐き出す。怪龍の胴体は地面にめり込みながら周囲一帯ごと踏み砕かれた。全身から流れた血は数多の魔獣へと変幻し黒龍に襲い掛かるが、生み出された蛇蝎の化生の如何なる攻撃も黒曜の鱗を傷つけることは叶わない。

 黒龍は鬱陶しげにもう一度前足を上げ、半死半生の怪龍をもう一度踏み砕く。その際の衝撃だけで群がっていた化生は1匹残らず消し飛んでいった。

 悲鳴を上げることすら出来ずに痙攣する怪龍に対して黒龍は執拗なまでに攻撃を繰り返す。それは怪龍が息絶えてもなお続き、肉片と化し、大地のシミと化し、それすら消えてなくなるまで前足を振り下ろし続ける。一体何が黒龍にそこまでさせるのか。瞳はより輝きを増し、吐き出される吐息にすら殺意と憤怒が宿っている。

 天災が意思を持って他者を害すればどうなるか、その答えがこれだ。周囲の大地は元は緑溢れる土地だったとは思えぬほどに破壊され、荒廃した大地へと変貌している。

 純白の怪龍を撃滅した黒龍は漸く動きを止め、しばし怪龍がいた場所を見つめる。しかし不意に2本の後ろ脚で立ち上がると、上空で蠢く巨龍へと視線を向けた。

 

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟大樹天辺。

 古城に囚われた耀達が謎を解いたその頃、〝アンダーウッド〟はまたも巨人族の強襲を受けていた。

 ゲーム攻略のために十六夜やサラ、その他攻略部隊の面々が空に上がった直後、何の前触れもなく巨人族が平野の先の丘に現れ、一斉に襲い掛かってきたのだ。

 

「ウオオオオオオオオオオッォォォォォォォ――――――!!!」

 

 巨大な大剣を振るい、大河を走り抜けて堤防を薙ぎ払って進軍する巨人達。〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟は大慌てで迎撃準備をしている最中だろう。

 

「有象無象の雑種にしては面白い恩恵を持っている。距離操作の類か、あるいは空間跳躍か?」

 

 大樹の天辺で巨人族を見下ろす黒衣の男。カラミットは瞳を細めながら如何にして巨人が突然現れたのかについて考える。挨拶代わりに一撃見舞ってもよかったが、一先ずは様子見でいいかと高みの見物を決め込んだ。

 暫し戦場を見下ろしているとガサゴソと木々が揺れる音が背後から聞こえてくる。一体誰かと振り向けば、そこには艶やかな黒髪に扇情的な服装のウサギが居た。

 

「おや、貴方は?」

 

 予想だにしていなかった先客に驚き疑問符を浮かべる黒ウサギ。だが目に見えて機嫌が悪くなったカラミットはまともに取り合おうとはせず、苛立たしげに舌打ちした。

 

「………ウサギか。軍神(駄神)のペットが何の用だ、こんな所で油を売っている暇があるなら巨人の相手でもしてきたらどうだ?」

 

「その巨人の相手をするために此処に来たのです。そう言う貴方は一体なんなんですか」

 

 余りにもあんまりな態度のカラミットに黒ウサギも苛立ちを隠そうとしない。初対面の相手にいきなりここまで言われる筋合いなどないし、まして己の主神を駄神呼ばわりした挙げ句その眷属たる〝月の兎〟をペット呼ばわりされて平気でいられるほど黒ウサギはおおらかでも軟弱でもない。………尤も、駄神という評価に関してはあながち間違いでもないのが困りどころなのだが。

 返答次第では〝バロールの死眼〟を撃ち抜く前の肩慣らしにこの男から倒そうかと黒ウサギは半ば本気で闘志を高める。そんな彼女の様子を見たカラミットは喜色を浮かべてゆらりと立ち上がり、

 

()()()()? ウサギ」

 

 橙の瞳が黒ウサギを射抜く。

 その瞬間、黒ウサギは己の首に掛かる死神の鎌を幻視した。反射的に後ろに飛び退き、金剛杵を構えながら無意識に自身の首を撫でる。

 きちんと繋がっている。その事実に安堵しつつも黒ウサギは全神経を黒衣の男に向けて警戒する。軍神の眷属としての本能が最大の警鐘を鳴らし、背筋に冷たいものが走った。

 暫し睨み合っていた両者だが、意外にもカラミットの方が先に鼻を鳴らして視線を外した。

 

「随分な怯えようだな。まあいい、それより上を見ろ」

 

 小馬鹿にするような物言いと共に頭上を見るカラミット。

 上………? と黒ウサギも突然の言葉に疑問を覚えながら釣られるように意識を空へと向ける。そんな彼女の視界に映ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「な、何ですかあれは!? 城塞からの攻撃なんてそんな、ありえません!」

 

 驚愕の声を上げる黒ウサギ。先程まで全神経をカラミットに向けていたため気づけなかったが、巨人族との戦場になっている南東の平野とは南にややズレた位置に向かって巨大火球が降り注いでいった。

 火球は地面に着弾すると同時に大爆発を起こし、一帯を焼き払いながら大地を溶かしていく。そして、その中から数多の異形が姿を現した。

 出現した異形の群れは立ち上がると一斉に〝アンダーウッド〟の大樹に向けて進軍する。既存の系統樹からはかけ離れた歪な魔物の群れ。その中には以前〝火龍誕生祭〟で見た牛頭や山羊頭、溶岩の犬の姿もあった。

 巨人族と挟撃される形となり、戦場の各所から戦っている者達の悲鳴も聞こえてくる。

 

「ほう、本当に生きている混沌の魔物をまた見られるとはな。新しい〝苗床〟でも用意したのか?」

 

「………あれが何なのか知っているのです?」

 

 カラミットの呟きに黒ウサギは警戒心を緩めず可能な限り距離を取りながら問いかける。今度は何を言われるのかと身構えていたが、カラミットは呆れた様な雰囲気で黒ウサギに視線を向けた。

 

「そんな事も知らないのか。それでも〝箱庭の貴族〟か? お前は」

 

「ウグッ………く、黒ウサギは一族的にぶっちぎりで若輩なのです。あんまりにも古い話は………」

 

 ウサ耳をへにょらせて尻すぼみに声が小さくなっていく。先程の流れといい余りにも格好がつかないが知らないものは知らないのだから仕方がない。先日の作戦会議の時にも似たような事を言われたが、彼女はまだたったの200歳なのだから仕方がないのだ。

 カラミットはやれやれと首を振り、いよいよもって呆れかえった眼差しを黒ウサギに向けた。

 

「近頃はウサギですらこの体たらくか、下層は一体どうなっているのやら。………簡潔に言うならアレは愚かな神が生み出した哀れな失敗作、神群(奴ら)の言い分を借りるなら()()()()()()()()()()()()()だ。さっさと処分しろ」

 

 こんな風にな、とカラミットは進軍中の異形達に右手を翳す。同時に彼の右手に黒い炎球が現れ、災厄の閃光となって周囲一帯ごと異形の群れを薙ぎ払った。

 巨人族の時同様、爆発的に燃え広がる黒炎によって異形達は壊滅的な被害を受けて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うしかない。

 追撃を放とうと構えるカラミットだが突然、巨龍とは違う龍の咆哮が上空から響いた。

 

「GEEEEEEYAAAAAAAAAaaaaaa!!!」

 

「ッ………!」

 

 2人が振り返ったその瞬間。驚異的な速度で上空から突撃してきた白い双頭の怪龍がカラミットの右腕に喰らい付き、そのままの勢いで戦場とは逆方向に飛び去って行く。

 その様をただ見ていることしかできなかった黒ウサギは狼狽したように声を上げた。

 

「なっ、い、今の龍は、まさかそんな………!?」

 

 彼女は今の怪龍を知っている。あの男が何者なのかは結局分からなかったが、あの怪龍は神霊に匹敵する程の力を有した極めて危険な存在だ。先手を食らった以上どれ程の勝機があるかは分からない。

 黒ウサギが持ち場を離れるにもリスクがある。助けに行くべきか迷っていると再び上空から巨大火球が降り注ぎ、新たな混沌の魔物が次々と姿を現した。中には巨人族並みの巨体を有する多数の百足が融合した龍のような個体も居る。

 巨人族はペストだけで十分だが、それでも多少の討ち漏らしがある。あの異形の群れの相手をするには此方の頭数が足りていない。戦況が悪化していく中で黒ウサギは最善手を探り、情報収集のために忙しなく動かしていたウサ耳が―――すぐ近くから響く風切り音を拾った。

 死の危険を感じ取り即座に金剛杵から神雷を放って横に転がる。黒ウサギ目掛けて放たれた投擲用ナイフはすんでの所で彼女に刺さることなく叩き落された。

 

(危なかったのです。あの至近距離までまるで気づけなかった。一体何処から………?)

 

 黒ウサギは叩き落したナイフを見た後自身の索敵能力をフル稼働させて周囲を探り、

 

「へえ。流石は〝箱庭の貴族〟です。感心しちゃいました」

 

 背後から幼くも風鈴のように涼やかな声が響き、黒ウサギは即座に距離を取りながら金剛杵を構える。が、声の主は()()()()()()()()()()()()()()

 

(速い!? この少女は一体)

 

 油断などしていなかったにも拘らず容易く距離を詰めてきた声の主。長い黒髪に黒いノースリーブのワンピース、腰に着けた革のベルトに何本もの短刀を備えた少女。一見愛らしいただの少女だが、先程攻撃してきたのはこの少女で間違いないだろう。

 もう一度距離を取りつつ金剛杵を構え、黒ウサギは少女の一挙一動を警戒しながら端的に問う。

 

「………貴女は、我々の敵ですね?」

 

「うん、そうだよ」

 

 眩しいほどの笑顔で答える黒髪の少女。

 黒ウサギは間髪入れずに神雷の槍を少女へと放つ。水分を大量に含む水樹の葉が燃え上がる程の火力で攻撃した黒ウサギだが、次の瞬間には8本の投擲用ナイフが薄皮一枚の所まで迫っていた。

 有り得ないものを見るかのように黒ウサギは瞳を見開き、再び神雷を放出してナイフを叩き落す。それでも胸元と脇腹の2本は皮一枚なぞらせるように避けるしかなかった。

 

(後ろを取られただけでなく、〝疑似神格・金剛杵〟の稲妻にも耐え………黒ウサギに一太刀入れるなんて………!?)

 

 極めて突飛な能力を前に背筋に冷や汗を掻く黒ウサギと、それとは対照的に瞳を輝かせ感嘆の眼差しを送る少女。

 黒ウサギは慎重に間合いを測りながら少女を睨む。

 

「随分と突拍子もないギフトです。先程からどのような手品を使っているのですか?」

 

「秘密。でもウサギさんは可愛いから、正解を言い当てられたら答えます! ちなみに、私の仕事はウサギさんの足止めです。〝バロールの死眼〟を撃ち抜かれたら困るもの」

 

 少女がそう告げた直後、南東の平野からまるで巨躯の赤子が徘徊するかのような低い地響きが響いた。

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟北西の樹海。

 双頭の怪龍に噛み付かれたまま戦場から引き離されたカラミットは、されるがままに巨大な樹海の中へと突っ込んでいった。

 地面を削り取りながらカラミットを引き摺り回し、怪龍はそのまま腕を食い千切ろうとするが………まるで歯が立たない。

 その様をカラミットはつまらなそうに見つめ、

 

「どうした? ()()()()()()()

 

 そう言い放った瞬間に腕に喰い付いている怪龍の左の頭を蹴り上げた。下顎を砕かれた怪龍は悲鳴を上げ、口内では牙が折り砕かれる音が響く。

 思わず腕を放してしまった怪龍は追撃の蹴りを受け、樹々を薙ぎ倒しながら常軌を逸した速度で蹴り飛ばされていった。

 その隙にカラミットは服に付いた汚れを払い、ゴキリと首を鳴らす。

 

「拝火の魔王の分身体まで出てくるとはな。仕掛け人は思ったより強大らしい。一体何処の神群が裏で糸を引いているのやら」

 

 いきなり失礼極まりない発言を放ちながら無造作に怪龍へと近づいていく。

 一方で顎と牙を砕かれた怪龍は血を流し、その血から無数の一頭の怪龍や蛇蝎の魔獣を生み出していた。

 

「しかし何だ。今の俺など所詮〝神殺し〟としての力を封じられた残り滓でしかないが、たかが分身体1匹で俺を仕留めようなどとは。随分と舐められたものだな――――――!!!」

 

 瞬間、カラミットの身体が形を変えていく。巨大化しながら全身が黒曜の鱗に覆われて巨大な翼と長大な尾が現れ、頭部も龍のそれとなる。橙の右眼は額へと移動し今まで以上の輝きを放っていた。

 人化を解き、本来の姿である単眼の黒龍となったカラミットは喉を鳴らしながら翼を広げて軽く羽ばたかせる。それだけで大気は軋みを上げ、暴風となって樹海の大樹を根こそぎ薙ぎ倒していく。

 自ら動こうとはせず怪龍の出方を待つカラミット。対する怪龍は紅玉の瞳を血走らせ、咆哮を上げながら生み出した魔獣と共に突撃した。己の数倍の巨体が相手だろうと構いはしない。この怪龍に後退の二文字など存在しない。あるのは目の前の獲物を屠るという衝動だけだ。

 

「―――GEEEEEYAAAAAAaaaaaa!!!」

 

 戦術も何もない愚直な突撃。それに失笑で返したカラミットは己の長大な尾を横薙ぎに振るった。無造作に放たれたそれは圧と衝撃だけで甚大な破壊を生み、大地を削り大樹を塵へと変えながら怪龍に迫る。

 即座に翼を広げて空へと飛び上がった怪龍だが、放たれた尾の衝撃は化生の群れを消し飛ばし10キロ以上先にある丘陵3つを跡形もなく粉砕する。

 怪龍が次の行動に移ろうとしたその刹那、橙の光が一帯を満たし天地を揺るがす咆哮が響いた。

 

「GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」

 

 空間が歪み、大地が砕ける。カラミットの雄叫びに応えるように砕かれた大地は物理法則を無視して宙へと浮き上がり、幾百もの巨大な岩槍を造り上げた。カラミットの周囲に浮かぶ夥しい数の岩槍は〝災厄の威光〟を受け、その一つ一つが山河を砕いて余りある〝天災〟に匹敵する力を秘めている。

 直撃は撃滅必至だが、怪龍は臆さない。驚異的な速度で岩槍が撃ち出されると同時にカラミット目掛けて空を疾走する。

 針の穴を通すかの如き精密さで岩槍の隙間を縫い、怪龍は瞬く間にカラミットの眼前に姿を現した。

 

「GEEEEEYAAAAAAaaaaaa!!!」

 

 まさかあれを突破してくるとは思わなかっただろうか。カラミットは動かない。

 勝利の雄叫びを上げた怪龍は〝災厄(カラミット)の瞳〟目掛けて凶爪を振り下ろした。

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟南の荒野。

 黒炎と大火球によって焦土と化した戦場で、ディーンを従えた飛鳥は〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟の幻獣達と共に防衛線を敷いていた。

 

()()()()()()!」

 

 言霊と共に黄金の弓に番えた銀の矢を天へと放つ。飛鳥の〝威光〟を受けた矢は命じられるままに分裂し、百以上の混沌の魔物を貫き一撃で死に至らしめた。

 しかし飛鳥の殲滅速度を上回る勢いで異形の群れは進軍を続け、幻獣達が何とか食い止めているのが現状だ。応急修理を施された大型バリスタ二機の火力も合わせてかろうじて均衡を保っている。

 飛鳥はギフトカードから次の矢を取り出し心の中で歯噛みした。

 

(………残り6本。十六夜君達は何をやっているの………!?)

 

 次々と大火球を落としてくる空中城塞を睨む。城塞との位置関係の問題で大樹の上に直接落とされる心配はないが、何分敵の戦力投入速度が異常に過ぎる。幾ら仕留めようとあっという間に補充されて切りがない。

 もしも飛鳥の矢が尽きれば防衛線は瞬く間に突破されるだろう。巨人や異形の群れを一撃で焼き払った黒炎の援護も何故か来ない以上、もう一刻の猶予もない。

 十六夜達が空中城塞に乗り込めば状況も好転すると信じて耐えるが、そこに10mを超える百足龍が飛鳥目掛けて一直線に襲い掛かってきた。

 

「KEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!」

 

 奇怪かつ不快な甲高い雄叫びを上げて襲い掛かる百足の魔物。複数の巨大な百足を繋ぎ合わせたかのような外見は生理的嫌悪感を招き、この異形の生命の異質さを際立させている。

 飛鳥は顔を顰め耳を押さえながらディーンに向けて一喝した。

 

「潰しなさい、ディーン!」

 

「DEEEEEEeeeeEEEEEEN!!!」

 

 打ち出される鉄の巨腕。ディーンの拳は百足龍の胴体を容易く打ち砕き、その先に居る他の異形も諸共に粉砕する。

 しかし直撃を免れた数体の百足が腕を伝って全身に巻き付きディーンを拘束する。百足の異形はそのまま巨大な顎で飛鳥を噛み砕こうと襲い掛かった。

 弓では間に合わない。飛鳥は咄嗟にサラから渡された紅の籠手を構えるが、彼女が炎を放つ前に閃光の如く放たれた矢が百足の頭蓋を貫く。

 即死だったのだろう、矢に射られた百足は途端にディーンから剥がれ落ちた。絡み付いていた残りの百足も強引に引き千切られて投げ飛ばされる。

 一体誰がと首を傾げる飛鳥に、頭上から声が掛かった。

 

「飛鳥、無事か!?」

 

「サラじゃない! もう帰ってきたの!?」

 

 降下してきた声の主、サラ=ドルトレイクは飛鳥の疑問に申し訳なさそうに顔を伏せた。

 

「すまない。私達攻略組は空に現れた魔王によって退却を余儀なくされた。今はあの少年………十六夜とグリーが残って戦っている」

 

「そう。でも十六夜君なら大丈夫よ。サラもこっちを手伝ってくれる?」

 

 惨敗してきたにも拘らず、飛鳥はあっさりとした様子でサラに共闘を申し込む。

 約束を守れず挙げ句彼女の同士を置き去りにしてきたのだ。罵倒の一つも覚悟していたサラだが、予想外の言葉に拍子抜けしつつも更に申し訳ない様子で問い返した。

 

「………怒っていないのか? あんな事を言っておいて彼まで置き去りにしてきたんだぞ」

 

「そうは言っても、相手は十六夜君でしょう? なら問題ないわ。どうせ『俺が残るから、お前ら全員帰れ!』とか何とか偉そうに言ったに決まってるもの。―――()()()()()()!」

 

 フン、と不機嫌そうに返して矢を放つ。一瞬で多数の異形を屠り一時的に敵の進軍を止めたが、またすぐに劣勢になるだろう。

 サラは降り注ぐ銀の矢の雨に舌を巻きつつ、苦笑と少しばかりの皮肉で返した。

 

「彼を、信頼しているのだな」

 

「ギフトゲームだけならね。それより次が来るわ、サラは指揮を」

 

「ああ、分かっている」

 

 飛鳥と別れたサラは防衛線を敷く〝龍角を持つ鷲獅子〟の面々と合流する。

 いよいよ追い詰められつつある飛鳥は次の矢を取り出しながら、もう一度空中城塞を睨んだ。

 

 

 




 大変申し訳ありませんでした。そして愛想尽かさずにまた読んでくださってありがとうございます。
 書こう書こうと思いつつ気づけば3カ月が経過していた恐怖。人はこうやって失踪していくのだなと実感します。
 そして戦闘シーン本当に苦手だなと思いますが、そもそも文章を書くこと自体苦手ですけど。
 多分カラミットについて皆さんツッコミたいと思いますが、一応私なりに設定はしてあります。納得してもらえるかはともかく。
 ちなみにこの放置していた三カ月でダクソ側の考察が更新されまして、この二次創作の設定も少し弄繰り回したりしました。具体的にはグウィンとシース様が少し白くなりました。
 次回か次々回で弥白の答え合わせ回の予定なんですが、頑張ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。