Untold Myth   作:トラロック

10 / 49
#1-07 冒険者依頼

 

 【ヘスティア・ファミリア】の唯一の団員『ポラン・ブーニディッカ』は期待のルーキーであり【ロキ・ファミリア】の秘蔵の団員『アイズ・ヴァレンシュタイン』と臨時のパーティを組んで数週間が過ぎた。

 パーティといってもアイズはポランの戦いを眺めるばかり。彼女が苦境に立たされる時だけ手助けをする程度。

 ダンジョン以外では仲睦まじい女友達として過ごしていた。傍目にはそちらがメインのように見えるほど。

 

「……随分と【ステイタス】が……伸びてきたと思うんだけど、……まだ六階層より下には行けないんだよね?」

「アドバイザーさんからはまだ難しいと……」

 

 ポランはアイズとパーティを組んでいるとしても戦いは殆ど単独(ソロ)である。

 下層に現れる大量のモンスターの対処がポランには難しいと判断されていた。

 問題となるモンスターの名は『キラーアント』という大きな蟻。討伐に手間取ると仲間呼ぶフェロモンを撒き散らす。

 冒険者の間では『新米殺し』と呼ばれている。ポランの手持ち武器では硬い外殻に有効打は与えられず、大変梃子摺(てこず)る事請け合いである。しかし、アイズにかかれば息を吹きかけるだけで散ってしまう儚い存在と化す。

 実際には息ではなく風の付与魔法による攻撃だが。

 

「……もう少し上のランクの武器であれば……ポランでも大丈夫だと……。堅実な戦い方をするのであれば……、やっぱり【ランクアップ】は必要だよ」

「……やっぱり。今のままモンスターを倒してお金を貯める方向でいった方がいいかな?」

「……堅実な戦い方なら。でも、それだと【ランクアップ】は難しいよ。……冒険者ならより強い敵に挑まないと……。堅実なだけでは壁は越えられない」

 

 無理に【ランクアップ】しなくても資金稼ぎだけなら今のままでもいい。それはそれでポランの冒険だ。アイズが口を出す謂れは無い。

 けれども、折角出来た供だ。より高みに至ってほしいという思いがある。だからといって強敵の中に放り込むわけにはいかない。

 

「……ポランは既に六層の強敵と言われている……『ウォーシャドウ』は倒せているんだよね?」

「うん」

 

 ひ弱そうに見えても確実に強くなっている。

 今のポランの【ステイタス】はキラーアントとの戦闘にも差しさわりが無いほど。けれども数の暴力に(まさ)るかと問われればアイズとて首を傾げる。

 今日まで培った【ステイタス】は力が七百を超えていて、他が五百に差し掛かるほど。

 資金難の為に防御が薄く感じられ、無茶な挑戦が出来ない。

 

(……上層のモンスターを倒し続けてこの数値……。……それはとても凄い事だとフィンやリヴェリアが言っていた。強いモンスターを倒しているわけじゃない。……この子の強みは……別にある)

 

 数値そのものは大したことが無い。けれどもポランにはアイズには無い才能のようなものがあると思っている。

 技術も特別なスキルも発現していない。それでも――

 

 モンスターを倒した分だけ【ステイタス】が上がり続けている。

 

 微々たる数値と侮れないレベルに来ている。

 レベルがまだ1であるからこそなのか、それとも永続なのか。アイズには分からなかったけれど。だが、【ランクアップ】してもこの現象が続くのであれば脅威だ。

 敵として、ではなく冒険者として非常に興味深い。

 

        

 

 黙って眺めているのも退屈なのでアイズも戦闘することにした。元よりモンスターを眺めるだけで帰る気は無かった。

 ポランには荷が重い七階層に降り、目に付くモンスターは手当たり次第に狩っていく。

 落ちたドロップアイテムはポランが回収する。もちろん、数を減らした後でモンスター討伐を手伝うことも忘れない。

 今は臨時とはいえ背中を預け合うパーティなのだから。

 せっせと魔石を拾い集めるポランを眺めつつ新たなモンスターの誕生が無いか警戒する。それは普段から【ロキ・ファミリア】でやってきたことの延長でもあるので、それほど苦痛とは思わなかった。

 寧ろ、当たり前のことを当たり前の事として出来ている事に驚きを感じる。

 

(……近い歳の人と冒険するの……初めてかも。……しかも自分より弱い。他の団員と何が……違うんだろう)

 

 少し間延びした喋り方をするアイズは内なる声も似たような有様だ。だが、高速戦闘時はもう少し早口になれる。

 体感時間的な理由でもあるのか、自分でももっとはっきり喋りたいなとは思った。

 

(……ポランも似たようなものみたいだけど……。ちゃんと聞き取れているのかな? 会話は特に何も指摘されてないけど……)

 

 戦闘に際して文句を聞いた覚えが無い。

 リヴェリアからもう少し大きな声で話せ、といつも言われていたが中々それが出来ないので苦労している。

 意識すると上手く喋れない。自分は黙って戦闘している方が楽だ。

 そうは思ってもやはり格下の相手をいずれは教育する立場になる。その時、相手との会話が出来ないとパーティは成り立たない。

 

「……全部拾い終わりました」

「……ん。じゃあ……次……。そうじゃないね。……私の声ってちゃんと届いてる?」

「はい」

「……こういう広い空間とか……、いくつもの坑道のある場所だと……声が吸い込まれるものだけど……。声がちゃんと届かないと駄目だよね」

 

 アイズは懸命に声を出した。

 ベート達と違って普段から叫ぶ事はしないので自然と今の控えめな声になっている。それが小さな声だと言われているのだが、直した方がいいのか、改善の方向で発声練習をした方がいいのか迷っていた。

 戦闘以外の事は全然頭に無かった。料理も手伝ったことが無いから――多分――苦手だと思う、とアイズは思う。

 

「モンスターが多い場所で大声は不味いかもしれません」

 

 赤毛のポランの言葉に納得するアイズ。

 他の冒険者が居るならば助けを呼ぶ時にありがたい事もある。けれど、単身だとモンスターを引き寄せる事になる可能性があるので余程の事が無い限りは無駄話は控えた方がいい、という考えもある。

 連携と言う意味では完全な無口では駄目なのだが――

 

「たくさんモンスターを生み出すダンジョンは限界って無いんでしょうか?」

「ん? モンスターの限界?」

 

 ふとポランはそう言った。

 モンスターは全て倒すと決めているアイズにとっては思いもよらない言葉だった。

 そもそもでいえばモンスターが憎い事はダンジョンが難い事と同義である。だが、アイズ個人はダンジョンが憎いという意識は無い。ただただモンスターを殺す。それだけを思って戦ってきた。

 

「例えば魔石……。これ、いくらでも出てきますよね? 事前に掘り出せばモンスターは出ないのでは?」

「……ああ。いや……、魔石は掘り出せないみたい。……その代わり珍しい鉱石は掘り出せるらしいよ。希少金属とか」

 

 モンスターになる前の魔石そのものを掘り出す。

 そんなことは思いもよらなかった。後でリヴェリア達に尋ねてみようと思った。

 

「魔石を先に取れるとして……。それだと【ステイタス】は増えないと思う。君はモンスターを倒さないと駄目、なんだから」

「……そうでしたね。でも、モンスターを安全に倒すより魔石を効率的に回収できる方が冒険者としては……。ああ……、下層に居る強いモンスターと戦えなくなりますか……」

「そうだよ」

 

 面白い発想だとアイズは思い、苦笑する。

 ダンジョンは単なるアイテム回収をする場所ではない。凶悪なモンスターを倒す目的がある。

 下層に行けば行くほど強く、狡賢(ずるがしこ)く、命の危険を犯す。

 それらに挑戦するのが命知らずの冒険者だ。

 未知のアイテム。名声。アイズのような私怨も含まれる。中には単なる自身の増強というのも――

 ポランは建設的な人間(ヒューマン)だ。無理をしない戦い方を良しとする。

 臆病という訳でもない。多少の危険は理解した上で挑戦することも良しとしている。そうでなければアイズが下層に行くことを許さない筈だ。そちらは危険だから行くのをやるようと――

 

        

 

 新たなモンスターの大群に襲われる前に地上に引き返すことをアイズは決定する。

 本来はもっと下に行くところだが、ポランの安全を考えれば今の階層が限界である。そして、ポランも同意した。

 地上に帰り、回収したアイテム類を換金した後で分け前を配分する。完全にポランに譲渡するより強者の報酬を多くした方が今後の付き合いにおいて面倒が少なくなる、という事をフィンから聞いていたので実践する。

 とはいえ、上層の報酬はアイズにとって微々たる額だ。全て渡してしまってもいいくらいに。

 

「……普通だと私が25000ヴァリスで……、ポランが4500ヴァリスになるけど……」

「それで構いません」

「……うーん。……うー? ……えと、こんなに細かい額で分けるのに……慣れてなくて。100万ヴァリス以上ならちゃんと分けるけど、これだと……。申し訳ない気持ちになる……」

 

 【ロキ・ファミリア】としての報酬としては低価格帯だ。冒険者依頼(クエスト)でも受けないレベルである。

 かといって全部上げるとは言えない。【ファミリア】として最低限度の維持や矜持を持たなければならないので。

 

「もし、【ランクアップ】したら15000ヴァリスになるよ。今のパーティは君との触れ合いみたいなものだから……。装備品を新調したいなら協力は惜しまない」

「堅実な冒険じゃないと神様が心配するので。少しずつ強くなっているとはいえ、私は無理は良くないと考えています」

 

 今ほどポランが(まぶ)しく見えたことは無い。ついあまりの神々しさに目元を覆う仕草を見せるアイズ。

 荒々しくモンスターを倒してきた自分が惨めに思うほど。

 なんて真っすぐで実直な人間(ヒューマン)なんだと驚いた。いや、これは自分も見習うべきか、それとも生意気な奴だとベートのように言い返すべきか。

 迷いつつも報酬を当初の予定通りに分け、ドロップアイテムの一部はポランに譲渡する。これはアイズにとって必要なものだと思わなかった部分なので。

 分け終わった後は帰宅するか、商店街の見物。武具に関して、当分行く予定は無い。

 

「……いくつか食料を買い込んでから回復薬(ポーション)の値段の確認をしようかと」

「……じゃあ【ディアンケヒト・ファミリア】? それとも【ミアハ・ファミリア】?」

 

 冒険者に必要な回復薬(ポーション)などのアイテムは上記の【ファミリア】での購入が一般的だ。前者は値段が高めでアイズのような第二級冒険者達が利用し、後者は貧乏なポラン達のような駆け出しが主に利用する。

 商業系もランク分けされおり、名声が高いほど品物も高い。そして、質も同様。

 アイズは【ディアンケヒト・ファミリア】をよく利用するお得意様だ。だからといって他の店に行ってはならない規則は無い。

 

        

 

 ポランは神ヘスティアとも知己である【ミアハ・ファミリア】の店の向かうことにした。どの道、今の彼女に高い型物は出来ない。

 アイズも神ロキに指定された店以外に行ってはならないとは言われていないので同意を示す。

 (くだん)の【ファミリア】が経営する店の名は『青の薬舗』という。

 店員は団員一名。

 ポラン達が店に入ると棚に陳列された回復薬(ポーション)が目に入った。

 多くは試験管のようなもので、色や味によって効能が変わる。これらは様々な素材を調合して作られる。

 作るのは団員の仕事で、神ミアハも製作に携わっている。これらのアイテムは神だけが製作できる特権という訳ではない。

 

「いらっしゃい」

 

 団員兼店員でもある人物は女性。頭に犬耳がある亜人種(デミ・ヒューマン)犬人(シアンスロープ)』だった。

 歳の頃は十代後半。薄茶色の髪の毛に眠そうな表情を見せている。

 間延びした喋り方をする彼女の名前は『ナァーザ・エリスイス』という。

 

「……ああ。【剣姫】……。大手【ファミリア】がうちに来るなんて……、どういう風の吹き回しかな?」

彼女(ポラン)の……付き添いです」

 

 大手【ファミリア】に対して警戒感を(あらわ)にされたことでアイズは緊張する。

 弱小【ファミリア】は大手によく嫌味や馬鹿にされることが多い。ナァーザの態度もそれにちなんだものであった。だからといって門前払いする程沸点は低くない。

 

(ロキからこの【ファミリア】のこと、聞いておけば……良かったかな)

 

 全く事前情報が無かったのでロキとの仲がとれほどのものなのか――

 眉根を寄せられたが、アイズに対してそれ以上の小言は出てこなかった。それとポランは店員の態度を無視して商品を物色していた。

 お得意様であればアイズとてポランのような態度になる。ただ、初めての店にはいくらか苦手意識があるようだ。

 商品である回復薬(ポーション)は体力を回復させるものの他に魔法に必要な精神力(マインド)の回復も出来るものがある。

 ナァーザの店にあるものは格安かもしれない。けれども製作が難しい回復薬(ポーション)はそれなりに高額になる。これは別に値段を不当に釣り上げているからではない――一部はそんなこともあるけれど。

 素材入手の難易度によって値段はある程度決まり、市場価格帯というものがあって値段が決められていく。

 冒険者が購入するアイテムの多くは変動相場制だ。

 

        

 

 ポランは体力回復の回復薬(ポーション)を二本購入する事にした。値段は一本2000ヴァリス。今日の稼ぎが無くなるほど。

 回復薬(ポーション)の試験管には栓がしてあり、長期保存を可能とする。()()質の悪いものでもないかぎり何年経っても劣化することは無い。ただし、味は保証しない。

 

「そうだ……。【剣姫】が居るから……。ねえ、冒険者依頼(クエスト)を頼まれてくれない?」

「……冒険者依頼(クエスト)?」

「うちの様な貧乏【ファミリア】で……悪いんだけどさ。今、開発中のアイテムの素材が足りない……、というか手に入らないんだ。地上でも探しているんだけど……、やっぱりダンジョンで探した方が早いかと思って」

 

 店の奥にいったん引き返し、ナァーザは色々と必要な品物が書かれた紙を持ってきた。

 店員が冒険者に仕事を依頼することもままある。

 正式な依頼は冒険者ギルドに提出するものだが、冒険者と直接契約する場合もある。余程キナ臭いものでもないかぎり、この手の交渉事に罰則は無い。

 

「色々と情報を集めた結果……。二十階層くらい潜らないと駄目みたいなんだけど……」

「……私個人は……十七階層までしか潜れない。遠征はしばらく先だから」

 

 思っていたのと違う、とナァーザはがっかりした顔になった。

 他の団員に頼むことは出来るかもしれない、と伝えて機嫌を直してもらうことにした。

 

単身(ソロ)で中層域に行けなんて……、いくら私でも無茶だと思ってるけど……。はぁー、残念だ。ちなみに報酬はうちの商品。大手に払える程の余裕が無くてね」

 

 ため息を履きつつポランから受け取ったヴァリス金貨を数え始める。

 仕事は仕事として割り切っているようで商魂たくましいとアイズは苦笑した。

 ナァーザが欲しているのは鉱石とダンジョン内に湧き出る泉や植物類だ。それと数は少ないがレアモンスターのドロップも混じっている。

 攻略可能階層のアイテムならば引き受けてもいいと言うとナァーザは抑揚のない表情などで喜びを表した。

 アイズにとってはダンジョン攻略が出来るのであれば文句は無い。

 

「十七階層でも手に入るものであれば持ってきて。期限は特に決まってないけれど……」

「……明日からでよければ」

 

 ナァーザはカウンターの裏で握り拳に力を籠め、少しだけ喜んだ。

 相手は知名度が高い【剣姫】である。依頼の達成率も他の冒険者よりも高く、信用もある。そんな人物と知り合えただけでも充分すぎるほどの益だ。喜ばない筈は無い。

 

        

 

 必要な書類を受け取ったアイズは買い物を済ませたポランと共に店を出る。

 臨時とはいえパーティを組むことになったが、ダンジョンに潜れさえすればいいという安直な感想から少しずつ誰かの役に立つ仕事へ意識が向き始めた。

 モンスターを闇雲に倒すだけの日常は忘れてはいけないと思いつつも、冒険者としての仕事もこなさなければならない。

 次の日、ポランは主神と共に本拠(ホーム)の掃除や食事に買い物でダンジョン攻略を休む事になった。

 暇になったアイズはナァーザの依頼をこなすため、仲間を募る。

 

「……冒険者依頼(クエスト)か……。しかも二十階層……」

 

 怒られるような案件とは思わなかったので幹部達により深い階層攻略が出来ないか打診していた。

 勝手に深い階層に潜らない事を守っていたが依頼となると少し毛色が変わる。

 要望された素材のリストを眺めていたリヴェリアは安全度を模索する。

 

(……大人しくしていると思ったら……。いやしかし……、仲間を募ろうという考えから冷静さを……)

(アイズが冒険者依頼(クエスト)をねー……。ただの戦闘狂というわけじゃないようで安心したよ)

 

 金髪で人間(ヒューマン)の少年と見紛う小人族(パルゥム)の『フィン・ディムナ』は事の成り行きを微笑みながら見据えた。

 ここしばらく女の子らしい生活を続けてきたので、話によっては制限を緩くしようかな、と。しかし、それを簡単に許さないのが彼女(アイズ)の教育係を自称する王族(ハイエルフ)『リヴェリア・リヨス・アールヴ』だ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。