Untold Myth   作:トラロック

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#1-10 面白い発想

 

 下層に行けば行くほど危険度が増し、安全志向の冒険者と十八階層に用のある冒険者などに分かれていくため、滞在者の人数は目に見えて減っていく。

 それと駆け出しでは討伐困難な『ミノタウロス』が現れるのも原因の一つである。

 迷宮都市オラリオに冒険者として登録している多くの駆け出しはかのモンスター(ミノタウロス)を倒せるかどうかで今後の人生が分かれる傾向にあった。もちろん、その前に出現する『キラーアント』や『ヘルハウンド』も難敵ではあるが――

 楽して深く潜れる場所ではない事は周知の事実だ。

 そう――

 

 【ランクアップ】した冒険者でもない限り。

 

 大きな混乱もケガ人も出さずに七階層目に到達したアイズ達は軽い小休止に入る。

 普段の【ロキ・ファミリア】であれば上層で休む事は殆どない。大抵は十八階層の『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』――

 

「……ろくな会話も無しに来たが……。お前達はいつもこんな調子か?」

 

 アイズの保護者を自認する王族(ハイエルフ)『リヴェリア・リヨス・アールヴ』が尋ねてきた。

 碧玉の宝石のような瞳。それと同じ色合いの長い髪の毛の手入れをしつつ。

 

「……お喋りしながらダンジョン攻略はしないよ?」

「そういう意味ではないのだが……」

 

 楽しく子供らしい会話を交わしながら――とは流石にリヴェリアも思っていない。

 あまりにも不謹慎だ。

 

「モンスターの出現が一段落した後は好きな食べ物とか必要なアイテムの事とか話ます」

 

 と、赤毛の駆け出し冒険者『ポラン・ブーニディッカ』は言った。

 こういう答えを期待していた、と言わんばかりに満足する王族(ハイエルフ)

 

        

 

 ポランを休ませ、新たなモンスターの出現については荷物持ちのメンバーに任せた。彼らにもモンスター討伐を経験させる目的があったからだ。

 荷物持ちとはいえ戦えないわけではない。

 彼らが戦っている間、リヴェリアとアイズは慣れた様子で軽い食事の用意を整える。

 傍目から見れば危機意識の薄いパーティだ。しかし、中身は熟練しているので異常事態(イレギュラー)でも起こらない限り手を貸す予定は無い。

 

「……しかし。以前の説教の後、君はよく冒険者を続けられたな」

 

 少し強く叩いた事を気にしていたリヴェリア。

 もう少し強ければ脳挫傷になっていたと治療を担当した者に言われて慌てた事を思い出す。

 それと直接は見ていないがポランの背中は傷だらけで【ステイタス】を見るのに困難な状態だとか。――これは【神聖文字(ヒエログリフ)】を読む神にとってはあまり関係が無い――

 

「……生活しなければなりませんから」

「……そう言われると言葉も無い」

 

 冒険者は様々な理由でダンジョンに潜る。

 アイズのようにモンスターに憎しみを持つ者や名声を得たい者。単なる強さを追い求める者。ダンジョンでしか手に入らないアイテムなど。

 その中に生活の為である者も居ないわけではない。

 

「前回はアイズに(そそのか)されたようだが、今も上層で頑張っていると聞いて正直……安心した」

「ありがとうございます」

 

 ポランは世間一般の知識を持っていないのか、リヴェリアに話しかけられることがどれほどの事なのか分かっていない様子だった。

 待機しているメンバーが慌てていたが、それらはリヴェリアが制して黙らせている。

 気兼ねなく話せる相手と言うのは彼女(リヴェリア)にとっても貴重な存在だ。本拠(ホーム)ではアイズ達四人の他には幹部達と神ロキくらいだ。

 神々しい存在のように思われず、対等な冒険者として触れ合えることに気を良くする。

 

「【ランクアップ】を控えているのだったな」

 

 通常はよその【ファミリア】に情報を教えないのが冒険者の暗黙の規則(ルール)となっている。しかし、アイズから聞いてしまったものだから尋ねないわけにはいかない。

 それにしてもアイズは平然と相手の事を尋ねているようで困った娘だ、と内心では呆れていた。

 素直に教えるポランにも問題があるのかもしれないが、嫌いではないと今は思う。

 

「そのようです」

「ダンジョン攻略において君は……何か目的でもあるのか? それとも生活の為に潜り続けるのか?」

「今は生活の為ですね。深い階層は今のところ考えていません」

 

 モンスターをしっかり倒すためには【ステイタス】を伸ばすしか方法が無い。それ以外での増強は神の知識には無いらしい。あったとしても非合法にあたる筈だから正攻法しか冒険者には道が無い。

 他人を貶める行為などが該当するのだが、それは今は関係が無いので――リヴェリアは――黙っている事にした。

 

        

 

 発生したモンスターを討伐し終えたメンバーがアイズ達の元にやってきて小休止に入る。

 聞けば聞くほど普通の女の子にしか感じないとリヴェリアは判断した。それでもアイズと共に冒険を続けているのは何か理由でもあるのか、それとも単にアイズの方が彼女を振り回しているのか。

 後者の可能性が高いと感じた。

 ただ、利用しつつ逆に利用されているようにも思われる。事実、ここしばらくアイズは大人しい。それも良い方向に。

 ただ単にモンスターを倒したいだけで深い階層を攻略する事しか考えてこなかった娘が、だ。

 

(彼女の素直さが影響していると見ていいのか。そうであれば良いが……)

 

 ここで変に深読みしたり忠告するのは悪手だとリヴェリアは判断した。

 話題を変えてアイズの言っていた『面白い発想』について聞こうかと思った。

 

「そういえば、以前アイズが聞いたという君の発想について聞かせてくれるか?」

「発想……ですか? どんな事でしたっけ?」

 

 ポランはアイズ顔を向ける。

 自分としては面白いという感覚は無く、普通に思った事を言っただけだったので。

 どんなことが相手の興味をひかせたのか分からなかった。

 

「えっと……。ダンジョンから出てくるモンスターに限界は無いのか……だったと思う」

 

 アイズの言葉にリヴェリアは顎に手を当てる。

 ここは黙って次を促す。

 

「それが面白いかどうかは分かりませんが……。資金稼ぎが目的の冒険者であればモンスターを倒さなくても魔石だけ掘り出せばいい。そんな感じだったと思います」

「……通常はモンスターを倒さなければ……。なるほど、効率的なものか」

 

 発想としては面白い。リヴェリアとてそう思う。しかし、通説においてそれが可能であるとは誰も言えないし、証明もされていない。

 ギルドも――おそらく――そんな方法は不可能だと言う筈だ。

 だが、ポランのような駆け出しからすれば『何故、不可能なのか』が理解できない。

 リヴェリアとて不可能だと言い切れないところがあるので一概に否定できない。

 

(……鉱石が掘り出せるのは分かっている。であれば魔石も、となってもおかしくない)

「……いや、誰かが試して出てこなかった。代わりに出てくるのがモンスターだったから否定された」

 

 効率を考えない冒険者は居ない。

 全ての冒険者が健全ではないのと一緒で、悪事を働く者は必ずと言っていいほどに居るものだ。

 破壊されたダンジョンの構造物が一定時間で元に戻る様子は様々な情報筋からの目撃情報によってもたらされている。

 

「だが、何故無いのか、という理由は解明されていない。それこそがダンジョンの意思とでもいうように……」

 

 階層ごとに決まったモンスターが出るのも分かってはいるが『何故』という部分は不明だ。――もしくは分かっていて秘匿されているか、だ。

 ギルドが冒険者に言えない事の一つや二つあることをリヴェリアは知っている。

 ポランは先ほど自分が回収した魔石を地面に――いくつか――並べた。

 紫色の武骨な宝石の欠片。

 倒したモンスターの身体から採取したり、零れ落ちたりする。

 彼ら(モンスター)の肉体から離したり、破壊すると肉体は黒い霧となって霧散し、残るのは灰だけ。

 たまに一部の部位がドロップアイテムとて落ちる。

 

        

 

 ダンジョンがモンスターを生むのであればポランが地面に置いた魔石を取り込んで再生産するはずだ。だが、そんな現象は今まで一度も確認されていない。

 大部分において放置された魔石のその後は誰も気にも留めていないので確認を怠っている、ともいえる。

 

「ダンジョンが生き物なら魔石を取り返すはずです。そうでなければ何処かに無限に生産する仕組みのようなものが……」

「……仮にあるとしてもレア度を測るギルドの目は欺けまい。そもそもギルドにそんな小手先が通じるとは思えないが……。発想は面白い」

 

 そう言いつつ発言を続けさせた。

 大人が上から押さえつけるように言論を封じると何も発見が無くなってしまう。そう考えた上での行動だ。

 自分でも地面に落ちた魔石をどうして取り込まないのか疑問に思ったのは本当だったから。

 

「……そうか。だから上層で……。いや、たまたまか」

 

 周りに危険が及ばないように安全地帯のような場所で休んだのは自分の考えを実証する為か、と。

 そうでなければ一階層で休む方がより安全だ。そこはどういう理由があるのか、と疑問に思うが――

 ある程度深いところでなければならない理由があると予想したから、だと推測する。

 

「それから……、無限と言いましたが本当にそうなのか疑問です」

 

 命に限りがあるならばダンジョンもまたどこかで制限がかかる筈だ。

 その意見に対し、納得はすぐに出来ても否定する材料がすぐに見つからない。

 荒唐無稽とあざ笑うことも出来る。だが、リヴェリアは拳に力を込めたまま言葉を失う。

 

 ずっと昔から冒険者はモンスターを倒して魔石を手に入れてきた。

 

 その既成概念を歳若い小柄な少女が疑問を抱いている。長く生きるエルフでもないただの人間(ヒューマン)が。

 もちろん、危険な思想であるとも感じられる。根本的にダンジョンを否定するようなことに匹敵するので。だが、それでも好奇心は殺せない。

 

「……もし、私がギルド職員であれば……お前を今すぐ殺しておくべきだと判断してもおかしくはないな」

 

 少女に対して物騒な言葉を吐く王族(ハイエルフ)。すぐさまアイズが剣の(つか)に手をかける。

 真っすぐに碧玉の瞳を若き冒険者に向ける。それに対してポランは状況を理解していないのか、微笑みで返してきた。

 無知は時には大きな力を持つ、と――

 無垢な微笑みを見せられたリヴェリアは薄く苦笑する。

 

「失礼。……だが、既得権益を手放すほどギルドは包容力を持っていない。そこは忘れてくれるな」

「?」

 

 難しい話に対し、首を傾げるポラン。

 理解してもらおうと思っていないので――リヴェリアは――詳しくは説明しなかった。

 

「その……なんだ。ダンジョンから効率的に魔石だけを取り出せたらいいという話にしたいのか?」

「出来れば……。そうすれば安全に仕事が出来ると……」

「甘いな。……それなら冒険者に頼らず自分達で独占する。それが出来ないから危険な仕事を我々冒険者にやらせているんだ」

 

 利益を独占する権利を有しているのがギルドという組織だ。それを態々(わざわざ)手放しているのは何のためか。

 安全を得るためだ、自分達の。

 そう言われたポランは納得して黙った。ただ、言葉による封殺までは考えていなかったので、リヴェリアはすぐに謝罪する。

 安全を考えているところは素直に評価すべきだと判断したから。

 

        

 

 自由な発想は時には強みになる。大人はそれを尊重し、良い方向へ舵取りをすればいい。

 突飛な話だったのでつい説教臭くなってしまったが、と断りを入れるリヴェリア。

 このような発想する眷族は【ロキ・ファミリア】には()()存在しない。だからこそ勿体ないと思った。

 

「魔石はその発想でいいとしてドロップアイテムは流石にどうすることも出来ないだろう?」

 

 モンスターを倒さなければ出せないアイテムであり、魔石とは違いモンスターの部位でもある。

 部位だけダンジョンに埋まっている事はあり得ない。

 

「人工物で代用すればいいのでは?」

 

 そう言われてリヴェリアは絶句する。

 加工品は別にモンスターのドロップアイテムに頼らなければ作れないわけではない。

 素直な意見は時には鋭い武器にもなる、と感じた。

 

「換金品が無いと私達は生活できません。それはどうしても避けられない。他に才能があるわけでもなし……」

「……そうだな。冒険者の仕事があるからこそオラリオは活気づいている。……それだけってことはないけれど」

 

 オラリオの外でも活動している【ファミリア】があり、他の国に交易品を輸入することで利益を得ている。けれどもダンジョンより稼ぎの良い場所は無い。

 危険と隣り合わせであるという事を除けば無くすになくせない仕事ともいえる。

 ――そのような発想をリヴェリアは随分と久しくしていなかった。

 強さや野望にかまけてたくさんの時を失ってしまったと感傷に浸る。ただし、それはほんの一瞬だ。

 気を取り直した後、地面に置いた魔石に顔を向ける。

 今もダンジョンに取り込まれずに転がっていた。

 

「発想の助けになるかは分からないが……。モンスターから(こぼ)れ落ちた魔石はいくら待ってもモンスターにはならない」

「はい」

 

 素直な返事にリヴェリアは満足したのか、笑顔で頷いた。

 魔石は様々な用途に使われる。だからこそ再モンスター化などが起きてはオラリオが危機に立たされてしまうし、それを隠匿するメリットは無い。

 夜中に街中を照らす灯りも魔石を用いたものだ。それとダンジョン内が明るいのも魔石の力によるものだと言われている。

 判明している情報としてモンスターは冒険者を感知した時に現れ、それ以外は何も生まない状態らしい。

 

        

 

 休憩を終えた後、十階層まで降りたポランは戦闘を中止し、荷物運びの手伝いを始めた。

 元々そういう約束だった。

 残りはアイズ達による理不尽な戦力の行使に始終した。

 魔法メインのリヴェリアも杖による物理攻撃だけで厄介なヘルハウンド達を討伐していく。

 第一級冒険者ともなると通常戦闘の常識が通用しなくなる。

 リヴェリアにとってアイズが気にする人間(ヒューマン)の人となりを知ることが出来たので不満は無かった。今後の成長を楽しみにさせてもらおうとさえ思った程だ。

 戦闘をあらかた終えて地上に戻った後、【ロキ・ファミリア】と仲良くするポランが別の冒険者たちに狙われないか心配になってきた。少なくともアイズの教育に必要な人材であるので無くすには惜しいと――

 【ランクアップ】するまでは多少の支援も予定に入れようと考えた。

 

(危険度は高いが……、確かに発想は面白い。安全ではないからこそ冒険者が必要なのだがな……。いや、命を大事にするのは当たり前だ)

 

 冒険者には色々な人種が居ると感心し、彼女が無事に本拠(ホーム)に戻るのを見送った後で自分達も帰宅の途に就いた。

 それから数日後――アイズはポランの様子()()を確認し、次の冒険者依頼(クエスト)を受注した。次なる目的は『毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)』のドロップアイテムだ。

 下層域に生息するモンスターという情報だけで正確さに欠けているが目撃例は多い。

 毒性の強い毒液を吐くがドロップアイテムとしては魅力的なもので、専門店に持ち込めば高値がつく。討伐には入念な下準備が必要でアイズといえどいつもの軽装は許可されなかった。

 

 

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