Untold Myth   作:トラロック

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#1-13 奇麗なダンジョン

 

 【ロキ・ファミリア】の深層域への『遠征』が迫り、彼らの本拠(ホーム)『黄昏の館』では冒険に必要なアイテムの整理や買い出し、武具の整理などで大忙しだった。

 それらは主にレベル2以下のメンバーが担当している。

 今回の探索目標階層は四十五階層より下。

 【ランクアップ】を控えているアイズ達を含むメンバーの実力の底上げが(おも)だ。

 全員が一気に駆け降りると他の【ファミリア】の迷惑になるので中層域まではいくつかのパーティに別れて行動する。

 それらの作業の合間に時間が出来たアイズは『青の薬舗』に顔を出していた。

 研究していた『保存液』の経過を知るためだ。

 

「……売り物にするなら……十五万ヴァリス。これは最初の段階のもの。今は随分と改良が進んで安価になってきた。……それでもまだ七万八千ヴァリス」

 

 濃度調整によって腐敗菌の活動を停止させる事になんとか成功したものの、実用性は未知である。

 取り出した後の薬液の除去方法がまだ解決していなかった。

 単に洗い流せばいいのか、それとも新たに無毒化する薬液の開発をしなければならないのか。

 どちらにせよ。形さえ残っていれば再生自体は可能となる。

 

「最終的には五万ヴァリスが限界かなと……。もちろん、小さな瓶一つで。腕くらいになると十万はどうしても超えてしまう。……ちなみにジジィの店ならこの十倍は吹っ掛けられると思うよ。いや、三十倍くらいいくかも」

 

 高額な万能薬(エリクサー)で五十万ヴァリス。今は遠征の為、割高にされている筈だが――

 かの【ファミリア】で購入するとなると百万ヴァリスを越えても驚かない。

 

毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の解毒薬さえ作れれば無毒化は可能。ただ、それはジジィの【ファミリア】の団員が得意としているから……。同じ商品を創ったら難癖付けられるかも」

 

 先ほどから危機感の欠如した様な間延びした口調で説明するのは犬人(シアンスロープ)の女性店員『ナァーザ・エリスイス』だ。

 カウンターに濃度別の試液を置いてアイズ()に講義しているところだった。

 

        

 

 アイズと同伴しているのは王族(ハイエルフ)の『リヴェリア・リヨス・アールヴ』である。時間的余裕が出来たので、かのアイテムを製作している店員から話を聞こうと足を運んだ。

 いつも冒険者が無秩序に使い捨てにするアイテムを健気に作ってくれる者達を(ねぎら)おうと。

 ただ、いつも懇意にしている【ファミリア】ではないので少しだけ戸惑っていた。

 どうしてこの店にアイズが来ることになったのか、それは単純明快――

 

 ポラン・ブーニディッカがお得意様だから。

 

 だからといって【ロキ・ファミリア】全体で鞍替えする気は無い。

 向こう(ティアンケヒト・ファミリア)で品薄だった場合、こちら(ミアハ・ファミリア)でも融通が利くか知るのに都合が良かっただけだ。

 

「保存液の量はこちらで最初から決めてしまう。だから、解毒に必要な量も勝手にする必要は無い、ようにする予定……です」

「対象はどのくらい期間が開くと駄目になるのかは分かるか?」

「出来れば……その日の内がいい。三日過ぎたら……危険。と予想してい……ます」

 

 高貴なエルフからの問い掛けに思わずどもるナァーザ。

 雰囲気がすでに並みのエルフと違う。

 理由は分からないが、ちゃんと説明しておけば大丈夫だと本能が警告を発していた。

 もし、ナァーザがエルフであればもっと混乱状態に陥り、まともに会話ができるかどうか――

 

「ほぼ密閉状態だから……。本拠(ホーム)に一ヶ月くらい置いても大丈夫。間違っても溶液が減ったからといって水を足したり、取り換えようとしない事。これは回復薬(ポーション)以上に保存できる、筈だから。……効能の問題で一ヶ月くらいかな、と思っただけです。異臭がするようなら効果が切れた、と思っていい。消臭効果も加えているけれど……」

「了解した」

「形だけ残すのであれば一年は放置しても……おそらく大丈夫。完全に骨になっちゃうけど……。ミアハ様が言うには部位……、骨までモンスターに消化されないかぎりは再生の可能性があるそうです。……だから私の腕はもう戻らない」

 

 ナァーザは自身の右腕を撫でた。

 経験者の意見にリヴェリアも真実味を感じた。

 

「……容器は出来るだけ密閉した方がいい。これはあくまで形を残すためのものだから。骨でも平気なら単なる水につけておけばいい。後は自己責任で」

 

 ただの水だと腐敗菌は増殖するばかりか異臭が立ち込める。最悪、骨まで影響を及ぼす可能性もある。

 そうなれば効果の高い万能薬(エリクサー)とてどうしようもなくなる。そればかりか接合の際に本体に多大な悪影響も考えられる。

 

「それでは保存の意味が無いな」

「まだ用途に関して未知だから。理想は完全に腐らないままがいいんだけど」

 

 そこでアイズが手を挙げた。

 今はどんな意見でも有意義だと判断したナァーザが指名する。

 

「……肉まで完全に保存すると……どんな良いことがあるの?」

「安価な回復薬(ポーション)で接合できる、かもしれない。そこまではさすがに理想過ぎるけれど……。肉体としての機能を生かしたまま保存し、万能薬(エリクサー)だけで再生できれば高度な魔法を使える人を探すより希望が大きい」

「……なるほど」

 

 リヴェリアは感心したがアイズ首を傾げた。

 

「……ところで溶液には溶解能力はどのくらいあるんだ?」

「調合の過程でほぼ解消済み。腐敗菌のみ殺す以上は溶けない。だから容器も溶けない。ミアハ様の見立てでは……。肉の部分が溶けているように見えるのは腐敗菌の強さに負けているのと溶液が強すぎる、という二つが考えられる。各個人によって調整を変えられればいいんだけど、それはそれで割高になるし、とても難しいこと」

 

 そうか、と一つリヴェリアは頷く。

 聞いている限り、色々と考えて作られている事が分かった。もちろん、万能な薬品が出来れば苦労はしない。その為の試験段階を何重にも踏むのだから。

 

        

 

 話を聞き終えたリヴェリアはカウンターに置いてある籠に気が付いた。

 そこには丸い透明な瓶がいくつか入っていた。ただ、中身は食べかけの魚の頭部や動物の腐りかけの死体だ。

 それを見た王族(ハイエルフ)はあからさまに顔を(しか)める。

 

「……なんだこれは」

「贈答用の小物。完全密封した保存液の試供品。こうなりますよ、というのを分かりやすく伝えるためのもの。一個三千ヴァリス」

「……なっ!?」

 

 気持ち悪いアイテムで驚いたのか、値段に驚いたのか。

 リヴェリアの眉根は更に険しく寄せられた。

 

「溶解能力があれば一週間くらいで骨も残さず溶け切る。それを個人的に確かめるには打って付け。……研究資金が欲しいので割高はご愛敬」

「……なるほど。商魂たくましいな。(むし)ろ、尊敬に値する」

「あ、もちろん小さなお子さんの口に入れてはいけない。これは食べられません」

 

 大事な事なので、とナァーザは最後に締めくくる。

 横では小さなアイズが『ママ、これ欲しい』とか言いそうな顔で見つめていた。絶対に買いたくない、と無言の意思表示を試みる。

 ただ、個人的に資料として購入するのであれば(やぶさ)かではない。

 

「……制作に問題が無いわけじゃない。特に容器……。大きくて漏れない容器の調達が大変。新規で作ってもらおうとするとどうしても高くつく。かといって木製や金属の樽では……」

「衝撃にも弱いだろうな。……それと中身が見えなくなる……」

 

 リヴェリアの指摘に頷くナァーザ。

 風呂場に使われている『ホーロー』の技術を借りようか検討はしている。

 そうなると必然的に持ち運びが困難になってしまう。適当な容器の内側に耐水性の被膜か何かを張り付けられれば、など色々と模索しているが決定には至っていない。

 何をするにも素材が必要で入手には多額の資金が必要となる。

 

「当面は小型のガラス容器。そうすると腕とか長い部位は細切れにするしかなくなる」

「……それであの値段か……。予想するに相当……勉強した結果……なのだろうな」

 

 その言葉に対してナァーザは口を(つぐ)んだ。

 開発は失敗の連続。そして、多額の投資が必要不可欠。

 毎日の研鑽こそが新しい道への扉である。

 

「最後に……。この溶液の後始末だけど。無毒化した後なら下水に流しても大丈夫。そこはギルドと相談済み」

 

 当初は解毒の魔法などをかけてもらいながら同時進行で解毒薬の制作を始めた。

 最悪、野ざらしにして蒸発させない限り安易に捨てる事が出来ない。

 蒸発した気体は松明の炎に炙らせて(とど)めを刺す。

 後日、狼人(ウェアウルフ)の少年ベート・ローガを伴いリヴェリアは最新の『保存液』を一定量買い求めた。今のところ買い手のつかないアイテムなので品切れの恐れは無かった。

 それと同時に注意事項の書類の束を渡される。

 あの後、頑張って書き留めたらしい。口頭での説明も大変なので、少しでも労力を割く上では同情すら覚える。

 

「モノを入れてから劣化が始まるので注意してください。……多少、手についても大丈夫だけど……。あと……」

「……注意事項が多いな」

 

 それだけ繊細なアイテムだということ。

 人体の再生には余計な雑味が加わると上手くいかない場合がある。酷い似合うのは自分達だからだ。

 零細【ファミリア】とて商品に自信を持って制作している。借金返済に走り回っているナァーザとて適当にすることが出来ない事は理解していた。

 大手【ファミリア】が購入したからとて大量に在庫を抱えているわけではない。

 製作が難しく、扱いも大変。大量の素材を消費する。安く済むのは水くらいだ。

 商売の関係上、不良在庫を抱えるわけにはいかない。

 

        

 

 更に後日、お金を貯めてきた赤毛の少女ポランが『青の薬舗』に訪れた。

 定期的に回復薬(ポーション)を買い求めてくるが今回の目的は『保存液』であった。

 何かしらの不安を抱え、備蓄の一つとして狙っていたものでもある。

 

「より深い階層に挑戦する上で……、何が起きるか分からないので」

「……君の年齢だと相当な覚悟要るよね? 私が言えた義理じゃないけど……、お金の無駄だよ」

 

 十二歳で駆け出しの冒険者が激闘に備える。普通に考えれば異常事態だ。

 その心境に追い込むのがダンジョンの恐ろしさかもしれない。

 ポランとて日々を楽しく過ごせれば文句はない。けれどもモンスターが止め処も無く湧くダンジョンに挑戦していれば自ずと理解してくる。

 今のままでは命が危ないと。

 特にミノタウロスとはいずれ戦わなくてはならない。本当ならパーティを組んで堅実的な戦い方で挑むところ――

 しかし、団員は自分一人だけ。ずっと他の【ファミリア】を頼りにすることは出来ないし、何よりアイズ以外の知り合いが出来なかった。

 ギルドのアドバイザーの協力を()ってしても未だに――

 

「……でも、今日は駄目。充分な量が確保できないから。前金で払ってくれたら【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)に届けてあげる。場所も知ってるし」

「分かりました。いくらですか?」

「……持っている分だけでいい。……もちろん、仕事はちゃんとやるよ。それから……」

 

 カウタンーに重そうなヴァリス金貨が詰まった革袋が置かれている間、ナァーザは商品の棚から何本かの回復薬(ポーション)と状態異常に効くアイテムを取り出した。

 大手【ファミリア】とのパイプを繋いでくれた礼を少し込めて――

 ただ、念のために金貨の枚数は数えておく。

 

「毎度あり。良い冒険を」

「ありがとうございます」

 

 金貨を受け取って何も渡さない、ということはナァーザとてしない。

 機嫌が良い日は特に。そして、仕事を開始する。

 ポランは一気に軽くなったサイフ事情を潤すため、ダンジョンに向かう。

 上層での稼ぎは少ない。武具の調達もそろそろ始めなければならなかった。

 不壊属性(デュランダル)ではない武器は定期的に取り換えなければならない消耗品と同様である。

 下に降りる度に硬い敵が現れやすい。

 整備もタダではない。

 

「『目覚めよ(テンペスト)』」

 

 誰も居ない時にアイズから教わった剣術を披露する。

 切れ味が良くなるわけではないが、戦闘意欲は体感的に良くなった気がする。

 自分は今モンスターと相対しているんだ、という心構えのようなものが。

 

        

 

 資金稼ぎをしていたら二つ目の【ステイタス】が評価S(900)に到達した。だが、やはり実感が無い。

 分かるのは戦闘が楽になってきたことくらいだ。

 

「う~ん。無理して評価をSにしなくても【ランクアップ】の条件はとっくに満たしているわけだし。このままでもいいんじゃないかな」

「そうですか?」

「……問題は【ステイタス】じゃなくて君の仲間だよ。全く集まらない。どいつもこいつも……」

 

 そもそも実績が無い。

 新規の【ファミリア】が名を上げるには相当の努力が必要だ。それには神自身の努力も関係する。

 今まで様々な事にズボラだった弊害が今になって襲ってきている。

 しかし、それもあとわずか。ポランが【ランクアップ】すれば『二つ名』を貰える。そうすれば他の神達にも知れ渡るようになるので知名度も一緒に上がる。

 出来れば変な『二つ名』は付けられたくないが、有名税はいつも高くつくものだ。

 冒険者の『二つ名』は『神会(デナトゥス)』によって決められる。

 三ヶ月に一度、神達による会合で【ランクアップ】した眷族が現れると()()強制参加の資格を得る事が出来る。神ヘスティアの眷族(ポラン)()()【ランクアップ】していないので参加資格の通知は出ていない。元より出たくない、とヘスティアは思っていた。

 

「ボクは君一人を独占したいわけじゃない。多くて困るとも思っていないさ」

 

 眷族の負担を軽減させるには団員を増やすしかない。

 【ステイタス】が限界地に達しようとレベルは1のまま。【ランクアップ】した冒険者とは開きがある。

 

(堅実と言っても変わり映えのしない生活()()をしているわけにはいかない。……それはもう冒険とは呼べない)

 

 生活する為なのは理解している。

 それを悪いとも言えないし、思ってはいけない。けれども――

 それは可能性の放棄ではないか。そう思うヘスティアだった。

 

        

 

 深層域への遠征時期が二ヶ月後に決定した【ロキ・ファミリア】では事前に情報集めと各階層主の討伐メンバーの選定などを会議で決めていく。

 期間を設けておく事で【ファミリア】間での緊張を高め、戦闘に集中してもらうためだ。

 これは彼らに武器やアイテムを提供する【ファミリア】にも伝播し、オラリオ全体が活気づく結果となる。

 鍛冶系の【ファミリア】では団員総出で武器を整備、または新造する。

 そんな中でも多少の息抜きは必要で、アイズ達は街に赴きダンジョンに備える。そんな彼らが利用する飲食店の一つに『豊穣の女主人』という名の酒場がある。

 大柄な女店主が切り盛りする店で荒くれ者も一喝で黙らせる。

 身長は2(メドル)ほどはあろうかという偉丈夫でドワーフの『ミア・グランド』は夜の開店の下準備に大忙しだった。

 普段、日中は店を閉めているので――ポランは知り合い(アイズ)(つて)で紹介してもらった――一部の調理器具などを借りていた。それと余裕がある時は皿洗いぐらいしか出来ないが、手伝いも。

 小さなポランの申し出に対し、他の冒険者なら恐れ(おのの)くミアは快く承諾した。

 素直であれば誰でも優しい面を見せるのだが普段の素行のお陰で怖がられる事が多い。

 

「今日からいくつかの【ファミリア】に貸し切りが決まってる。あんまり遅くまで居るんじゃないよ」

「はい」

 

 素直な返事にミアはニコリと微笑む。その横では恐怖に震える猫人(キャットピープル)の従業員が居た。

 栗色の髪と猫耳に先端が白い太めの尻尾を覗かせる。

 

「……ポランは本当に怖いもの知らずだニャ」

「将来大物になるかもしれませんね」

 

 洗い場の他の従業員が相槌を打つ。

 今日は床掃除の日と決まっていたので早速仕事を始める。

 給金は自給。それと店の食器や火器関係を使わせてもらえる。もちろん、客が来ない間だけ。

 健康的な暮らしを模索していたポランにとって飲食店は格好の仕事場だった。もし、何らかの事情で冒険者家業が出来なくなった時の為に――

 

「稼ぎが良くなったらうち(酒場)で飲み食いしてほしいけど……。少なくとも酒が飲めるくらいには成長してもらわないとね」

 

 いくらミアでも十二歳の少女に酒は勧めない。が、()()()()()()()()()()()()()()()()は忘れていない。

 

        

 

 夕方に差し掛かり、給金を与えた後、ポランに()()()()()食事を振舞うミア。

 地元で採れた野菜と身体に必要なタンパク源たっぷりの料理である。

 小さなポランでも無理なく食べきれる量がドンと置かれた。もちろん、食中りを防止するために火を通した物が――

 

「聞いたよ。【ステイタス】が900を超えたってね。……全く口の軽い連中は噂好きでいけない」

「数字ではそうなってますけど……」

 

 ポラン自身は【ステイタス】を自慢げに話したことは無い。しかし、うっかり喋った【ファミリア】が何処なのかは分かっている。

 酔った勢いであればどうしようもないけれど。

 

「話は変わるけど、色々と備蓄しているようだね。次はどんなものを買う予定だい?」

万能薬(エリクサー)です。それで準備が一先ず終わる予定です」

「……それは例の保存液と一緒の奴かい?」

「大きな戦いを控えている場合、それ相応の準備が必要です。……まして私は単独(ソロ)ですから」

 

 少女の言葉とは思えない大人びた発言にミアは鼻を鳴らす。

 冒険者は多少の勢いがなければ続けられないものだ。威勢が良くて結構、と。

 

ミノ(ミノタウロス)を倒すんならミャーが一緒に行ってやろうかニャ?」

「アンタが一緒じゃあ【ランクアップ】の邪魔にしかならないよ。……でも、強敵に挑むんなら、アタシが骨くらいは拾ってやるから安心して行ってきな」

「ありがとうございます」

 

 そうなると、と呟きつつミアは店の奥に引っ込んだ。

 店主の姿が見えなくなった途端にダラケ始める店員たち。全員女性である。

 共通のエプロンを身に着けているが彼女達は並みの冒険者より強いと評判であった。

 

「下層域はいつごろ挑戦するニャ?」

「装備品の新調もしないといけないので……。【ロキ・ファミリア】の遠征が終わる頃になるかと……」

 

 悠長に構えているのニャ、と呟きつつ栗色の髪の猫人(キャットピープル)『アーニャ・フローメル』はポランの隣に座った。

 本格的に忙しくなるのはもう少し日が暮れてから、その僅かな間だけ話し相手になろうと考えた。

 

「おミャーが冒険者になってどれくらい経つニャ?」

「半年は越えたでしょうか?」

「それで評価Sは凄いニャ。何かしらのスキルとかないと無理ニャ、普通なら」

「でも、スキルは何も発現していないという話です。そんなにおかしいですか?」

「レベル1でも易々と数字は増えないものニャ。【ランクアップ】出来ずに終わる冒険者だって珍しくないニャ。その中でもおミャーは……ミャーが見ても特別な何かを感じるニャ」

 

 特にモンスターを倒した分だけ数字が増える、という部分が。

 微々たる数字の増加だという話だが、そんな機械的な事があり得るのか疑問だった。

 一般的にはそんな単純な事で【ステイタス】の数字は増えない。だからこそ冒険者はいつも苦労している。それは【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインも同様に。

 

「そのままモンスターを倒し続けたら評価の値がぶっ壊れたりするかもニャ。……そんなの見たことも聞いたことも無いけれど……。何か珍しいスキルでも発現していたら……、きっと大騒ぎになるニャ」

 

 そもそもポランは健全な冒険を心がけている。素直さが【ステイタス】に反映されているのであれば多くの冒険者は心が汚いから無理、という事になる。

 そういう条件がある場合は納得するしかない。

 ありえない話かもしれないがポランならばあるいは、という予感はあった。

 この日はそれだけで話は終わり、アーニャは仕事に戻った。

 皆が応援してくれる事にポランは内心でとても嬉しく思っていた。しっかりと料理を食べきって――食器を洗い――本拠(ホーム)へと帰っていった。

 

        

 

 装備品を新調し、次なる目標は『万能薬(エリクサー)の購入費用』の調達。そして、いつもと変わらぬ日常が始まる。

 ギルド本部に赴き、アドバイザーへの挨拶を済ませているとアイズとベートに出くわした。

 事前に約束を交わしたわけではないが、こうして会う事がしばしばあった。

 

「……ご無沙汰」

「おはようございます」

 

 アイズは挨拶を交わすがベートはまともに声をかけてこない。

 こういう人だと思って諦めているが、いつも不機嫌そうな顔なので気になっていた。

 

「……いよいよ大物を購入することにしました」

「……そうすると魔力、以外が評価Sになるんだよね?」

「順調にいけば……。それは特に目的ではありませんが……。期間は三ヶ月ほど。その後で【ランクアップ】に挑戦しようと考えています」

 

 勢いに乗る血気盛んな冒険者であれば今すぐにでも下層へ赴くところだ。だが、ポランは安全に安全を重ね、充分な下準備を整えてから突入する。

 ベートからすれば弱者なりの戦い方に見える。そして、それを悪いだの甘いだの言う気は無かった。

 モンスターへの挑戦を今も続けているから。

 

「……そう。随分、頑張ったね」

「頑張りました。地道に」

 

 アイズが微笑み、ポランも微笑む。

 双方それほど激しい感情の起伏は見せないが似た者同士のようにベートには見えていた。もちろん、地上に居る時の事で戦闘では全く対照的と言っていいくらいの違いが現れる。

 そもそも――ポランはアイズの本気を知らない。いや、本省と言ってもいいくらいの激しい感情を。

 (ベート)がそんなことを考えているとアイズがパーティ申請しようか、と誘い始めた。

 一瞬驚いたベートではあったが、いつもの事として気持ちを処理し、黙って眺めた。

 

「……今回は十三階層にしようか?」

「ミノタウロスの一つ前がいいですね」

「……ん。分かった」

 

 一般常識として十二歳の少女が交わす内容ではない。

 これから彼女達はモンスターと本当の意味で殺し合うのだから。本当ならば大人として誰か止めなければならない。だが、この迷宮都市オラリオにそんな存在は――例え()()()――居ない。

 いつものように――当たり前のように申請が滞りなく済んだアイズ達は楽し気にダンジョンに向かう。そして、それをおかしいと――異常だと思う大人は誰も居ない。

 いや、居たとしても初めて冒険者登録を済ませた者くらいだ。

 

 どうして子供が危険なダンジョンに降りていくんだ。何故、誰も止めない。

 

 これがオラリオの常識であり、それを否定する者こそ非常識であるからだ。

 しかし、それは本当にそうだろうか。

 誰もが思っていて黙認しているだけではないのか。

 一人のギルド職員は姿が見えなくなった少女達の安否を思う。

 

(無事に帰ってきますように)

(……【剣姫】達はもうすぐ遠征か……。そうするとまた記録が生まれるかも)

(でも……十二歳なんだよな)

 

 見た目で言えば小人族(パルゥム)と変わらない背丈だ。

 人間(ヒューマン)だと思って心配する者は少ないかもしれない。だからこそ――

 ギルドの規則に年齢制限は設けられていない。しかし、さすがに赤子の登録は未だかつて無いのが救いか。

 

        

 

 遠征前とはいえ運動や鍛錬は続けられる。その延長線上でダンジョン攻略もある程度は許されていた。

 無駄な資材を消費することを押さえるためある程度の階層主は事前に討伐しておくのが基本である。

 それらはアイズ達の仕事ではなく、他の同盟ギルドや十八階層で暮らしている冒険者に委ねられていた。

 健全な攻略を進めるために。

 アイズとベートは最低限の荷物で来たのに対し、ポランはがっしりとした格好になっていた。

 いくら【ステイタス】が充分に増えているとはいえ、駆け出しには変わりない。

 

「……今日はいつも以上に大荷物だね」

「目標階層で色々と実験でも……と思って」

 

 最初に出会ったひ弱なポランはもう居ない。

 見た目こそあまり変わらないが雰囲気はしっかりとした冒険者の(たたず)まい。

 単独(ソロ)でも十階層に挑戦できるほどには――

 

「……十三階層にはヘルハウンドが出るけど」

「数が少なければ大丈夫だと思います」

「……なら、行こっか」

 

 やる気があればそれだけで充分だとアイズは判断する。

 何かあっても自分が守る。今は一人だけの戦いはしていない。それはもっと大事な時にすべきだと思ったから。

 一緒に居るベートは見張り役。元よりアイズ単独で潜らせるつもりは無く、不測の事態が起きた時は情報()()でも迅速に届けるように言われている。

 大手は何かと狙われやすい。だからこそ保険はいくつもかけられている。

 

「十層辺りに出るという大型モンスターをお願いします」

「……了解」

「んっ? てめえは戦わないのか?」

「荷物の関係で無理は出来ないので。……折角アイズさん達が居るから頼らせていただきたいと……」

 

 (したた)かなポランの言葉。

 もし、アイズ達が来なければ戦闘か逃走を選ぶ。彼女とて【ランクアップ】を控えているのだから逃亡一択だけとは考えにくい。

 魔石やドロップアイテム目当てとも限らないところがベートの思考を狂わせる。

 そうして極力戦闘を避けつつ七階層に到着。すぐにモンスターが生まれるもアイズが持ち前の剣技で一掃していく。

 のんびりと待機する予定はなく、すばやく魔石を回収しつつ次の階層に降りていく。

 戦闘しないと言ってもポランも充分、熟練した冒険者だ。無駄な事をしないだけ感心する。

 敏捷の数値が高いお陰で足手まといという気がしない。何よりモンスターにビビっていない。

 

「………」

(……今はまだ青臭せえガキだが……。【ランクアップ】したらどうなるのか……。他人を気にするのは俺には似合わないか)

 

 みっともなく泣き喚かないだけマシだと思い、黙って移動を続けるベート。と、普段以上に大人しい彼の事を不気味に思うアイズ。

 

        

 

 攻略は順調でモンスターに異常は見られない。ただ、たまに予想外の出来事が起きるのでダンジョンでは気が抜けない。

 例えば唐突に落盤したり、珍しいモンスターが現れたり、普段以上の数が生まれたりする。

 ごく(まれ)に異常に強いモンスターが発生する場合がある。それらをまとめて『異常事態(イレギュラー)』と呼ぶ。

 

「……次で目標階層だけど……、私達でモンスターを倒してもいいんだよね?」

「はい。遠慮なく倒してください。私も近くに居る分は頑張ります」

 

 お互いの了承を得たところで十三階層に降り立つ。

 火を拭く黒い犬型魔獣『ヘルハウンド』が早速走り寄ってきた。それらはアイズが瞬く間に撃滅する。

 相手に攻撃させる余裕すら与えず。

 

「ベートさんは左を」

「おう」

 

 短いやり取りだけで十数匹うろついていたヘルハウンドは一分も経たない内に姿を消した。

 鮮やかな手並みにポランはつい感動した。その後、アイズ達は警戒態勢に入り、ポランはドロップアイテムの回収を始める。

 落ちた魔石の半分はアイズ達に。

 合間に出てくる額から角を生やした――体長は五十(セルチ)ほど――兎型モンスター『アルミラージ』はポランが相手をした。ヘルハウンドのような高火力の攻撃でなければこの階層でも充分に戦えている。

 それからしばらく現れるモンスターを狩りつくし、次の発生まで余裕が出来たのは二十分後。これがポラン一人であれば一時間以上はかかっていた。

 

「……この階層で何か実験でもするって話だっけ?」

 

 座れそうな石に腰を下ろしたアイズが魔石を拾っているポランに尋ねた。

 この階層は天井まで高く、広い。狭い通路然とした今までのものとは違う。

 十階層も相当広い空間だったが――下に行くほど広く、十八階層以降となると立体感のある複雑さを見せる。

 

「まずは一休みしてから」

「……分かった」

 

 息を整え、瞑想するように静まるポランとそれに倣うアイズ。

 ベートは警戒任務の為、少しだけ離れた位置に居た。

 たっぷり五分間。何も喋らない。これはアイズがポランに教えたものだ。

 どんなに苦境に立たされようと決して取り乱してはいけない、というリヴェリアの教えから。

 

(……どんなに深刻でも五分間無理矢理にでも休め。……出来なければ作れ)

 

 王族(ハイエルフ)にしては随分と乱暴だなと思ったものだ。

 だが、今になって思い返せば、その五分を凌ぎ切れば起死回生出来るのが冒険者の強みであるという。

 本当に起死回生出来た、という経験は無いけれど。

 

(……時間はさておき、感覚は驚くほど研ぎ澄まされる……気分になる。そこかしこから音も拾える)

 

 ダンジョンの内部全てを見通せるわけではないが聴覚が許す限りの範囲は――なんとなくだが――把握できる。もちろん完璧ではないけれど。

 五分。それはとても長い時間。

 危険なモンスターがいつ発生するか分からない。その恐怖が判断を狂わせる。

 そして、既定の時間になり、瞼を開ける。

 

「……じゃあ、早めの昼食にしようか」

「はい」

 

 身軽なアイズ達は小型の携帯食は持ってきていた。

 ポランは荷物が多いのでたくさん何を入れているか疑問に思っていた。食べ物だったらいいな、と薄っすらとは思った。

 

「アイズさん達と会うとは思ってなかったので」

 

 食料とは別に金槌や鋼鉄製の杭のようなものを取り出す。それからお弁当が出てきた。

 水筒もあったが長丁場を想定していたのか、いくつも出てきた。

 

「良かったらどうぞ」

「……いいの?」

「序盤が早めに終わりましたので。特に十階層以降は助かりました」

 

 ポランは十一階層から現れるレアモンスター『小竜(インファントドラゴン)』に警戒していた。

 体長四(メドル)ほどもある大型モンスターで上層の階層主とも呼ばれている。

 その後、ベートにも水筒を渡すのだが、威嚇されることはなかった。

 匂いに敏感な彼は薄っすらと探りを入れたものの異常が無いと分かると水筒を口にした。

 今日が初めてではないし、彼だけ離れた場所で食事を強要されているわけでもない。

 

        

 

 戦闘が頼りないのは今更だからポランに対して無碍な扱いはしなくなった。

 アイズと同様に何か戦い方でも教えてくれるのではと期待したもののベートの肉弾戦はポランの戦法には合いそうになかった。しかし、彼もまた我流であり、他人に教えるほどの方法論のようなものが無かった。

 

「いつも見張りありがとうございます。塩は如何ですか?」

「あっ? 大して疲れてねえから要らねえ」

 

 塩分補給に僅かな塩を舐める。それも様々な冒険者の話や噂から実践していた。

 持ち込める分量がだいたい決まっているので必要最低限の荷物は自ずと決まってくる。

 アイズから見てポランは『優しい』というか『良い子』であった。神ヘスティアの言葉からも素直で良い子だと聞いていた。

 そんな子が血生臭い冒険者をやっている。何か事情でも、と思って尋ねても帰ってくるのは生活の為ばかり。

 実際そうなのだろうとは思う。ポランだけ特別な気がする、という事は無い。

 逆に質問された場合、モンスターが憎いからと答えられるのか――

 

「………」

 

 それぞれに事情がある。だから、ポランは無理にアイズの事を聞こうとしない。ベートに対しては怖がってはいるが逃げ出すことは無い。

 おそらく仲良くなりたい気持ちがあるんだとアイズは思った。

 

 パーティを組んでいるから。

 

 そもそもよその【ファミリア】の団員だ。知らない事が多くて当たり前である。

 毎回、彼女が何をしようとしているのか興味を持つのは自分らしくない気がする。

 

(……そう。特に金槌と杭がとても気になる)

 

 色んな発想をするのは若さの特権だとフィンやリヴェリアは言う。

 アイズは戦い以外に興味を持つことが無かった。せいぜいジャガ丸くんくらいだ。

 

「……それは何に使うの?」

「これですか? ダンジョンの壁とか……、ああいう石の塊などを砕くのに使います」

「?」

「火薬類は怖いので……。それと落盤の関係で……」

「ちょ、ちょっと待って……。今日は……それが目的?」

「はい」

 

 【ランクアップ】の為の下層域における資金稼ぎだと思っていた。

 実験とは聞いた覚えがあるが、と少し忘れかけていた言葉を懸命に思い出すアイズ。

 彼女(ポラン)にはいつも驚かされる、と金色の瞳を輝かせながら話に耳を傾ける。

 

        

 

 実験内容は至極単純なものである。

 まず適当な壁を破壊。出来れば小さな穴程度が望ましい。大きく破壊する必要は無い。

 一般の冒険者は率先してダンジョンの壁を破壊したりしない。それゆえに内部がどうなっているのか知らない者が多いし、興味も持たれてこなかった。

 モンスターが出現する時、様々な色の光を放っているのは確認した。ただ、戦闘に集中するのでその後の経過は意外と見る事が無い。おそらく光源が消えている為に気づかないのだと予想している。

 ダンジョンからモンスターは生まれる。それは誰もが持つ共通認識だ。

 

「先程モンスターが生まれた場所……。そこに穴を開けてみます」

 

 十三階層のモンスターは地面からも這い出てくる。

 何もない中空から突如現れるケースは知らないが、そんなことが起きれば脅威だと思っていた。

 いくらポランでも階層主の部屋ではさすがに実験はしない。けれども一番分かりやすそうな気はした。

 

「そして、その壁の修復速度を見ます。下層域程早い傾向にあるようですから」

「……一部の壁は修復が早いところがあるって聞いた。……ここだと……、もう少し向こうの奥まった場所じゃないかな。……通常よりも早い修復が起きる場所はだいたい未発見領域って言われる」

 

 ポランよりも詳しい情報を告げるが上層だからこそ言っている。今のアイズでも公開していいものと駄目なものの区別はある程度できる。

 いくら親しくなったとはいえ――

 

「いかにも怪しい場所は避けます。……大型モンスターが出る罠だと怖いので」

「……そうだね。……じゃあ、私が穴を開けようか? 破壊し切るわけじゃ……ないんだよね?」

「はい。ヘルハウンドの頭くらいの大きさで。それと修復される場所じゃないといけません」

「分かった」

 

 アイズは剣で開けようかと思ったが、武器が痛みそうだったので杭を借りる。

 力ではポランを上回っており、同年齢だとしても歴然の差を見せつける事が出来る。

 水で(しるし)を付けた場所に杭を打ち込むのだが、比較的大きくて深くと注文が入った。

 少女の腕力だけで壁が削られていく。――途中、金槌で自分の手を打たないようにと優しい声が聞こえてきた。

 削るたびに長めの杭を渡される。

 指定された形は一辺二十(セルチ)の正方形。奥行きも同等程、と行きたいところだが専門家ではないので四角錐に近い形になってしまう。

 理想的な立方体は相当熟練した職人にしか出来そうにないのである程度のところで妥協する。

 

(……どうしてこういう発想をしたのか。モンスター討伐しか考えてこなかった私が言える事じゃないけど)

 

 安全に資金稼ぎしていると思っていたら想像外の言葉が続く。

 ポランが見ている景色は自分とは違う。それは当たり前ではあるが今この時はとても不思議に思えた。

 

        

 

 言われた通りに四角く開けた穴は五つ。そこから修復が始まったのは二つほど。

 無機物である岩石がどのようにして元に戻るのか――

 それは穴の奥から砂が湧き出るように――いや、モンスターを倒した時に出る灰の様なものが塞いでいく。

 大抵モンスターが湧き出ると足元に瓦礫や小石が散乱する。それらが自然と浮き上がって穴を塞ぐ、という状況もあった。

 そもそもダンジョンの内部はいやに小奇麗である。誰かが掃除しているわけでもないのに。

 たくさんの冒険者が訪れ、たくさんのモンスターを倒しているのであれば足の踏み場もない有様になっていないとおかしい。特にモンスターが死んだ後に発生する灰は確実に呼吸器系を痛める。それが無いということは何処かに吸収されているか、時間経過とともに消滅していないと安心して通路を歩けない。

 

(……奇麗なダンジョン。いくら下層は空間的に広いと言っても……奇麗過ぎる)

 

 ギルド職員がこっそりと出入り出来るような隠し扉などあるわけがない。であれば誰が毎日のように清掃しているのか。

 

 ダンジョンが清潔を保っているのはダンジョンそのものが自浄作用を持っているから。

 

 それ以外に考えられない。

 ダンジョンはモンスターを生むので生き物と言われている。確かにその意見にポランも賛成であり、疑う材料が無いと思った。しかし、本当に生き物ならダンジョンそのものが冒険者に牙を剥く事態がある筈だ。

 それこそがモンスターの発生原理ではないのか。

 

(制限なくモンスターが現れるようなダンジョン。どうして冒険者に魔石を与えているのか。その辺りは分からないけれど……)

 

 それとも――

 いや、とポランは思考を留める。自分の予感がそれ以上を予測することは危険だと伝えてきた。

 

(……それとは別に疑問なのは階層ごとに現れるモンスターがある程度決まっているという点……。魔石は同じなのに)

 

 自分達は何か見落としているのではないか、と。

 闇雲にモンスターを倒し続けているとダンジョンが更に怒り狂う――そんな事態が果たして無いと言えるのか。

 それと――ダンジョンを徹底的に破壊し尽くすと摩天楼(バベル)が落下。これはあくまで可能性であり、予感だ。

 これは神ヘスティアに疑問を投げかけたところ、神が蓋として設置したんだから大丈夫さ、とにこやかに自信を持って答えた。

 潰されるのは眷族ですよ、と何度も詰め寄って尋ねたものの『大丈夫』の一言で切り捨てられる。

 

(……ヘスティア様は新人の神様……。知らない事がたくさんあるかもしれない。やはりここは冒険者自ら確認しなければ……)

 

 自分達が潜るダンジョンが今後も安全であるのか。いや、危険なのは変わらないが少しくらい謎を解き明かしたい気持ちがあった。

 命を懸けている冒険者たちが少しでも長生きできるように。

 

 

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