Untold Myth   作:トラロック

27 / 49
#2-0Z エピローグ

 

決着

 

 仲間の敵討ちを理由にして戦うも全戦全敗。

 掛け値なしで強い【片翼剣姫】『アイズ・ヴァレンシュタイン』――

 元の【剣姫】であればもっと強かった筈だ。

 手負いに負けて悔しくないのかと聞かれれば半々――

 それよりも手合わせしていただいた事に深く感謝していた。

 ――それにアイズを屠る事が目的ではない。それはまた別の話しだ。

 

 迷宮都市『オラリオ』にて冒険者となり、結局のところ冒険者らしい仕事は殆どしてこなかったような気がする。

 実際、何にもしていないようなものだ。

 それと神『ヘスティア』に多大な迷惑をかけておいて恩返しもままならないとは――

 ついでに神『ロキ』にも、だ。

 

「……ヤバイ。とにかくヤバイ……」

 

 ダンジョンの存在価値がほとんど無いではないか、と。

 合間に潜ってはいたが目的がほぼアイズばかり。

 ――別に彼女が最終目標ではなかったのだが――

 何処で何を間違えたのか。

 命あっての物種とはこの事か。

 だが、短期で強化するにはアイズに挑戦するのが早道だと――

 

 唸る挑戦者にして駆け出しの冒険者――人間(ヒューマン)の少女『ユーカリン・ナナツタエ』は()()()()()()が働いている酒場『豊穣の女主人』に向かった。

 行き着けというほど通い詰めてはいない。それに自分はまだ十二歳のか弱き少女である。

 店が目的ではなく、そこで働く従業員に用があっただけだ。

 当然、酒も嗜んでいないし、この店の料理を食べられるほどに稼いでもいない。

 

「ありゃ~、また負けたのニャ?」

 

 猫耳と尻尾を持つ亜人(デミ・ヒューマン)猫人(キャットピープル)』の従業員『アーニャ・フローメル』が苦笑した。

 オラリオに来て色々と親切にしてもらった恩があるので、なんとか頑張って知名度を上げ、そこそこ稼いでいい所を見せたかった。――現時点で全て裏目に出ているという結果。

 

「こてんぱんです。()()つもりで突っ込んでいるんですけどね」

「【剣姫】を相手にするならそれぐらいの気概は必要ニャ。……だけど、何度も挑戦して生き残っているところは中々に見所があるかもニャ」

 

 嫌らしい笑みで報告を聞くアーニャ。

 店内は満席ではないものの結構客が注文を待っている状態だった。――彼女はそれを全力で無視している形だ。

 当然――

 

「なに、サボってんだい、バカ猫!」

 

 店の奥から姿を見せるのは『豊穣の女主人』の主で偉丈夫のドワーフ。

 ――『ミア・グランド』という女性だ。

 怒りのミアはお盆を投げつけたが、アーニャはそれを辛うじて避け――当然の事ながら延長線上に居たユーカリンの顔に直撃する。

 

 この一撃だけで駆け出しのユーカリンは鼻血を出して気絶。

 倒れた少女を手馴れた動きで店の奥に運び込むのはアーニャ()()の従業員達だった。

 ――放置すると客の邪魔になるので、大抵は店の奥に放り込んで裏手から投げ捨てる。

 

「……なに避けてんだい?」

 

 ズシン、ズシンと地響きがするような足取りで近付くミアに対し、アーニャは震え上がってその場に座り込んだ。

 尻尾は既に爆発寸前に総毛立ち、頭から突き出ている猫耳は力なく萎れていた。

 

「……ひっ。か、母ちゃん。今……大事な仲間との……」

「この店では仲間よりも客を優先しな!」

 

 恫喝と共にアーニャの頭上に落ちてくるミアの拳骨。

 頭蓋骨が砕けたかのような音が店内に響き渡り、静かになる。

 ――これはこの店では()()()()()()()()で数分も経てば賑やかさが戻る。

 気絶した同僚は邪魔なので奥の部屋に放り込む事になっている。

 その後で別の従業員を呼びつけて、アーニャの代理を命令する。

 

「ポーラ。しっかり働きな」

「……ミア母さん。……ポーラは先日……」

 

 という従業員の声でミアは忘れていた事を思い出す。

 ポーラという従業員は先日、死んだばかりだということを。

 いつもならば豪快さで有名なミアも()()()()()()は優しい女主人に相応しいしおらしさを醸し出した。

 言葉足らずだけど素直で働き者の従業員の事を自分はまだ覚えていた。その事を少しだけ意外と思いつつも店の奥に引っ込み、無言のまま料理を作り始める。

 

 話しに出たポーラとは最近入った新人で『ポーラ・ニーカ』という名前の少女だ。

 

 年の頃はユーカリンと同じくらいの人間(ヒューマン)

 しかし――彼女の右目――瞳は真っ白。その瞳(右目)は視力を失っていて――いつも危なっかしい動きで――手探りで移動していた。――ついでに右耳も欠損していた。

 白いのは瞳だけではない。まつ毛と髪の毛――一部だけ――も()()()()が色素が抜け落ちたようになっていた。

 歳若い娘の筈だが、よく見れば顔の大部分が()()()に切り刻まれたような傷跡がいくつも残されていて痛々しかった。――それと両手は手袋を着用している。

 彼女の存在が認知され始めてくる頃、客も色々と心得たように――その少女の為に――ぶつからないように避けたりするようになった。

 ポーラはミアが――珍しく――可愛がっている従業員なので意地悪をするような命知らずが居なかったせいもある。ただし、他の従業員には彼女のような優しさは見せない――というか見せる余裕が無い。

 新しく来た客はポーラの存在に最初は疑問を抱くが、詮索しないのが迷宮都市オラリオならではの暗黙のルール――

 可愛い従業員の登場に客達は安堵しつつ見た目が奇異の彼女(ポーラ)に注目していった。

 

 それがつい先日の事だと誰が予想できたか――

 

 彼女(ポーラ)の【眷属の物語(ファミリア・ミィス)】を知る者は()()()極限られている。それこそ――神のみぞ知るほどに――

 そしてそれは新たに紡がれる事無く――失われてしまった。

 

『終幕』

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。