Untold Myth   作:トラロック

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#3-0Z エピローグ

 

決着

 

 誰に復讐する為に冒険者になったのか、今ではどうでもいい問題だ。

 自分にあるのは目の前の敵を倒す事だけ。

 それすらも――

 

「貴女は誰ですか?」

 

 剣を向けておいて誰も何もない。自分でもそう思うが質問しないわけにはいかない。

 今まさに殺そうとしている相手、の筈なのだから。

 だが、思い出せない。

 記憶には自信がある筈なのだが――

 

「……アイズ。貴女が剣を向ける相手……」

 

 首を二度、三度傾げさせて(ようや)く思い出す。

 アイズ・ヴァレンシュタインが殺す相手だ。いや、まて、と。

 混乱する頭を振りつつ()()()()()を導き出す。

 

 アイズは友達だ。

 

 友達がどうして殺す相手なのだ、と疑問を覚える。

 それに彼女は神ではない。眷族だ。そう、その筈だ。

 

「……はて? 私はどうして貴女に剣を向けているのかしら?」

「……鍛錬」

「鍛錬? お稽古の事ですわね。……それにしては……、周りが土砂降りなのはどうして?」

 

 曇天の空模様でどうして自分はこんなところに居るのか。

 雷鳴が轟く中で全身を濡らして。

 記憶が鮮明になるごとに不安と寒気が襲ってくる。

 温かな日差しが立ち込める日は何処に行ったのか、と。

 

「良くわかりませんが……。帰りましょう」

「……うん。帰る場所は……分かる?」

「……ん? んー、どこでしょう? それよりも……私はいろんなことを忘れていますわね。……アイズ、アイズ、アイズ……」

 

 友達の名前は憶えている。ならば、それを連呼して色々と思い出さなければならない。

 剣を持っている。外は雨。今いる場所は何処なのか。

 天気が悪いので人通りは無い。店はほぼ閉まっているところから商店街のどこか、というのは分かった。

 

 数歩歩いてアイズに振り返る。するとそこには()()()()()()()()()()が居た。

 金髪である。身体つきは女性。武器は細身の剣。

 ただ、顔は薄暗いせいか判別できない。

 

(……何者でしょう……。武器? 私の敵?)

 

 軽く飛びのき、手に持つ武器を構える。

 いや、どうして武器など持っているのか、と疑問を抱く。

 自分は――

 自分はどうしてここに居るのか思い出せない。

 相手は何者で、こんな天気の悪い外に居るのは何故なのか。

 

(……こういう時は()()を読むのでしたわね。それにしても雨が激しいですわ。……寒い)

 

 激しく地面に打ち付けられる雨の音。

 目に雨水が入り、視界が閉ざされる。

 何処かに行けばいいのだが、自分は今どこに居て、何をしようとし――

 

 自分は何者なのか。

 

 頭の中が白く満たされる。

 景色も音も消えていく。

 少し前まで様々な色が混ざり合っていた筈なのに――

 どうして今は――居心地が良いのだろうか。

 

(……幼き日の幸せな時間とはきっと……)

 

 手から零れ落ちる武器――だったもの。既にそれが何だったのかは覚えていない。

 白に満たされる最後の瞬間、確かに見た。見えた。

 時間が巻き戻るように様々な景色が。

 アイズと鍛錬を積み、様々な冒険を経験し、【ファミリア】の一員となって――

 復讐の理由を思い出し、(ヘスティア)と出会い、迷宮都市オラリオに到着し、様々なものに襲われ、馬車で移動し、親切な同胞に囲まれ、復讐を胸に秘め、誓い、祖国から脱出し、両親に謝罪し、戦争に敗北し、戦端が開かれ、宣戦布告を受け、そして――

 幸せな家庭。両親の顔。自分の顔。様々な事柄を一気に思い出し、それと同時に消えていく。

 轟音と共に。

 気高く貴い種族の子として生を受けた彼女の一生は幕を閉じた。

 己の旅の目的を思い出す事と引き換えに。

 

 目の前で起きた光景を鍛錬相手である【剣姫】『アイズ・ヴァレンシュタイン』は理解できなかった。

 驚きはあった。ただそれだけだ。見る事など不可能――

 身体の前面部が焼け焦げた彼女(アイズ)に詳細を語る事など出来はしない。声を上げて叫ぶことも無理だ。

 あるのは事実としての事象のみ。

 一人の冒険者が死んだ。アイズの目の前で。唐突に。

 激しい轟音を聞きつけた住民たちはすぐさま応援を呼んだ。

 この日を境にオラリオに住む多くのエルフ達の慟哭が続いたという。

 忘却の【眷属の物語(ファミリア・ミィス)】は雷鳴と共に永遠に失われた。

 

『終幕』

 

 

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