Untold Myth   作:トラロック

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#4-0Z エピローグ

 

決着

 

 無敵の冒険者『ゼゼナ・シャフラー』はただひたすらに愛に生き、愛に死す目的以外に何も持っていなかった。

 迷宮都市オラリオで最初に入ったのは【ハデス・ファミリア】()()()と言われている。闇組織の【ファミリア】では情報が得られにくい。それゆえに彼女は謎の多い冒険者とも言われている。

 種族は人間(ヒューマン)と冒険者ギルドでは記載されているが――それにしては若々しい姿をしていた。

 古参のギルド役員でも疑問を抱くところ。これが長寿のエルフであれば何の問題も無い。

 

「アルテミス。君はあの冒険者……ゼゼナだかメンテだかの正体には気づいていたんだろう?」

 

 貸し切りにした酒場にて友神(ゆうじん)を交えて今まで知りたかったことを尋ねた。

 自分の眷族にしていたアルテミスも実のところはよく理解していない。入りたければ入れ、と言ったら入団した。

 言葉だけ聞くとヘスティアにとっては羨ましい限りなのだが――

 

「元は闇派閥(イヴィルス)に所属していた、と私は思っていたが……。ギルドの公式記録はもっと古いものがあった」

「はっ? どど、どういうことだい?」

 

 身を乗り出そうとするヘスティアに対し、アルテミスは隣に座って茶を飲んでいる女神ヴェーラに顔を向ける。

 必要なとき以外は何も答えない、と誓いを立てているので()()何を尋ねても答えてくれない状態だ。

 反対側に座る女神アストレアは今回の危機に対して恩赦として召集された。事が住めばまたオラリオから追放されてしまうが、ヘスティアの為に指示に従ってくれた形だ。

 正義を司る女神だが、今は引退したおばあちゃんのような暮らしをしているとか。その女神は胡桃色の髪をいじりつつ遠い過去の扉を開けようと――

 

「あれはもう五〇〇年くらい前かしら? ゼウスとヘラが居なくなって暗黒期と呼ばれた時代……よりももっと古い頃からだから……」

「ちょいまち。そんなに古い情報から説明はじめるんか、自分ら」

 

 眷族を率いて話しを聞くことにしたロキは慌てた。しかし、他の女神達は――一部は――危機意識が欠如したように暢気だった。

 男女比率で言えば女神が圧倒的に多い。男性代表は無口のソーマくらい。実のところ一〇〇人近い神と関係を持っている。そのうちの半数以上は既に天界に送還されていた。

 有名無名問わず節操無しと見るか、どうしてそれだけの【ファミリア】を渡り歩いて怪しまれなかったか。それぞれの神々の中で受け取り方は千差万別だった。

 

 冒険者になれば何故か長生きする、という事を逆手に取り長くオラリオに潜伏していた謎の冒険者ゼゼナ・シャフラー。

 古参の冒険者ですら聞き覚えが無いのは単純にダンジョンで活躍してこなかったからだ。それが【アルテミス・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】によって明るみに出た。それを悪いとはヴェーラも言わない。

 

「……アタシが何を言おうと、どう受け止めようと今更どうでもいい。それよりも【剣姫】……」

「……はい」

 

 神ヴェーラは万全の態勢になっている金髪金眼の少女アイズ・ヴァレンシュタインに問いかける。

 あの化け物を殺せるのか、と。

 

「……元は貴女の……眷族だったのでは?」

「眷族じゃないさ。実験動物で失敗したから捨てた。あれはその成れの果ての様なもんだ」

 

 無敵の冒険者というのは予想していなかった。

 神々の『恩恵(ファルナ)』を授かった冒険者達が太刀打ちできない、というのは本当に想定外だ。

 物言いは悪いが嘘ではない、とヴェーラは自嘲気味に言った。

 

「お前、あいつを殺せるのか? ……自分から質問するのは不慣れなんだが……」

「……わかりません。何度か切り付けてみたけど……再生力が高いというか……、魔石の無いモンスターみたいで戦いにくいです」

 

 こうしている間にもゼゼナは冒険者や住民を食い殺している――筈だ。必要以上の容量を取り込めないところから常識の範囲内というところが納得できないけれど。

 大量殺人に向かない厄介さともいえる。

 

(ゼゼナは無差別に殺しはしない。特定の条件を設けている。……あれは長く培った知識を有した賢い化け物だ。……反面、武闘派ではない。そこが狙い目……だったはずなんだが……。見込みが甘かった……)

「でもさ、神を愛する事と殺す事がどうして繋がるんだい? ボクとしてはもっと平和的に事を収めたいんだけど」

「……無理だ」

「急に喋るなよ、ヴェーラ。君、質問されないと答えないんじゃなかったのかい?」

「……自分に都合の悪いことは言いたくない。だから、さっきの誓いだ。ゼゼナに平和的な解決なんて無い。出来る事はきちっと殺してやることだ。アタシはあいつにとても死んでほしいと……、それはもう一〇〇〇回以上は言い続けてきた。そんなアタシが嘘をつくわけにはいかないだろう」

 

 ヘスティアの胸ぐらをつかもうとしたが服の表面積が少なすぎたので断念し、代わりに隣りに居たアルテミスの胸ぐらをつかむ。

 それに対して他の神から異論が出なかったので話しは続けられた。

 

(おー、悪いなーアルテミス。あの破廉恥の服は掴んだら破れそーでよー)

(それは私も思っていた。あの貧相な服しか無いのか、と。【ファミリア】の収入では服を購入する余裕も無いほど、そこまで火の車だったのだな)

 

 ここに居る中であまり事情を知らない神達はどうして神会(デナトゥス)で相談しないのか、と囁き合っていた。それに対する答えは大枠で共通している。

 

 アポロン(変態)が居るから。

 

 神の寵愛を求めるゼゼナですら拒否する神。もし、神会(デナトゥス)で会議を開こうものならやる気(殺意)を出してしまう。

 少なくとも彼女はヴェーラが課した条件を今も守り続けている。

 

(神を殺してはならない……だったか……。だからこそヘスティアが無事なのも頷ける)

「……神様自ら、彼女の殺害を許可する……のですか?」

 

 手を上げつつアイズは言った。

 現場にいる中で一番の実力者――とは言わない。けれどもアイズだけしかゼゼナは殺せない。神の寵愛を受ける意味でも拒否する意味でも適任者は限られてくる。

 ヘスティアからすれば既に三人も死なれている。

 

「アタシは許可するぜ。遠慮なく殺せ。しっかりとな」

「……何故……。そんなにあの子に……」

「死んでほしいからに決まっている。ああ、もちろん本心からさ。アタシは正直者なんだ。ゼゼナに死んでほしくてたまらないから毎日のように頼んだ事さえある。……今となっては手遅れなんだが……。あいつは生きていちゃいけないんだ」

 

 神自ら生を否定する。否定される側の気持ちは計り知れないくらい悲しいものではないのか、とアイズは自身の胸に手を当てる。

 もし、ゼゼナであれば胸が張り裂けそうなほどつらいのではないか。

 

(胸が痛いか。その通りだ、【剣姫】……。生まれた時から神に遅かれ早かれ否定される存在だ。今まで見逃してやったのはアタシの愛だ)

 

 愛ゆえに地上を混乱に陥れる。それはそれで結構な事だ、と神ならば言う。破滅願望こそ無いが最善だと思うからこその言葉だ。それ以外に適切な言葉を当時は知らなかった。

 無責任に生きろ、だなんで嘘を言えるわけがない。

 

 何度か手合わせして実感するのは恐怖――【剣姫】にとっては駆け出しにここまで後れを取るのは異常事態である。

 種を明かせばなんということもない。元よりゼゼナは常識外のモンスターだった。

 それも悲しいモンスター。

 忌み嫌われて過ごした日常はもちろん理解できないし、彼女(ゼゼナ)もそれは望んでいない。

 

「これは神々に祝福されし冒険者と神どころか全てから忌み嫌われた厄介者との戦いだ。どちらを応援するかは目に見えて明らか」

「……愛するという観点で言えばゼゼナも全くダメな眷族()というわけではあるまい。私のところに来た時は……最初は素直だったのだが……」

「そうねー。でも、【ファミリア】の趣旨はすべて無視してたわ」

「バーカ。あいつは神の愛に飢えているモンスターだ。それ以外は眼中にねーよ」

 

 神々の中で一番ゼゼナを理解しているのはヴェーラ。その彼女が元々は追い出した。

 無責任極まるとしか言いようがない。そんな彼女がどういう風の吹き回しかゼゼナを殺せと吹聴しまくっている。

 愛に飢えているのは神も同様ではないのか、とヘスティアは呆れ果てる。

 過去ゼゼナことメンテを受け入れた【ファミリア】は総じて良い印象を受けていない。けれども、素直さで言えば純粋ではあった。それがあまりにも――

 

 純度が濃すぎる。

 

 命を投げ出しても構わない献身ぶりは事情を知らない者にとっては脅威でしかない。だからこそ排斥をいずれは敢行する事になる。

 仲間意識持たず、ひたすら神の寵愛を求める。気がふれているのは元からである事はヴェーラの説明で明らかだ。

 

「……殺すしかないか」

 

 現場に居る神々の半数はそう結論付けた。それに――庇い立てする理由が無い。

 存在そのものが今や天界にとっては脅威であるからだ。だからこそヴェーラは忌避した。その時が来るまで自由に生きろ、とはそういうことだ。

 諦めムードの神々にヘスティアはもちろんのこと。アイズも驚いていた。

 何故、神々は眷族を見捨てようとするのか。今まで自分達に教えてきたのは『自分の眷族だけは信じる』ではなかったのか、と。

 

(……ヴェーラ。君はとても罪深い神だ。それがよーく分かったよ)

(……今更か。アタシは正直にしか生きられないのさ。文句を言われる筋合いは無い。……偶々(たまたま)失敗しちまっただけじゃねーか)

(それが原因でオラリオは大ピンチなんですけどー)

そこ! こそこそ話すな、気持ち悪い」

 

 目つきを鋭くしたアルテミスが神々を叱責する。

 ここに居る神の中で荒々しくしなければならないのは正義を司るアストレアだと思っていたが、彼女は暢気そうに様子を窺っていた。

 理念とは裏腹に当事者は大人しい女神であった。優秀な眷族に恵まれたことも幸いし、神として本拠(ホーム)にどっしりと構える日々が多かったせいもある。

 

 いまさら言うのもなんだけど、とヘスティアは表に居るゼゼナの事が気にかかった。

 何も知らずに【ファミリア】に入れたものの確かに彼女は危険な存在だ。ある意味では厄介事を押し付けられたとしか言いようがない。

 それでも皆から嫌われていると聞かされれば見捨てるのは可哀相と思ってしまう。

 ゼゼナはただ神からの寵愛さえ貰えればいいのでは、と言ってみた。頭を撫でるなり、褒めるなり――

 

「それは危険だ。なぜなら、それしかしなくなる。それも厄介な事態になるまでただひたすらにな」

 

 団員にした経験のあるアストレアやアルテミスはその異常性を恐れた。

 ある時から褒める事を止め、仕事も与えなくなった。――いや、仲間の邪魔だけはするな、と言いつけはしなかったか。

 

(……神なのになんと無力な事か)

「経験談は語るって奴だ。ヘスティア。覚悟を決めろよ。今、あいつは形の残る悪だ。そのまま退治した方がいい」

「……他にどうしようもないのかい? 神が眷族を見捨てるような真似は到底受け入れられない」

「方法を聞いているならアタシはこう答える。殺せ。それこそが最善である、とな」

 

 何の迷いもなく言い放つヴェーラ。

 本来はもっと嫌味に聞こえる言い方をする。それなのにここしばらくの彼女は心底困ったような、感情を揺さぶられているような不安定さがあった。

 それが元の眷族ゼゼナが原因だった、のかもしれない。

 

「……あ」

 

 神々が議論を交わしている中でアイズは脳内に打開策のひらめきが起きた。

 通常の攻撃では物理、魔法共に通用しない無敵性に唯一対抗出来そうな方法が。

 だが、それでは彼女を救う事に繋がらない。

 もうできないのだとしても最後まで救える方法を模索したい。アイズとて無闇に他人と戦いたいわけじゃない。戦うのは好きだが。

 

(……私の剣はモンスターを殺すため……。それ以外の方法が無い。あの子は誰にも救えない。方法が無い。大勢の神様達から死を望まれている)

 

 真っ当なモンスターであればアイズとて否定はしない。けれども、浮かぶのは他の方法がないか、だ。

 ――元より救いようが無いほどゼゼナの心は壊れている。それを短期間で修復したり、どうにかするのは確かに無茶であり、無謀極まりない。

 『超越者(デウスデア)』の神々さえお手上げなのだ。下界の者にどうこうできるわけがない。

 

(……この大混乱はアタシの求めていた娯楽に近い。だが、面白くねー。……愛着を持ち過ぎた弊害かもな)

(今まさにディオニュソスが言っていた『狂乱(オルギア)』って奴が起こっているぜ。この事態を遠くで眺めている他の神は笑っているのかな)

クソ! クソクソ! ふざけんなちゅーねん。ウチの【ファミリア】はまだまだこれからやっちゅーのに。ここで台無しにされてたまるか、アホ)

(……折角、アリーゼ達を復活させられると思ったのに……。でも、いつかはゼゼナちゃんみたくなるんなら困っちゃうわね。ゼウス、ヘラ。あなた達の功罪は甚大よ)

 

 結論ありきの議論は無駄。そうヘスティアは宣言して打ち切った。

 それは唐突だった。

 自分が我慢すればすべて丸く収まるなら、それに従う事も(やぶさ)かではない。しかし、神ヘスティアはとても我儘な神様だ。

 人並みに感情に富んでいて泣きもする。

 

おい、ヴェーラ! 最後の質問だ。最後にする。こんな議論は無駄でしかない」

「腹をくくったか? 悪くないな。それで……『質問』だな。……『答え』は同じだと思うが言ってみろ」

「……ゼ、メンテ君は……君にとって掛買いの無い眷族(子供)だったかい?」

「眷族じゃねーが……。そうだな……」

 

 人から改めて言われるとこそばゆいものを感じる。それは随分と久しく感じなかった昔日の思い出。それが薄っすらと蘇る。

 しかし、神は感傷に浸らない。意外と淡白で現実主義者が多いものだ。

 

「……だからこそ、だ。掛買いの無い哀れなあの子だからこそ、()として何か残したくなるじゃねーか。その為の墓標(オラリオ)だ。ここにあいつを埋める。燦然と輝く日の下にな」

(元々は自分で埋まってこい、と言ったつもりだったが……。ちょいと大事になり過ぎたな。……はは、これはこれで面白かったぜ)

 

 ここに来てまで神を楽しませる。それだけは認めてやらなければ()()()だ。

 その神のせいでオラリオは危機に瀕している。だが、ヴェーラとて多少の責任を感じているからこそ遥か遠くの田舎から出て来たのではないか。

 単なる興味本位ということもある、と他の神々は推察する。

 

(……根本的に救う方法が無いのか。ヴァレン何某君……。君だけが彼女を救えるのかい? どういう理屈だ。ボクは納得できないぞ)

「……ウチのアイズたんに何させる気や。反則級の眷族(子供)はっ……」

 

 と、ロキは途中で言葉を切った。そして、理解した。

 アイズと戦う事ではなく、ヴェーラがどうしてゼゼナを殺せと言い続けたのかを。

 もし、その仮説が正しいならば神々の誰もゼゼナに対して有効な()()を失う。手段ではなく、手を取り合う言葉を失う。だからこそ、死ねと言ったのかもしれない。

 

 神は我がままな存在である。それは神自身も認める。

 掴みどころがなく、善悪関係なく愛する特性を持つ神々にも許せないものがある。いや、天界と言った方が正しいか。

 簡単に言えば神に匹敵する存在は一切認めない。それが天界の絶対の規則(ルール)でもあるかのように。

 不老不死を認めず、神と同等の存在の作成を認めず、神に反抗する者を認めず。

 敵と判断されれば存在そのものを『無かった』事にされる。それは過去から未来にかけての歴史から。

 それが出来るのが天界である。

 

「……充分に生きたんだ。後腐れの無いように殺してやるのが手向(たむ)けって奴だろう?」

 

 足跡を残すのが目的だとしても相手は不死の存在だ。どうやって殺せばいいのか、となる。

 幸せになる方法が無いというのも可哀そうなものだが手段がない。神ですら妙案が出せない。手づまりであった。

 

「俺達は自分の本拠(ホーム)の様子を見てくるよ」

 

 そう言って立ち去る神が出始める。

 議論は出し尽くされた。全く方法が無い、として。

 最善はゼゼナの心を癒すことだ。それ以外はもはや眼中にない。それがたとえどのような方法であろうとも。

 

「……ロキ。ヘスティア様、私に……任せてください」

 

 ロキは任せたくないが充分な装備を持つように言った。どの道、ゼゼナはアイズの前に現れる。神に愛された眷族は全て殺すと断言し、一人ずつ実際に殺しているのだから。

 対抗していた筈の【フレイヤ・ファミリア】も全滅とは言わないがかなりの深手を負わされて治療中だ。

 規格外のモンスター。その実力は手放しで喜べない程の脅威だ。

 

「……私のやり方で……。後始末は他の【ファミリア】の方達にも協力してほしいので……。後方支援をお願い、出来ますか?」

 

 他人を頼る【剣姫】に対し、アルテミスはいわずもがな。

 集まってくれた武闘派【ファミリア】は快く引き受けた。

 ヘスティアは無言のままアイズの手を自身の両手で包み込んだ。彼女(ヘスティア)からの言葉は無かった。

 

 準備を終えて地上に顔を出せば街中に血だまりの現場がそこかしこに見受けられる。

 無謀にも戦いを挑んで重傷を負ったもの。巻き添えでケガした住民が多数に上る。

 最後に確認した(ヘスティア)によって測定した時の【ステイタス】の各項目は約三〇〇前後足らず。それがどうやれば凄惨な現場を作り上げられるのか。

 当人(ゼゼナ)は返り血を中央広場(セントラルパーク)にある噴水で洗っていた。

 作業のように淡々と。特段の感情も見せずに目に付く生き物は皆殺しに、とでもいうように。

 

「……ゼゼナ。ダンジョン、行こ。ここに居るのは……」

 

 声を掛けられた途端に尋常ではない速度を発揮し、人間的な動きを止めているような、まとわりつく動き方でアイズのすぐそばに来た。

 アイズの【ステイタス】の遥か先に居るらしい彼女の雰囲気に思わず背筋に冷たいものが洪水のように流れ落ちる。

 生理的に受け付けない。いや、生物的嫌悪に等しい。

 ゼゼナは生きとし生ける全ての天敵。そんな存在であるかのよう。

 

「それはそれは神様の言伝? 言伝なのですよね?」

 

 異常な速度で捲くし立てられる言葉。アイズの聴覚でも聞き取れない。だから、何となく頷いておいた。

 異常な能力値になっているせいで全てが常識外だ。いったいレベルはいくつなんだろうと疑問を覚えるほどに。

 どす黒く染まった髪の毛を振り回すだけで薄っすらとアイズの顔が切り裂かれる。

 今のゼゼナは全身が武器と化していた。

 大声を出されると鼓膜は速攻で破られる。それゆえに両耳を塞いでおく。それだけで賢いゼゼナは理解し、声を潜めてくれる。

 今は()()友達だと思っているようだ。

 

(……わざと食い散らかす様に……。でも、それも終わりにしなきゃ)

 

 迂闊に彼女と手を繋げば匹途切れてしまう。それほどに現在の能力値は高い筈だと警戒しながらゼゼナをギルド本部に連れていく。

 正直者の下で育てられた彼女は嘘に対して過敏に嫌悪する。だが、表情が曇るだけで人の世はそういうものだとも理解している。

 長い年月を忌み嫌われて過ごした彼女は何を思って惨劇を繰り返すのか。だが、これは復讐ではないと思っている。

 では、何だと聞かれるとアイズも首を傾げる。

 

「………」

 

 今日は矢鱈と天気がいい。そんな日なのにオラリオは凄惨な現場だ。それはとてもよくない。

 アイズは脇に控えている多くのサポーター達を招き寄せる。迂闊に隠しておくはかえって危ない。

 ゼゼナに隠し事はとても危険だ。特に今は――

 

「彼らはサポーター要員だから攻撃しないで」

「いいわねいいわね冒険者っぽくて」

 

 嬉しそうに笑うゼゼナ。

 つい先日まで死相が見えるほど絶望感一杯だった女性とは思えない程の変わりようだ。

 ――それほど神ヴェーラに会えてうれしかったのか。だが――

 

(あの神様は久しぶりに会ったゼゼナに死を宣告した。二人はとても仲良しのはずなのに……。なんでこんな事に)

 

 そう思っても部外者には窺い知れない事情がある。頭では理解している。もし、自分の立場なら他人に踏み込んでこない事の一つや二つあるものだ。

 アイズの人生はまだ一〇代と少し。レベルも(フォー)になって一年くらいしか経っていない。

 対するゼゼナは数百年も生きる謎の人間(ヒューマン)。その正体は神に失敗作というだけで見捨てられた存在だという。

 その心の内は自分と同質の闇か、それよりも深く濃い物なのか。

 

 二人で冒険が出来る事に気を良くしたのか、ゼゼナは大人しくアイズの後を追った。

 合間に出てくるモンスターはアイズよりもゼゼナに恐れをなして逃げていく。それは控えている冒険者が仕留める。モンスターは基本的に生まれ出たら殲滅しておくのが鉄則だから。

 そうして二人の間に戦闘は起こらずに最初の階層主の部屋に到着した。しかし、ここは既にゴライアスが討伐済みだった為に、そのまま素通りする。

 アイズの目的地は三〇階層より下。

 遠征でもない限り他の冒険者に邪魔されにくい、という理由である。

 道中はとにかく楽。ゼゼナはモンスターすらも恐れさせる。それだけの【ステイタス】を内包していると思われる。

 彼女が生まれたのは偶然の産物だ。それはヴェーラも認めている。

 

(……神が奇跡を祝福しない。それがゼゼナ……、メンテ・シャフラーという存在)

 

 彼女の人生に同情する気は無いが――どこか自分に通じるものはある。

 ついこの間まで同じ空間に居たような錯覚を覚える。そう、それは例えるならば郷愁ともいうべきもの。

 黒龍による謎の現象によって未来に飛ばされた、という仮説をするならば納得してしまいそうになるが――少なくともゼゼナはそんな現象に関係なく時を過ごしているのは間違いない。

 

(……もし、ポランが居なければ……。事態はもっと悪化していた。……もし、私にもっと力があれば……)

 

 単なる【ランクアップ】でゼゼナを打倒できるのか。相手は推定レベル10(テン)。もしくはそれ以上の化け物だ。

 ――無理だ。アイズをしてそう思わせる。

 実力がどうこうという話しではない。神と同等の『超越者(デウスデア)』と化している為だ。

 様々な事を考え続けて下降を続ける。その間、ゼゼナは無謀にも襲い掛かってきたモンスターを指先一つで灰へと変える。ついでに発生した衝撃波によって巻き添えで吹き飛ばされるモンスターも多数に上る。そして、それはダンションの壁面すら粉々にするほど。

 武器も防具も意味をなさない。動くたびに脱げていくと予想していたので随行者は女性限定にした。だが、不届き者は何処にでも現れる。それらについては無視する事にする。それに――ゼゼナは変態を嫌う。

 

 数時間かけて目的地の三七階層。つまり『迷宮の孤王(モンスターレックス)』が現れる部屋。

 ここより下はアイズ一人でも心許ない。現状、仲間と共に気軽に来れそうな場所の心当たりはここくらいしかない。

 レベル4だから言えるがアイズの実力であれば決して不可能でも無理でもない。

 何もない広大な『ルーム』と呼ばれる場所。ここに現れるのは漆黒の骨格を持つアンデッドモンスター『ウダイオス』――しかし、今は現れる気配はない。

 次に出てくるまでに二ヶ月ほどの猶予がある。それを分かった上でやってきた。

 

「……ゼゼナ。ここを貴女の墓標にする」

 

 初めて見る景色に一喜一憂していたゼゼナは動きを止めた。

 アイズへと振り向き、首を傾げる。

 

「ここは……神様に見守られているダンジョンでもある。……確か神ウラノスが……」

「神様に見守られている? それはとても神聖な事ですね。ですが、ダンジョンをどうやって神様が?」

 

 捲くし立てる彼女の言葉をある程度予想し、返答するアイズ。はっきりいってゼゼナの言葉は今もって全く聞き取れない。

 だが、相手方はちゃんと聞き取っているようだ。何度も頷き、反芻するように小声で喋る。

 問題は地面に埋めるか、壁に埋めるか、だ。

 異常事態が起きない事を祈りつつ適切な場所は何処がいいのか考える。

 

「……ゼゼナ。もう……貴女は……眠っていいんだよ」

 

 愛に飢えた冒険者ゼゼナはアイズの言葉にただ微笑む。

 喋りつつもアイズは壁を何度も確かめ、一人で納得する仕草を続ける。

 言葉は理解している筈だ。それがどういう意味であるかも。

 もし、拒否するのであれば戦うしかない。これほどの強敵を失うのは迷宮都市オラリオにとってかなりの痛手ではあるが――既に多大な犠牲が発生した。利益を考える事はできない。

 

「……アイズ。貴女は優しい冒険者です。ふむふむ、なるほど。神の言葉はこういう解釈に取れますか。であれば……私は随分と無駄な事をしてきた。あははは!

 

 唐突に笑い出すゼゼナ。その声の音だけで部屋の壁に大きな亀裂が走った。

 周りに控えていた冒険者達とアイズもすかさず耳を塞ぐものの余りにも身体に響くので痛みが襲ってきた。

 もはや存在するだけで災害を起こす。それを改めて見せつけられた。

 

「へーい!」

「!?」

 

 (おもむろ)に声をかけられたサポーターの一人の頭が爆ぜ飛んだ。

 仲間の唐突な死に悲鳴が沸き上がる。

 声をかけた当人はサポーターの死に対し、思っていたのと違った事に驚き、舌を出して謝った。しかし、そこに心からの謝罪は見受けられず、軽い感じだった事から敵意を呼び込んだ。

 そうであってもゼゼナに対抗できないので我慢するしかない。

 

「……ごめん、みんな。荷物を置いて……離れて」

「……アイズさん。役に立てなくて申し訳ありません。入り口で待機してますから」

「うん」

 

 仲間の死体を引きずって下がっていく者達を見届けた後、残されたバックパックをゼゼナに渡す。

 連れてきた冒険者の多くはレベル3並み。それをあっさりと殺してのけられると武器を持つ手にも自然と力が入る。

 出来る事なら切りかかりたい。だが、それは悪手だと自身の身体が、心が警鐘を鳴らしている。

 

 アイズは愛用品と化した金属製の杭と金槌を取り出し、壁に棺に見立てる為の穴を掘る。それを彼女に見様見真似でやらせる。こちらの言葉は理解しているのですぐに行動に移した。

 ゼゼナの場合は素手でも出来そうだが折角作るのだから奇麗な長方形がいいと提案すると嬉しそうに頷いた。

 もちろん、入るのはゼゼナだと正直に告げておく。嘘かどうかは生物的本能で見抜いてくるので無駄な足掻きはしない。

 

「これが神から託された命題。私はここで死ぬんです。死ねるんです。愛に包まれて。人々からの称賛よりも神こそが私にとっての最上」

 

 ゼゼナは既に殉教者であった。もはや生に縛られない。肉体からの解放を心の底から喜んでいる。

 それはアイズにとっては受け入れられない感覚ではあったが、他に方法があるわけでも無く。

 

(失敗しても怒らないでね)

 

 そう思いつつ金槌を振り居続けた。

 驚異的な『力』を持つゼゼナによって一〇分もかからずに希望の穴が出来た。多少のひび割れは無視する。

 今回は魔石ではなくゼゼナそのものを入れる。その後でどうなるかは分からない。

 ユーカリンの事が急に思い出されたが、あの時とは事情が違う。

 

(穴の中でリル・ラファーガを使ったら壁が壊れそう。ここは余計な事はしない方がいいよね)

 

 アイズが物思いに耽っているとゼゼナ自ら穴に飛び込んだ。

 その後、更に奥を掘り進め、状態を確認する。

 

「アイズアイズ。ここまでありがとう。本当にありがとう。私はここで死ぬからじゃあねー。早く帰りなよ」

「……う、うん」

「皆の為に早く死ななきゃ。どういう風に? 圧死かな? みんな喜んでくれるかなー。今まで生きててごめんなさい。本当に駄目な子で、生きている価値もないのに長生きして」

 

 こちらの言葉はもう届かない。そんな雰囲気を感じた。

 ゼゼナは理解している。ここで自分が死んだ方がいいと望まれていることに。そして、それを受け入れた。

 アイズに出来る事は見守るか、早く立ち去るかの二つだけ。

 その後、彼女は何事かを早口で喋っていたが全く聞き取れなかった。周りの音は聞こえるので鼓膜は正常だ。

 ゆっくりと修復を始めた壁を確認し、立ち去る事を選ぶ。

 ゼゼナはアイズを見ていない。彼女が見るべきは神だけだ。だが、最後に挨拶だけはしないと、と。

 

「……お幸せに」

「アイズもねー」

 

 壁の修復と同時に何かが潰れる音が響く。驚異的な『耐久』でもある彼女が本当に潰されるのか疑問だが、長居しても仕方がない。

 時折聞こえる笑い声が今まで聞いた事が無いくらい嬉しそうに聞こえたのは幻聴ではない筈だ。

 

 仲間と共に地上を目指すアイズ。経過を見ていないので階層主の部屋がどういう事態になっていくのか不安を抱きつつ――

 もし、ゼゼナの安否が分かるとすれば『恩恵(ファルナ)』を授けた最後の主神ヘスティアのみ。いや、改宗(コンバージョン)に関わった神も多少は分かるという話しだった。

 二〇階層より上に行く辺りでダンジョン全体が震えるような物凄い震動が発生した。いや、それは誰かの哄笑の様な響きがあった。

 

(……彼女、喜んでいる?)

 

 その後、一〇階層にたどり着くと今度は更に大きな震動が発生し、アイズ達は立てなくなって地面に伏せる。ところどころから崩落が始まったり、壁に大きな亀裂が走ったり、とにかく滅茶苦茶な状態になった。これは当然、地上にも影響があると思われる。

 まさか巨大なゼゼナが現れたのでは、と冷や汗が出た。

 

「み、みんな大丈夫?」

「はい。崩落のケガはありますが……」

「こちらも無事です」

「ア、アイズさん! ダンジョンのあちこちが光ってます」

 

 普段とは違う光りがあちこちから灯り始めた。それは淡い緑色。見ているだけで安心するような優しい色合いだった。

 それはしばらく灯り続けていた。

 気が付けば震動は止み、地上への行軍を再開する。

 地上に戻ったアイズはまず安心した。だが、それは次の光景によって更なる驚きが齎される。

 ゼゼナの行進によって荒れ晴れたオラリオの市街地は緑色の草で覆われていた。

 それは足首程の高さの植物でいい匂いがした。

 

(……これ、料理に入っている奴だ)

 

 ただ、その植物の名前がアイズには出てこなかった。代わりに『調合』のアビリティを持つ冒険者はすぐにわかった。

 この植物は『ミント』である、と。鼻孔を(くすぐ)る良い匂いが漂い、辺りの血臭が気にならなくなっていく。

 いくつか採集し、神々が待つ本拠(ホーム)に戻るとロキが涙ながらに出迎えてきた。

 普段であれば躱すところだが、今回は特別に抱き締められる事にした。

 

 慌ただしい一日は終わった。

 オラリオ全土に鬱蒼と茂ったミントは数日で全て枯れて、消滅するように消えた。

 採集した分も枯れてはいるが消滅は免れた。

 

「………」

「………」

「………」

 

 経過を報告を受ける為、神々は【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)に――敵対以外――集合し、ほぼ半数以上が項垂れていた。見る者が見ればお通夜だと言いそうな暗い雰囲気だ。

 ヘスティア、アルテミス、アストレア。ここには居ない闇派閥(イヴィルス)の生き残りなども同様の現象になっている可能性もある。

 

「……朝方に反応が消えたよ」

「……(ようや)くおっ()んだか。随分と長生きしたもんだ」

 

 ヴェーラは深夜から起きていた疲れか、眠そうにしていた。

 元は自分が蒔いた種だというのに、と責める神はヘスティアくらい。

 

「……アストレアは秘密裏にオラリオから出て行ってもらうとして……。おいドチビ。連続的に災難やったな」

「……それを言うならロキこそ。今回の戦いでたくさんの眷族()を失ったんだろ」

 

 護衛につかせただけなのに死んで戻ってきた眷族にロキも慌てたが、覚悟はしていた。だが、いい気分ではない。

 それぞれの【ファミリア】も少なくない犠牲者が出た。

 今回の騒動で冒険者だけで二〇〇人近く死傷し、一般市民も多数の犠牲が出た。その責任の所在で冒険者ギルドでは会議が続けられている。

 事は一柱の神の送還で済まされない。場合によれば一〇柱くらいは必要なほど。

 

「人のせいにするなよ。アタシは神は殺すなと命じた。それ以外は知ったこっちゃねーが。元々は人の欲が生んだ結果だ。アタシはただ手助けしただけだ。……それが例え失敗作だとしてもよ」

「けれども、君が側に置いておけば今回の事態は起きなかったんじゃなかったのかい?」

「どうだかな。数百年も経つとあいつも支離滅裂な状態になってきたから。……希望的観察に過ぎねーぜ、それは」

 

 だが、今度はちゃんと責任が持てると言い切った。

 人々の願い――ゼゼナの死――は成った。そして、かの者(メンテ・シャフラー)永遠(とわ)に神の愛を享受できる。その資格を得た。

 これで二日後に復活してきたら驚きだ。ヴェーラとてまだ少し疑っているところがあるけれど。

 

(メンテを殺せる方法は村には無かった。だから、アタシは答えられなかった。……随分と苦労掛けちなったな。……天界で聞かされるテメーの恋愛体験談……すごそーだな。ちょっと怖くなってきたよ)

 

 軽く聞いただけでかなり破天荒な冒険をしてきたらしいので今から寒気が止まらない。だが、一時期とはいえ面倒を見た責任は感じている。

 その時(天界への送還)が来たら諦める。ヴェーラは神生(じんせい)にも嘘はつかない女神だ。

 

 騒動が治まってから約一ヶ月、眷族を失ったヘスティアの下にアイズが訪れる。

 最初の出会いより続いた(ヘスティア)の災難に対し、何らかの罰を求める為もあり、ジャガ丸くんを購入する理由もあった。

 神としては罰を与えるつもりは無く、お互い災難続きの思い出に少しだけ耽る事にした。

 

「……表向きは君に対する敵意を持つ……。それだけでいいのかい?」

「……対外的にもそれがいいって、ロキが……。それに今回は犠牲者が多過ぎました」

 

 ギルド本部に呼び出されても説明できる自信は無いし、行きたくなかった。

 誰も知らない眷族の秘密。それを事細かく把握して団員に向かえたりはしない。神の目をもってしてもゼゼナ・シャフラーは捉えられなかった。いや――もはやあれはそういう次元の存在ではなかった。

 

「三〇階層まで確認されている情報だと……、ほぼ全ての階層が破壊されたような状態だそうです。一八階層も壁のヒビはあったようですが……、こちらは人的被害は少なかったとか」

「相当揺れたからね。その影響で得体の知れないモンスターとか現れていたりしないかな。……昔、ウラノスがなんか言ってた気がするんだけど」

「どうなんでしょうか。……ただ、修復が遅いらしいです」

 

 眷族の居なくなった本拠(ホーム)に寂しく佇むヘスティア。

 別の部屋には各眷族たちが用意した荷物などが残されている。

 外見的には廃墟同然だが熱心に修繕してきたおかげで夏は快適に。冬は暖かく過ごせる。寝床もトイレも。

 風呂が無いのが減点要素だ。

 

「ちわーッス。神様生きてるー?」

 

 暗い雰囲気をぶち壊す明るい挨拶をしてきたのは【アルテミス・ファミリア】の団員ランテであった。そういえば、とヘスティアは思い出す。

 彼女の借り受け期間が残っていたことに。

 

「ら、ランテ君!? もう【ファミリア】に戻ってしまったと思ってたよ」

「それどころじゃないでしょう。主神(アルテミス)様より手伝ってこいという新たな使命を帯びてきました。一人だけになって寂しいヘスティアが今も泣いているのではないか、と余計なお節介を全開させて」

 

 アルテミスの声真似をしながら二人の側に駆け寄る虎人(ワータイガー)の女冒険者。

 アイズとは面識があるが敵対関係というわけではなく、にこやかに挨拶を交わした。

 【剣姫】と【猪獅(カリュドン)】はレベルこそ違うがここ最近では情報のやり取りもしている。主に食べ物の好みや戦い方など。

 

「先日までは泣いてたけどね。さすがに一ヶ月も経てば新しい団員募集しなきゃって思うよ。新人が無理なら誰か改宗(コンバージョン)してくれそうな子はいないかな。出来れば今度は男の子が良いんだけど。もちろん、大人しくて可愛くて……、決して物騒な事態に巻き込まれない普通の子でいいから……」

「男ならこっちが欲しいくらいですよ。今は天気もいいから外から旅人とか来るかもしれないですね。ジャガ丸くんの店を検問付近に出来ないっすか?」

「そういうところは競争率が激しくてね。……検討はしたんだよ。【剣姫】は移動されたら困るだろう?」

「……あー、そう……ですね。でも、場所が分かれば通ってもいいですよ」

 

 その後は新たな眷族募集の為の相談を始めた。

 賑やかな【ファミリア】こそが当初の夢だった。だが、それは思いのほか難しい。

 ヘスティアの様子に安心したアイズは自分の武器(デスペレート)に手を添える。それは振るうべき相手にこそふさわしく、安易に抜くべきではないと改めて思った。

 誰も助けられなかったアイズの決意とは裏腹に時は過ぎていく。

 そして、アイズが十六歳の少女に成長し、レベル(ファイブ)へ至る頃――迷宮都市オラリオにたくさんの冒険者や英雄に憧れを持つ者達がやってきた。

 つい数年前まで未曽有の大災害が起き、数多の冒険者や住人が命を落とした事件など知る由もない。そんな未知を求めにやってきた中に白髪で赤い瞳(ルベライト)が印象的な少年の姿が――

 

『終幕』

 

 

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