Untold Myth   作:トラロック

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#1-03 他人を助ける事に意義はあるか

 

 結論としては他人であれば行き倒れを見つけた時点で助けに出るのが順当である。

 もちろん、条件が色々と加われば仲間や自分を優先する事もありえる。

 例えば怪我の度合いだ。

 戦闘に支障が無い他人が居たら、時には任せる。またはモンスターを押し付ける。

 

「今の状況なら……助ける一択か……。全く動けねぇ場合に限るが……」

「ベートが人助けするところを見てみたいな」

 

 朗らかに笑うアマゾネスの妹。それは決して莫迦にしたものではなく、感心からの笑みだ。しかし、狼人(ウェアウルフ)の青年は気に触ったらしく、蹴りをお見舞いしてきた。――本気ではない蹴りなど当たるわけもなく。

 

「じゃあさ、アイズはどうなの?」

「……血の臭いがしたら……、とりあえず現場に行く。……それから考える」

「そっか……」

「……大きい人の場合は助けを呼ぶ。……だから私も助ける方向……かな?」

 

 自信なさ気にレベル3の『アイズ・ヴァレンシュタイン』は答えた。

 腕力で言えば一般の大人に決して負けないだけの力はある。それゆえに先ほどの冒険者程度も抱えられる筈だが、実際に持たないと何とも言えないので、明言を避けた。

 

「じゃあさ。食べ物が無かったらどうする? 特にベート」

「空腹のままダンジョンに潜った場合か?」

「普通はそんな事しないと思うけれど……。その場合は何が考えられるかな?」

 

 考えるまでもなく、『ベート・ローガ』はダンジョンに潜らないとしか答えられない。

 先ほど『貧乏』という言葉が出た通り、仮にそうだと仮定しても無謀にしか思えない。

 

「適当にゴブリンでも狩ってジャガ丸くんでも食えばいい」

 

 ベートの言葉にアイズも頷いた。

 そもそも二階層目で行き倒れる冒険者など存在するのか、と先ほどの事を棚に挙げつつ思った。――実際に居たわけだが。

 

「下準備なしでダンジョンに潜るのは俺達のような散歩目当てでもない限り、弱ぇ奴は潜るべきじゃねぇな。……そもそも論って奴になるが……」

「そだね。あたしもそう思う」

 

 そう言いつつ質問を真面目に考えて答えてくれた狼人(ウェアウルフ)の青年に感心した。思わず口笛が出るほどだ。

 いつも弱者と言っている彼でも根は優しいのかなと思わせる瞬間がある。だが、それを指摘すると蹴りが飛んでくるし、口も聞いてくれなくなるので黙っている事にした。

 

        

 

 何人かの冒険者とすれ違い、現われるモンスターを片手間で撃退して七階層目まで来た。

 深くなれば強いモンスターが現われ、また数も多くなる。

 ソロで深い階層を目指すには相応のレベルが必要となる。アイズとて単独踏破は想定していない。ただ、モンスターを多く倒せれば良いので。

 

「そんなに早足でもないが……。ティオネの奴遅いな」

「のんびりと歩いてるんじゃない? 目的階層は伝えたんだし」

 

 この階層に現われるモンスターは『キラーアント』と『パープルモス』と『ニードルラビット』だ。

 特にキラーアントは集団で襲ってくるのと特殊なフェロモンで仲間を呼び寄せる。

 単独で潜っている冒険者にとって戦いにくい相手となる。

 

「雑魚が数で攻めて来ようが蹴散らすだけだ」

「硬いのはベートに任せるね。ほら、あたしは裸足だし」

 

 アマゾネスの素足はひ弱なものではない。けれどもあえて女性として言ってみだけだ。

 

「だったら靴を履け」

「……ごもっとも」

 

 軽口を叩きつつ現われるモンスターを確実に撃滅していく。

 瀕死にすると仲間を呼ぶので倒す時は迅速さが重要だ。

 アイズが剣を振るえば瞬く間に通路に魔石が散乱していく。

 愛用する武器は細身の剣だが一般的に入手が可能な安物ではない。

 ベートは蹴りが主体で金属製の特殊なブーツを装備している。

 三人の中で一番の軽装はアマゾネスの少女だ。本来は自身の身体よりも大きな武器を振り回す。けれども今は完全な無手。

 必要最低限の回復アイテムしか持っていない。

 

「雑魚じゃあ物足りねぇな」

「【ランクアップ】が近いお陰もあるけれどね。ちょっと前まで大量のモンスターに臆してたのは誰だったかな?」

「知らねぇな、昔の事は」

 

 会話しつつも攻撃の手は休めない。

 他の冒険者の姿も無いので遠慮なく全滅させていく。

 モンスターは基本的に他の冒険者の為に残す必要性は無い。現われるものは全て全滅させても良い。早い者勝ちだ。

 むしろ低レベルの冒険者が危険にさらされてしまうので駆逐は必須である。

 

        

 

 次の階層も同じようにモンスターを倒し、目的地である十二階層には一時間かかった。

 一匹も逃さずに倒しきるのは今のベート達でも結構な手間であった。

 合間に魔石やドロップアイテムも揃っていくので。

 

「今日は大量だね」

「大物やレアモンスターには出会わなかったがな」

 

 次の十三階層に行く場合は特別なアイテムを持参しなければならない。けれども今回は行かない。――アイズとしては苦渋の決断になった。

 灰色の世界が支配する生気の無い様相を持つ階層には枯れ木のようなものがたくさん生えていた。それらはこの階層の現われるモンスター達の武器『天然武器(ネイチャーウエポン)』と呼ばれるもので、事前に破壊したとしても時間経過と共にまた現われる。

 見た目は枯れ木だがモンスターが引っこ抜くと棍棒に姿を変える。その原理は不明である。

 

「……到着したはいいんだけど……。霧が出ているね」

 

 毒は無いが視界が利きにくい。

 混乱になると味方の位置が把握し難くなる。

 アイズ達は広い空間に降り立つ。

 それぞれの階層は単なる狭い洞窟ではなく、高い天井を持ったり、入り組んだ地形などさまざまだ。

 入るたびに変形しているわけではないので、地図を作成することも可能だ。――もちろん、危険と隣り合わせなので必然的に高額になりやすい。

 

        

 

 ベートは適当な木を蹴り倒してモンスターの気配を探る。

 狼人(ウェアウルフ)は野外でこそ本領を発揮する種族なので自身の能力を十全に発揮出来ない空間において思うところがあるようだ。

 レベル2とはいえ、自分の実力に決して奢らず、上を目指す気持ちは誰にも負けない。

 対照的にアマゾネスの少女は常に笑顔で気の抜けた雰囲気を感じさせるが、それでも戦闘民族出身なので闘いなれば気は抜かない。

 今は武器を持っていないが素手でも充分に戦果を上げられる実力を持っている。

 アイズはレベル3ではあるが常にダンジョンに潜っているので低い階層に現れるモンスターに苦戦する事は殆どない。それどころかレベル1の時にレアモンスターである『小竜(インファント・ドラゴン)』を十体ほど討伐しても【ランクアップ】しなかったほどの傑物だ。その身に宿す潜在能力は未だ限界知らずだ。

 辺りを警戒していたベートが異音を聞き取った。

 地面が割れる音。次にそこから何ものかが現れる音が続く。

 

「来たぜ」

「りょーかい」

 

 アイズは無言で剣を構える。

 そこに遠くから声が聞こえてきた。

 

「おっまたせ~!」

 

 ケガ人をギルド本部に届けたアマゾネスの姉の方だ。

 手を振りつつアイズ達に向かって駆け出していた。

 

「随分時間がかかったな。迷ってたのか?」

「あはは。いやまあ、背中にゲロをぶちまけられてそのまま来られるわけないじゃない」

 

 あたしは女の子なのよ、と言いながら合流する。

 

「事情説明に彼女の神様からえらく感謝されたりと……。いろいろあったのよ。あと、あの子……。食(あた)りみたい。あんた達も気をつけなさいよ」

「……栄養失調とかじゃねーんだ」

 

 急に具合が悪くなるなら仕方が無いか、とベートは呟いた。

 実力不足によるものでないならば文句を言っても仕方がないと思うことにした。

 

        

 

 色々あって風呂などで身体を洗ったり、服を乾かしたりしていた事などを告げて戦闘に参加する。

 アイズ以外はレベル2だが、何度も来ている階層で討伐経験のあるモンスターに遅れは取らない。

 2(メドル)ほどの背丈で肥満型。豚の頭を持つ二足歩行するモンスター『オーク』が集団で現われた。

 耐久力があり、天然武器(ネイチャーウエポン)で攻撃してくる相手だがベートは蹴りによって弾き飛ばす。

 蹴り技主体の彼の攻撃方法は力押しだが、腕にガントレットを装備しているので上段への攻撃にも対処できる。

 対するアマゾネスの姉妹はほぼ無防備に近く、強固な防具は身に付けていない。

 体術のみで相手の攻撃を避ける。――もちろん攻撃を受ければただではすまない。

 

「どんどん増えてきた~」

「雑魚が数を増やしたところでやる事は変わらねぇ」

 

 そんな彼らとは別次元の動きを見せるアイズ。

 無言のまま細身の剣を的確に振りぬいていき、オークを圧倒する。

 ほぼ一撃。ただの一刀で黒い塵と化すモンスター。

 彼女が通った後には魔石とドロップアイテムが転がるのみだ。

 モンスターは冒険者に怯まず、地面から無尽蔵に生まれ続ける。

 もし、そのペースで止め処も無く生まれるのであれば階層が埋ってしまうのも時間の問題だ。――だが、実際にはそうはならない。

 冒険者に倒されるからではなく、昔から存在する()()()()()()のようなもの。

 例えば階層ごとに現われるモンスターはだいたい決まっている。例外が無いほどに。

 無限生成であれば高レベル冒険者が延々と狩り続けられる仕組みを構築し、魔石を膨大に取得出来る筈だ。

 ただ、さすがに需要と供給の観点から値崩れしない配慮をギルド側が調整してくる筈だ。

 数百匹近いモンスターを倒したような気分になってきたが実際はそこまでの数には昇らない。

 いくら【剣姫】という『二つ名』を持つアイズとて無限の体力を持ってはいない。

 適度に休息を挟みつつドロップアイテムを回収していく。

 そうして二時間ほど経過する頃には持ちきれないほどの収穫物が手に入った。

 

「レアモンスターは出てこなかったね~」

 

 にこやかに笑うアマゾネスの妹。

 多少の擦過傷がある程度で体力面ではまだ余裕を見せていた。

 対する姉も似たような状態だ。

 狼人(ウェアウルフ)のベートは敵意を振り撒き続けていたせいか、必要以上に疲れを見せていた。

 大振りな攻撃が多かったことも原因の一つ――。それと攻撃方法が蹴りのみ。

 手が使えないわけではなく、一種のこだわりだ。

 

「静かになったわね」

「インターバルって奴でしょ。あたしらもそろそろ戻らないと……」

「……うん」

 

 それぞれ意見がまとまり、ベート共々地上を目指す事にした。

 一定数のモンスターを狩るとしばらく静かになる状態をインターバルという。

 基本的にモンスターは冒険者が階層に足を踏み入れた時に現れやすいと言われている。その原因はギルドのみ把握していて、一般の冒険者はただ現れるモンスターを倒すのみだ。

 

        

 

 他の冒険者と違い、アイズ達の足取りは軽やかだ。

 レベル1では下に降りるのも上がるのも苦労するというのに――

 現われる雑魚モンスターを蹴散らしつつ前進するのはその実力を如実に表していた。

 ギルドに戻り、換金を済ませた後は【ファミリア】に戻って風呂場を利用したり、食事を摂ったりする。

 

「何か収穫はあったか?」

 

 落ち着いた様子で尋ねてくるリヴェリアにアイズは首を横に振る。

 今回はあくまで散歩。低階層にしか行っていないので報告するような異常事態は無かった。

 それを言葉少なめに淡々と説明するがリヴェリアは不満を見せずに黙って首肯する。

 リヴェリアとしても約束を守ったようで満足していた。――いつもならば勝手に下層を目指し、仲間達に迷惑をかけていたアイズが今は随分と聞き訳が良くなったと感心していた。

 

「……あ。……そうだ。……今日、行き倒れを見つけた」

「ベート達の報告にもあったな。……食(あた)りだとか?」

 

 災難というか不運というか。

 リヴェリアとしても感想に困る事態だ。

 モンスターに襲われた、というのであれば話は別だ。

 

「……そういう冒険者は助けてよかったのかな?」

「分かってて見殺しにするのは……、良くは無いな。助け合い精神のない冒険者稼業だとしても、だ。……敵対【ファミリア】ならばまた話が変わるが……」

 

 どの道、それらは現場が判断することで拠点に居るリヴェリア達の命令をいちいち窺う必要は無い。そして、アイズ達は既に自己判断の出来る実力を持っている。

 少し手放しで彼らの成長を見守らなければ後続が育たない。

 

「恩を売る相手を選べ、と……。本来は言うべきだが……。信用の積み重ねは大事だ。いざという時、誰からも相手にされなければ誰からも返事は返って来なくなる」

 

 一人で自己解決出来るほど冒険者という人種は完璧ではない。

 時に騙され、誰かから貶められる事も実際にあるのだから。

 実力者であるアイズも例外ではない。そうリヴェリアは思っている。

 

        

 

 アイズ達に助けられた赤毛の女の子『ポラン・ブーニディッカ』は首から下を包帯に包まれて廃墟と化している拠点で大人しく過ごし、助けが来なければ命に関わっていた事態にショックを受け、ここ数日は蟄居(ちっきょ)していた。

 神『ヘスティア』もどう声をかければいいのか分からず、気まずい雰囲気が支配していた。

 背中は傷だらけだが【ステイタス】の更新には何ら問題は無い。

 微々たる数値の上昇だが、確実に増えている事は分かっている。

 彼女は地道な努力型だ。だから無理な背伸びを望んではいけない。

 

「ケガは数日で治るとしても……。君が次もダンジョンに挑戦するか、だけど……」

 

 一先ず元気になるかどうかが問題だ。

 別に冒険者として働けなくなったとしてもヘスティアは決して彼女の選択を否定しない。命より大事なものなどありはしない。

 身体を壊してまで無理をする必要はない。

 

 だが――

 

 唯一の団員を失うことに抵抗を感じていた。今もこっそりと募集はかけているのだが、二人目はまだ現れてくれない。

 今のままではポランに負担が押し寄せる。どうにかしなければ、という焦りは感じていた。

 冒険者は一人(ソロ)より複数(パーティ)の方が安心だからだ。

 【ファミリア】には派閥抗争のようなものがあるが、そんな事に拘るのはもっともっと後だ。

 ヘスティアは厚意で貰った食料をポランに渡して団員集めに邁進する。――本来、神が団員の為に仕事をする事はない。絶対ではないけれど――

 しかし、仕方が無い。どうしようもない。

 地上に降りたヘスティアは楽な生活が出来ていないのだから。

 

        

 

 傷跡は痛々しく残ってしまったポランは四日ほどで外を散歩できるまでに回復した。

 精神的に荒んでずっと引きこもってしまうのではないかと危惧したが、いつもの笑顔を取り戻したようだ。――ただし、傷跡が多くなった事は少なからず気にしていた。

 それらのケガも【ステイタス】の恩恵により、いずれはどうにかできる。

 冒険者は一般人に比べて様々な能力の恩恵を貰う事が出来る。ただし、それらは【ランクアップ】して身につけるスキルに左右されてしまうけれど。

 それでも耐久力は確実に高くなっているのは間違いない。

 

「お金を稼いで少し高いポーションを身体に振りかければ傷跡も消えると思うけれど……。それまでが長い道のりなんだよな」

 

 日々の生活も大事だけれど――、とヘスティアは前置きする。

 どんな冒険者も無傷でダンジョンを踏破できるほど強くは無い。――例外が何人か居るという噂はあるけれど。

 かの【剣姫】ですら死にかけた事があるという。

 

「無理な背伸びをしても良い事なんかないんだぜ。君は地道な冒険者で居てくれよ」

「……はい」

「前にも言ったと思うけれど……。【ランクアップ】には条件がある。一定以上の【ステイタス】の数値を満たさなければならない。だから、いきなりレベルが増えたりはしない」

 

 仮にいきなりレベルが増えるような事態があれば誰も彼もが高レベル冒険者になっている。いや、下手をすれば最高水準まで行ってもおかしくはない。

 だが、現実はそれを否定している。

 

 そんな方法はありはしない、と――

 

 剣を振る特訓を始めたポランは第一階層に潜る許可を受け、無理をしない堅実な戦いを始めた。

 ヘスティアは相変わらず団員募集だが、冒険者として再始動したポランに感動していた。

 自分に才能が無いと分かれば諦めてしまうし、大ケガによって心折れることも――

 それでも彼女は剣を持つことを選んでくれた。――一時的かもしれないけれど。

 

「野望を持ってこそ……。そればかりが冒険者ではないけれど。……ボクは黙って君を応援するよ」

 

 と、物陰から見つめる神ヘスティア。

 冒険の旅は長くて当然。だからこそ歩む一歩はとても大事にしなければならない。

 

 

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