突然だけど束の髪は長い。
男の俺からしたら手入れが大変だろうなぁって感じだけど、趣味と実益を兼ねてるらしいから多分平気なんだろう。
前にも触った事があるけど、俺や親父の髪とは違ってさらっさらなんだよなぁ。
「……さっきから何見てんのさ?」
「ん? 束の髪って長いから色々な髪型試せるだろーなって思ってさ」
ツインテールだろー? サイドテールだろー? 三つ編みなんかも似合いそうだなぁ。
母さんは髪短いから絶対出来ないし、他の女子も束ほど伸ばしてる子居ないから、触らせて貰えないかな?
特に三つ編みの編み方を最近知ったから誰かに試したい、千冬に頼んだら一発でやらせてくれるだろうけど、今は先生に頼まれてプリント運んでて居ないからなぁ。
「てな訳で束、OK?」
「さっき髪がどうのって言ってたけど、もしかして触りたいの?」
「ダメ?」
「……まぁ、好きにしたら?」
どーでも良さげな顔をしながら顔を逸らされたけれども一応OKは貰えたので、遠慮なく束の髪を触わろうとしたら丁度千冬が帰って来た。
「何をしてるんだ?」
「今から髪触らせて貰うとこー」
「髪? …………束の髪がいいのか?」
「ん? 髪編んでみたいだけだからなぁ」
「なら私が協力しよう、束は気難しいからな」
確かに前から髪を伸ばしてるから千冬も大分長い、編んだり結んだりするには十分だけど、束も雰囲気的にはあんまり嫌がってないからなぁ。
どーしようか考えてる間に千冬が俺の横の席に座って背中を向けたから、取り敢えず髪を触ってみる。
束と同じくらい伸びた髪、サラサラとした手触りとシャンプーの香りがして流石に女の子って感じだなぁ。
千冬の髪を三つ編みにしながらそんな事を考えてた俺だけど、ふと疑問に思った事を聞いてみた。
「なぁ千冬、一個聞いても良いか?」
「どうした?」
「いや、昔は髪短かったよな? 何で伸ばしたんだ?」
「…………髪の長い女がいいんだろう?」
ボソッと呟く様な千冬の返事は束並みに拗ねた感じで、振り向いた視線もジトッとした物だった。
なんか変な事言ったかな? けど拗ねた顔が束に似た感じだし、多分俺のこの質問が引っかかってるんだろう。
千冬の言葉から考えて昔聞かれた奴かな? 髪の長い女の子の方がいいのかって話。
どんな流れでそんな話になったのかなぁと思い出してる最中、ぽんぽんと肩を叩かれたので思わず振り返ったら、ほっぺたに束の指が当てられた。
「……束さんを放置しないで欲しいんだけど?」
「おー悪い悪い、別に仲間外れにする気じゃなくってさー」
千冬の髪弄ってたから後ろ向きになってたし、会話を途中で切り上げちゃったからなぁ。
そう思って振り返りながら束の方を向いたら、今度は千冬に袖を引かれて正面を向かされる。
「私の髪を編んでる最中だろう? そっちを向いてたらちゃんと編めないぞ?」
「お、おう、そうだな?」
確かに束の方を向いてたら作業の手が止まってた。後ろ向いて話しながら別の作業するような器用な真似は苦手だし、取り敢えず千冬の髪を編んじまおう。
あ、ついでに俺のお洒落用の伊達眼鏡もあるし、そいつも付けてちょっと知的な感じをプラスしてーっと。
「良しOK。さぁ次は束の番だな」
「私への感想はどうした?」
「えっ? んー? 今までより大人びて美人になったけど、俺は何時もの千冬の方が見慣れてるからやっぱそっちの方が良いな」
「……そうか」
何か妙に満足した様な感じでそう言った千冬はそれっきり何も言わなかったけど、横で聞いてた束がジトッとした目で俺を見てる。
怒ってるって感じじゃない、けど拗ねてるって言うのも微妙に違う、けど不機嫌な表情なのは分かった。
試しに髪に手を伸ばして手を払われるかどうかで怒り具合を確認してみたけど、触らせてはくれたので約束通り髪を弄ろうと思ったんだけど……三つ編みはもうやっちゃったんだよなぁ。
じゃあ他の髪型に……とも考えたけど、どれもこれもしっくり来ない。
「いつまで触ってんのさ、早いとこ髪弄れよ」
「うーん、やっぱいいや。普段の束が一番可愛いし」
頭の中で色々束の髪型を考えてたんだけどやっぱ普通の髪型が一番似合ってる、特に髪型変える必要が無いから弄る理由もないしなぁ。
てか、そんな理由なら千冬も弄る必要は無かったかな? んー、でも千冬はポニーテールとかも似合いそうだからなぁ、クールビューティだし。
つーかさっきから束が何にも言わないんだけど、もしかして恥ずかしかったのかな? けど可愛い物を可愛いって言うのは悪い事じゃないし、そもそも実際可愛いんだから言われても平気じゃないのかな?
実際面と向かって美人って言った千冬を見たら平気そうにしてるし、なーんでそんな恥ずかしがってんだろ?
「なー束ー? なんでそんな恥ずかしがってんの? 実際束は可愛いんだから別に恥ずかしがる事無いじゃん」
「お前さ!! お前さぁ!? そーゆーとこだよ!? もういいから、分かったから、黙れってば!! お前だって面と向かってカッコいいとか言われたら恥ずかしいだろ!?」
「えっ? 俺カッコいいの?」
「だぁぁあ、もう!! い・い・か・ら・だ・ま・れ!!」
そう言って束は俺を揺さぶりながら怒り始めたけど、恥ずかしさからか顔を赤くして涙目になってるから全然怖くないんだけど、俺の考えが読めたのかその日の束からの言葉の棘が割増になるのだった。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ