一泊二日のキャンプ体験、俺は着いてから渓流釣りに出かけたり、周辺の散策をしたりして一日中遊び回ってたけど、夜になってコテージの前のベンチで星を眺めてた。
よく束の話を聞いてたから俺も何となく宇宙に興味がある、昔聞いた話だと今俺達が見てる星にも寿命ってのがあって、もしかしたら今見てる夜空の中から明日無くなる星ってのがあるかもしれなかったり、誰も見っけてない星があったりするんだとか。
ひょっとすると俺の見上げてる夜空の中にもそんな星があるかもしれない、そう考えた俺は空を見上げて探しては見たけれど、星座の形くらいしか分からない俺じゃそんなもん分かるわけ無かった。
「なーにやってんのさ、もう夜だよ?」
少し気落ちしてる所に上から声が降ってきた。
見上げてみると、女子の泊まってる方のコテージの二階から束が声を掛けて来たらしくて、ベランダの手摺に頬杖つきながら俺を見下ろしながら控えめに手を振ってる。
束の表情から多分俺みたいに空を見上げてたんだろう、自分の夢を語ってる時と同じ顔してるし。
「星探してたんだけど……中々見つかんねーわ」
「星? 何探してたのさ?」
「何って、消えた星?」
「消えた星なんて消えてるんだから探せる訳ないでしょ……」
呆れた様にため息を吐いた束はそのまま部屋に引っ込むと、しばらくして玄関の方から上着を羽織って出て来た。
そんで俺の横に座ると、チラッとこっちを伺う様にしながら俺の顔を覗き込んで来た、なんか顔に付いてるのかな?
「で? 今日は珍しく一人で居るみたいだけど、どうしたの?」
「俺だって偶にはそんな日もあるよ、そー言うお前も千冬と一緒じゃねーじゃん」
「ちーちゃんは他の子と一緒にトランプで遊んでる、ちーちゃんも君ほどじゃないけど慕われてるからね」
「千冬はしっかりしてて頼りになるからなぁ……」
最近ちょっと拗ねたりする事が多くなったけど、前までに比べたら大分笑う様になったし趣味も多くなった。
その事について本人から『お前の影響だ』とか色々言われたけどそんなに俺は何かした気はしないんだよなぁ、ただ普通に遊んでただけだし。
涼しい夜風の所為なのか、少ししんみりした気分になってた時、束から俺に質問が飛んで来た。
「……前から思ってたんだけどさ、君はどうしてそんなに友達を作りたがるのさ?」
「どうしてって……理由が無きゃ作っちゃダメなの?」
「ダメって訳じゃ無いけど……正直私みたいな面倒くさい女を好き好んで友達にする奴なんか君くらいのものだよ?」
「んな事言われても……考えた事もなかったなぁ」
束を面倒だと思った事は一回も無い。そりゃ昔は嫌われてたけどさ、人付き合いが苦手な人なんて子供だけじゃなく大人にだって居るんだ、別に束だけが特別苦手な訳じゃない。
確かに下手したら先生より頭も良いし、千冬よりも運動神経いいからその点は他の人と違うのかも知れないけど、たったそんだけだ。
千冬だって本気を出したら他の人より頭もいいし、運動神経だって束以外に負けた所を見た事が無いのに友達が居る、慕ってる人って言ってもいいかもしれないけど、そんな超人にだって人の輪が出来るんだ、それで人を避ける理由にはならないと思う。
けどこれは束の事を気にしない理由であって、友達を作る理由じゃないんだけど……やっぱり理由がないんだよなぁ。
「だーめだ、やっぱ思いつかねぇや」
「そっか、まぁ君らしいっちゃ君らしいけどさ……」
「まぁ俺は馬鹿だからなぁ、難しい事考えてねーからそんなもんだよ」
「はぁ……ある意味それ、才能だよ」
やれやれと呆れた様にため息を吐きながら俺の横から立ち上がると、『そろそろ門限だからコテージに帰ったら?』と言って自分のコテージに帰って行った。
そして、玄関のドアノブに手を掛けた時にふと思い出した様に束は俺の方へ振り向き––––。
「––––ああ、そうだ。いつになるか分からないけど、友達の君に私の夢を真っ先に見せてあげる、ちーちゃんにも箒ちゃんにも内緒の秘密なんだからね?」
そう言って、束はウィンクしながらコテージへと入って行った。
束の夢がどんな物かは分からない、けど束が自信満々な雰囲気だったからきっと凄い物なんだろう、だったら俺に出来る事はそれを楽しみに待つ事だけだ。
––––そんな風に束が見せてくれる夢に期待を膨らませながら、自分のコテージに帰る前にもう一度空を眺めるのだった。
本作の主人公が友達を作る理由に打算はありませんが、この作品の最初の頃に感想欄で言ってた最初期まで生きてた没設定を知ってると案外……。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ