天災二人と馬鹿一人   作:ACS

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甘い話が書きたかったんです……(過去形


小学五年生 8

 

夏の暑さを吹き飛ばす為には涼しくなる事が大事な事なんだけど、プールや海水浴は子供だけじゃ行けない。

 

篠ノ之道場にある井戸水を頭からかぶる方法もあるけど、心臓がきゅっとなるくらい冷たいから多分やり過ぎは良くないんだろうなぁ。

 

けど今日は道路から湯気が出るぐらい暑い、外に遊びに行きたくてもクーラーと扇風機が働いてる自分の部屋から出たくない。

 

ゲーム……は大体やり切ってるし、アニメも今見終わったところだからなぁ。

 

誰か遊びに来ないかなぁとか思って窓から外を眺めてると、日傘を差した千冬と一夏くんが散歩してるのが見えた。

 

 

「おーい千冬ー!!」

 

 

思わず窓を開けて名前を呼んでみたけど、結構遠くて距離があったからもしかしたら聞こえてないかもしんない。

 

とりあえず携帯で改めて呼ぼうかと考えた時、千冬が俺の方を振り返って手を振ってるのに気が付いた。

 

車とか結構通ってんのに良く俺の声が聞こえたなーなんて思ってたら、千冬の方から着信が掛かってきたんでそれも聞くために電話に出た。

 

 

「よっ!! 結構距離あるのに良く俺の声が聞こえたなー」

 

『不思議とお前の声は特別良く聞こえるんだ、それで? 何の用なんだ?』

 

「暇だから遊びに来ねぇ? 一夏くんも一緒にさ」

 

『そうだな、丁度私もどこかの店にでも入って涼もうと思ってたところだ』

 

「よっしゃ、じゃあ待ってるぜ?」

 

 

そっから暫くしたら二人とも俺ん家に来たんで、一夏くんに冷たいジュースをあげながら部屋まで案内したところで……どうしよっか?

 

呼んだまではいいんだよ? 一人で遊ぶのってのは暇以外の何でもないからさ、けど元々何しよっかな?って暇してるところだったからやる事がない。

 

 

「てな訳で千冬、どーする?」

 

「どーするも何も、何かする気だったから私を呼んだんじゃないのか?」

 

「そのつもりだったんだけど、何するかを考えて無かったんだわ」

 

「まったく……お前という奴は……」

 

 

呆れた様にやれやれと頭を抱える千冬、横に居る一夏くんも同じ様にやれやれポーズを真似してるのを見て笑って誤魔化そうとした時、ピーンと閃いた。

 

頭を抑えるその仕草はこの時期限定のアレだ!! 確か親父の部屋に道具があったはず。

 

 

「っつー訳で!! 持ってきたぜかき氷機!! 結構重かったけどな」

 

「鉄製のかき氷?」

 

「むかーしの奴なんだってさ、ここにでっかい氷のブロックを置いて取っ手をぐるぐる回すんだってさ」

 

 

親父の趣味で毎年かき氷を作ってるから家には氷のブロックが置いてある、ちゃんとシロップも持って来たからこれで涼しくなろうってな寸法よ!! あと、一夏くんはかき氷機回すの初めてだろうし。

 

興味深そうにぐるぐると取っ手を回す一夏くん、けどよく見ると千冬の方も少し触ってみたそうな顔してるのが分かった。

 

「にーちゃん!! にーちゃん!! まわしたい!!」

 

「よーし!! じゃあ一夏くんは千冬の分を作る係だ!!」

 

「うん!!」

 

「んで、千冬は一夏くんの分を作る係だな!!」

 

「……私も良いのか?」

「ん? 俺ってそー言われてダメって言う意地悪な奴に見える?」

 

「そうは言ってないが……」

 

「やりたいんだろ? 顔見りゃ分かるよ、千冬は分かりやすいから」

 

 

ぱっと見クールな感じに見えるけど、案外一夏くん並みに好奇心の塊だからなぁ、表情に出して無くても視線とか指の動きとかで十分何考えてるのかは分かる。

 

最近脱デブ猫をしたみーくんに対しても一夏くんが構ってるからって自分は一歩引いたところで見てたり、部屋の猫じゃらしとかに視線が行ったりするから割と千冬は素直なんだよなぁ。

 

 

「ま、そんな訳だからさ、思う存分ぐーるぐるしなさいな、一夏くんみたいにさ?」

 

「そう、か? なら遠慮なくやらせて貰おう」

 

 

そう言って、千冬は心なし嬉しそうな顔をしながら一夏くんの次にぐるぐると氷を削り始めた。

 

ゴリゴリ削れる氷の音とその感覚が心地良かったのか、思う存分削った後に一夏くん用にしては量が多い事に気付いたらしく、ちょっと冷や汗が流れてる。

 

一応そのかき氷は俺が貰う事で解決したんだけど、申し訳なさそうな千冬が気になった。

 

前々から思ってた事なんだけど、千冬はちょっとした失敗とかに結構凹む所がある、しょっちゅうやらかしてる俺からすれば何でそこまで気にするのかが分からないんだよなぁ。

 

 

「なぁ千冬? これぐらい誰だってやる事だろ? そんな凹まなくても良いじゃん」

 

「……お前からすればそうかも知れんが、私にとっては些細なミスでも重大な事なんだ」

 

「かき氷の量ミスったくらいでも?」

 

「ああ、そうだ」

 

「んー、完璧主義って奴か? けど千冬ってそんなに完璧なのにこだわってたっけ?」

 

「私に関しては分からない……だが、父と母は私に完璧を求めるんだ」

 

 

かき氷を食べていた手を止めて俯きながらそう呟く千冬、前々から結構大変な家族なのは知ってるけれど、だからと言ってそれを解決できる様な人間じゃないのは自分がよく知ってる、だから俺は黙って話を聞く事しか出来ないんだけど……それがちょっと悔しい。

 

 

「あまり父と母とは会話らしい会話はしない、偶に学校の成績を聞かれる程度なんだが、その時に期待を下回る成績だと……酷く失望した目をされるんだ」

 

「千冬……」

 

「完璧であって当たり前、些細なミスも許さない、あの人達は私に対して一体何を期待してるんだろうな……」

 

俺はそう言ったきり無言になった千冬を抱き締める、少しでも励ましたかったのもあるけど、一夏の前では弱い所を見られたくないだろうと思ったからだ。

 

結局俺は母さんが慰める様にゆっくりと頭を撫でながら千冬を慰めるしか出来なかった……。

 

 





織斑家は家族とは呼べない模様(震え声

原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)

  • MF文庫J
  • オーバーラップ

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