今日はなんとなく束の家に遊びに来たんだけど……結構雰囲気が重い。
というのも、何でか知らないけど箒ちゃんが『私怒ってます!!』って感じでほっぺを膨らませてアピールしてて、束が話しかけてもずっとそっぽ向いて無視してるから、段々と束が涙目になっててさっきから何も話せてないんだよね。
どうしようかと考えてると、横の束に肘で突かれて何とかしろと言うアイコンタクトが飛んで来た。
不器用な束だと全然上手く不機嫌の理由を聞けなかったんだろうなぁ、と思いながらアイコンタクトがバレない様に箒ちゃんにそっと耳打ちをする。
「ねぇ箒ちゃん? 俺だけに内緒で怒ってる理由を教えてくれないかな?」
「……あのね? ねーさんがあそんでくれないの」
「あの束が? 世の中で一番箒ちゃんが好きって言ってるくらいなのに?」
「でも!! ねーさんはきのうもあそんでくれなかったもん!!」
ヒソヒソ話だからか、箒ちゃんの不満を知る事が出来たんだけど……これって束の所為なのかなぁ?
言われてみれば最近は色々忙しいらしくて学校や道場くらいでしか会わないんだけど、家でも帰るのが遅くなってるって事を言ってた様な気がする。
箒ちゃんが拗ねまくってる理由も多分その忙しくて遊んでくれないって部分なんだろう、ただコレを束に伝えたくても『ないしょだよ!? ないしょだよ!?』って言って教えてくれた反面、中々伝え辛い。
……俺に対してはニュータイプ能力発動してるのになんで箒ちゃんには発動出来ないんだろう?
「だから私をそんな変なカテゴリーに入れるなっての」
「やっぱニュータイプじゃんか、その調子で箒ちゃんの事も理解してみろって」
「君の表情とか雰囲気で考えてる事を察してるだけで、意思疎通が出来てる訳じゃないからね!?」
「えっ? てことは束は俺の事をめちゃくちゃ理解してるって事?」
やだ照れる。とか思った瞬間束からめちゃくちゃ鋭い視線で睨まれて黙らされた。完全に『お前が構いに来るから覚えただけ』って感じの意味が込められてるよねこれ?
箒ちゃんと同じような態度でふいっと顔を逸らす束、そしてそんな束を見て俺と遊んでると感じたのか、さっきまで会話してくれてた箒ちゃんがまた膨れっ面になってしまった。
しかもむっすーとした顔で涙目になりつつ、俺のお腹をぽかぽかと叩きながら上目遣いで抗議して来たから、箒ちゃんを除け者にして遊んでると思われたらしい。
「ご、ごめん箒ちゃん!! 除け者になんてしてないから!!」
「にーさん、嫌い!!」
「何箒ちゃんを泣かせてんだよ馬鹿!! ほーら箒ちゃん? おねーちゃんの胸に飛び込んでおいで〜?」
「ねーさんも、嫌い!!」
「何で!?」
「ほ、ほら箒ちゃん!! 束も一緒に遊んでくれるから!? ね? おままごとでも鬼ごっこでもなんでもするからさ!!」
「そ、そうそう!! 今日は研究所の人達からの連絡はないし、特に私がやんなきゃダメな事は片付けて来てるから一日中遊べるよ?」
「……ほんと?」
「ほんとほんと!! なっ束?」
「うんうん!!」
小さい子だからか、俺たちが必死にそう謝っていると少しずつ機嫌が良くなって行く箒ちゃん。
膨らんでいた頬っぺたが徐々に小さくなって行って、笑顔を見せてくれた彼女は、俺たちへ小指を差し出して指切りをねだって来た。
別に約束を破る気は無いし束も元々そのつもりだったのか、俺たちは普通に指切りをしたんだけど……この後箒ちゃんが言ったセリフを聞いた俺は、アニメとか漫画を持ち込み過ぎたと少し反省する事になった。
「ゆーびきーりげーんまーん。うーそついたーらにえたなまりのーます、ゆびきった!!」
「待って箒ちゃん!? 煮えた鉛って言葉どこで覚えたの!? 流石の束さんもビックリだよ!?」
「多分神奈川県川崎市の赤いヒーローじゃね?」
「この馬鹿!! 明らかに箒ちゃんが悪影響受けてるだろ!?」
「大丈夫だって!! 絶対意味分かってないから!!」
その証拠に箒ちゃんはなんで騒いでるのか分からないらしく、キョトンとした顔をして首を傾げてるし、束にも『ねーさん、にえたなまりってなぁに?』って聞いてるからやっぱ分かってないっぽい。
多分とりあえず怖い事って事はなんとなく分かったから、それを言っとけば約束守ってくれるって発想なんだと思う。
しばらく箒ちゃんに影響の出そうな漫画とかアニメを持ってくるのはやめようかなって思いながら、嬉しそうにおままごとの道具を持ってきた箒ちゃんを見ていると、束の携帯が鳴った。
「束ー携帯なってるよー?」
「……研究所の人からだ」
束は『どーせまた融資が断られたって話でしょ……』とか言いながら心底嫌そうに電話に出たんだけど、見るからに機嫌が良くなって見たことが無いくらい笑顔になり、『やっっったぁぁぁあ!!』と叫びながら抱き付いて来た。
「融資が取れたって!! 開発の許可も降りたって!! 部品の発注先も見つかったって!! やっと、やっとだよ!! やったぁぁぁあ!!」
「お、おう、何作ってるのか知らないけど良かったな?」
普段箒ちゃんにやってる様な感じで、束は俺に頬ずりしながら嬉しさを爆発させている。
箒ちゃん以外の事でこんなに束が喜んでるのは初めて見るから、結構新鮮だったんだけど、全力で抱き付いて来てるからか少し苦しかった。
そんな事を思いながら箒ちゃんを見ると、また仲間はずれにされたと勘違いして膨れっ面になっていて、それを宥めるのと嬉しさが爆発した束に苦労する事になるのはまた別の話。
開発の許可、研究資金の融資、各部品の発注先の確保、次回の幕間から本格的に開発が始まりますがまだフレームの強度や技術的限界的な意味で前途多難な模様。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
-
MF文庫J
-
オーバーラップ