天災二人と馬鹿一人   作:ACS

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小学五年生 17

 

 一発殴って気が済んだ束と、後からきっちり用意してきた千冬を連れて集合場所まで行くと、もうみんな集まってたのか早速インストラクターの人の滑り方の説明が始まった。

 

 千冬は真面目に話を聞いてるみたいだけど、束の方は完全にやる気が無いのか暇そうに空を見上げてる。

 

 普段なら注意するところなんだけど、まだつーんとした態度してるから注意しても意味が無いし、下手すると俺に罵倒が飛んで来てインストラクターの説明が聞けない人が出てくるだろうからなぁ。

 

 そうこうしてる間に説明が終わり、リフトで滑るポイントまで登る事になったんだけど、実際に滑る順番が束・俺・千冬の順番になった。

 

 話も聞いてないし、滑り方の実践も見てない束が滑れるのか心配になった俺はこそっと大丈夫か聞いてみたんだけど『大丈夫に決まってんじゃん』と言って自信満々に滑り出して行ったんだけど、マジで滑れててちょっと驚き。

 

 でも先に行ったインストラクターの人のところまでいくだけだからそんなに長い距離を滑る訳じゃ無いし、要領の良い束なら当たり前っちゃ当たり前かと思い直した俺はふと束がこの後やりそうな行動を千冬に予言しといて、後から束をからかってやろうと思いついた。

 

 

 「なーなー千冬、束の事なんだけどちょっといい?」

 

 「ん? どうした?」

 

 「アイツ今ぬるぬる滑ってんじゃん? んで絶対–––––」

 

 

 『滑り終わったらこっち見てドヤ顔するよ』と言いたかったんだけど、来る途中のリフトで千冬と束が一緒だった事を思い出して、思わず黙ってしまう。

 

 そう、束と千冬が一緒だったって事は暇な移動時間で何かしら話してる訳だから、話題としては俺に対する愚痴とか嫌味を一方的に束が喋ってる筈。

 

 そんな流れで『あのバカ絶対私が滑れないとか思ってるよね』とか言ってるに違いない、んでもって『きっといざ私が滑り出したら勝手に納得して、滑り終わったらこっち見てドヤ顔するよ?とか言ってくるんじゃない? あいつバカだから』とか千冬に言ってるはず!!

 

 

 「その手には乗らないぞ千冬!!」

 

 「待て待て!? 何がどうなってそんな発言が飛び出したんだ!? そもそもさっきは何を言おうとしてたんだ!?」

 

 「言える訳無いだろ!?」

 

 「言えない事を言おうとしたのか!?」

 

 「千冬なら俺が何を言おうとしてたか分かるだろ!!」

 

 「無理を言うな!! 私は束の様なニュータイプじゃないんだぞ!?」

 

 「そんな事言って、俺を引っ掛けたいんだろ? そんなドヤ顔フェイントに引っかからないぞ!!」

 

 「なんなんだドヤ顔フェイントって!?」

 

 「ドヤ顔フェイントはドヤ顔をフェイントする事に決まってるだろ!!」

 

「頼むからもう少し会話の余地をくれ……」

 

 

やんややんやとした言い争いをしてて気が付いたけど、何となく千冬の様子から隠し事をしてる様子が感じなかったから、多分俺の思い過ごしなんだろう。

 

 

 「ごめん千冬、俺の考え過ぎだったみたい。俺が言いたかったのは––––」

 

 「次の人ー順番だよー?」

 

 「あ、俺の番だわ。じゃー先に行ってくるなー?」

 

 「……お前も束の事を言えんくらい自由な奴だな」

 

 

 千冬のため息を疑問に思いながらも、俺は今年の初滑りを存分に楽しみながらインストラクターの所まで滑って行った。

 

 先に滑りきってた束の横に上手く止まった俺は、そのまま束にドヤ顔カウンターを決めてみたんだけど、束は心底アホな人を見る目で俺を見ていた。……流石ニュータイプ、俺の考えてる事が分かったみたい。

 

 

 「……今私の事を何時もみたいに妙なカテゴリーに入れてただろ? あとそのドヤ顔、どーせ私が滑り終わった後にドヤ顔するとか考えて、それを予想されてるとか深読みした仕返しでしょ? 丸分かりなんだよバーカ」

 

 「スゲェな花丸百点だわ。何でわかんの?」

 

 「上の方でちーちゃんと色々やり取りしてるのが見えてたし、会話と会話の間に君独特の間があったから大体分かるに決まってるじゃん。昨日今日の付き合いじゃないんだし嫌でも分かる様になるって」

 

 

 手をひらひらしながらそう言う束。完全に俺の行動を読まれてんなーとか考えてると、あっさりと慣れた人みたいな滑り方をして来た千冬と目が合った。

 

 

 「お前ら……初心者なのになんでそんなあっさり滑れる訳?」

 

 「何故と言われても……人の滑り方を見ていたらおおよその滑り方は分かるだろう?」

 

 「束さんは天才だからねぇ。そもそもスキーって滑るだけでしょ? 何処がどう難しいのか分からないんだけど?」

 

 「俺滑れる様になるのに結構掛かったんだけどなぁ……」

 

 

 まぁこの二人に運動系で勝てないのは今に始まった事じゃないし今更気にする気はないけどね。

 

 けどどーしよっかなぁ……二人にスキーを教える気満々だったんだけど、これじゃあ俺が何か教える事は無いだろうし、大人しく一人で楽しもうかなぁ? 偶には一人で滑りたいし。

 

 そんな事を考えてる内にクラスの人が一通り滑り終わったから自由行動になったんだけど、一人で許可されてる範囲で一番難しいコースに行こうとしたら束に止められた。

 

 

 「ほら、暇だからさっさと上行くよ」

 

 「えっ? 俺一人で滑ろうかと––––」

 

 「まぁ待て。私も束も初心者だから何かあるといけないだろう? ここは経験者が付いて来てくれるとありがたいんだが?」

 

 「んーじゃあ俺と同じくらい滑れる奴紹介して––––」

 

 「はぁ? 何で束さんが見ず知らずの人と滑らないといけないのさ? そもそも呼びに行かなくてもお前が経験者なんだから付いて来いよ」

 

 

 ずるずると両腕を束と千冬に捕まれて引き摺られて行く俺は、まるで捕まった宇宙人みたいな気分で二人に連れてかれてるのだった……。

 

 

原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)

  • MF文庫J
  • オーバーラップ

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