「おー雨止んでんなー、今日一日降ってるって話だったのになー」
あの日この馬鹿と一緒に帰ってからというもの、時折私とちーちゃんの帰り道にコイツが加わる事になった。
普段から良く私に話しかけては来るが、コイツ自身は本当に友人が多いらしく、昼休みや放課後などは良くクラスの誰かしらと話してたりする姿を良く目にする。
多分コイツの友人の多くは私の様に強引な押しでなし崩し的に友達にされたんだろう、そう考えると妙な親近感を感じてしまう。
と言っても所詮はその他大勢、感じた親近感も同情から来る念の意味が強い。
「なんつーかさー、雨上がりの帰り道だとなんとなく漫画とかゲームの技を真似したくなるよなー」
「ゲームの技? 以前にやった格闘ゲームみたいな奴か?」
「織斑はあんましゲームやった事ねーんだっけ? じゃ見てろよ?」
そう言って、この馬鹿は『虎牙破斬!!』とか『魔神剣!!』とか叫びながら傘を剣に見立てて振り回し始めた。
私もちーちゃんもゲームはやらないから馬鹿のやってる技とやらが元々どんな技か分からない、だからちーちゃんもコメントに困った顔をして馬鹿を見ている。
…………私は完全に冷めた目で見ていたが。
とにかくそんな私達の視線に気が付いたのか、恥ずかしそうに馬鹿が傘を振り回す事を辞めた。
「コレがジェノサイドギャラクシーって奴か……」
「……すまん束、通訳を頼む」
「多分、ジェネレーションギャップって言いたかったんじゃないかな?」
何をどうしたら
私が呆れた溜息を吐くと、馬鹿は『そうだっけ? やっぱさんぼーは頭いいなー』と言う頭の悪さ丸出しの褒め言葉を投げかけて来た、馬鹿にしてるんだろうか?
冷めた目で更に睨んでやったが、馬鹿はそんな私の視線を気にも止めずに長靴で水溜りの中を歩いている。
そしてある程度歩いたところで、馬鹿はふと思い出した様にランドセルの中から一冊の漫画を取り出し、それをちーちゃんに見せた。
「つー訳でさ、織斑もコレやってみろって」
「このアバン、ストラッシュ?と言うのをか?」
「そーそー、必殺技だけどやれそうな奴だし、確か剣術習ってるんだろ? ならいい感じにイケるんじゃね?」
「おい馬鹿止めろ!! 私のちーちゃんに変な事吹き込むなよ!!」
この馬鹿は何を言い出したかと思ったら……そもそもちーちゃんがそんな事する訳無いだろ。
「ねっちーちゃん、そんなアホな真似ちーちゃんはやらないよ––––」
「アバンストラッシュ!!」
「ちーちゃぁぁぁん!? ちーちゃんに馬鹿が移ったーッ!?」
同意を得ようと振り返ったら、ちーちゃんが傘を剣に見たてて漫画の通りの構えをしながら傘を振っている姿が私の目に映る。
しかも流石ちーちゃん、傘を振った瞬間の軌道が凄く真っ直ぐで、寸分のブレも無かったから本当に漫画の必殺技が撃てそうな良い感じだった。
……アイツとおんなじ感想を持ったって事は、もしかしたら馬鹿が移ったのは私の方なんだろうか?
「さぁさんぼー、お前もコレやってみろよ」
「は!? なんで私がそんな事しなきゃならないのさ!?」
「束、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損、と言う言葉もあるだろう?」
「ちーちゃん待って!? 何時ものクールなちーちゃんは何処に行ったの!?」
私の叫びに口元を隠しながら笑うちーちゃん、普段ペースを握ってる私がこの馬鹿に振り回されてるのが楽しいんだろう、私は全然楽しくない。
しかもこの流れだとやらない方が謎の疎外感まで感じる始末、仕方なしに私はムカつくくらい明るい笑顔を浮かべる馬鹿の手から漫画を取った。
そして其処に書かれて居たキャラクターと同じ構えをし、同じような動きで傘を突き出した、なんで私がこんな目に……。
「が、牙突!!」
「そっから弐式!!」
「えっ? が、牙突・弐式!!」
「はい次参式!!」
「さん、牙突・参式!!」
「最後零式!!」
「牙突・ぜ––––って、何時までやらせるんだよ!!」
いや、言われたままに傘を振り回してた私も悪いけど、コイツ調子に乗りすぎだろ!? ちーちゃんもちーちゃんで途中からお腹押さえながら大爆笑してるし、笑ってないで途中で止めてよ!?
「さんぼー、良い感じの牙突だったぜ!!」
「そっ、そうだな……束、良い感じの牙突だったぞ?」
「あーもー!!」
––––結局、こんなやり取りが家に帰るまで続き、私はぐったりしながら自分の部屋に入ってベッドの上に倒れ込んで疲れを癒すように身体を伸ばす。
そしてふと何気無しに視線を向けた勉強机の上に例のプリクラがある事を思い出し、思わず手に取ってみる。
ちーちゃんはあんまりこういった経験が無いからか、若干緊張が浮かんだ顔。
私はそもそも興味が無かった事と、馬鹿の押しに負けて撮影しただけだからそっぽを向いている。
肝心の馬鹿は、何が楽しいのか満面の笑みを浮かべてピースサイン、しかも私達の間に居てセンターをしっかり陣取って。
ちーちゃんと二人だけなら良かったのにと思い、私は油性マジックに手を伸ばして中央の馬鹿だけ塗り潰そうとしたが、何となくそんな気も失せてしまう。
「…………ばーか」
聞こえるはずも無いのに、思わず屈託の無い笑顔を浮かべた馬鹿に向かって、私はそう呟いてしまうのだった。
雨上がりの帰り道に再現出来そうな必殺技を撃つ、小学生あるあるですね(白目
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ