天災二人と馬鹿一人   作:ACS

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二年目のラストのちーちゃん視点なんで物凄くシリアスです(震え声




幕間:戦乙女から見た馬鹿 4

年が明け、私は束に連れられて初詣に来ていた。

 

吐く息が白くなるほど寒いはずなのに、篠ノ之神社への参拝客の熱気で不思議とそう感じない。

 

しかし私の目には仲睦まじい親子が映る、肩車をして貰っていたり、両親と手を繋いでいたり、羨ましくないと言えば嘘になる。

 

本当なら私も正月くらいは父と母と一緒に居たかったんだが、今日も起きたら二人とも出勤した後だったので大人しく諦めた、毎年の事だから今更と言うのもあるが。

 

……そういえば、最後に家族揃って食事をしたのは何時だったっけ?

 

 

そんな私の考えを知ってか知らずか束の奴は私の手を引いて出店を見て回り始めた、あまりこの手の物に興味が無かった筈なのに束の奴も変わったな。

 

親友の変化を嬉しく思う反面、自分の知らないところで成長した束に少し複雑な感情もあった。

 

束の成長には少なからず彼が関わっている、たった一年であの束に顔と名前を覚えさせ、その線引きの内側へと入った男。

彼の顔を思い浮かべた私は、思わずそっとポケットの中へと手を伸ばしてクリスマスに貰ったあの栞を優しく握っていた。

 

彼と初めて出会ったのは一年生の時の運動会、何故か一方的に目の敵にされていたので困惑したが、話して見れば悪い奴では無く、むしろいくらでも話せそうな印象だったのを覚えている。

 

本格的に関わる様になったのは去年からだったが、彼との付き合いは束が気を許すのが分かるほど楽だった。

 

彼は私が経験した事の無い事を教えてくれる、剣術と勉強くらいしか知らなかった私の手を引くように。

 

––––だからだろうか? 時々私は窓越しに話しかけてくる彼を心待ちにする時がある。

 

毎回、と言うほどでは無いがそんな日は大抵両親との距離感をなんとかしたくて空振りに終わった日が多い、例えば今日のような。

 

……正直窓越しに話しかけてきた束にがっかりしたのは内緒だな。

そんな事を考えていると人混みに紛れた誰かに肩を叩かれた、少々気を抜いていたらしい。

 

まだまだ未熟だなと思いながら振り向くと、出店のお面を斜めにかけた彼がニコニコと笑顔を浮かべながら立っていた。

 

「よっ!! あけおめーことよろー、いやーさっきししょーん家寄ろうかって考えたんだけど丁度会えて良かったわ」

 

「丁度束が私を誘ってくれたからな、せっかくだから私も来たんだよ」

 

こんな事ならもう少し家でゆっくりとしていれば良かったか? 気を使ってくれた束に悪いからと直ぐに出たんだが、そうすればまた窓から彼は顔を出してただろうし。

 

待てよ? そういえばどうせ今日は外出しないからと寝癖がそのままじゃなかったか? 束が来てもどうせ彼は他の友達か御両親と一緒に行ってるだろうと思って何もしてなかった様な……。

 

その事を思い出した瞬間、私は思わず彼の目元を手で塞いでしまった。

 

「おーっと? ししょー? 前見えねーんだけど?」

 

「い、今は見るな、少し待ってくれ」

「あー、ちーちゃん今日は髪型が––––」

 

「余計なことを言うな、束」

 

 

私は束を睨んで黙らせた後、手で軽く髪を梳きながら出来るだけ寝癖を目立たない様に直して行く、手遅れな気もしないでもないがやらないよりはマシだ。

 

「なーなー、いい加減手離してくんね?」

 

「あ、あぁ、悪かった」

 

「ちーちゃんちーちゃん、今更髪型セットしても手遅れなんじゃないかな?」

 

「束、余計なことを言うなと言った筈だが?」

 

「待ってちーちゃん、握り拳作るのやめて束さんと話し合おうよ!! 地味に隠してたズボラな部分が露呈しただけだから大丈夫大丈夫!!」

 

「なーさんぼー、そんな事言いながら俺を盾にすんのやめてくんね? てか寝癖に関しちゃお前も人の事言えなかったろ」

 

「うっさい馬鹿!! 朝一で家の手伝いやってたらそんな時もあるんだよ!! てかお前今日三回目だろ!? 何回お参りすんだよ!!」

 

「えーっと、1回目は親父と母さんだったろー? 2回目はお前らに話した事ない友達と入り口で会ったからついでに一緒してただろー? んで3回目はお前らだな、丁度今度こそ帰ろうかなぁって思ったところだったから三往復目だわ」

 

その発言に私と束は呆れてしまって何も言えなかった、今も新年の挨拶を道行く友人にしてるのかしょっちゅう手を振ってるし、彼の交友関係はどこまで広いんだ?

 

というか三回もお参りして大丈夫なのか? いや、彼の調子から考えるに三回じゃ済まなさそうだが。

 

私も束も彼を間に挟みながらそんなツッコミを入れつつ出店を含めた初詣を堪能し、最後に賽銭を入れて神様へお願いをする。

 

 

––––次の学年でも彼と一緒のクラスになれます様に。

 

 





主人公は大分朝早い段階で眠気と戦いながら半分無理言って両親と一緒に初日の出も兼ねて参拝→帰りに友達発見&同行→帰ろうとした矢先にちょっと遅れたちーちゃん達発見&同行のループ、多分この後も彼女達の知らない友達と遊びます(白目

最後のちーちゃんのお願い、両親の事をお願いしなかったのは自分から歩み寄れば何とか出来ると思ってるからですね。

…………出来るかは置いておいて(ボソッ

原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)

  • MF文庫J
  • オーバーラップ

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