今更だけど俺は趣味が多い。
基本的に友達とか知り合いがやってる事に興味が湧いて俺もやるって感じなんだけど、今日は母さんからお菓子作りを教わってる。
母さんは割と定期的に簡単な料理を教えてくれるんだけど、前にその理由を聞いたら『……アンタがお父さん似だからよ』と凄いため息を吐かれながら言われたんだ。
……親父は料理下手だからなぁ、結婚する前の頃に自分で作った料理で腹壊したとか言う話を聞いた事があるし、母さんは俺の将来を考えてくれてるんだろーな。
「んで? 今日は何作るんだよ母さん」
「そうね、時間的にも少し早いしおやつに間に合うように簡単なケーキでも作ろうかしら? 電子レンジでやれるような奴」
「材料いっぱいあるけど、今日はどんだけ作るのさ? お菓子の家でも建てるの?」
「そんなメルヘンな物作んないわよ、千冬ちゃん達に作ってあげるだけだから後で持ってってあげなさい」
「へーい」
そんな気のない返事をしながら母さんと一緒にシフォンケーキって奴を作った俺は、先に織斑ん家に来てた。
「ちゅー訳でケーキ持って来たぞししょー、おっ? 一夏君も一緒か? はろろーん一夏君、元気してるー?」
「相変わらずお前は……一夏の教育に悪いから偶には玄関から入って来い」
「へーいへい、んじゃお邪魔しまーす」
「窓から入るな窓から!!」
「じょ、冗談だってば……」
織斑の奴一夏君の前だと普段より割り増しで厳しいんだよなぁ、篠ノ之並みに弟大好き人間だし?
取り敢えず俺は玄関に回って中に入り、織斑の部屋にお邪魔してケーキを渡す。
んで、用事が終わったから次は篠ノ之ん家に行こうかなって考えてたら織斑に呼び止められた。
「まぁ待て、折角だからお茶ぐらい飲んで行け」
「んー、ほらこの後さんぼーん家にも寄らねーとダメなんだわ」
「時間はまだあるだろう? それに私は今それほどお腹が空いてなくてな、一緒に食べてくれないか?」
「えっいーの? なら食べる食べる」
超ふわふわで危うく二人の分も食いそうになったくらいに上手に焼けたからなぁ、行き道に俺の中で天使と悪魔が現れたほどだし。
あっさりと踵を返した俺は、お茶を淹れに行った織斑に代わって一夏君と遊んでたんだけど、この子中々大人しいんだよなぁ。
膝の上に乗っけながら目を合わせてたんだけど、中々顔を逸らさないしそもそもこの子が泣いてる所を見た事がないよーな?
「ヘイ、一夏君!! 今日も冷んやりクールだね!!」
「あうー?」
「うーん首を傾げられちゃったかー、よしなら俺も赤ちゃん言葉で話してやる」
「だうー!!」
「だうだー!!」
「……何をやってるんだ?」
一夏君の声に合わせて適当に喋ったら後ろに織斑が居た、なんかこう……反応に困る顔をされて俺も反応に困る。
「いやほら、赤ちゃん言葉なら通じるかなーって思ってさ」
「そもそもお前は赤ちゃん言葉が分かるのか?」
「うんにゃ全然、何言ってんのかさっぱりだ」
一夏君の話してる言葉をそのまんま返せばなんか反応が返ってくるだろってノリだしね、篠ノ之でも多分赤ちゃん言葉は––––。
『あのね!! 箒ちゃんが今お姉ちゃん大好きって言ってたんだー!! うふふー、箒ちゃんが私の事大好きだって!! 私も箒ちゃんが大好きだよー!!』
……うん、篠ノ之なら多分理解出来てそうだな、今度赤ちゃん言葉でも教えて貰おう。
「てかさ、一個いいかししょー?」
「……なんだ?」
「お茶を淹れに行ったのに何で水なんだ? 別にいいけどさ」
「……………………お、お茶の場所が分からなかったんだ」
顔を赤くして顔を逸らした織斑から目を離し、チラッと部屋の隅に出来てたタコ足配線を見たら妙に納得してしまった。 よく見たら本棚も適当に本が突っ込んであるし、前に来た時はあんまり気にしなかったけど俺と一緒で自分の部屋の掃除は苦手なんだな。
そんな事を考えながらケーキを食べ終わった俺は、織斑ん家を出て篠ノ之ん家に行った。
丁度篠ノ之は自分の部屋に居るみたいだから、そのまま部屋に行ってケーキを渡す。
「てな訳でほい、俺と母さんの手作りケーキを食べなされ」
「ふーん、相変わらず趣味の幅が広いね……」
「俺の事はいーじゃん、ほらほら冷めても美味しいぜ?」
そう言って俺は持ってきたプラスチックのフォークにケーキを刺して篠ノ之の目を見つめながらコイツに向かってケーキを差し出した。
こうしないとどうせ『君の作った物なんてどーせ大した事無いだろ?』とか言って食ってくんねーからな。
「ほれ、食べてみ?」
「……あ、あーん」
俺の視線に負けたのかパクっと篠ノ之はケーキを食ってくれた、んでしばらくもぐもぐしてたんだけど『まぁ、悪くないんじゃないの? 君にしてはさ』と言って顔を逸らしてしまった。
その割には完食してるんだよなぁ、篠ノ之の奴はやっぱ素直じゃねーな。
まぁとりあえず用事は済んだし、箒ちゃんに挨拶だけして帰るか? ついでに篠ノ之に赤ちゃん言葉も教えて貰えれば万々歳だし。
…………そう思って篠ノ之に赤ちゃん言葉を教えてって聞いたら『熱でもあんの?』と割と本気で心配された、なんかごめんな?
さりげなく引き止めるちーちゃんと、あーんされて満更でもない束さんの回。
うーん、着々と主人公は自分の首を締めてますねぇ(女関係的な意味で)
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
-
MF文庫J
-
オーバーラップ