「あぢーなー、今日は何処にも行く気がしねーぞー」
その日、俺は縁側で扇風機の風を受けながらスイカ片手に何度目か分からない文句を呟いていた。
昨日から降り続いた雨が朝に止んだんだけど、かんかん照りで太陽の暑さと湿気のダブルパンチで不愉快感がマックス……ってそうだ、庭に蛇口があるから水でも被ろう!! お風呂場まで行くのが怠いし別にいいよね!!
てな訳でパンツ一丁になって頭から水を被ってたんだけど、良い感じに涼んでたら誰かに小石をぶつけられた。
「いてっ、誰だよ!?……って、さんぼー? 何してんの?」
「それは私のセリフだよこの馬鹿、なんで庭で裸になってんだよ」
振り向いた先に居た篠ノ之は顔を逸らしながらそんな事を言ってた、偶々通り掛かったって感じじゃ無さそうだったから『まー入れよ』と手招きしたけど、また小石を投げられて『さっさと服着ろ』と怒られちまった、そーいやパンツ一丁だったわ。
取り敢えず着替えた後に篠ノ之を部屋に通したんだけど、なんだかちょっと様子がおかしいような気がする、そわそわしてるって言うか、緊張してるっつーかなんつーかそんな感じ?
「んで? 遊びに来たのか? なんか落ち着きねーけどさ」
「じ、実はその、ちょっと頼みがあって……」
「さんぼーが? 俺に? …………うん、夢だな!!」
取り敢えず有り得ない事が起こったから篠ノ之のほっぺたを抓って見た、夢なら触ってる感覚なんてないだろうと思ったんだけど、篠ノ之のほっぺたは俺のと違ってなんだか柔らかい。
……とか思ってたら思っ切り手をはたかれた、しかも結構痛いから夢じゃねーのが分かった。
後『何気安く触ってんだよ』的な目が凄い、相変わらず猫みたいな女の子だよなぁ。
「んで? 頼みって何よ? 俺に出来る事なら手伝うけどさ」
「君って奴は……はぁ、まぁいいや正確には君にってよりは君のお父さんになんだけどね」
「親父に頼み? まぁ親父は色々やれるからなぁ」
「その、ほら、前に天体望遠鏡使わせてくれたでしょ? 土星の輪っかが見たくてさ、だからあれを借りたい……かな?」
そーいや前に望遠鏡覗いた時、篠ノ之の奴すげー機嫌良かったからなぁまた使いたくなったんだろーな。
にしても天体望遠鏡かー、多分親父なら勝手に貸しても怒らねーとは思うんだけど……持ってく途中で何かあると困るよなぁ、やっぱ親父に頼むか。
「ん、おーけー。 親父が帰って来たら頼んで見るわ」
「その、あ、ありがとう……」
「別にいーって、それより俺もお前に頼みがあってさー」
そう言って俺はランドセルを漁り始めたんだけど、その時点で大方俺のお願いを察したんだろう、篠ノ之は盛大な溜息を吐いてジトっとした目で俺を見ていた。
「さんぼーさんや、宿題手伝ってくんね?」
「たまには自分一人でやったら? 簡単でしょ?」
「いやほら、だって家で勉強すんのってなんかヤだからさー」
「はぁ、どーでもいい雑学とか趣味の知識は喜んで覚えるくせに、なんで学校の勉強はダメなんだよ」
そんな風に呆れた小言を貰いつつも、友達が来た時用の小さいテーブルを出したら横に来て宿題を見てくれる辺り、やっぱりコイツは良い奴だわ。
そんな事を考えながら問題を解いてたんだけど、他の事を考えながらやってたからか気が付いたら宿題が終わってた。
「……はい終わり、途中から考え事してたでしょ?」
「えっ、あーうん、まーな」
「ふん、どーせ何時も通りアホな事だろ、まったく……この束さんに宿題手伝って貰ってる癖に上の空とか何考えてんのさ」
「いやーほら、さんぼーと友達になれて良かったなってさ?」
「……ふ、ふーん、束さんと友達になれて良かったんだ、まぁ当然だね、ほら君の馬鹿な頭を私の頭脳が補ってる訳だし? 君はもっとこの束さんに感謝すべきだよ」
なんだか急に機嫌が良くなった篠ノ之は胸を張りながら立ち上がってそんな事を言って来た、昔は速攻で否定されてた事を考えるとコイツも俺の事に友情を感じてくれてるらしい。
「んじゃあちーけど散歩でもしに行こうぜー? やる事もうねーし」
「ふふん、今日は機嫌が良いから特別に付き合ってやるよ」
そんな風にやる事が無くなった俺は二人分の麦わら帽子を取り出し、鼻歌交じりの篠ノ之と一緒に親父が帰ってくるまで散歩して時間を潰すのだった。
この後親父さんはちゃんと天体望遠鏡を篠ノ之家まで持って行った後、ちゃっかりと親同士で交流結びました(白目
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ