…………つい買ってしまったが、どうしたものか。
私の手には綺麗にラッピングされたチョコレートが握られている、元々は買うつもりじゃ無かったんだが買い物の会計前にレジ近くの棚でセール中だったからつい、な?
今日は二月十四日、世間ではバレンタインデーと言うらしいが、彼に連れ回される様になるまであまりこの様な催しには興味が無かった。
確かに何時も束が私にチョコをくれる日なので日付自体は覚えてる、そして女性が男性に向けてチョコを贈る日と言うのも知っている。
だから今年は彼にプレゼントしてみようと思い、普段は気にも止めていなかったチョコレートを買った訳だ。
取り敢えずランドセルに入れて来たから登校途中にでも渡せばいいかと呑気に構えて居た私は、普段よりも十分ほど早く家を出て彼の家の前で待っていたんだが、彼が出てくる事がやけに待ち遠しい。
少し早かったか? などと考えていたら、玄関のドアが開いて背伸びしながら彼が出て来た。
「あれ千冬じゃん、どったの? とりあえずおはよー」
「あ、ああ、おはよう、実はお前に渡す物がだな––––」
先月から急に下の名前で呼ばれる様になってまだ少し慣れてないのか若干返事が遅れたが、私は挨拶もそこそこに本題に入ろうと鞄の中に入れていたチョコに手を伸ばしたのだが、何故かラッピングされたそれをランドセルの中から出せない、まるで鉛の塊にでもすり替わったかの様にチョコレートが重い。
いや、単なる錯覚なのは理解しているが、何故チョコレートを渡すだけの事なのに私は躊躇しているんだろうか?
「千冬? 何くれんの? もったいぶってねーでぷりーず」
手を入れたままで固まる私に首を傾げた彼がそう言いながら近寄って来たがもう少し待って欲しい、何というか心の準備が出来てない。
「……いや、やっぱり学校帰りに渡そう、うん」
「お、おう、てかそれなら別に朝一番にウチ来なくても良かったんじゃ……」
もっとも過ぎる言葉だが、朝一で渡すつもりで渡せなかっただけだから意味はある、はずだ。
気を取り直した私は二人で並んで歩きながら話をしつつ登校していたんだが、後ろから全力で駆け寄ってくる忙しない足音が聞こえてため息を吐きながら、歩調や足音の質から束だと判断した私は一旦立ち止まって束の襲撃に備える。
「ちぃぃちゃぁぁん!! バレンタインデーだよバレンタイン!! ハッピーバレンタインデー!! というわ・け・で!! はい、チョコレート!!」
「あ、あぁ、ありがとう」
後ろからランドセルごと私に飛びつく束を適当にあしらいながら、束から差し出された綺麗にラッピングされたチョコを受け取ったのだが、その時に彼女のもう片方の手にその辺のコンビニかどこかで買った板チョコが握られている事に私は気が付いた。
「ほら、お前にもこの優しい優しい束さんがチョコレートを恵んでやるよ、ちーちゃんのと違って手作りでも無いしラッピングにもまーっっったくこだわってないけど、一応友達だし? 友チョコ未満の義理チョコくらいならプレゼントしてやらないことも無いからありがたく食べなよ、というかよくよく考えたら君がチョコを持ってたら誰から貰ったの?って話題になりそうだから今すぐこの場で食べろ、そして私からチョコを貰ったって事はこの場の三人だけの秘密にしろ、いい? くれぐれも勘違いしないでね!? あくまで私は友達だからチョコレートを恵んでやったんだからね!! その辺のコンビニで買った百円くらいの板チョコをお買い上げシール付いたまま渡す程度の相手なんだからね!!」
「おー、ありがとーな、んじゃいただきまーす」
まくし立てる様に一方的に用件を言った束は買ってきたチョコで彼の胸をペチペチ叩きながら、念を押してチョコを手渡した。
彼は特に気にする事無くチョコを受け取っていたが、なんだかその光景を見ていると緊張していた私も肩の力が抜けたのが分かる、だからそう、私も普通に渡せばいいのだ、あくまで普通に。
ランドセルからチョコレートを取り出した私は、板チョコを食べている彼の胸にラッピングされたソレを突き付ける。
「まぁ、なんだ、せっかくのバレンタインだ、私からもチョコをやろう」
「マジで? やっぱ無しってのはダメだぞ? 貰っちゃうよ?」
「ああ、お前以外に渡す相手は居ないから安心しろ、それに
「あれ? ちーちゃん? なんで束さんに張り合ったの? 私ちーちゃんに何もしてないよ!?」
––––さあ何故だろうな? ただ一つ言えるのは、来年こそは一番にチョコを渡そうと思っただけだ。
そんな風に思いつつも、口には出さずに笑みを浮かべるだけに留めた私はそのまま騒ぐ束をあしらいながら三人で登校するのだった。
ちなみに主人公はチョコを貰える派の人、だからこの二人以外にも登校後に一応もらってます。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ