今回いちゃいちゃは少ないです。
篠ノ之道場に入門して暫く経ったある日の土曜日、俺は一人公園で水の入った空き缶を扇子に乗せてふらふらと歩いていた。
その理由は一刀一扇の構えは本当に扇子を使う訳じゃ無いってのは教えて貰ったから知ってるんだけど、コレを使うって決めたのは俺だから扱い方を練習しないとダメだと思ったからだ。
相手の一撃を流すのなら力よりもそれを利用するような感覚が必要で、その為には扇子を自分の手足の様に使わないといけないのだとか。
俺はそれが出来てないから一太刀目を受け流せてもその返しで慌ててすっ転んだりするらしい、確かに束と稽古した時なんか丸っ切り反応出来なかったし、他の人との稽古でも一撃目を敢えて流させられて一発食らった事もある、それに千冬には全く通じなかったんだよなぁ、面白いくらいフェイントに引っかかって全く見せ場が無かった。
うーん、これでも結構な頻度で通ってたと思うんだけど、やっぱちゃんと習ってる千冬に比べたら俺はまだまだ雑魚レベルだよなぁ。
と、そんな事を考えたのが悪かったのか乗せてた空き缶をまた落としてしまう。
もう何度目かも分からないくらい結構落としてるんだけど全然良くならない、師範にアドバイス貰いたいんだけど今日は家族で動物園に行くって束が言ってたしなぁ。
手の平で扇子をぽんぽんと弾ませながら少し悩みながらベンチに座ってると、遠くの方で一夏くんを連れた千冬を見つけた。
「あれ? おーい、ちーふーゆー!!」
見つけたからつい声掛けちゃったけど、結構遠いし一夏くんとの散歩は日課になってるから気が付かないかな? とな考えてたけど、俺の声に気付いたのか千冬がこっちに来るのが分かる。
ちょっと前に大声で名前を呼んで束に怒られた俺は『またやっちゃった?』とか思いながら冷や汗流して千冬を待ってたんだけど、意外な事に怒られなかった。
「千冬は優しいなぁ」
「脈絡の無い発言はやめろと毎回言ってるだろう……はぁ、で? 私を呼んだ理由は?」
呆れたようにそう言った千冬は俺の右に座ると、膝の上に一夏くんを座らせながらこっちを見た。
「おっとその前にいっくんに挨拶だ、ぐーてんたーく!!」
「たーく!!」
「グーテンターク、ドイツ語で『こんにちわ』だったか? 確か仕事でお父さんが海外に行ってたんだったか」
「そそ、昨日帰って来たんだけどなー、ドイツ語の挨拶をちょっとだけ教えて貰ったんだよ」
「なるほどな、ん? そういえばあの人の仕事はなんなんだ? 私も束もそれなりの頻度で遊びに行ってるが、一度も聞いた事がないんだが」
「あー、うん、なんだろう? 俺もよくわかんねー、変な仕事って訳でも無いし悪い事をしてる訳じゃねーんだけど、色々やり過ぎてて元がなんなのか分からないんだよ、むかーしに元が古本屋だったような気がするって親父が言ってた様な気はするけど」
「なんなんだそれは……」
千冬の呆れに俺も頷く、前に店に行ったら本以外に絵やら壺やら色々置かれてて本当に何屋なんだよって感じの店だったし。
「なんつーの? 元々は親父のじーさんが持ってた店らしくて大学卒業した時に継いだんだってさ、んで友達からのあれ欲しいこれ欲しいって頼み事聞いてたら店が訳わかんなくなったとか、まぁでもそれなりに儲かってるらしいよ?」
「何となく頼み事をされてる様子が目に浮かぶな」
その後も俺と千冬は一夏くんを混ぜて色々喋ってたんだけど、一夏くんが俺の扇子を触りだしたあたりでようやく千冬を呼んだ理由を思い出した。
「あ、そーだそーだ!! 俺千冬に扇子の使い方を教えて貰うんだった!!」
「そうなのか? 私はてっきり雑談したかったのかと思ってたんだが……」
「それだったら俺が会いに行ってるって」
「それもそうか」
千冬の納得に合わせて俺は立ち上がり、二つ持って来てた扇子の一本を一夏くんに渡して千冬に動きやら何やらを見てもらう事にしたんだけど…………師範並みに厳しかったのと焦りは禁物って事を教えられた。
「大体お前は長々と遊びには来ていたが正式に入門したのは最近なんだ、出来なくて当たり前、むしろそう軽々と人を捌いて流してされたらこっちの立場が無い」
「むむむ、相変わらず厳しいししょーだ」
「それにだ、お前が真面目に修練するのは似合わん」
「えぇ……そりゃねーよ」
流石にグサリと来た、俺結構真剣なんだけどなぁ。
「お前は、にこにこ笑いながら楽しむ様に練習するのが一番似合ってる、断言してやろう」
「ふーん、そんなもんなのかなぁ」
そんな事話してたら日が暮れてるし、汗だくだったから扇子で仰ぎながらそんな事を不満げに言ってたんだけど、涼しい顔してその不満を聞き流してた千冬が扇子に書かれた文字に気が付いたのか、フッと優しく笑いながら『お前らしい一文だな』と言って一夏くんの手を引いてベンチから立たせる、公園の時計を見たら夕飯時だしそろそろ帰るんだろう。
無刀二扇、俺の扇子に書かれた文字は道場で茶化す様に言われたその四文字、難しいけどこれ以上にないくらい俺にぴったりだと個人的にもこっそり思ってる訳で、何気に気に入ってたりする。
「つー訳で、今日は一夏くんと一緒に俺ん家で夕飯食ってけよ、帰りは親父が送ってくれるしさ!!」
だから、それを笑って俺らしいと褒めてくれた千冬の後を追った俺は、その肩を叩いて二人を夕飯に誘うのだった。
ちーちゃんは真面目な主人公よりにこにこして包容力のある普段の主人公の方が好きな模様。
主人公のお父さんはなんでも(売ってる)屋、大概の物は人生通じて築き上げた人脈と主人公ばりのコミュ力で揃えられるので売り上げ自体は黒字ですが、同時に本業の物が全く売れない悲しみを背負ってます(白目
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ