「な、なぁ束? 俺さ、一個聞きたい事があんだけどさ?」
「何? 早く言ってよ、私は雲の数数えるのに忙しいんだから」
「じゃ、じゃあ、聞くけど、はぁ、なんで俺お前をおんぶしながら砂浜ダッシュさせられてんの?」
最近の稽古は足腰を鍛える系の奴なんだけど、今日は背中に束が乗った状態で走らされてた。
というか俺が走る前に靴紐結んでるところに束がてこてこ歩いて来て、あれこれ言われておんぶさせられたってのが正解かもしんない。
「は? 私はお前の師範の娘だよ? 口答えする権利があると思ってんの?」
「はぁ、はぁ、いや、いくら束でも、いい加減重い」
「あっはっはこのバカは面白い事言うねぇ、私が重いって? ––––絞め落とすぞ?」
そう束が言った瞬間マジで首に回されてた腕が締まり始めた。 えっマジで俺絞め落とす気?
疲れてるところで首を絞められて息が苦しくなった俺は、束の腕をタップしながら謝り倒して何とか許して貰い、へとへとになりながら休憩まで耐えきった。
束が持って来てくれたスポーツドリンクを飲みながら、責めるような目で俺を睨む束をチラッと見る。
入門してから束はちょこちょこと俺の練習に付き合ってくれるんだけど、内容が結構キツイのが多いんだよなぁ。
この前なんか、腕立てしてる時に背中に座って来て『ほら、続きやれよ』とかいって急かされたし、室内プールで泳いでた時も計数器って名前だっけ? アレで往復回数カチカチ数えながら延々と『後一往復ねー』とか言って疲れるまで泳がされた。
でもちゃんと飲み物とかタオルを用意してくれてるから何時もと一緒で加減が分からないだけなんだろうなぁ、束って手先は器用だけど不器用だし。
だからまぁ、今のところは束に色々やらされるのは別に気にしてない、もう少し優しい稽古にして欲しいくらいかなぁ。
そんな風に考えてたら、汗を拭きながら千冬がコッチに歩いて来た、軽い汗だけで済んでる辺りやっぱ慣れてんのな。
近くまで来た千冬が俺たちの様子に首を傾げながらも何時もの様に横に座って一息ついた。
「で? 束に何言ったんだ? ん?」
「重いって言ったら怒られた」
「束は軽いと思うんだが……」
「軽いけど重かった」
「どう言う意味なんだ?」
「ねぇちーちゃん、そいつの馬鹿が移ってない?」
「……かもな」
「お前ら酷くね?」
何時もの様なやりとりをしながら俺達は休憩時間を過ごしてたんだけど、途中からふと思い出したような顔で千冬が俺の顔を見始めた。
「俺の顔がどうかした?」
「いやなに、大したことじゃないんだが……背が伸びたなと思ってな」
「差にして2センチ程度かなぁ、こうやってぴったり引っ付くと分かるね」
千冬が真っ直ぐに俺の顔を見てる間に束が肩を寄せる様にピッタリと寄り添い、それを見た千冬も同じようにしながら身長を比べ始めた。
俺からしたらそんなに変わった様な気はしないんだけど、束はその2センチの差が気になるのかもぞもぞと背伸びしたり背筋を伸ばしたりしてその差を埋めようとしててちょっとこそばゆい。
千冬は千冬で俺の頭の上に手を置いて身長差を確かめながら、満足そうな顔してるしちょっと不思議な気分だ。
試しに俺も千冬の頭に手を置いてみたけど、キョトンとされただけでなんだかよく分からなかった、髪がサラサラだったから触ってて気持ち良かったけどね。
ついでに束の頭を触ろうとしたら手をパシッと叩かれた、無言だけど『触んな』ってのがめちゃくちゃ伝わってくる、けど手を離したら離したで不満そうな顔をしてるのが分かる。
どうしようか悩んだけど、なんとなく後髪を触ったら特に何も言われなかった。 髪はセーフなのか?
束の髪は長いし結構触り心地が良くて、気が付いたらずっとさらさらと触ってたんだけど、そしたら急に脇腹を千冬に抓られた。 えっなんで?
「あの、千冬? なんで抓ったのよ?」
「さぁな、そんな事よりもお前は髪の長い女と短い女、どっちがいいんだ?」
「うん? うーん、長い髪の女の子の方、かなぁ?」
「……そうか」
千冬は少ししょんぼりした様子で自分の短い髪を弄りながら妙に肩を落としてる、別に髪が短くても千冬の事は好きなんだけどなぁ。
俺がどう声を掛けるか悩んでる間に束が千冬の所に近寄って行き『ちーちゃんもこれから髪伸ばそうよー、絶対に似合うからさぁ』とか言って絡み出したので、俺はそれを聞きながら扇子を取り出して涼む事にするのだった。
どーせ直ぐに束が千冬にやられるんだろうからなぁ。
この作品の千冬姉ぇは幼少期は誰かさんに近い髪型です、しかし主人公の好みを聞いたこの瞬間から伸ばし始めました。
束さんは最終的に超ご機嫌。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ