今更の事だが、彼は多芸かつ多趣味な男だ。
簡単な手品は勿論、大概の楽器は扱えるし歌も上手で束ほどでは無いにせよ雑学も豊富。
それに目立ちたがり屋で人の中心にいる事を好む、だから学校では常に委員長職に率先してなりに行くので人望も厚い、あだ名も委員長で定着するほどに。
彼と一緒に居ると会話に困る事がない、それどころか私の知らない事や経験した事の無い様な事も教えてくれる、束は色々と彼の事を貶しているが私は頼りになる男の子だと思う。
そう、私はそう思ってるのだが、そんな思いを彼に抱いているのは私だけで無い事も今更ながらに知った。
チラッと彼に目を向けて見れば隣のクラスの女子が彼に会いに来ている、もう見慣れた光景だ。
会話の内容は私には分からない分野だったが、彼にはそうでもない物らしくスラスラと詰まる事無く会話を返して盛り上がってる。
いつまでも眺めてるのも悪い気がして束の方を見たが、酷く面白く無さそうな顔をして彼の様子を眺めていた。
「どうした束? 彼が人に囲まれているのは今に始まったことじゃないだろう?」
「べっつにぃ? ちーちゃんが何を勘違いしてるのか知らないけど束さんは全然そんなこと思ってないもーん」
拗ねたように口を尖らせる束、普段彼にキツイ事を言ってる割には発言と行動が噛み合ってないな。
「そんなに羨ましいなら彼の所へ行って会話に混ざればいいだろう? お前は私と違って物知りだしな」
「あんな凡人達と混ざるのは疲れるから嫌かなぁ、それよりちーちゃん? なんかニュアンスに棘が無い?」
「それならそんな顔をするな、以前も言ったが私達は彼からしたら大勢居る友達の一人でしかないんだ、特定の人を特別扱いをするような人じゃない、私はお前と違って会話に混ざると言う選択肢すらないからな、お前と違って」
「あの、ちーちゃん? もしかして機嫌悪い?」
「何故私が不機嫌になるんだ? 彼が他の誰かと一緒に居るのは何時もの事で、去年もそうだったじゃないか」
何時もの光景だ、彼の人柄に惹かれて一緒に遊んだり、趣味について話したりする人が多くなにかと人の輪が尽きない。
だから今更束のように思う所がある訳でも無い、ただ少し髪の長い女に囲まれてるなと思っただけだ。
別に他意はない、そう、彼がどこの誰と話そうがどんな話をしていようが私には関係が無いし、彼に当たる理由にはならない。
「ね、ねぇちーちゃん? 私の髪がどうかした、かな?」
「いや? 特に何も、羨ましいなどとは微塵も思っていない」
「ふ、ふーん、ちーちゃんも嫉妬するようになったんだね? わ、わーい、初嫉妬記念日だー!! …………だからね? 切り落とさんばかりの目で私の髪を見るのは止めて欲しいかなぁって」
「嫉妬?」
なるほど、この胸がザラつくような不快な感覚が嫉妬なのか、あまり気持ちの良いものでは無いがそれでも初めて知った。
しかし私は何故彼の周りの子や束に対して嫉妬をしているのだろうか? 何度も言ってる通り彼の事は何時もの通り、髪の長さだって別にそれで彼が人をえり好みする訳でもないのに。
今までを振り返って見ても確かに細かな部分で嫉妬をしているだろう場面がある、その内容もごく些細な内容で自分でも不可解な事だ。
束に聞けば分かるだろうか? そう思いはしたが、何故かそんな気が起きない。
確実な答えが返ってくる筈だがこの嫉妬の理由を教えて貰いたいのは束では無く彼の方、自然とそんな風に考えてしまう。
そう思うのは新しい事、新しい知識、その手の物を彼が私に率先して教えてくれる、側に居て手を引かれるだけなのに妙にそれが嬉しく、それがとても落ち着くからだろう。
…………少々強引な部分もあるが。
そんな風に考えて居たら急に誰かに顔を覗き込まれた、自分が人の接近に気付かなかったのには我ながら驚いたが、相手を見たら納得がいった。
「よっ! どーしたんだよ千冬、さっきから難しい顔してさー、折角の美人が台無しだぞ?」
「君はそんな言葉を恥ずかしげも無くよく言えるよね、しょっちゅう誰かしらに言ってるんだろ? 軽い奴だよねー? ねっちーちゃん?」
「ん? そうだな、言い慣れる程度には口にしてるんだろう」
束の憎まれ口に釣られてつい私も思っても無い嫌味を言ってしまう。
しかしそんな私の言葉をどこ吹く風と言わんばかりに涼しい顔で流した彼は、最近持ち歩きはじめた扇子の一つを鈴の音と共に広げながら笑った。
「いやいや、別に俺は誰にもは言わねーよ? 褒め言葉だって人によっては嫌味になるしさ、お前らは本音で言っても大丈夫だから言ってるんだってば」
「その理屈だとさ、君の場合大概の人が『本音で言っても大丈夫』な相手だと思うんだけど?」
「あ、バレた?」
束の指摘にいたずらっぽい笑顔でそう返す彼、そんな態度をすれば沸点の低い束を怒らせるだけなのは分かりきってる筈なのだが、意図してやってるのかそうでないのか敢えて彼は束を怒らせてる節がある。
案の定反論させないと言わんばかりの勢いで捲し立てる束、その様子に狼狽えるでも謝るでも無く扇子片手にその罵倒を笑顔で聞き続ける彼。
最終的に言いたい事を言い切って疲れた束に別の話題を振って雑談に持って行った、以前束が『アイツの頭を割って見てみたい』と言っていた事があったが、その理由が分かった気がする。
しかし、私のそんな関心は彼の発言の所為で正直どうでもよかった。
(本音で言って大丈夫な相手……か)
頭の中でその言葉を反芻した私はそれまで抱いていた嫉妬が解けて行くのを感じる、まったく彼は本当に色々な事を教えてくれる物だな。
そんな事を思いながら私は自然と笑っていたのだった。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ