水遊びで仲良くみんなで遊んでから一夏くんと箒ちゃんは仲良しになったみたいで、ちょくちょく道場に顔を出す様になった。
今まで千冬は稽古中に一夏くんが側に来たりして怪我をしないか心配だったから連れて来なかったらしいんだけど、庭で楽しく二人で遊んでるのを見てほっとしてる。
俺も知ってる子同士が仲良してると嬉しいから千冬と一緒にその光景を眺めてたんだけど、涼もうと思って扇子を取り出したらちびっ子二人と目が合った。
「ん? どったの二人とも?」
「にーちゃん、それなにー?」
「これはねー? 扇子って言うんだよー?」
「せんすー?」
「せんすー!!」
「持ってみるかい? 二つあるからはい、どーぞ」
俺はそう言って持ってた扇子を二人に渡した。
片方の扇子は無刀二扇の文字を彩る様に控えめに雪の結晶が描かれた白い扇子、もう片方は同じように赤い椿の花が描かれた紅い扇子、縁起が良いって言うから紅白で揃えてたんだけど、気に入ってくれたのか『おおー』と言いながら開いたり閉じたりしてる。
根元に鈴も付いてるから動かす度に音が鳴る、それも二人は気に入ったみたいでそのまま扇子持って庭まで走って行った。
「二人とも仲良しで良かったねー、千冬はちょっと心配性だからさー」
「心配性とは随分な言い草だな」
「えー? でもほら、俺と話しててもちらちら外見てんじゃん、心配なんでしょ一夏くんがさ?」
「違う、私はただ一夏が転けたりしないか考えてるだけだ」
ぷいっと束みたいな仕草で顔を逸らした千冬、図星って奴なんだろうな、顔もちょっと赤いし照れてるんだろう。
別に隠す事ねーのにな? 俺も親父や母さんの事大好きだし、家族なんだから弟の事が大好きでも普通だろ?
とかなんとか思ってたらジュースを取りに行ってた束が戻って来た、スポーツドリンクと子供用のりんごジュース、後は俺ん家の定番になってるコーラもどき。
「あれ? ちーちゃん、いっくんと箒ちゃんは? てか君も扇子どうしたのさ?」
「二人とも外だ、扇子はせがまれて渡してしまったところだな」
「そーそー、鈴も付いてるし二人とも珍しがってさー」
「ふーん、でも良かったの? あれおじさんから貰ったんでしょ? 結構素材も良かったし、それなりに高いと思うんだけど」
「へーきへーき、ちょっと貸したくらいじゃどうにもならないって」
あの扇子は俺が道場に通って少しした頃に親父が用意してくれた奴で、師範と一緒にお酒飲みに行った時に俺の目指してる型を教えて貰ったんだって。
んで、だったら折角だしそれ用の扇子作って貰おうって話になったみたいで、職人さんの所に行って材料から選んで出来たのがあれらしい。
だから多少荒い使い方してもいい様に頑丈で硬いからちびっこが振り回しても大丈夫。
––––とか思ってゆっくりとジュースを飲んでたらわんわん泣きながら一夏くんと箒ちゃんが帰ってきた。
「一夏!!」
「箒ちゃん!!」
その声を聞いた瞬間、二人ともめちゃくちゃ慌てて飲んでたジュースをほっぽり出して庭の方まですっ飛んでった、俺も早く行きたかったけどとりあえず普段からポケットの中に入れてる絆創膏の確認をしてから、ハンカチを庭の水道で濡らしてから一夏くん達の所に行った。
先に行った二人がわたわたしながら一夏くんと箒ちゃんにあれこれ話しかけてるけど、ちびっこ二人は泣いてるから上手く話せないのかずっとどもってる。
ぱっと見て目に付いたのは汚れた二人の服、転けたのかな? んで次に気になったのは持ってた扇子が二つとも見当たらない事、開いた状態で走ってたから泣いてる理由は多分……。
俺は何となくそれが分かったので、ゆっくりと二人のところに行ってしゃがんで目を合わせた。
「一夏くん、箒ちゃん」
「に、にいちゃ、せん、せんす……」
「ごめ、ごめんなさ、ごめ……」
「二人とも大丈夫そうで良かった、痛いところは無い?」
そう言って泣いてる二人の顔を濡らしたハンカチで拭いてあげながら頭を撫でる、そんな俺の様子に束も千冬も少し落ち着いたのか、ちびっこ達の服の汚れを落とし始めた。
少しして二人が泣き止んだ後、話を聞いたら二人で色々な所を走り回ってる内に一夏くんがうっかり持ってた扇子を何処かに置きっぱなしにしてしまい、何処で無くしたのか分からなくなったらしい。
その後箒ちゃんと一緒に頑張って探してたら、今度は箒ちゃんが一夏くんを巻き込むような感じで転けちゃったらしく、赤い方の扇子に大きな穴が開いてたんだって。
それで怒られるのが怖いけど二人で謝りに来たって訳だ。
箒ちゃんが服の中に隠してた扇子を広げてみると確かに穴が開いている、多分転けた拍子に石か何かが当たったんだと思う。
その話を聞いた俺は、顎に閉じた扇子を当てながらどう言ったら良いのかをちょっと考えてた。
別に俺は全然怒ってない、寧ろ二人が擦り傷も無かった事にホッとしてるくらいだから怒る気なんて全然無いのにビクビクと二人並んで俺を見てるのがなぁ、束の罵倒や悪口より心が痛い、しかも束も千冬も気まずそうな顔してるしなぁ……。
チラッと二人を見たらちびっこたちと同じ様にしゅんとしてた、なんでそうなるんだよ。
……うーん、こうなったら何か一つ手を打たなきゃだ。
「てな訳で、箒ちゃん? 一夏くん? 目を瞑って手を出しなさい」
そう言って扇子の先を二人に突きつけ、おずおずと差し出された手の平の上を痛くしないようにぺしぺししながら、束と千冬にこっそり俺の鞄を持って来て貰うように小声で頼む。
んで、二人が持って来てくれた鞄から元々二人にあげる予定だった棒付きの飴をプレゼントする。
「もういいよー」
「あめ?」
「そうそう、二人とも正直にごめんなさい出来たからご褒美です、今日は怪我が無かったから良かったけど次からは気をつけるんだよ?」
そう言って俺はちびっこ達の頭を撫でながら束と千冬に軽くウインクしてこっちの緊張も解くのだった。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ