天災二人と馬鹿一人   作:ACS

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年越しまでに後一回は更新する予定です。




幕間:兎から見た彼

 

 

––––毎年お盆に篠ノ之神社で行われる神楽舞、それに私は少し無理を言って参加させて貰っていた。

 

今まで全く興味が無かったのに今年は興味が湧いたのか、その理由は彼が昨年見た神楽舞に見惚れてた事が気に入らなかったのだろう、熱心に舞の感想を語る彼が無性に嫌だった事を今でも覚えてる、ただ何故その程度の事が気に入らないのかは考えないようにしているけれど。

 

考えてしまったら自覚する、それはなんだか癪に触るから意地でも私は考えない。

 

そもそもあんな馬鹿のどこがいいと言うんだろうか? 私の話を一個も理解出来てない癖に何が楽しいのかニコニコ笑って聞いちゃってさ、剣術の腕前だってちーちゃんに遠く及ばないのに飽きずにやってるし? 私が色々ちょっかい出してもへこたれないし、諦めが悪いって言うの? 無理な事を無理って思えない人種なんだろうねアイツ。

 

やっぱ馬鹿だ馬鹿大馬鹿野郎だ、そんな奴の何に魅力を感じろって? じょーだんキツイよ、ちーちゃんほどカッコよくないし? 箒ちゃんやいっくんほど可愛くないし? 私ほど頭も良くないじゃん、微塵もこれっぽっちも一ナノミクロンたりともぜーんぜーん意識してませーん、良し理論武装完了。

 

だいたい、クラスの女子の何人かがアイツの事好きだって話してたの聞いた事あるけど、どいつもこいつもやれ顔がいいとか運動できるのがいいとか話してると楽しいからとか、そんな上っ面だけしか見てない連中に彼が靡くと思ってるんだろうか? 私がどれだけ罵倒しても嫌がらせしても真っ直ぐ目を見ながら話しかけてくる男の子だぞ? 人の表面しか見てない連中と違って彼は人の内側を見るんだぞ? 連中は自分が釣り合うと思ってんのか? 彼の一側面しか知らない癖に好きだのなんだのって……負けず嫌いな性格だとか、ああ見えて努力家だとか、話の引き出しの多さは好奇心旺盛なところから来てるとか、そんな彼の顔を全然知らない癖にそんなこと言うなっての。

 

そんな事を考えていたからか、化粧をしてくれていた雪子叔母さんの手が止まってしまった。

 

 

「束ちゃん? お化粧出来ないからできれば百面相はやめてほしいかなぁ」

 

「うっ、ごめんなさい……」

 

「ふふっ、束ちゃんは可愛いんだから気になるあの子もきっと釘付けよ? だから難しく考えないの」

 

 

そう言って雪子叔母さんは私の髪をセットし始めたけど、私は叔母さんの一言のせいでそれどころじゃ無かった。

 

 

「ねぇ叔母さん? 私が誰を気にしてるって? もしかしてあの馬鹿の事? いやいやそんなまさか今回の神楽舞だって別にあの馬鹿に見せるためとかじゃ無くって将来私もやらなくちゃいけないからその予行練習的な意味合いのアレで別にそんな––––」

 

「はいはい、ならそう言う事にしておくわね?」

 

 

私の必死な弁明も虚しく叔母さんは誤解したまま私の支度を終えて退出して行った。

 

色々納得いかなかったけれど、本番の時間になったから深呼吸で気持ちを落ち着かせた後、私は扇子を持って舞台へと向かう。

 

本当なら先祖代々からの宝刀も使うんだけど、身長の問題で逆に危ないから二つ扇子を使う事になった、誰かさんと一緒だけど私は全然気にしてない、気にしてないったら気にしてない。

 

舞台の上に登ると舞を見に来た人が沢山居て正直煩わしく感じたけど、前の方にちーちゃん達とあの馬鹿が居るのが分かったから我慢だ我慢。

 

 

四方八方から刺さる視線は我慢しても不愉快な事に変わり無く、なんなら今からでも全部ほっぽり出してやろうかとも考えたけれど、いざ舞が始まったら不思議と集中してそんな考えは消えて行った。

 

一種のトランス状態なんだろうと思うけど、嫌な気持ちはしなかったのでその感覚に身を任せて舞台上で踊って行き、途中で彼と目があった。

 

そわそわと落ち着かない様子で私を真っ直ぐ見る彼は今私だけを見ている、私の舞を見てきっと綺麗だと思っている筈だと考えたら何故か笑いが溢れた。

 

別に意識した訳じゃないのに何となく頬が緩んだような感じで、せっかく目が合ってたのに彼はサッと顔を逸らしてしまう。

 

別に何もしてないのに何故顔逸らしたんだろ? まぁいいや、後で合流した時にでも聞きゃいいや。

 

そんなこんなで、私の神楽舞は無事大成功を収めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お風呂に入って化粧や汗を洗い流した後、私は御守り販売とかをパスして浴衣に着替えてから待ち合わせ場所の鳥居下に向かっていた。

 

本当ならちーちゃん達も一緒に居る筈だったんだけど、箒ちゃんといっくんが早く出店を見て回りたくて落ち着かなかったからちーちゃんが先に連れて行って来るらしい、そんなメールが彼から来てた。

 

視線の先に居る同じ様に着物を着た彼は妙に様になってたけど、さっき顔を逸らした事を問いただしたかった私は気配と足音を消して背後を取り、お財布とかが入った巾着を彼の頭に乗せる。

 

 

「コラ、さっきなんで私から顔逸らしたんだよ」

 

「うおっ!? いつの間に!?」

 

「君は隙だらけだから簡単に背後取れるんだよ、んなことより私の質問に答えろよ」

 

「いや、その、あはは、なんつーか普通に綺麗だったからつい、さ?」

 

 

ぽりぽりと頬を掻きながらそんな事を言う彼を見て胸が暖かくなった私は、それ以上意地悪な事をせずに彼に向かって右手を差し出す。

 

 

「ん」

 

「ん? どったの束?」

 

「はぐれたら大変でしょ? だから手、握らせてやるって言ってんの」

 

 

そう言ったは良いものの、流石に私も恥ずかしかったのでそのまま顔を横に逸らして彼からの返事を待つ。

 

少しの間、彼は『あー』だの『うー』だの言って悩んでたけど、『よし!!』と気合いを入れたかと思うと、ぎゅっと強く私の手を握る。

 

その後ちーちゃん達に合流しに行く間に横目で彼を見たら、私と同じ様に顔を赤くしてそっぽを向いててなんだかおかしかった。

 

私は彼を意識していない、今のままで十分––––だから。

 





原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)

  • MF文庫J
  • オーバーラップ
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