「やっぱ落ち葉掃除の後って焚き火だよなー」
気持ちいい秋晴れの日、俺と千冬は稽古終わりに篠ノ之神社の落ち葉掃除を手伝ってた。
目的は師範が用意してくれたさつまいもと栗なんだけど、落ち葉の中に紅葉が妙に気になる、広島とかだともみじ饅頭ってのがあるし、紅葉の天ぷらなんてのも聞いた事がある。
つーことは紅葉って食えるのかな? この神社は銀杏もあるし、銀杏そのものが食えるんだから葉っぱも食えなくはないだろうし……。
どうにも気になった俺は近くに落ちてた綺麗めな紅葉を拾って食ってみたんだけど、口に入れた瞬間にカランと何かが落ちる音がしてふっと振り返ったら、今まで見た事無いくらいぽかーんとした顔で一緒に掃除してた千冬と目が合った。
「な、何してるんだ?」
「ん? 紅葉食ってる」
「それは見れば分かる、分かるんだが私が聞いてるのはだな……」
「もしかして味? 普通に青臭くてマズイ、全然飲み込めない」
「それは……そうだろうな」
「ところで千冬、一個いい?」
「な、なんだ?」
「……水かなんか無い? あのね? 口の中がね? とっても地獄なの」
「ふふっ」
口を押さえながら千冬に助けを求めたんだけど、俺の顔を見た千冬は口元を押さえてクスクス笑い始めた。
多分あれだ、俺めっちゃ頑張ってポーカーフェイスしてるつもりなんだけど、それが全然出来てないんだな。
「す、すまない、だが痩せ我慢してる割には随分可愛らしい口調だったものだからつい……」
「口の中が超イガイガする、イガイガのイガちゃん」
「ぷっ、くくっ、あはははは!! そんな表現、まるで、まるで一夏じゃないか、ぷっあはは、ダメだ笑えて来た!!」
ついイタズラ心が出てそんな風に千冬に言ったらどうもツボに入った見たいで、遂に大笑いしてしまった。
目に涙まで浮かべて笑う千冬は初めて見たから少し新鮮に思えたけど、口の中が地獄なのは変わらないから何とかして欲しいなぁ。
そんな風に思ってると、千冬は笑いながらも自分の持ってた水を俺にくれた。
んで有り難くその水で口を濯いで地獄を何とかしたんだけど、ペットボトルのキャップを閉めたところである事に気付いてしまう。
……このペットボトル、口空いてたからもしかして千冬の飲みかけ?
チラッと千冬の方を見たら、こてんと可愛らしく首を傾げるだけで特に気にした様子が無い、もしかして気にしてるのは俺だけ?
「あ、ありがとう千冬、これ返すね?」
「いや、私の方こそ笑って悪かった」
そう言って申し訳なさそうに謝った千冬は、喉が渇いてたのかそのまま受け取ったペットボトルの水に口を付ける。
なんだろう、別に直接ちゅーした訳じゃないのに凄くドキドキするんだけど、やっぱ千冬が美人だからかな?
「ん? 私の顔がどうかしたか?」
「いやー、その、千冬ってあんまり気にしないんだなーって思ってさ」
「気にする? 何を?」
「だって、俺もそれ口付けたろ?これってアレじゃね?」
思わず間接キスと言わず言葉を濁しちゃったけど、千冬にはそれが伝わったのか、無言でペットボトルの口を眺め始めた。
流石の千冬も照れてるのか、顔を赤くして黙ってしまったので妙な沈黙が俺たちの間に出来てしまう。
…………どーしよ、普段なら色々話題が出て来るんだけど俺も恥ずかしくて全く話が出て来ない。
「……なぁ? その、なんだ」
「お、おう、どーした?」
「ファーストキスはレモンの味というが……実際はどうなんだろうな?」
千冬は自分の唇を抑えながらそんな風に呟いて俺の方に振り返る。
普段から言ってるけど千冬はとびきりの美人さんだ、そんな美人さんにジッと見つめられた俺は思わず視線を逸らしてしまった。
……最近束とか千冬の顔を見てて目を逸らす事が多い様な気がする、というか二人とも俺の知り合いの誰よりも美少女だからなぁ、長いこと顔見てるとドキドキする様になって困る。
そんな時別のところから境内を歩く音がしたから、俺達はハッとなって竹箒を握り直す。
んで慌てて集めた落ち葉を二人掛かりで一箇所に集めてると、他の場所の掃除をしていた師範と、ちびっこ達の相手をしてた束が歩いて来たのが分かった。
「ほーら箒ちゃーん? いっくーん? ちーちゃん達が落ち葉集めてくれてる筈だから焼き芋タイムだよー? 焼き栗もあるよー?」
……束、俺今お前の事が超天使に見えるわ。
ちらっと千冬を見ると少し残念そうな顔をしてる様な気がしたけど、束の運んでるさつまいもが入った段ボールを見たらそれを手伝いに行ったから多分気のせい……だよな?
その後は特に何も起きずに焼き芋と焼き栗をみんなで食べたんだけど、俺も千冬みたいに自分の唇が気になって良く味が分からなかった。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ