秋の長雨って言葉がある様に今日は朝から曇り空、道場に行く時も冷たい秋風が吹いて一足早く冬が来たような気分だ。
まぁそれも稽古が始まるまでで、一回体を動かし始めたら丁度良い感じに暖かくなるし、道場に着いたら胴着に着替えるんで寒さにも慣れてる。
……だけどねお空さん? 曇りだからって雨降らさなくてもいいと思うんだ、俺。
「うへぇ、土砂降りってほどじゃないけど結構降ってんなぁ」
「天気予報では夜まではもつと言ってたんだがな……」
「あれ? もしかして千冬傘忘れた?」
「丁度先週普段使ってた折り畳み傘がダメになってな、仕方ないから師範から傘を借りよう」
「んーでもそれだと返すの面倒だろ? 稽古の時に持ってくるとしても手荷物だと思うぞ? それなら俺の傘に一緒に入るか? 丁度折り畳み傘持ってきてるし」
俺の傘は結構広めだから千冬と二人で入る分には問題無い、それに傘を借りるにしたって俺達以外にも傘を忘れた奴はいる訳だから足りるか分かんないしね。
それなら帰り道が一緒の俺と帰った方が早いと思う、多少は濡れるかもしれないけど千冬側に傘を傾けたら俺はともかく千冬が風邪引いたら大変だ。
俺はその時何も考えずにそんな事を言ったし、千冬も何も考えずに頷いたんだけど、いざ二人で並んで傘に入ってると妙に会話が弾まない。
いや、別に話す事がない訳じゃないんだけどさ、女の子と一緒の傘に入って歩幅合わせながら歩くってした事なかったから変に緊張する。
「な、なぁ千冬?」
「ん? どうした?」
「その、今日はちょっと寒いよなぁって」
わーい俺の馬鹿!! これは会話が続かない話題じゃんか、無言でとことこ歩くのも嫌いじゃないけど今は別、何か色々喋って気を紛らわしたい。
「……寒いのか?」
「えっ? ああ、うん。雨まで降って来たしなー、今日も冬並みの気温だってテレビで言ってたし、寒いは寒いよ?」
「そうか、ならこうすればどうだ?」
そう言って千冬は俺の腕に抱き付いて来た。
「さりげないつもりだろうが、私の方に傘を傾けてるのは分かってる、それでお前が風邪をひいたらどうするんだ?」
「いやまぁそれはその……」
「だからこうやって密着すれば良い、そうすればお互いギリギリ傘の内側には入れる」
「お、俺は良いんだけどさ? 千冬はこれ、恥ずかしく無いのか?」
「…………恥ずかしいに、決まってるだろう?」
ぎゅっと腕に抱き付く力を強くした千冬は流石に照れ臭いのか、顔を赤くしながら俺から目を逸らしてそう漏らした。
それに対する上手い返しが出てこなかった俺はそのまま暫く歩き続けてたんだけど、一緒の歩幅で歩いてるから常に隣には千冬が居るし、出来るだけ身体を近くに寄せたいのか俺の肩に頭も預けてるから耳元で微かに息使いが聞こえたり、いい匂いがしたりで心臓がバクバクして痛い、こんな時どうしたらいいんだろう?
暫く無言のまま二人並んで歩いてたんだけど、横断歩道の信号待ちをしてる時に俺の表情から色々考えてる事を察したのか、千冬の方から話しかけてくれた。
「無理に話さなくてもいい」
「えっ? でも帰り道は色々話した方が楽しいだろ?」
「確かにお前と話していると楽しいが、今日はこのままの方がいい」
「……この状態? それともこの状況?」
「両方、だな。少なくとも私は今のこの現状で満足している、何故だか分からないがこうしてると不思議と心が温かくなるんだ」
「そっか、じゃあ少し静かにするよ」
ちょっと恥ずかしいけど千冬がそう言うならと、俺はその提案に乗って黙ったまま千冬の家に向かう。
雨音と足元のちゃぷちゃぷする音の二つしか聞こえなくなったけど、落ち着いてしまったら不思議と心臓のバクバクが収まってた。
時々千冬から俺の顔を伺うような感じでチラチラ見られるけれど、特に気にする事無く歩き続けてたらいつの間にか千冬の家だった。
こっからは自分家も近いからダッシュで帰ってあったまるつもりだったけど、『せっかくだから暖かい物でも飲んでいけ』と千冬に誘われたから有り難く家に上げて貰う。
「お邪魔しまーす」
「にーちゃん?」
「ぼんじゅーる一夏くん!! 元気かい?」
「うん!!」
出迎えてくれた一夏くんに挨拶をしつつ、俺は千冬の部屋でこの間貸したアニメのDVDを再生してちょっと待ってたんだけど、OPが終わった辺りで千冬がココアを持って来た。
流石に何回か作ってるから今回は大丈夫、前は味が妙に薄かったり、逆に底に残るくらい濃かったりしたからなぁ、ちょっとだけホッとしてる。
不思議と一夏くんが増えると帰り道みたいな緊張感のある沈黙は引っ込み、普段の通り色々な話やおもちゃのピアノを使った簡単な演奏をしたりして三人で楽しく遊ぶ事が出来た。
……でも、偶にはこんな日もいいかな?
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ