天災二人と馬鹿一人   作:ACS

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小学四年生 19

今日学校で昔の偉人を調べる授業があったから図書室で適当に色々本を探してたんだけど、俺でも知ってる人の本を見つけたのでそれを題材にして感想文を書いてたんだけど、いつの間にか千冬が後ろから覗きこんでた。

 

「佐々木小次郎か?」

 

「うん、どんな人かあんまり知らなかったけど必殺技はしってっからなー」

 

「必殺技? あぁ、燕返しの事か? だがあれは……」

 

「ん? どったの千冬?」

 

 

佐々木小次郎と言えば燕返し、俺でも知ってる事なのに千冬は意外にも少し悩んだ様なそぶりでチラチラと俺の顔を見ている、束に聞けばなんか分かるかもと思ったんだけど授業が始まってからずっとユーリイ・ガガーリンって人とニール・アームストロングって人の本を読み続けてるから何となく邪魔し辛い。 まぁでも剣士の事だし態々束に聞かなくても千冬に聞いた方が早いかな?

 

 

「てな訳さ、何でそんな顔してんのさ?」

 

「いや、本人もそうなんだが佐々木小次郎の燕返しは実在したかどうか分からないんだ、折角やる気なところに水を差すかと思って口にしなかったんだが……顔に出ていたか?」

 

「割と分かりやすく出てたよ?」

 

「……悪かった」

 

 

少しばつの悪そうな感じで指先で頬っぺたを掻く千冬、別に気にしてないんだけどなぁ。

 

取り敢えず横の席に座らせながら色々話を聞くと、燕返しって名前の技があったかどうかはともかくとして、得意技はあるにはあったらしい。

 

ただ、あんまり得意技の噂が広まりすぎると対策されてしまうから、わざと嘘を混ぜてたからどれがそれかはわからないとか。

 

 

「有力な候補としては虎切刀と言う技だな」

 

「ツバメよりすげぇの切ってるなぁ……」

 

「実際に切ったのかは分からんが、この技は真っ向から刀を振り下ろし、相手が空振りしたと思ったところを股下から顎先まで一気に斬り上げる、丁度こんな風にな」

 

 

そう言って千冬は俺を立たせると、丸めたノートを剣に見立てながら俺の鼻先スレスレをしゃがみ込む様に振り抜き、二の太刀でそのまま立ち上がる勢いを加えながら股下を切り上げた。…………俺の股間目掛けて。

 

当然、そんな事したら男の子の大事な物を引っ叩かれる、運がいいのか悪いのかは分からないけれど、叩かれたのが丸めたノートでほんと良かった、竹刀だったらどうにかなってる、そんぐらい超痛い。

 

立ってられないから股間抑えて蹲るしか無かったんだだけど、涙目になりながら千冬を見ると完璧に『やっちゃった……』みたいな顔して固まってる、俺の股間引っ叩いた衝撃が手に残ってるのか切り上げた体勢のまんまだし。

 

 

「す、すまん!! 大丈夫か!? 痛くないか!?」

 

 

俺が涙目なのに気が付いたのか、そんな風に声を掛けてはくれたけど、全然大丈夫じゃないしなんなら吐きそうなくらい痛い。

けど千冬が本気で心配した顔してるから頑張って立ち上がって大丈夫アピールして何とか落ち着かせた、わざとやった訳じゃ無いし怒る事じゃないからさ。

 

「と、とりあえず、その、分かったから……」

 

「……そ、その、どう謝ったらいいのか」

 

「べ、別に大丈夫、だからそれよりも、他になんか剣術なーい? 型だけでも見てたら気が紛れそうだし」

 

とは言ったものの、俺の事よりめちゃくちゃしょんぼりしてる千冬が気の毒だからそっちの気が紛れてほしい、俺怒ってないよー? 本当に気にしてないよー?

 

そんな俺のテレパシー的な何かが伝わったのか、千冬は一回深呼吸すると、今度は丸めたノートを右手を中心に高く構えながら一気に振り下ろした。

 

掛け声みたいなのは上げてなかったんだけど、集中して振り抜いてたからか空気が切れた様な雰囲気だった、すっげぇな。

 

 

「コレが示現流の蜻蛉の構えだ、一撃で一切合切斬り捨てる剛剣なんだが……お前には似合わないな」

 

「あはは、まぁ痛いのも痛くするのも嫌いだしなぁ」

 

「ふふ、そうだな」

 

「男の子としてはちょっとカッコ悪いけどねー」

 

「そんな事は無いさ、お前は十分カッコいい男だとも」

 

 

千冬は妙に自信満々にそんな事言ったけど、今までそんな事言われた事無いからちょっと恥ずかしい。

 

 

「後は……お前なら新陰流の無刀取りが性に合ってるだろうが、それは今似たような事を練習中だったか」

 

「あっはっは、さては俺がお前から一回も無刀取り出来て無いからって余裕かましてんな? 今に見てろよ、絶対お前の手元から竹刀とっちゃる」

 

「ああ、やれるなら是非そうしてくれ、私も取れる様になるまで何度でも付き合ってやるさ」

 

 

そんな軽口と一緒にお互いに顔を見合わせて笑った後、俺達は授業で提出する感想文の続きを書き始めるのだった。

 

因みに千冬が調べてた人は幕末の四大人斬りだとか言ってた、なんちゅーぶっそうな……。

 

あと、先生から賞を貰ったのは束の感想文だった、教室の壁に張り出されてたのを読んだけど、宇宙の憧れとかロマンをめっちゃ書いてて、明らかに語り足りないって感じの内容だった。

 

 

原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)

  • MF文庫J
  • オーバーラップ

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