「うーん、やっぱ間違えたかなぁ……」
友達の家からの帰り道、俺は首元のマフラーを弄りながらとぼとぼと歩いていた。
いや別に深い問題じゃないんだけどさ、ウチから持ってきたマフラーがえらく長くて丈が余りまくってるんだよねぇ。
昼間はあったかかったから巻いて無かったんだけど、日が暮れてから巻いたら明らかに二人分くらいの長さがあって、首元がゴワゴワしてる。これって頭にも巻くのかな? うーん寧ろお腹?
使い方が分からないからあれこれやってたら、電気屋から何かを買ってきたっぽい束を見つけた。
「おーい束ー!! ちょっといいかー?」
「…………何やってんの、君?」
首と頭にマフラーをぐるぐる巻きにした俺を見た束がいつになく馬鹿を見る目で俺を見てるあたりこの使い方は違うらしい、俺もちょっと思ってた。
とことこと呆れ顔でこっちに来る束にマフラーを渡しながら、なんでこんな長いのか聞いて見たんだけど、『興味無いからしらない』って言う素っ気ない返事しか返って来なかった。
「うーん、束にも分からない事があるんだなぁ」
「悪かったな知らなくて!! 誰かさんが昔言ってたんですけど? 私だって世の中の事ぜーんぶ知ってるって訳じゃないって」
「おー、そーいやそんな事言ったなぁ、俺てっきり忘れられてるもんだと思ってたぞ? よく覚えてんなー」
純粋に束の記憶力を褒めたつもりだったんだけど、何故か無言で頬っぺたつねられた、痛い。
『そういうのは思ってても言わないもんなの』とか言ってむすっとしながら明後日の方向を見る束、まぁ束がそう言うならそうなんだろうな。
「てか結局このマフラーはどう使うんだよ?」
「君みたいなお馬鹿さんの首を絞める道具なんじゃない?」
「家にあった奴だぞコレ!?」
「んじゃあ、槍として使うんじゃない? こんな風に」
そう言って束は俺の手からマフラーを取ると、素早く腕を振って俺の顔面にマフラーを巻き付けて来た、なーんか似たようなのを前にアニメでみたなぁ。
「いわゆる布槍術って奴だね、マフラーでやるもんじゃないけど」
「やった後で言わないでくんね? それなりにチクチクして痛いんだけど」
「別にいいじゃん、気にしてないでしょ?」
「まーなー」
別に痛くないし普段のやりとりだからなぁ、けど結局マフラーが長い理由が分かんねーな。
そんな事を思いながら巻き付いたマフラーを解いてると、道路を挟んだ向かい側でマフラーを巻いてるカップルが並んで歩いてるのが見えた。
お揃いの色だったし仲良しなんだなぁと思ってた俺の頭にピーンと閃きが来た、成る程コレはつまりそう使うんだな?
「てな訳で束、ちょっと協力してくれよ、多分使い方が分かったから」
「ん? 別にいいけど一人じゃダメなのかよ」
「うん、一人じゃダメ」
そう言って俺はまず一回自分にマフラーを巻いて、余った丈を束の首に巻こうとしたんだけど、途中から俺が何しようとしてるのか気付いた見たいで、胸を押されて距離を取られてしまった。
「ちょ、ば、馬鹿!! 人前で何やろうとしてんだよ!?」
「え? これ絶対二人で使う奴だろ? だから俺とお前で使って見ようと思ってさ」
「そんな恥ずかしい真似出来ないってば!! やるならちーちゃんにやれよ!!」
「千冬今居ないだろ馬鹿!!」
「はぁぁぁあ!? お前今馬鹿って言ったな!? この束さんに面と向かって馬鹿って言ったな!! ぜってーしてやんないからな!!」
「お前さっき協力してくれるって言ったろ!?」
「あーあー聞こえなーい、聞こえなーい」
明らかに聞こえてんのに束は両耳を塞ぎながら聞こえないフリをして逃げ始めた、やっろう……!!
ぜってー捕まえてやる、家遊び派のお前がこの街知り尽くしてる俺に鬼ごっこで勝てると思うなよ!?
「逃げたなこの野郎、止まれ束ぇ!!」
「べーだ、捕まえられるもんなら捕まえて見ろよ、そしたらマフラーでもなんでも巻いてやるよーだ!!」
器用に後ろを見ながら走る束はあっかんべーをしながらスピードを上げる、まともに走ったら絶対追い付けないと感じた俺は、路地裏とか裏道を利用して束を先回りして待ち受ける。
束の帰り道は分かってるから問題無い、公園の茂みから飛び出す様にして束の前に立ち塞がった俺は、そのまま飛びかかったんだけど、束はガードレールを蹴って俺の上を飛び越えた。
「ざんねんでしたー!! 君が私を捕まえるなんて十年早いよ!!」
「くっそ、ずるいぞそれ!!」
「へーん、近道して待ち伏せしてる君程じゃないもーん」
「そんなガン逃げしなくてもマフラーぐらい良いだろちくしょー!!」
結局、俺は束が家に帰るまでに捕まえる事が出来ず、ダブルマフラーは経験出来なかった。
仕方ないからまた今度千冬とやろうとか考えながら俺も自分の家に帰ったんだけど、走り回ってる間にマフラーが汚れてたらしく、めっちゃ母さんに叱られるのだった。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ