天災二人と馬鹿一人   作:ACS

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幕間:兎から見た彼 2

––––お正月、篠ノ之神社はお守りを売ったりおみくじを売ったりと大忙し、そのおかげで遊ぶ暇が全く無い。

 

毎年の事だから流石にその事態には慣れたけれど、それでも知らない人の相手は疲れる。

 

だから大晦日は早めに寝る事に決めてたんだけど、ベッドに入った矢先に彼からメールが届いた事に気が付いた。

 

 

文面は『まだ起きてる?』と言う簡素なもの、多分彼自身も眠いんだろう、今日は朝から張り切って遊びまわってたらしいし。

 

『起きてるよ』とだけ返しながら少しだけ体を起こして返信を待つ、どーせ寝るまでの無駄話に付き合わされるんだし、一々携帯置く方が面倒だ。

 

そうしたら『明日初詣』という短文が送られて来た、途中で寝ちゃったんだろう、彼らしいと言えば彼らしいけど。

 

 

「つーか寝落ちすんなら時間くらい書けよ、明日私も手伝いがあるから暇じゃないってのにさー」

 

 

そんな事をぼやきながら返信をしようと文面を打ち始めたところでやめた、どーせ寝てるから読んでも明日の朝だろうし、時間決めてもその時間に起きれなきゃ意味ないしね。

 

あーあ、ほんっと馬鹿みたい、いっつも急なんだからさぁ。

 

 

––––翌朝、私は少しだけ母さん達に無理を言って抜け出させて貰った後、彼の家の前に来ていた。

 

着替える暇が無いからって理由で巫女服のまんまだけど、その辺りは仕方ない。 これもそれもあの馬鹿が人を誘っといて尻切れトンボのまま終わらせたのが悪いのだ、私のせいじゃないし、なんならこの馬鹿にも罰として雑用させてやろうかな? …………何だかんだ楽しんでやりそうだし、罰にならないか。

 

 

インターフォンを押しておばさんに新年の挨拶を済ませると共に彼を呼び出して貰う、本当はこんな風に態々私から出向く必要は無いんだろうけど、それならそれで誰か別の奴と初詣に来そうでどこか癪だった。

 

冷えた手を自分の吐息で温めてながら、ふと彼との付き合いももうすぐ四年になるのかと思い、同時になんだか不思議な感覚に見舞われる。

 

自分で言うのもあれだけど、私はお世辞にも良い性格をしているとは思えない、彼とは違って社交的でも無いし他人に対しては非常に冷酷だ。

 

初めて会った時もかなり酷い事も彼に言った、時には手を上げた事もあった筈なのに彼はそんな事はけろっと忘れて私と遊んだ記憶しか残してない。

 

何時もニコニコ笑って、こっちの都合など御構い無しに私の手を引くようにしてあちこち連れまわすわ、事あるごとに辞書扱いしてくるわ、ベタベタに頼られてる筈なのに妙に仕方ないと納得してしまう不思議な男の子。

 

私自身は振り回す側なのに事彼とのやりとりは終始やられっぱなし、ムカつくから少し意地悪をしてみてもちっとも怒りやしない。

 

一度本気で困らせてやろうかと考えた事があったけど、私は彼の泣いてる顔や困ってる顔を見るよりも何時もの笑顔の方がいいので結局辞めた、アイツは笑ってるのが一番似合うし。

 

 

そんな風に彼との付き合いに想いを馳せていると、慌てて着替えたのか少し寝癖が付いたままの彼が玄関から出て来た。

 

 

「あけおめー、だけどまだ六時にもなってないのに迎えに来てくれるとは思わなかったなぁ」

 

「私だって暇じゃないんだよ、誘った癖に寝落ちした馬鹿に付き合ってやるだけありがたいと思えよ」

 

「おーあんがとなー、後毎回のことだけど巫女服似合ってんな」

 

「あっそ、ま、束さんは何着ても似合うからとーぜんだけどね」

 

「よっしゃ、じゃあ行こうぜ束!!」

 

 

そう言って彼はごくごく当たり前の様に私の手を握って神社の方まで走って行く。

 

剣術を学び出してからは硬くなった手とそこから伝わる彼の体温、運動する様になったからか身長も伸びてすっかり抜かされてる、今も後ろ頭に寝癖が付いてるくらい抜けてる癖に私の手を引いて走る彼の背中は少しだけ大きく見えた。

 

––––神社に着いて初詣を終わらせた彼は朝ご飯を食べてなかったのか、我が家のお雑煮を食べてから『んじゃ、俺これから用事あるからもう行くなー』と言ってあっさり行ってしまう。

 

はいはいと手を振って別れはしたが、あっさりし過ぎてるのはもう少しなんとかならないものだろうか?

 

確かに私は彼からすれば大勢居る友達の中の一人であって、特別な個人じゃないってのは理解してるけどさぁ……私だってそれなりに長い付き合いなんだよ? 彼はもう少しその点を考慮してくれてもいいんじゃないだろうか? 仮にも幼馴染で気軽に遊びに来れる関係なんだしさぁ。

 

そんな風に繋いでいた手を眺めながら、色々心の中で愚痴ってたら箒ちゃんがトコトコと歩いて来た。

 

 

「おねーちゃん、さみしーの?」

 

「んんー!? 箒ちゃーん? なーんで私があの馬鹿が居ないだけで寂しがってるって事になるのかな? べっつにぃ? 私はあんな奴居なくても箒ちゃんが居るから全然寂しくないしぃ? なんなら今日もアイツからの初詣のお誘いなんか受けなくたってよかったんだけど、せーっかく眠いの押してまで私を誘ったんだから付き合ってあげるのが友達でしょ? だから別に私が新年早々顔を合わせたかったとかそんなんじゃないからね? 仮にも幼馴染が朝から会いに来てるのにあっさり帰りすぎじゃんとか、そんな事ひとっかけらも考えてないから箒ちゃんの気のせいだよー? そもそも、そーもーそーもー!! 初詣しに来ただけだから用事があるならさっさと帰るのは当たり前だし、いつまでも居座ってても人混みでごった返してるから結構疲れるのは目に見えてるじゃん? 早く帰って正解、まぁ今日母さんが早上がりさせてくれるって言ってたからアイツがもしも私の事待っててくれたなら、今日一日遊んであげるのも吝かじゃなかったんだけど、だ・け・ど!! さっさと、帰っちゃったなら別に私はそれでもいいしー?」

 

 

一息でここまで言った私だったが、途中から箒ちゃんは母さんのところに行ってたらしく『おねーちゃん、おにーちゃんが居なくてさみしいんだってー』と言いふらし回って居た。

 

 

「やめて箒ちゃん!! そんなんじゃないから!!」

 

 

そう言って、誤解を解く為の弁明をして回った私のお正月は去年よりも忙しくなるのだった。

 





久々の束さんによる長文言い訳、尚原稿用紙一枚分な模様(白目

原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)

  • MF文庫J
  • オーバーラップ

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