天災二人と馬鹿一人   作:ACS

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小学五年生 2

うちの学校は五年生になると課外授業とかで良く学校の外へ出たりするんだけど、新学期が始まってまず一発目が写生大会だった。

 

行き先は近くの山、今年は雨が降らなかったり風の強い日が少なかったりしたおかげで山桜が満開だったから描いてて凄く気持ちいい。

 

鉛筆の力加減を調整しながら色の濃淡で桜や他の木を表現したり、遠近法も入れて奥行きを出したりしながら真面目に描いてたんだけど、左肩の上に顎を乗せられた感覚がして鉛筆が止まってしまった。

 

 

「君って相変わらず趣味広いよね、鉛筆画も誰かに習ったの?」

 

「まーなー、就職して引っ越しちまったけど近所の美大の人に教えて貰ったんだ」

 

「ふーん、その割に描くの遅いじゃん。 私はもう終わったよ?」

 

『うりうり』と言いながら束は速攻で描いたっぽい絵を見せてくる、かなり上手なんだけど所々やる気のなさが伝わる手抜きがある辺りらしいっちゃらしい。

 

チラッと隣の千冬を見ると、束とは反対にめちゃくちゃ真剣な表情をしながら写真見たいに精密な絵を描いてる途中だった。……昔は絵下手だったのになぁ。

 

何となくそんなしんみりした気持ちになりながらも、俺の絵をガン見してる束を気にしない様にしながら絵を描き上げて行く。

 

全体の六割が出来た辺りで今度は右肩に重みを感じたから鉛筆を止めたんだけど、今度は千冬が束の真似をして俺の絵を覗き込んできていた。

 

「やはり上手いな、私の絵とは全然違う」

 

「う、うーん、千冬の絵はもう殆ど写真だもんなぁ」

 

「見たまま描いた通りなんだが……」

 

「ちーちゃんは見たまんま過ぎるんだよ、もー少しデフォルメ効かせても良いと思うよ?」

 

「デフォルメか……」

 

 

呟く様に自分の絵を見る千冬の横に束は移動して、そのままスケッチブックをめくって新しいページに実演する様にちょっとファンシーな絵を描いて千冬に見せる。

 

真面目に二人がやりとりしてるのを邪魔するのは悪いから俺は自分の絵に集中して黙々と描き続けてたんだけど、もう一息で完成しそうってタイミングでお腹が鳴った。

今日の授業は弁当持って来て外で食べるから割と自由にご飯食べられるんだけど、一回描くの中断すると絵の全体が歪みそうなんだよなぁ。

 

「ん? 何悩んでんのさ、もしかしてお弁当忘れた?」

 

「そうなのか? それなら私の弁当を分けてやるが……」

 

「んにゃ、絵が中途半端な出来のところだからこれ途中で切り上げたら今頭の中で出来てる形にはならなさそうでさぁ、もし食えるんなら俺の弁当食っちゃっていいよ?」

 

「えー? 君はそもそも凝り性過ぎるんだよ、多少手抜いたって良いじゃん」

 

「それはダメ、全力でやるから何でも話のネタになるんだぜ? 俺がこうやって真剣に絵を描けばさ、同じ様に真剣に絵を描いてる奴の気持ちが分かるだろ? そしたらそいつと共通の話題が出来る友達にもなれる、そーゆーことなんだよ、束くん」

 

「一丁前に君付けすんな馬鹿、何様のつもりなんだよ」

 

 

ちょっと茶化す様に束にそう言ったらぽかりと頭を叩かれた、軽い感じだったから普通のツッコミだろうけど、ここで俺様のつもりとか答えたら思っ切り引っ叩かれるんだろうなぁ。

 

と、束とやりとりをしていたところで俺の目の前に唐揚げがにゅっと出て来た。

 

視界の外から来たから割とびっくりしたけど、よく見たら千冬が箸で唐揚げを掴んで俺の口元に持って来ていただけらしい。

 

 

「えっと、千冬?」

 

「いや、手が離せないのなら食べさせてやればいいと思ってな、ほら口を開けろ」

 

「あ、あーん?」

 

 

言われたままに口を開いたら本当に唐揚げを食べさせてくれた。

 

しかも保冷剤を巻いてもって来たレモン汁もちゃんと掛けてくれてる、俺の好み良く覚えてくれてたなぁ。

 

けど確かにコレなら絵に集中出来るなー、なんて思ってたら今度は左側から卵焼きが出て来た。

 

位置的に束なので振り返る事無く口に入れたんだけど、卵焼きの次はお米、お浸し、唐揚げ、お米、と言った風に次々口に詰め込まれるから段々と口の中が渋滞してヤバイ。

 

一旦お茶で流し込もうとしたら左右から水筒の蓋に並々注がれたお茶が突き出されて来た、しかも同時に。

 

「ほら、口一杯で飲み込めないんだろ? ()()()()お茶飲めよ」

 

「私のお茶はよく冷えてる、氷を入れた上でタオルを巻いて水筒を保冷して来たからな、だから()()お茶を飲め」

 

張り合う様に二人はお茶を出し合ってるけど、俺別に自分の水筒持ってるからなぁ。

 

そんな事を考えながら自分の水筒のお茶を飲んだら、少し間が空いた後、盛大なため息が二人から聞こえた。

 

 

「なーんか張り合ってたのが馬鹿みたい、ねー? ちーちゃん」

 

「そうだな……」

 

「ん? 何、なんか俺で遊んでたの?」

 

「ま、そんな所かな? 君はおちょくりやすいからさー、あっ束さんこのレモン掛かってない唐揚げ貰うね」

 

「おま、ラス1取るか普通!?」

 

「別にいーじゃん、食べていいって言ったの君の方だしー?」

 

 

ひょいっと最後の唐揚げを持っていった束は悪戯っぽく笑うとそのまま口にする、文句を言われなかった辺り一応束の合格ラインの味らしい、作った側としてはちょっと嬉しい。

 

 

「なら私は卵焼きを貰うとしよう」

 

「お、おう、しれっと千冬も持ってったな」

 

「食べていいんだろう?」

 

「良いけど……俺が作った奴だからあんまり期待すんなよ?」

 

「そうか、なら味わって食べるとしよう」

 

「人の話聞いてた!?」

 

 

俺の叫びに千冬も笑いながら宣言通りよーく味わって食べてくれた、まぁちゃんと美味しいと言う感想もくれたので満足っちゃ満足かなぁ。

 

 

そんな風に騒ぎながら完成させた絵は自分でも中々の出来で、先生からも褒められるレベルだったので今日の課外授業も最高の一日だった。





原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)

  • MF文庫J
  • オーバーラップ

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