オーバーロード~慎重な骨と向う見ずな悪魔~   作:牧草

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prologue

ユグドラシルのサービス終了日の23:53

 

課金して外装を弄りまくったグリーンシークレットハウスで作成した拠点内に設置した黒電話から伝言(メッセージ)を繋ぐ。

 

 

 

普通に伝言(メッセージ)すればいいとは思うが、これは一種のこだわりだ。

この黒電話ひとつとってもそうだ、わざわざフレンドにお願いして100年以上前に存在したといわれる黒電話の外装を作成、伝言(メッセージ)の魔法を永続(コンティニュアル)化して付与してある。

 

さらに、この拠点にいる間は自らへの伝言の着信は黒電話にも転送される設定になっている。

 

わざわざこんなアイテムを作成したのにはもちろん理由がある。

このアバターは伝言(メッセージ)が使えないという設定の為だ。

 

この黒電話の作者であるフレンドは「意味がわからん…」と呆れつつ作ってくれたのだった。

 

すべてのプレイヤーが他のプレイヤーとのやり取りを行うため伝言(メッセージ)は標準搭載されている魔法といえる。

これを使えないようにするなんてことは普通はやらない。

むしろこんな便利機能を消すなんてとんでもない!というやつだ。

 

まぁ、雰囲気だけのアイテムだ。黒電話で特定のダイヤルを回せば、再び自身で伝言(メッセージ)を使えるようにできる設定も追加してある。

 

いざ、という時には設定を変えればいいだけなのだ。

 

 

 

「最後か…」

 

伝言(メッセージ)が繋がるほんの少しの合間に拠点内を見まわしながら一人つぶやく。

 

ビリヤード台やジュークボックスそれぞれにいろんな思い出がある。

 

罰ゲームをかけたビリヤード対決、友人の要望でジュークボックスに大量に格納されているアニメソング、エロゲソングetc...etc...

もちろん、ジャズやロックといったジャンルのものも格納されている。

 

 

 

 

「やぁ、モモンガさん。今大丈夫……って、何焦ってるんですか?」

 

 

ユグドラシルの中で一番付き合いの長いモモンガさんが少し慌てた様子で伝言(メッセージ)に出てくれた。

 

 

「………」

 

「みんな来てくれましたか?」

 

 

少し前にモモンガさんから、ギルドメンバーに最終日はみんなで集まりませんか?とメールを送ったことを聞いていたので気になって聞いてみた。

 

 

「………」

 

 

すこし寂しそうではあるが、一部のメンバーは来てくれていたようだった。

 

 

「そうですか、俺はまぁ、いつもの場所に一人ですよ。」

 

「………」

 

「そういえばクランのときから誘ってくれてましたね」

 

「………」

 

「その通りです。これが俺のロールプレイですから。いや、正直すごく嬉しかったですよ」

 

 

ありがたいことに何度かアインズ・ウール・ゴウンの前身ナインズ・オウン・ゴールの頃からメンバーにならないかと誘われていたのだ。

その度に申し訳なく思いながらも断っていた。

 

「………」

 

「確かにちょっと頑なすぎな部分もありましたね。かわりというわけではないですが、今度は俺も仲間に入れてください」

 

「………」

 

「えぇ、また別のゲームででも…」

 

「………」

 

「こちらこそ、ありがとうございました……じゃあ、また」

 

 

ちょっとしんみりとしてしまったが、受話器を放って伝言(メッセージ)を切り、座っていた椅子にぐったりともたれかかる。

 

そのまま黒電話の載っている机に足を上げて目を閉じた。

 

 

 

「楽しかったなぁ…」

 

モモンガさんとの付き合いはナインズ・オウン・ゴールが結成される少し前から最終日の今日まで続いていた。

 

というか、ギルドぐるみで構ってもらっていた。

 

なにしろ、先の拠点の外装や黒電話を始め俺のこだわりの品々はアインズ・ウール・ゴウンなくして完成はしなかったと言える。

 

 

 

 

 

外装を弄る技量もセンスもない脳筋の俺は凝り性のメンバーに頭が上がらないのだ。

 

俺の中のイメージを伝えるのにも一苦労だった、自分なりの試作品を作って見せた時の評価はヘロヘロさん曰く

 

「見てるだけで不安になる物体」

 

ペロロンチーノさん曰く

 

「料理下手ヒロインの鍋の中身」

 

たっちさんに至っては正義降臨のエフェクトを出しながら試作品を破壊する始末。

 

破壊後、正気に戻ったように「すみません。つい……」

 

などと言われて部屋の隅でいじけた。

 

 

 

絵を描いた時など、ウルベルトさん、タブラさん両名の「うわぁ…」という声。

 

女性陣3人が椅子を蹴り倒しながら壁際まで引き下がる姿。

 

「拠点入り口に飾っておいたら最強の防御じゃね?」と、るし★ふぁーさんの一言で完全に俺の心は折れた。

 

 

 

その後、絵は額縁に入れて大きな街に投げ入れたせいで一騒動起きたらしいがハートブレイク中の俺にそれを気にしてる余裕はなかった。

 

 

 

自分のイメージを伝えることに四苦八苦している最中、ぷにっと萌えさんの「何か元ネタがあるんですか?」という言葉に資料の存在を思い出し、その元ネタの映像や資料を見せたところその場にいたメンバー全員から「「最初からそれ出せよ!!」」と総ツッコミを受けたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、ははは…」

 

貶されてばかりの回想になってるが、とにかくギルドメンバーですらないソロの俺と仲良くしてくれた。ありがたいギルドなのだ。

 

立場が似ていることも、ずっと付き合いのあった一要因だろう。

 

「非公式チート集団」のアインズ・ウール・ゴウンと「運営のお気に入り」の俺。

 

どちらも言い掛かりに過ぎないが浮いていたのは確かだった。

周りからすれば俺の立場はアインズ・ウール・ゴウン傘下の構成員に見えていたのだろう。

一緒くたの扱いだった。

アインズ・ウール・ゴウンへの恨みを俺にぶつけるやつも少なくなかったし、反対に俺に対するクレームがアインズ・ウール・ゴウンへ行くことも茶飯事だった。

実際俺の立ち位置としては、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガの付き合いの長い友人というだけだ。

 

傭兵扱いが一番近いだろう。

 

 

「本当に楽しかった…」

 

 

実際、ギルドメンバーになればよかったなと思うこともあった。

一人でアウトロー気取ってさまざまなフレンドの伝手でパーティに参加する日々だった。

そんなフレンドも段々IN率が下がり、本格的に一人で過ごすことが多くなっていった。

実際、モモンガがいなかったらそうそうにユグドラシルを引退していた可能性すらあった。

 

そしてそんな流れはアインズ・ウール・ゴウンも例外ではなく、数年前からメンバーが一人また一人と引退していった。

遂にモモンガさん一人になってしまってからは二人でパーティを組んでアイテム収集や資金集めに奔走していた。

 

申し訳なさそうなモモンガさんの声が思い出されるが、俺自身ひとかたならぬ恩もあるし、ナザリックを勝手に第二のホームのように感じていたのだからナザリックの維持を手伝うことは当たり前のことのように考えていた。

 

 

 

「そろそろか……」

 

 

 

23:59:57、58、59

 

 

 

ターン!!

 

0時ジャスト装備していた拳銃を真上に撃つ

 

「ジャッ……あれ?」

 

 

 

現実に戻ったつもりで目を開きつつ決め台詞を放ちかけて止まる。

 

 

 

「うわ、恥ずかし! ってか不具合か?……もう少し居られるならなんでもいいか」

 

そのうち何かしらのアナウンスがあるだろうと思い込んで呑気に再び目を閉じた。

 

 

 

けたたましく鳴り響く黒電話の着信に気付かないまま……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「繋がらない、か……」

 

 

 

サービス終了するはずの時間になっても強制ログアウトされないことに異常を感じたアインズ・ウール・ゴウンのギルド長であり、このナザリック地下大墳墓に最後まで残っていたモモンガはコンソールの有無を確認し、GMコール、そしてサービス終了間際まで会話していた友に伝言(メッセージ)を繋ごうと試みていた。

 

 

 

「どうかなさいましたか? モモンガ様?」

 

モモンガは一人しかいないはずの玉座の間で耳慣れない声を聞き困惑するが、声の元を辿れば玉座の脇に控えているはずのNPCが心配そうな表情でモモンガを見ていた。

 

アルベド。このナザリック地下大墳墓の守護者たちの総括を務めるNPC。

そう、NPCである。

 

「モモンガ様?」

 

あり得ないのだ、表情が変わる。口が動いて声が出ている。

アルベドから仄かに香る香水の匂いがこのあり得ない現状を現実たらしめている。

 

「………」

モモンガは今起きていると思われる異常事態を必死に飲み込もうとするも、モモンガの無言を心配してか、アルベドがモモンガを覗き込むように近づいてくる。

 

アルベドの豊満かつ魅惑的な肉体を眼前に童貞モモンガが平静でいられるはずもなく。

 

 

---光った。

昂ぶっていた感情が急激に抑制されるような感覚。

モモンガは困惑していた。

 

「「おぉ……」」

 

 

その感嘆の声にモモンガはようやくこの場に連れてきていたNPCのことを思い出した。

ナザリックの執事たるセバス、および戦闘メイドプレアデス。

その七人のNPCたちもこちらの様子を窺っていたのだった。

 

 

「ごほん………GMコールが利かないようだ、それにフレンドへの伝言(メッセージ)も」

 

モモンガは気を取り直し、もはや作り物とは思えない所作、存在感を放つNPCたちを眺めながら、現在の異常事態に対し思いを馳せる。

 

(まず、すべきことは…)

 

なにより、NPCの状況を含むこの状況におけるモモンガ自身の安全確認。

情報を集める必要がある。

 

セバスに周囲1キロ圏内の確認を命令。

ナザリックの警戒レベルの引き上げ。

NPCたちがモモンガの曖昧な命令を聞き玉座の間を後にしたことに対し溜息を吐く。

今までは明確な命令以外に反応できなかったNPCたちを考えれば、自我があると思える行動だった。

 

ともあれ、モモンガは自分の命令を聞いてくれる状況に対しひとまず安堵した。

最悪の場合、この場にいたNPC全員が敵対するということも十分に考えられたのだから。

 

 

そこからのモモンガの行動は早かった。

 

手持ちアイテムが取り出せることを確認し、自身が問題なく魔法を行使できるであろうことを確認。

魔法の効果範囲などの検証は後ほどやることをモモンガは心のメモに書き込んだ。

 

そして、アルベドの胸のやわらかさを存分に堪能した後、荒い息をつくアルベドに守護者を集めるよう指示。

第六階層の円形闘技場に足を運び、第六階層守護者であるダークエルフの双子アウラとマーレの助力を受けスキルおよび魔法の実践実験を行った。

 

 

その後、転移門(ゲート)でやってきた第一から第三階層守護者である真祖の吸血鬼シャルティアと触れ合いを経て、ちょっとしたことから勃発したアウラとシャルティアの喧嘩という名の戯れ合いに昔を思い出す。

 

微笑ましく思っていたところに、モモンガは自分が第六階層に来ていることを調査に出ているセバスに伝えていないことを思い出し、伝言(メッセージ)を繋ぐ。

 

 

『セバス、そちらの状況はどうだ?』

 

『はい、周辺は草原になっており、知性を持つ存在の確認は出来ておりません』

 

『……そうか。ではセバスよ、20分でアンフィテアトルムまで来い。ここに守護者全員を集めているので、そこでお前の見てきたものを説明してもらう』

 

『かしこまりました』

 

モモンガは周辺が毒の沼地でないことをこの異常事態の重要な情報であると認識した。

 

「所謂、転移ものというやつだろうか…」

 

モモンガが様々な仮説を元に出来る限りの現状の整理を行っているとアルベドに集合させた守護者達が揃ったところだった。

 

アルベドを前に立て、少し下がった位置で一列に並ぶ守護者達。

 

「では皆、至高の御方に忠誠の儀を」

 

僅かな静寂の後、アルベドが厳かな雰囲気をもって宣言した。

 

 

「第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

「第五階層守護者、コキュートス。御身の前に」

「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

「お、同じく、第六層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。御身の前に」

「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

「守護者統括、アルべド。御身の前に」

 

一人ずつ一歩進み出ては跪き、深く頭を下げる。

モモンガに対し臣下の礼を取っていく。

 

全員が跪いたまま動かない中、アルべドがそのまま言葉を続ける。

 

「第四階層ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。……ご命令を、至高なる御身よ。我らの忠義全てを御身に捧げます」

 

「面をあげよ」

 

モモンガは映画か何かで見たことのあるようなそれっぽい挙動をとることに苦心する。

 

「よく、集まってくれた。感謝しよう」

 

モモンガの発言に何かを言いかけるアルベドを手で制し言葉を続ける。

 

「お前達の考えは分かっているつもりだ、見事な忠誠だ。お前達なら私の目的を理解し、失態なくことを運べると確信した」

 

一度守護者達を見渡す。

 

「心して聞いて欲しい。現在ナザリック地下大墳墓は原因不明の異常事態に巻き込まれていると考えられる」

 

聞く態勢を崩さない守護者達に満足しながらモモンガは言葉を続ける。

 

「現在ナザリックは沼地ではなく草原に転移しているという報告を先程セバスから受けている。誰か前兆など思い当たる者はいるか?」

 

モモンガの問いにアルベドは肩越しに守護者各位の顔に浮かんだ返事を受け口を開く。

 

「申し訳ありません。私たちに思い当たることはございません」

 

仕方のないことだとモモンガは考えたところで小走りでこちらに向かってくるセバスに気付く。

セバスはモモンガのそばまで来ると他の守護者と同様に跪く。

 

「モモンガ様。遅くなり誠に申し訳ございません」

 

「いや、構わん。それより周辺の状況を報告せよ」

 

「かしこまりました。まず、周辺1キロは草原です。人口建築物も存在しません。生き物も非常にか弱い小動物のみでございました」

 

ナザリックが転移したという以外にめぼしい情報が得られていないことに内心気が気でないモモンガはさらに内容を掘り下げる。

 

「空にもなにもないか? 天空城とか」

 

「ございません。空には一面に星空があるのみで人工的な光はありませんでした。しかし、かなり遠方に店舗らしきものがあるのを確認しております」

 

「らしきもの?」

 

「はい、暗がりのうえ、時間がなく接近して調べることはできませんでしたのでなにも確証は得られておりませんが、看板がありましたので店舗であると判断いたしました」

 

「なんという店だ?」

 

「『Devil May Cry』と…」

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