しかも一万字越え。
「はっ、はっ、はぁっ」
ペテルが息を弾ませながら冒険者組合入り口の扉を弾き飛ばすような勢いで開け放って入ってくる。
「モモンさん!!」
「…ペテルさん?どうかしましたか?」
「ンフィーレアさんが攫われました」
ンフィーレアからの依頼でトブの大森林での薬草採取の最中、モモンが支配下に置いた森の賢王ことハムスケの魔獣登録がちょうど終わったところにペテルから衝撃の事態が告げられた。
何でも薬草の運び込みの最中の一瞬の隙を突かれたらしい。
漆黒の剣のメンバーは全員無事とのことだ。
「…犯人はどこへ行ったかわかりますか?」
「すみません、今ルクルットに探させているのですが…他の二人も部屋の中や周辺を調査しています」
戦士であるペテルが出来ることがほぼないので、モモンへの伝令としてここへやってきたのだった。
「本当に短時間の犯行のはずなのでそこまで遠くには行っていないと思いますが…」
「とにかくンフィーレアさんを探しましょう。行くぞナーベ」
「はっ」
「と、殿~!おいていかないで欲しいでござる~」
3人と1匹はひとまずンフィーレアの家であり犯行現場でもあるバレアレ商店へ向かうことにした。
途中、ンフィーレアの祖母であるリイジー・バレアレと合流し店の前につく頃には一通りの確認を済ませたのか
ペテルを除く漆黒の剣のメンバーが待っていた。
「ンフィーレアさんは?」
ペテルが3人に問いかけるも返答は芳しくなかった。
「ンフィーレア……」
顔を真っ青にしたリイジーが項垂れる。
「ナーベ、魔法の痕跡を調べてみてくれ」
「かしこまりました」
モモンはそうナーベに命令し、自らも念のため周囲を探り始めた。
「殿、拙者はどうするでござる?」
「……待機だ」
役立とうと張り切るハムスケを待機させていると…
『アインズ様』
不意にアルベドからの
『アルベド?すまない緊急事態だ、後にしてくれないか』
『緊急……お待ちください。アインズ様』
『…急ぎか?手短に頼む』
『はい、ンフィーレア・バレアレをエ・ランテル西の墓地の地下で発見いたしました。アインズ様はその人間の依頼を受けていらっしゃいましたので、そちらの緊急事態に繋がる可能性を思いご報告差し上げます』
『……でかしたぞ!アルベド!』
『あ、ありがとうございます』
アルベドは一瞬、アインズの緊急事態と全く関係のないことを報告し、無為に時間を奪ったのではないかと気が気でなかった。
アインズの褒め言葉に夢見心地になりそうだったが、気を引き締める。関連する報告がいくつもあるのだ。
『墓地の地下を監視している
『そんなところに、よくシモベを配置していたな?』
『は、いえ、ダンテ様より連絡を受けまして……』
アルベドにとってダンテの株を上げかねない報告は業腹ではあったが、嘘をついてアインズに失望されるよりはと報告した。
『ダンテが……あ、昨日のアレか。アルベド、すまなかった。本当なら私がお前に連絡を入れなければならなかったな』
ここへきて、アインズはようやく昨日のダンテからの
『いえ、アインズ様が謝られるようなことはございません。それよりもご報告の続きをよろしいでしょうか?』
『そうだな、続けてくれ』
『ンフィーレアは現在、意識がない模様です。頭にマジックアイテムらしきものを装備されており。周囲には大量のアンデッドが出現しているようです。おそらく何らかの触媒として用いられていると思われます』
『わかった、何か変化があればまた連絡してくれ』
『かしこまりました。アインズ様』
アインズは
「皆さん、ンフィーレアさんの居場所が分かりました」
「どこじゃ!ンフィーレアはどこじゃ!?」
「リイジーさん!落ち着いてください!」
モモンの言葉に取り乱すリイジーをペテルが押さえる。
「ナーベの調査の結果、ンフィーレアさんは現在、エ・ランテルの西側の墓地に居ることが判明しました。また墓地ではアンデッドが大量発生していて衛兵が対応しているようです。突破されるのも時間の問題でしょう」
「「「………」」」
ナーベの調査結果とは嘘であるが、一番信憑性が高まるのでそういうことにする。
予想以上の大事に漆黒の剣の面々は押し黙ってしまった。
「アンデッドが街に雪崩れ込んできては被害が大きくなってしまう。漆黒の剣の皆さんは冒険者組合にこのことを伝えてください」
「わ、わかりました!みんな行くぞ!」
モモンの言葉を受け、ペテルはメンバー全員を引き連れて組合の方へ走っていった。
「おぬし!ンフィーレアはどうなるんじゃ!?」
「アンデッドを何とかしないことにはどうにもならん。しかし運がいいなリイジー・バレアレ」
「………」
リイジーは漆黒の剣が居た間とは全く雰囲気の違うモモンを見て困惑していた。
「私はこの街で最高の冒険者であり、ンフィーレアを助けることの出来る唯一の存在だ。依頼するというなら受けよう、ただし高いぞ?厄介な案件なのは目に見えているからな…」
「…最高?」
リイジーはモモンのカッパープレートを目にして訝しげな表情を浮かべる。
しかし、先ほどからシルバープレートでモモンより上位の冒険者であるはずの漆黒の剣がモモンに従うようなそぶりを見せていることから少なくとも、シルバープレート以上の実力があるのだろうとは思う。
しかし、それだけを見て最高の冒険者というのは、いかにも胡散臭い。
「………この
リイジーの態度にナーベが剣に手をかけようとするが、モモンがナーベの頭をチョップすることでそれを止めた。
頭を抑えながら涙目でこちらを振り返るナーベはコミカルで可愛らしいのだが今はそれどころではない。
「……いかほどだろうか」
リイジーはモモンの傍らでじっとしている魔獣を見た。
深い叡智を称えた目、しなやかでありながらあらゆる攻撃を弾いてしまうことを直感させる体毛。
何より、不意に遭遇すれば死を確信させてしまいそうなその威圧感。
そんな魔獣を従えるような偉丈夫を信じてみようと考えた。
「すべてだ。お前のすべてを寄こせ。リイジー・バレアレ」
「悪魔……いや、わかった。だから頼む孫を!ンフィーレアを!」
リイジーは一瞬の逡巡の後、孫が助かるなら何でもする覚悟を決めた。
「任せておけ」
モモンはそう宣言すると、ハムスケにまたがり墓地へ向かった。
モモンたちが墓地につく頃には衛兵が慌てふためきながら退避しているところだった。
「そこの人!早く逃げろ!!」
「ナーベ、剣を…」
衛兵の声を無視したモモンはハムスケから飛び降り、ナーベの手を借りて担いだグレートソードを1本抜き放つ。
「お前達、後ろを見ろ。危ないぞ?」
「「うわあああああああ!!!」」
モモンの声につられるように後ろを振り返った衛兵達は思わず見上げて叫んだ。
そこには壁を優に超える巨大なアンデッドが立っていた。
我先にと逃げ出そうとする衛兵達を尻目にモモンはグレートソードを全力で投擲した。
たった1撃で
「門を開けろ」
「ふざけるな!門の向こうにはアンデッドの大群がいるんだぞ!?」
当然のように衛兵には拒絶される。
「それが?この私モモンに何か関係があるのかね?」
しかし、モモンの自信に満ち溢れた言葉に誰もが口を噤んだ。
「まぁ、開けたくないのならそれでいい。勝手に行かせて貰うぞ」
そう言うとモモンは壁を飛び越えて行った。
続いてナーベもふわりと身体を浮かせ壁の向こうへ消える。
「それがしも殿の元へ馳せ参じるでござる!」
それを追う様にハムスケが壁を登り向こう側へと飛び降りていく。
その一連の様子を衛兵達は黙ってみているしかなく、しばし呆然としていた。
しかし、モモンたちが壁を越えた直後からあたりに響いていた戦闘音がしなくなっていることに気付いた衛兵達は内部の様子を見て歓喜に沸いた。
それとほぼ同時にやってきた冒険者達が壁周辺の安全を確認していく。
こうして辛うじて墓地の外へアンデッドが溢れ出すのを防ぐことができたのだった。
一方でモモンたちは魔法詠唱者たちがなにやら儀式を行っている神殿までたどり着いていた。
弟子達が無能なのか口を滑らした結果、この魔法詠唱者たちのリーダーの名前がカジットというハゲだということが判明した。
儀式の邪魔をされるわけにはいかないとモモンたちの排除を試みたカジットは、初手ナーベの魔法によって弟子達を一気に失い、切り札として召喚した
「何故だ!儂が5年かけて作り上げた努力の結晶が!たった1時間たらずで崩壊するというのか!!」
この男、カジット・デイル・バダンテールは幼い頃亡くした母を甦らせるための魔法を習得することを目的とし、そのためにアンデッドに転生することを計画していた。
ズーラーノーンに入って12高弟の1人となる程の実力を得た。
しかし、自力で転生するための条件が満たせないと悟ったカジットは、大量の人間を生贄にして膨大な負のエネルギーを発生させる都市壊滅規模の魔法儀式『死の螺旋』を行うことにしたのだった。
まだまだ儀式の準備に時間がかかる予定だったが、スレイン法国から
しかし、計画実行間際に突如クレマンティーヌからの連絡が途絶えた、幸い
ンフィーレアに装備させた
ここから街にアンデッドを放ち、人間を生贄にしようとしたタイミングで、あともう少しだというのに計画が頓挫しそうになっているのだった。
そんな30年来の思いがカジットに叫ばせた。
──ザシュッ!!
カジットの首が中を舞う。
「………私には関係のない話だ」
モモンは特に感慨もなくカジットに止めを刺したのだった。
「
「こほん、ナーベ。今はモモンだ」
「はっ!申し訳ありませんでした」
こうして、ンフィーレアを無事に救出し、アンデッドの大量発生事件はたいした被害もなく終結した。
これが切っ掛けでモモンたちは《漆黒》と呼ばれるミスリル級冒険者となったのだった。
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モモンたちが薬草採取からエ・ランテルに戻ってくる1日前
「ここっぽいな……」
ダンテは前方で口を空けている洞窟を見ながら呟いていた。
二人の男が見張りとして立っているのが見える。
ダンテは昨日、宿屋で得た情報を元に「昨日、今日で入った新しい女はいないか」とエ・ランテル中の娼館を訪ね歩いた。
幸か不幸か、新しい娼婦の情報はなかった。レイラの容姿であれば高級娼婦として売られるはずと考えたダンテはそれ以上エ・ランテルでの捜索を行わずに街の外へ出た。
人や痕跡を探すスキルも魔法もないダンテは足と己の勘だけを頼りに周辺を半日以上歩き回ったのだった。
いささか無駄の多い捜索ではあったが、盗賊くずれの塒らしき洞窟を発見し、しばらく様子を伺っているとレイラ・シュリードを連れた男たちが洞窟に入っていくのを目撃した。
今更こんなところに連れて来るという違和感はあったが、とりあえず命は奪われてはいないようなので一安心といったところだ。
「………行くか」
レイラが洞窟の中に連れて行かれてから約30分後、ダンテは洞窟へ向かって歩きだした。
「おい、そこの赤いの止まれ!」
見張りの男の一人がダンテに剣を突きつけながら言った。
もう一人はボウガンを構えて少し離れた場所からダンテを狙っていた。
ダンテは両手を上げて、戦うつもりが今はないことを示した。
「ぷっ…カッパーの冒険者かよ…おいおい何の用だ、お前みたいな雑魚が来るところじゃねぇよ」
男はダンテのプレートを見て、明らかに見下し始めた。
「ここに街から攫ってきた女がいると聞いてきたんだ」
「依頼かなんかか?とにかく、カッパーだろうが冒険者に見られたんじゃ殺すしかな──ぎゃああ!!」
ダンテに向かってニタニタと笑いながら剣を振りかぶった男は、突如足に発生した痛みに地面に伏した。
ボウガンの男の方は赤い剣を首に突き刺されて声も出せずヒューヒューと空気の漏れる音だけがしていた。
ダンテはルシフェルから引き抜いた赤い魔力の剣を見張りの男二人に投擲していたのだ。
「……ここに女を攫ってきた目的は?」
「ひぃっ!!」
ダンテは倒れ伏している男に問いかけた。ダンテを知っている者からすれば普段からは考えられない声色に恐怖を覚えるものもいるだろう。
「…………」
「せ、性欲処理だ!」
「…………お前ら全員が使ったのか?」
「ひぃぃっ、ぜ、全員だ。いやアングラウス以外全員だ」
その返答を聞いたダンテは見張りの男達にもう用はないとばかりに洞窟へ入っていった。
「………た、助かったのか?」
見張りの男は痛む足を引きずり、もう一人の様子を見たが既に事切れていた。
「ちくしょう、なんだよアイツ……」
自らの足に突き刺さっている剣を引き抜こうと触れた途端、剣が爆発し男の意識はそこで永遠に途絶えることになった。
ダンテは閻魔刀を片手に迷いなく洞窟の奥を目指し歩を進める。
出会う盗賊はダンテの姿を見るなり奥へ逃げていく。
ちょうど洞窟の中間まで来たところで、ダンテに声をかけた男がいた。
「よぉ兄さん、楽しそ…ってワケでもねぇ面してやがるな」
「………邪魔だな」
ダンテは刀を持った男の出現に少し目を向けた。
「そう邪険にしてくれるなよ、付き合ってくれよ」
言いながら男は刀を鞘に収めたまま腰を落とした。所謂居合斬りの構えだった。
男は軽い口調で喋ってはいたが、背中には既にびっしょりと汗をかいていた。
一人で殴りこんできたことから相当の実力者であるとは考えていたのだが、侵入者の男は想定を遥かに上回っていた。
「ブレイン・アングラウスだ」
震えそうになる声を抑えて男は名乗った。
「……俺にはそういう趣味はないんだが」
先ほど入り口で聞いた名前だった。ゲイなのか何なのか知らないが攫った女を性処理の道具として利用していないらしい男だった。
ダンテは本当であれば殺す優先順位の低い者として認識したため、ブレインを無視することにした。
対するブレインはダンテの発言に「?」を浮かべつつも、最初から本気で行くことを心に決めていた。
──《能力向上》
──《領域》
武技を発動させ、備える。
ダンテはそんなブレインなど意に介さないように普通に歩いて近づいていく。
ダンテがブレインの領域の範囲に入った瞬間ブレインは自身の持ち得る最強の一太刀を浴びせる。
──《秘剣虎落笛》
神速の一刀がダンテの首筋に迫る。
(貰った!!)
ブレインがそう思った瞬間、手の中から刀がなくなっていた。
ブレインの刀は洞窟の天井に突き立っていた。
「なっ!?」
「へぇ…今のは、武技か?」
ここでようやくダンテがブレインに興味を持った。
予想していたより遥かに速い居合い切りが飛んできたため思わず閻魔刀で弾いたのだ。
鞘にいれたままではあったが……
とはいえ、弱過ぎる。本来の太刀筋などダンテは知らないし、武技を使った結果何が変わったのか分からなかった。刀の振りを速くするだけなのだろうか?比較のしようがなかった。
「まぁ、いいか」
ダンテはどのみち雑魚であると考え、ブレインを無視して奥へ歩き始めた。
「……っ!!」
ブレインは天井に刺さっている刀を引き抜きダンテの後を追った。
ブレインがダンテに追いついたちょうどその時、洞窟の奥の一際開けた場所でバリケードを張り待ち構えていた盗賊達がダンテに向かってボウガンを一斉射したところだった。
──キンッ!
涼やかな音が一つ響く。
いつの間にか抜刀していたダンテが再びその刀を納刀するところだった。
時が止まったかのような一瞬の静寂をブレインは感じていた。
──チン
ダンテの刀が完全に鞘に納まる音が軽く響くと同時に、前方のバリケード諸共、盗賊達が叫び声の一つも上げることなくバラバラになって一山の塊に成り果てた。
「なん、だと……」
ブレインはその光景に唖然とした、理由は分からないが目の前の男は刀の間合いの外の存在を斬り裂いたのだ。
正直その動作は全く見えていなかった。音からすれば一太刀、しかし対象はとても一太刀では成り得ないほどバラバラになっていた。
何が何だか分からなくなっていた。
ダンテは人肉の山を躊躇うことなく踏み越え、奥の布で仕切られた一部屋に入っていった。
部屋には牢に入れられた裸の女が数人いて、ダンテのことを怯えた目で見ていた。
その中にはレイラ・シュリードの姿もあった。彼女だけはこの場で手を出されていないのか裸ではなかったが、怯えているのに変わりはなかった。
「もう、やめてください…」
一人の女が身体を隠しながら訴えかける。
先ほど薄い布の仕切り越しに聞こえてきた音は紛れもない戦いの音。
女たちは戦いの後は盗賊たちが抱きに来るのを理解していたのだった。
「安心しろ、俺はレイラ・シュリード捜索の依頼を受けた冒険者だ」
「私…ですか?」
ダンテは威圧的にならないように気をつけながら自らがここに来た理由を告げた。
「そうだ、だけど見つけたからには全員助けてやるから……ちょっと動くなよ」
ダンテはそう言うと、手にした閻魔刀を振るい牢の鍵を破壊した。
女達が唖然としている中、背を向け部屋の中を物色し、いくつか布を引っ張り出して女達に投げ渡した。
「此処を出るぞ、動けない奴はいるか?」
女達がいそいそと布を分け合い最低限隠すべき場所を隠そうとしているなか、ダンテは部屋の入り口の方を見ながら問いかけた。
「私たち助かるんですか?」
「……神さま」
「うぐっ、うぇぇぇ……」
ダンテの言葉に女達がさめざめと泣き始めてしまい、返事どころではなかった。
「助けてやるから、返事してくれ。動けない奴はいるか?」
ダンテはやれやれと頭を掻きながら言った。
結果から言うとレイラを除く全員が足の腱を切られており、歩行に支障があった。
少なくともエ・ランテルまで歩くのは不可能だろう。
それでなくても彼女達は疲弊しており、たとえ足の腱が切られてなくても自力での帰還は難しいだろう。
切られてから時間が経ち過ぎていてポーションでどうにかなるものでもなさそうだった。
現状、ダンテ一人では全員の救出は無理だった。
「あんた、こいつらを助けるためにここに来たのか?」
ダンテについてきていたブレインが部屋に入りながらそう声をかける。
「なんだまだ着いて来ていたのか」
「俺はあんたに──」
「後だ後、今はお前のことなんざ……ん?誰か来たか?」
ブレインの言葉をさえぎって何かの気配を感じたダンテは部屋を出ようとする。
部屋を出ようとするダンテに縋るような視線を向ける。
「すぐに戻るからここで待ってろ」
ダンテは洞窟の入り口へ歩き始めた。
「おや?ダンテ様でありんすか?」
「シャルティア?」
ちょうど盗賊どものバラバラ死体の山積してる部屋とブレインとやりあった通路の中間地点で両者はかち合った。
「こんなところでどうしたんだ?」
「妾はアインズ様の命によって、犯罪者と武技をもつ者の収集でありんす」
「あー、それって生きてないとダメなやつ?」
「そういうわけではありんせんが、生きていれば別の用途もあるとデミウルゴスが言っていんした」
シャルティアはデミウルゴスとの会話を思い出すように話した。
人差し指を頬に当てて小首をかしげながら話す姿は人形のように可憐だった。
こんな血臭の立ち込める洞窟でなければだが…
「すまない、この洞窟にいた犯罪者はほとんど殺しちまったよ」
「生きたまま捕らえるのも手間でありんすから、かまいんせん」
ケラケラと笑いながら話すシャルティアの存在にこっそり様子を伺っていたブレインは絶句していた。
(赤い目に牙…吸血鬼か?そんなやつと普通に話をしているあいつは一体…)
ブレインがこの場から離れようとあとずさりしようとするのを察知したかのようにダンテがポンとひとつ手を叩いた。
「そういや、武技を使うやつがいたな。なぁアングラウス?」
まるでその場にいるのが最初から分かっていたように振り返るダンテ。
「あれでありんすか?小動物の気配かと思っていんした」
「この奥にいる女達は俺の依頼に関わるから手をつけないでくれ」
「承知したでありんす」
シャルティアはそのままブレインに歩み寄っていく。
ブレインは既に逃げることもできないと諦めていた。
逃げ切れないと本能で理解していた。
「心配すんな、おとなしくしてれば死ぬことはない……はずだ」
ダンテの一言はブレインの不安を煽るだけだった。
正直なところダンテにとってブレインがどうなろうと知ったことではない。
こうして、ブレインはシャルティアに捕らえられたのだった。
シャルティアが
ダンテは洞窟の奥で確保した女達をシャルティアに
「シャルティア、少しの間隠れててもらってもいいか?その冒険者に奥の女達を運んでもらう」
「仕方ありんせんね」
シャルティアはそう言うと大きな木箱の影に
ダンテはシャルティアが隠れたのを見届けるとその場で冒険者達が来るのを待ち受けた。
しばらくすると、戦士と思しき男が姿を見せた。
「っ!!」
途端に武器を構えられた。が、ダンテを視認すると構えを解いた。
「ダンテ!?お前こんなところで何してやがる」
顔見知りの男だった、エ・ランテル初日の宿での腕相撲大会からこっちを見かけるたびに声をかけてくる気さくな男だ。
「こんなところ依頼でもなければ来ねえよ」
「ってこたぁ、お前もこの辺りの野盗の討伐の依頼か?他の仲間はどこだ?」
「野盗?ここにいたやつらは野盗なのか?俺はレイラ・シュリード捜索の依頼で来たから一人だが?」
男と話しているうちに、続々と野盗討伐の依頼を受けた冒険者達が集まって来ていた。
「これだけ数がいれば大丈夫だろ」
女一人ずつ担いで帰るに充分な人数の冒険者が集まっているようだった。
ダンテは洞窟の奥へ歩き始めた。
冒険者達は慌ててダンテの後についていく。
冒険者たちは開けた場所に出ると、その場の惨状に吐き気を催していた。
「これは君がやったのか?」
このパーティのリーダーらしき金級冒険者の男がダンテに問いかけた。
「…さあな、おいアンタ」
ダンテはパーティ内で唯一の女に声をかけた。
「えっ?あたし?」
「赤毛のアンタだ。中には野盗に攫われてきた女だけがいる。俺とアンタだけで入るぞ」
ダンテはそう言うと返事を待たずに布の仕切りをくぐる。
男が怖いであろう彼女たちへのダンテなりの配慮だった。
「ブリタ、頼んだぞ。俺たちはここで待機だ」
「えぇ、わかったわ」
金級冒険者の男が赤毛の女、ブリタの肩をポンと叩いて送り出した。
布の仕切りをくぐったブリタは女達の様相を見て驚いたような顔をした。しかし、すぐに気を取り直したブリタは女達と話をし始めた。
「ヴァンパイア!!銀武器用意!!」
しばらくすると、部屋の外から男の声が響いた。
どうやらシャルティアが見つかってしまったようだった。
「──っ!!」
シャルティアは咄嗟に叫んだ男の首を撥ねた。
ダンテに殺さないように頼まれたにもかかわらず咄嗟に殺してしまっていた。
「あ、やってしまいんした…」
シャルティアが呟いている間にも、
「……たしか
ダンテは頭の中で再確認しつつ、この期に及んでは敵対したフリをして冒険者に女たちを連れて逃げてもらうしかないと考えながら
「行きな!こいつらは俺の獲物だ!」
ダンテは冒険者達を振り返りながらニヤリと笑って言った。
「なっ!?」
ダンテのその行動に一番驚いていたのがシャルティアだった。
シャルティアの声に反応した
ダンテはため息を吐きながらシャルティアに向き直った。
視線に謝意を込めたつもりだったが、シャルティアには通じていなかった。
幸いシャルティアが突然の事態に固まっているため、傍目にはダンテと見合ってお互いに隙を窺っているように見えた。
その間に冒険者達は野盗に捕まっていた女たちを連れて急いで洞窟を出て行った。
誰もいなくなって十分な時間が経過するとダンテは構えを解いた。
「悪かったなシャルティア」
ダンテはシャルティアに謝りながら、冒険者達に逃げてもらうために敵対したフリをしたことをよく状況が分かっていないシャルティアに説明した。
冒険者達にシャルティアの顔を見られたことだけがネックだった。
死を撒く剣団はどこでも噛ませっぷりが半端ないですねぇ。
なんとなくブレインは死なせるのが惜しくなって生存させちゃいましたけど、使う機会あるかなぁ…(笑
今度こそ区切りの一話としようと思います。
また次回、お時間ありましたらお付き合いください。
そして、
UA82000オーバー、お気に入り2600オーバー、評価も過半数が9以上…
本当に本当にありがとうございます。
また、多くの応援のお言葉も大変嬉しく思います。
様々なご意見、極力取り入れてがんばっていきます。