ナザリック地下大墳墓のNPC達の代表とも言える階層守護者その統括を務めるアルベド。
彼女には嫌いなものがいくつかある。
モモンガをナザリックを捨て去っていったアインズ・ウール・ゴウンの40人。
ナザリックへの侵入者。
そしてダンテである。
ナザリックの侵入者については言わずもがなだろう。
ナザリックのNPCとして問題なのは一つ目だ。
アルベドにとってモモンガ以外のギルドメンバーは既に憎悪の対象である。
もちろんアルベドもこの考えがナザリックの一員として異端であることは承知しているため、誰であっても悟られるわけにはいかない。
そして、ギルドメンバーは恐怖の対象でもある。
というのも、アルベドはギルドメンバー達が強者であることは十分に理解しており、自らが戦いを挑んだところで勝ち目などない。
そのような存在がモモンガを連れ去ろうとした場合、アルベドには成す術がないのだ。
モモンガがナザリックから去ってしまう。これはアルベドにとって想像を絶する恐怖だった。
他の守護者たちもアルベドと同じように恐怖心を持ってはいるのだろうが、「至高の御方々が決めたこと」となればその本心を抑え見送るだろう。
アルベドとともに戦おうとする者は皆無といっていいだろう。
もっとも、40人全員がいなくなって久しいのだ。接触する可能性がまず低い。
ギルドメンバー達は潜在的な脅威であって、近々の脅威ではないのだ。
そこでアルベドが一番厄介だと考えるのがダンテだった。
モモンガの言葉通りであるならば、モモンガとダンテはギルドメンバー達に引けを取らないほどの付き合いの長さがある。それはモモンガに情を抱かせるのには十分なものだろう。
そもそもユーゴを紹介された当初アルベドは、ダンテのことをモモンガのペットか何かだと考えていた。
「ペットごときがモモンガ様のご寵愛を得るなど…」と考え軽く嫉妬してしまっていた。
しかし、モモンガがダンテのことを「同格」、「友」である宣言してからは、さらに不快感が増した。
ナザリックへの協力というのも建前のみでナザリックの威を借っているだけの小物、卑しい存在であるという認識に変わった。
どうにかしてこの寄生虫を駆除しなければならない。
それこそ、ダンテがモモンガをナザリックから連れ出してしまうといった可能性が十分にあるのだ。
ダンテがどこかで野垂れ死んでくれるのが一番いいのだが、勝手にナザリックからダンテだけがいなくなってくれるなら言う事はない。
ある日デミウルゴスから言われた。
「アルベド、君の態度はダンテ様に対して余りに失礼なのではないかね?」
「そうかしら?」
アルベドはデミウルゴスが何を言っているのか理解出来なかった。
いや、理解はしている。
モモンガの友であるというならそれなりの態度は示すべきだと言いたいのだろう。
しかし、アルベドの認識においてダンテはナザリックの侵入者に等しい。
害していないだけでも破格の待遇だと思っていた。
モモンガの友でなければ即刻首を刎ねている。
ナザリックに進入していながら、
「そうだとも、我々シモベですら分かるのです。ダンテ様は勿論、モモンガ様もお気付きのはず」
「モモンガ様が何も仰られないのであれば問題ないのではなくて?」
「そう考えられなくもないですが、モモンガ様は大変寛大なお方です。見逃してくださっているということもあります。あまり浅慮な事はしないようにしてください」
「もちろんよ」
後にアルベドはデミウルゴスの言う浅慮な真似など不可能である事を悟る。
モモンガの過大評価だと考えていた「同格」であるという強さの証明がなされたのだ。
円形闘技場で上映されたたっち・みーとダンテのPVP、その戦闘記録でアインズ・ウール・ゴウン最強の戦士であるたっち・みーとほぼ互角の戦いを見せられてしまったのだ。
お互い真に本気という訳ではないと見受けられるが、そんな戦いでもダンテはアルベドが闇討ちした程度で倒せる相手ではないと分かってしまったのだ。
そもそも、コキュートスとシャルティア二人掛かりでかすり傷程度しか負わせられなかった時点である程度の強者である事は覚悟していた。
それでも、二人に対し回避を徹底していた事実からダンテの防御力に難があると考えた。
そこに活路があるのではないかと思っていたが、それも戦闘記録により否定されてしまっていた。
防御特化のアルベドであっても、たっち・みーの猛攻に耐えられる気はしない。
ましてたっち・みー最大の攻撃スキル
最早、アルベドが自らの力でダンテを排除する事は不可能に思えた。
自らの力で及ばないのであれば、他から持ってくるよりほかない。
しかし、階層守護者達はいつの間に懐柔されてしまったのか、少なくともダンテに対してネガティブな感情を抱く者はいなかった。他のシモベ達にしてもそうだった。
多くの者がダンテの強さに心酔していた。
ナザリックの執事助手エクレア・エクレール・エイクレアーにいたっては共にナザリックを支配しようとダンテを勧誘する始末。
ナザリックの中で力を集う事は無理だった。
少なくとも、階層守護者や領域守護者のうち誰一人として賛同が得られないのであればダンテを始末するのは不可能だろう。
アルベドはある種、孤立していた。
ナザリックの中がダメなら外で力を得ようと考えた。そのすぐ後にカルネ村に赴くことになったことは追い風に感じた。
しかし、そこで見た現地の戦士達は、とてもではないが使えなかった。
あまりにも弱すぎたのだ。あの程度であればナザリックの自動POPのアンデッドをかき集めたほうがいくらかマシに思えるほどだった。
事故に見せかけて罠に嵌めようにも、ダンテは勘がいいのか何一つ罠にかかる気配すらなかった。
何より罠を回避する度、的確に隠れているアルベドに向かって、位置も分からないであろうにもかかわらずニヤニヤと笑みをこぼすのだ。
ダンテにしてみればアルベドの可愛い悪戯に微笑ましく思っているだけなのだが、アルベドから見れば馬鹿にされているとしか思えず、怒りは募っていった。
募る怒りに反比例するようにアルベドがダンテに対して打てる手がなくなってきているのは事実だった。
というより万策尽きていた。
アルベドはしばらくの間、対ダンテ用の方策を考えていたが何も思いつかず時間だけが過ぎていった。
しかし、先にしびれを切らしたのはダンテの方だった、あまりの暇さに外へ飛び出したのだ。
アルベドがダンテに突っかかることが少なくなっていたためダンテは退屈だったのだ。
アルベドのダンテへのアクションはダンテにとってナザリックにおける最高の暇つぶしだった、それがある日を境にピタリと止まってしまった以上、別の暇つぶしが必要だった。
その結果、ダンテはナザリックから出てしまったのだ。
アルベドはダンテ行方不明の報を聞いた時、モモンガの手を煩わせる行動に怒りながら、心の中でガッツポーズを決めていた。
「構うからいけなかったのね」
放っておけば勝手に出て行く。ダンテの堪え性のなさによってそれは明らかとなった。
残念ながら、この度のダンテの出奔は早々に終わることとなったが、ダンテが情報収集を兼ねて外へ出ることが決まった。
モモンガも別口で外に出ると聞いたときには盛大に反対したものだが、デミウルゴスの言葉によってアルベドはナザリックに残ることにした。
ナザリックに残ることにした。
「家を守るのは妻の務め…くふーっ!」
アルベドはダンテを排除する機を待つことにした。
殺してしまえるのが一番なのだが、このころになるとアルベドにとってもダンテは「死ぬ姿が想像できない」というような認識が出来始めてしまっていた。
だからというわけではないが、最悪ナザリックに戻ってこなければそれでよかった。
しかし、ダンテはちょくちょくナザリックに帰ってくるのだった。
外の世界にはストロベリーサンデーがないから。
この作品ではこういう子なんです。
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次回もお時間ありましたらお付き合いください。