「へぇ…流石にエ・ランテルよりは活気があるな」
「そりゃあ、帝都だからね」
「首都と一都市を比べても仕方ないか」
ダンテの素直な感想にクレマンティーヌが苦笑いで答える。
道路ひとつ取っても、このバハルス帝国の首都アーウィンタールは整備が行き届いている。街を出歩く人の数も多い。
比較の為にも一度は王都へ行っておくべきだったかと思わなくもないが流石に面倒だった。
「よし、まずは腹ごしらえだ!ストロベリーサンデーを探そう」
「えっ?なにそれ?ピザじゃないの?」
クレマンティーヌにとってダンテはピザを食べる生き物だった。
一度もストロベリーサンデーという言葉を聞いたことがなかった為、驚いていた。
クレマンティーヌに会う前に王国に、少なくともエ・ランテルにはストロベリーサンデーがないことに打ちのめされていたダンテは言葉にしてこなかったので当然といえば当然なのだが…
だが、ここは新天地。ダンテはまず王国でありつけなかったストロベリーサンデーを探すことを心に決めていた。
もっとも、ピザもストロベリーサンデーもナザリックで食べた方が美味いのだが……
「どんな料理か知らないけど、そのすとろべりーさんでーって帝都でも聞いたことないよ?」
「…………」
「ダンちゃんのそんな顔、初めて見た」
クレマンティーヌの見たダンテの顔は、いわばクレマンティーヌの一番好きな顔だった。
つまり、敵対した相手が死の間際に見せる絶望の表情である。
帝都はナザリックから遠くエ・ランテルと違いそう簡単にストロベリーサンデーを食べに帰るとは言えない。
ダンテは
「帝都も価値なし…」
「そこまで言う?」
割と本気だった。
「それはともかく、まずは寝床だな」
「ダンちゃん、念のため言っておくけど、もうお金ないよ?」
「はぁ?おいおいそれじゃあストロベリーサンデーどころかピザも食えねぇのかよ!?」
ダンテは項垂れながらアイテムボックスを探りリング・オブ・サステナンスを二つ取り出してひとつをクレマンティーヌに投げ渡す。
「腹減る前につけとけ」
「なにこれ?」
「睡眠、食事不要の指輪だ。人生の楽しみの大半が消えうせる無粋装備だ」
「………なんか、もういいや、うん」
ダンテは突っ込むことを諦めたクレマンティーヌを連れて金になりそうなことを探し散策することにした。
「冒険者として依頼受けないの?」
「銅級がなんか金になること受けれるのか?」
「それもそっか、それじゃあ闘技場でも行ってみる?試合でなら殺し放題だよ」
「殺しても罪にならないってだけだろそれ」
それに何度も殺していればそのうち誰も闘いたがらなくなって結局元の木阿弥になるだろう。
ダンテは戦うことが好きだが弱い者イジメをする趣味はない。
「でも少しくらいは足しになるか…やりたいなら行ってきてもいいぞ?」
「ホント?ならちょっと遊んでこようかなぁ。エ・ランテルではダンちゃんにずっとお世話になりっぱなしだったし」
「まぁ、目をつけられない程度に楽しんで来い」
ダンテはウキウキとはしゃぐクレマンティーヌとそこで一旦別れることにした。
クレマンティーヌは闘技場へ、ダンテは引き続き散策である。
「スラムってのはやっぱ何処にでもあるんだな」
そこは先程まで歩いていた区画とは比べものにならないほど、建物も道も荒れている。
この様子ではもっと奥まで足を伸ばせばスラム特有のすえたような臭いが充満していることだろう。
スラムには老若男女問わず痩せ細ったような不健康そうな連中が項垂れ座り込んでいる。しかし、その姿に見合わずギラギラした目をダンテに向けていた。
しかし、ダンテは特に気にした様子もなくスラムを歩いていく。
「……悪くねぇな」
ダンテはそんなスラムの奥まった場所で建物の崩壊した一角を見つけた。
適当に崩壊した建物をイフリートで灰にし、更地になったところでグリーンシークレットハウスを設置した。
即席でDevil May Cryのネオンが輝く事務所が完成した。
ダンテは満足そうに事務所に入っていく。
これなら当面は宿代に苦しめられることもないと考えてのことだった。
放置されてたこともあり、誰も管理していないだろうと予想はできる。
おそらく誰にも咎められることもないだろう。
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「聞きましたか?ヘッケラン」
「えっ?何の話だ?」
ここは歌う林檎亭。宿屋に酒場が併設されている極々ありふれた施設である。
その酒場のテーブルの一つで2人の男が話していた。
「私もつい先程聞いたのですが、スラム街で赤い男が一瞬で家を建てたとか」
「すまん、言っている意味が分からないんだが?」
「聞いた通りの意味らしいですよ。本当に一瞬の事だと、魔法の家と呼ばれているみたいですね」
大柄の神官風の男がテーブルに身を乗り出して声量を絞って話を続けた。
目撃していた男曰く、赤い男は廃墟になっている建物を一瞬で消し去り。瞬きした次の瞬間には家が建っていたと…
「ロバー、廃墟を一瞬で消し去ってる時点で意味が分からないんだが?」
ヘッケランと呼ばれた金髪に碧眼とおよそこの世界では平凡かつありふれた容姿の男は、追加で説明されても分からんと首を横に振った。
対して、ロバーと呼ばれた男は名をロバーデイク・ゴルトロンという。
ロバーデイクもまた「そうですよね」と苦笑いで答えた。
「その話、私も聞いた」
そこへ、かなり美形で耳の長い女性が話に加わる。
彼女はイミーナ、彼らの仲間である。長い耳はエルフを彷彿とさせるが、エルフほどの長さはなくその半分程度。
いわゆるハーフエルフと呼ばれる存在である。
「それって今日の話か?だとしたら噂が広まるのが早すぎないか?」
「私の聞いたところによると午前中の話らしいですよ?半日も経っていればそういうこともあるのでは?」
「いろんな理由が重なった結果らしいわよ」
イミーナが噂で聞いた理由を一つずつ上げていく。
一つ、実際にその家の中に入ってみた奴がいたらしい。
「鍵もかけずに誰でも入れるようになっていたみたい。それで中に入ると赤い男が『開店準備中だ』と追い出したらしいわ」
「何かの店なのか…スラム街に?」
「たしかに気になりますね…」
さらに一つ、今日の闘技場で大暴れした女がその建物に入って行くのをみた奴がいたらしい。
「闘技場で女ってだけでも珍しいな」
「それが、もうもの凄い強さなのよ」
「イミーナは観ていたんですか?」
興奮気味に語るイミーナに誰もが答えの分かりきった問いを投げかけるロバーデイク。
「観てた、観てた!本当に強いの、凄いスピードで接近したかと思うと得物のレイピアでグサーって、一撃」
「「…………」」
「それ、死んでねぇか?」
「そうなのよ、結構な数その人に殺されちゃってたな」
「どうやら、それ込みで噂の広まりが早いのでしょうね」
「ちょっと気になってきたな」
「じゃあ明日、アルシェが来たら行ってみない?」
イミーナがにこやかに提案する。
ヘッケランとロバーデイクに否はなく翌日、この場にはいない仲間のアルシェの意見を聞いてから訪ねてみることした。
ヘッケラン、ロバーデイク、イミーナ、アルシェの4人は《フォーサイト》というこの帝都を拠点に活動するワーカーチームである。
ワーカーというのは簡単に言えば組合に属していない冒険者のようなもので、冒険者に比べてより、何でも屋の色が濃い。
組合に属さないため、冒険者であれば組合がある程度の情報を収集し共有してくれるが、ワーカーはそれを自分たちで行う必要があるため割高である。その上、組合を通せば依頼すらできないような内容の依頼もこなす。
現在アルシェはいないが穏やかな時間をフォーサイトの面々は過ごした。
翌日フォーサイトは件の魔法の家「Devil May Cry」に来ていた。
「本当にあった…」
「ってか、この光ってるのはなんだ看板か?」
「なんて書いてあるのかわかりませんね」
「──この国の文字、じゃない?」
各々思わず感想を漏らすが、やはり一番目についたのはネオンで光り輝く知らない文字が綴られた看板だった。
現在はちょうど夕暮れ前だが空は十分明るく残念ながらネオンの効果は薄い。
「とにかく入ってみるか」
ヘッケランの言葉にうなずく面々、先んじてロバーデイクが扉をノックした。
「ごめんください、どなたかいらっしゃいませんか?」
「──返事、ない?」
──ガチャ
「あ、開いてた」
「イミーナ!?」
勝手に扉を開いたイミーナをロバーデイクが窘めた。
「でもまぁ、噂通り扉に鍵は掛ってないんだな」
「──すごく不気味な内装」
アルシェ の言葉に部屋の中を見回す。
扉を開けた目の前には大きな机が一つ、机の上はいろんな本?のようなものや、黒い用途不明のオブジェ、白と黒の色違いの何らかのマジックアイテムのようなものが置いてある。
目をめぐらせれば、緑のマットを張った机と同じような台に色とりどりのボールが転がっている。そのそばには長い棒状のものが立てかけてあった。
また、部屋の片隅には外の看板と同じようにしかし、看板と違い色とりどりに光り輝く大きなオブジェ、何の魔法が掛かっているのかそのオブジェからは音楽が聞こえてくる。
しかし、アルシェが不気味と称したのはそんな部分ではなく、壁にあった。
見るからに不安を掻き立てられるような動物なのか、なんなのかわからないが首のようなものが掛けられている。
その首の大半にはそれぞれ剣が突き立てられており血のようなものが滲んでいるようにも見える。その不気味さからか首から呻き声のようなものが聞こえてくるような気さえしてくる。
「なんかヤバイんじゃないかって気がしてきた…」
「私も…」
「……る、留守のようですしお暇しましょうか」
──バンッ!!
部屋の奥の扉から大きな音をたてて頭から水を滴らせ、身体から湯気を上げながら上半身裸のダンテが出てきた。
頭をワシワシとかき髪の毛に含まれた水気を飛ばし、大きな机の前に倒れている椅子を蹴り起こしてドカリと座って机の上に足を置く。
そこでようやく、フォーサイトの存在に気付いた。
「客か?」
「──違う、ここが何の店か分からないから」
「なら、帰りな」
ダンテはアルシェの返答に、もう興味はないとばかりに視線をそらした。
「いやいや、そう言わずにさ?何の店か分からなかったら客も入らないぜ?」
「それもそうだ。ここは何でも屋だ」
「表の看板?アレはなんて読むの?」
「…そうか、ここは文字が全く違ったんだったか…アレは《デビルメイクライ》と読むんだ」
盲点だったとばかりに手を打ってダンテは答えた。
「デビルメイクライ……どういう意味なのでしょうか?」
「おいおい、質問ばかりだな?まぁいいか、暇だし。《悪魔も泣き出す》だ。好きに捉えな」
「──壁の首は?」
「これか?深夜にここを襲撃してきた悪魔の首だ。近づくなよ?まだ生きてるからな?」
「悪魔ですって?」
神官であるロバーデイクが食いつく。
この世界では悪魔の存在自体は語られているが、壁に掛かっているような異形の存在ではない。
そもそも、この世界で悪魔といえば異様な強さを発現したモンスターだったりアンデッドだったりを指すことが多い。つまり、本物の悪魔というものを誰も見たことがないのである。
「あ?何をそんなに驚いているんだ。低級の雑魚ばっかりだがそこらにいるじゃねぇか」
「………」
「まぁ、気付いてないならその方がいいだろう」
「──そんな話を聞いたら、気になる」
「そりゃそうだ。まぁいいか知っていてもどうにもならないだろうしな」
ダンテはそう言うと、自らが狩っている悪魔について話し始めた。
悪魔というのは魔界の生物であり、本来人の住む人間界とは隔絶された場所に住んでいる。
隔絶されているというのであれば本来なら人間界に悪魔など存在しないはずだが、確かに存在している。
それはなぜかといえば、魔界と人間界の境界に穴が空いているからである。
その穴からこちら側に滲み出て来た存在がいるのである。
それが低級の悪魔である。しかし滲み出してきた程度の低級の悪魔は実体を持っていないため、人間界の何かを依り代にしなければ存在できないのだ。
依り代はモノだったり人間だったり様々だ。
モノに取り憑いた場合、モンスターだったり呪いのアイテムだったりと処分されてしまうことが多いため、悪魔の仕業であるという認識になっていない。
また、人間に憑いた場合は、犯罪者として処刑されていたり、奇行の末、外でモンスターにやられていたりと普通の人でもやりかねない原因でこの世を去っているため悪魔の存在として認識されていない。
しかし、中には多少頭の回る悪魔もいる。そういった輩は徹底的に隠れて少しずつ力をつけていくのである。
そのような悪魔を見つけるのは至難の技であり、普通はどうにも出来ない。
「というわけだ、坊や達は気にする必要ないぜ?」
「──壁に掛かってる悪魔はどうして隠れたままでいなかったの?」
「そりゃ、俺に怒ってるからだろう」
「──それは何故?」
「……スラムの人間ってのは基本的に国に把握されていない人間の巣窟だ。誰がどこで生まれて、どこで誰が死のうがわからない。そんな悪魔達にとって最高の餌場にドンっと目立つ建物を建てられたら、外の気を引いちまうからな」
実際のところ宿代を浮かせるために怒られなさそうな場所にグリーンシークレットハウスを建てたら、予想以上の数の悪魔の反感を買ったというだけの話だった。
つまり、ここアーウィンタールにはかなりの数の悪魔が紛れ込んでいるということになる。
低級の悪魔が集まっているくらいならばまだいい。
しかし、悪魔達が力をつけ始めるのはよくない。
強い力は世界を歪めるのだ、その歪みが大きくなればなるほど境目の穴は大きくなり、さらに強大な悪魔が人間界に顕現することになるのだ。
エ・ランテルでのアンデッド大量発生事件の目的とされた「死の螺旋」に近い。アンデッドがより強大なアンデッドを呼ぶように、悪魔も増えれば増えるほどより強力な悪魔が現れる。
強大な悪魔がこちらに顕現し続ければさらに世界の歪みは大きくなり最終的には世界が崩壊することもありえるだろう。
「まぁ、脅すようなことを言ったが、気にすんな。世界はそんな脆くねぇ」
そこまで脆いのならば、とっくに世界は崩壊しているはずなのだ。
ダンテの語ったことが事実であれば…
──バーン!!
「ダンちゃんただいまー!今日も稼いできたよぉ!」
「おう」
扉を壊す勢いで帰ってきたクレマンティーヌにひらひらと手を振って返事をするダンテ。
今日も闘技場へ行っていたクレマンティーヌはすこぶる上機嫌だった。
「あれ?お客さん?」
「違う、冷やかしだ」
「冷やかし?」
クレマンティーヌの視線にフォーサイトの面々が凍りつく。
ワーカーは冒険者と違って強さの目安になるようなものを持ってはいないがフォーサイトはミスリルからオリハルコン級の実力があるといわれている。
そんな実力者の4人だったが、クレマンティーヌに睨まれては身を縮こまらせるしかなかった。
「昨日、闘技場で負け知らずだったって噂の姉さんに会えるなんて光栄だなぁ」
ヘッケランが引きつった笑顔で見え見えの媚を売る。
イミーナもそれに続く。
「えっと、アナタはここの用心棒か何かなんですか?」
「何言ってるの?ダンちゃんに用心棒が必要なわけないじゃない」
クレマンティーヌとフォーサイトが話をしているのを尻目にダンテはもはやトレードマークとなりつつある赤のコートを着込み、壁に立てかけてあったリベリオンを担ぎ机に転がしてあったエボニー&アイボリーを腰のホルスターに収める。
「クレマンティーヌが帰って来たってことは、もう外は暗いってことだ。坊や達は死にたくなかったらこの中にいな」
先ほどまでのやる気のない感じとは打って変わって、ダンテはニヤニヤと楽しそうにしていた。
死にたくなければ…その言葉の指し示すところはこれから戦闘があるということだった。
アルシェはふと、コートの襟に引っ掛けてあった銅のプレートを見つける。
「──カッパーのプレート?あなた、冒険者?」
アルシェの呟きを聞いたフォーサイトの面々は各々ダンテの首元のプレートを見て気の抜けたような表情になった。
しかし、闘技場で無敗のクレマンティーヌがダンテを評価していることから、ダンテの実力を測りかねている。
「一応冒険者になるな」
ダンテはそう言うと事務所の扉を開け放った。
目の前には黒い影のようなものが赤い目を爛々と光らせ蠢いていた。
赤い目と白い歯が特徴的な小柄の猿のような何かだった。
「何だ今日は本当に
「…あれが悪魔?」
驚いたような声を上げるフォーサイトの面々。
実のところ昨日はダンテも驚いてはいた。
ユグドラシルのモンスターではなく、ゲーム「Devil May Cry」の敵キャラとしての悪魔がこの世界に実在したことは本当に驚きだった。そしてそんな悪魔がいるということは他の強大な悪魔も存在する可能性がある。
ダンテはそれを一番懸念していた。
ゲームでも序盤で出てくるような雑魚に対してさえ、この世界の人間の多くは太刀打ちできないのだ。
所謂大悪魔と呼ばれるような存在が出現したらと思うと、助け切れないのは間違いない。
もっとも、それはユグドラシルのモンスターであったとしても同じことが言えるのだが……
「いや、アレを雑魚っていえちゃうのはダンちゃんだけだってば…」
クレマンティーヌがうんざりしたような声を上げる。
悪魔の強さというよりは量の多さにうんざりしていた。
「ま、死なない程度に楽しめ」
「待ってくれ、俺達も戦う!」
「へぇ…好きにしな」
ヘッケランがダンテに向かって声を上げ、事務所の外にフォーサイトの面々が展開した。
ダンテはニヤリと笑いながらフォーサイトを眺めていた。
フォーサイトとしては、銅級の冒険者にだけ戦わせるという状況は容認しがたかった。
ダンテもムシラが相手であればいざという時にフォローは出来るだろうと考えた。
「──
「
アルシェとロバーデイクがヘッケランに対し支援を行う。
その間イミーナは弓でムシラたちを牽制している。
十分な支援を受けたヘッケランはイミーナの牽制を抜けて来たムシラに両手にそれぞれ携えた剣を叩きつける。
しかし、同時に振るわれたムシラの爪にガァン!!と弾かれたような音と共にヘッケランが体勢を崩す。
ヘッケランを援護しようとイミーナが弓を放ち、アルシェが
ロバーデイクもヘッケランの横に並び手にしたメイスを振り回し援護する。
ヘッケランも即座に体勢を立て直し、ロバーデイクに向いているムシラの背を切りつける。
一撃で倒せたりはしないもののムシラはかなりの深手を負ったようだった。
「一匹ずつ確実に仕留めるぞ!」
ヘッケランの指示に従い、アルシェが魔法をヘッケランが傷を負わせたムシラに集中させる。
イミーナはそんなアルシェ達にムシラを近づけないよう、牽制の一射を繰り返す。
ムシラはフォーサイトであっても倒せない相手ではないのだが数が多すぎた。
現在フォーサイトに対しているムシラの数は10。
次第に、フォーサイトの連携が崩され、前衛のヘッケランが被弾する回数が増えていく。
「──しまっ!!」
ムシラがヘッケランの首筋に爪をつきたてようとしていた。
次の瞬間、乾いた破裂音と共にムシラが横に吹き飛んでいった。
音の発生源を目で追えば、ダンテがアイボリーをヘッケランの方へ向けていた。
「無事か?坊や」
ダンテは無防備なヘッケランに襲い掛かろうとしていたムシラをアイボリーで撃ち殺すと、目の前に迫るムシラを踵落しで踏み潰しながらヘッケランに声をかける。
「た、助かった!」
ヘッケランはダンテにそう返事をすると即座に体勢を立て直し、襲い来る悪魔に備える。
「おい、どうした?来いよ!」
ダンテが飼い犬を呼ぶような仕草で挑発すると、すべてのムシラがダンテに殺到し始めた。
ダンテは殺到するムシラを両の手に嵌めた炎を纏う籠手《イフリート》とエボニー&アイボリーでもって次々と打ち倒す。
「…すげぇ」
ヘッケランがポツリと呟く。他の面々は黙ってはいるが気持ちはヘッケランと同じだった。
全方向からムシラの攻撃にさらされているにも関わらず、その攻撃は当たる気配がない。
──チャラーン!!
その音と同時にしびれたようにムシラたちの動きが止まる。
「Let's rock!!!」
ダンテの声が聞こえたと同時に軽快かつ重厚な音の奔流と共に青い雷を纏う蝙蝠がダンテの周辺をムシラごと包み込む。
さらに断続的に雷がダンテを中心に落ちているようにも見える。
「Foo!!」
膝立ちのダンテが拳を突き上げる姿を現すと、ムシラはすべて消え去っていた。
「よし、坊や達も楽しんだな?なら良い子はもう帰る時間だ」
ダンテはそう言いながらパンパンと膝に付いた埃を払いながら、アイテムボックスからポーションを4本取り出しフォーサイトに向かって投げて事務所に入っていった。
「待ってよダンちゃん!」
クレマンティーヌも慌てて中に入る。
フォーサイトの面々は置いてきぼりだった。
「帰ろう…」
「そうね」
「賛成です」
「──疲れた」
投げ渡された赤い液体の入った瓶に首をかしげながら4人はスラムを出て行った。
一所にとどまってられないので帝都に来ました。
そして帝都にもストロベリーサンデーはなかった。
っていうか、この世界にアイスクリーム的なスイーツは存在したんでしたっけ?
閲覧、感想、評価本当にありがとうございます。
おかげで生きていけます。
次回もまた、お時間ありましたらお付き合いください。