オーバーロード~慎重な骨と向う見ずな悪魔~   作:牧草

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mission 14

シャルティアにエ・ランテルへ送ってもらったダンテは黄金の輝き亭に宿泊しているモモンに会って近況の報告をしあった。

 

どうやら近々ナザリックの強化の一環としてNPC達が成長できるかどうかの実験を行うらしい。

武技に関しては、以前捕らえたブレイン・アングラウスから情報を得て、死の騎士(デスナイト)が取得できるかどうかの実験をしていた。

なので、おそらくステータス的な成長とは別のことだろう。

そもそもNPCに取得させるのは死の騎士(デスナイト)が取得できることを確認してからで十分だ。

 

 

「まぁ、大丈夫だろ」

 

「何か仰いましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

ぼそっと呟いた独り言に対してのナーベの問いにヒラヒラ手を振って返事をしたところで案内の為、先行していたナーベが立ち止まった。

 

 

「ここが、ちょうど私達がモンスターを発見した場所になります」

 

「普通に住宅街のど真ん中だな…」

 

 

ナーベに案内されてエ・ランテルでモンスターが出没した場所を訪れた。

日中ということもあり、通りを歩く住人の姿も散見できる。

 

ダンテはぐるりとあたりを見回すとここから程近いスラムへ向けて歩を進めた。

 

 

「どちらへ?」

 

「スラムだ、アーウィンタールではスラムで悪魔が出没していた」

 

「悪魔…ですか?」

 

「ユグドラシルの悪魔じゃなかったけどな」

 

 

ダンテの言葉に感心したように声を上げるナーベ。

アインズですら知らない現地のモンスターに既に精通しているということに「流石アインズ様に同等であると言わしめた方だ」と納得した風でもあった。

 

現地のモンスターですらないのだが、DMCの悪魔を知らないナーベには知る由もなかった。

 

程なく2人はスラムにたどり着いた。更に奥へと歩を進める。

道中ダンテは地面や建物の壁を観察しながら歩く。

ナーベはダンテの邪魔はすまいとダンテの後ろを静かについていく。

 

ふと複数の小道が合流する小さな広場の中央でダンテが足を止めると再びぐるりとあたりを見回し始めた。

 

 

「いかがなさいましたか?」

 

 

ナーベの疑問の声と同時に広場に繋がる全ての小道が赤い網のような光で封鎖されてしまった。

ナーベは咄嗟にフライを唱え上空からの離脱を試みようとしたが、ダンテに手を掴まれ止まった。

 

 

「上も無理だ」

 

 

ダンテの言葉に見上げれば小道と同じように赤い網のような物が張り巡らされていた。

 

 

「ダンテ様、これは?」

 

「結界だ、近づかなければ安全だ」

 

「結界……壊せないのですか?」

 

「壊せ──」

 

 

ナーベの問いに反射的に壊せないと答えようとしたが、思いとどまった。

ゲームにおいてはシステム的なロックとして条件を満たさないと解除されず、攻撃の当たり判定そのものがなかった。

しかし、現実となった今ならどうだろう…試してみる価値はあるのではないかとダンテは考えた。

 

 

「少し離れてろ、壊せないか試してみる」

 

「かしこまりました」

 

 

ダンテはナーベが離れるのを確認すると悪魔出現の予兆がないか、一旦辺りを見回す。

直に悪魔が出現するだろうと考え、手っ取り早く確認してしまうことにした。

 

一番近い結界に向き直ったダンテは無造作に結界に近づき背負っていたリベリオンを叩きつけた。

 

 

──キンッ!

 

 

一際甲高い音が響きリベリオンが弾かれる。

ナーベの驚いたような声が聞こえたような気がしたが、あくまで予想の範疇内の出来事だと思ったダンテはリベリオンを担ぎ直して左手で結界に触れてみる。

 

 

──バチン!!

 

 

電流が走ったかのような音が鳴りダンテの左手にまとわりつく何かがその左手を焼く。

 

 

「……やっぱり無理か」

 

「っ!?ダンテ様!!」

 

 

結界から大きな手が出てきたことを視認したナーベはダンテに危険を叫ぶ。

しかし、ダンテは分かっていたとばかりにバックステップを一つ、結界の手の範囲から逃れる。

 

 

「仕方ない。とっとと片付けるか」

 

 

ダンテは結界に背を向け腰から引き抜いたエボニー&アイボリーを前方の空間に向けて構えた。

それとほぼ同時に塵の塊がダンテ達の周辺に不自然に集まり始める。

すると塵の集まった塊から、巨大な鎌を持ち、ボロボロの黒い衣を纏った痩せこけた死神のようなモンスターが現れた。

下級悪魔の一種、名をヘル=プライドという。

傲慢の罪を犯して死んだ人間を地獄で責め続ける魔界の住人である。

 

やはりユグドラシル産のモンスターではなくDMCの敵キャラであった。

 

アーウィンタールで遭遇したムシラを考えれば同程度の下級悪魔ヘル=プライドであってもこの世界の人間にとってみればかなりの脅威となるだろうことは想像に難くない。

 

 

(どうせならもう少し歯応えのありそうな奴が出てくればいいのに…)

 

 

しかし、あくまでダンテは自分本位だった。

 

ヘル=プライドたちが鎌を振り上げ飛びかかってくると同時にダンテは発砲し、先頭の一体を塵に帰す。

 

 

「ナーベラル、大して強くないけど油断するなよ」

 

「畏まりました」

 

 

ナーベラルはダンテが自身のことをナーベと呼ばなかった理由を「ナーベとして使える魔法」より高位の魔法を使用しろという意味に捉え、目の前の未知のモンスターに対峙することに決めた。

 

 

二重最強化(ツインマキシマイズマジック)…」

 

 

ナーベラルがパン!と一つ手を打ち合わせると両手の間を白く輝く光が通電するように走る。

昼間であるにも関わらず、次第に光が強くなりあたりを白く染め上げると魔法が放たれた。

 

 

連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)!」

 

 

名前のごとく雷の龍はヘル=プライド達を次々と襲い、貫通していく。

貫通された者は塵へと還り大気に撒き散らされていく。

 

 

(油断するなとは言ったが、やり過ぎ……)

 

 

ナーベラルが周辺のヘル=プライドを一掃したため、埃っぽくなってしまった中でダンテはパタパタと顔の前で手を振り埃を吸い込まないようにしながらため息をついた。

ダンテは何もせずに戦闘が終わってしまったことに若干気落ちしていた。

 

 

「終わり…でしょうか?」

 

「みたいだな」

 

 

ほんの少しだけ期待していた、ヘル=バンガードが出現することもなく終わった。

ダンテが結界で塞がれていた通路を指差すと、ちょうどガラスが割れるような音が響き結界が消失するところだった。

 

 

「あのモンスターは何だったのでしょうか?アインズ様の仰るようにユグドラシルのモンスターではないのでしょうか?」

 

「あれはヘル=プライドっていう悪魔だ。ユグドラシルは関係ない…多分な」

 

 

ダンテはエボニーとアイボリーをホルスターに格納しながら、つまらなさそうに呟いた。

 

 

「とりあえず、倒せない相手ではないし大丈夫だろ。さっきのアレの色違いが出てきたら注意しろ。さっきのよりちょっとは強いから」

 

「承知いたしました」

 

「OK。それじゃあナーベはモモンのところに戻って報告しときな」

 

「ダンテ様はいかがなさるのですか?」

 

「一旦アーウィンタールに帰る。モモンに伝えといてくれ」

 

「承知いたしました。それでは失礼します」

 

 

ナーベはペコリと頭を下げるとダンテから離れフワリと空を飛んでいった。

 

 

「ナザリックでストロベリーサンデーを食べてから行こう」

 

 

ついでにシャルティアにゲートで送ってもらおうと考えダンテはエ・ランテルを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おまたせいたしました。ストロベリーサンデーでございます」

 

「ありがとう。ピッキー」

 

 

ダンテにピッキーと呼ばれたナザリックの副料理長はストロベリーサンデーを置いて一礼すると、バーカウンターに並んでいるグラスを磨き始めた。

ダンテは久しぶりのストロベリーサンデーをじっくりと堪能していた。

 

しばらくするとバーの扉が小さくベルの音を響かせて開いた。

 

 

「ダンテ様、お待たせいたしました…わん」

 

 

やってきたのは背後にブレイン・アングラウスを連れたペストーニャだった。

ダンテがナザリックに帰還した際にペストーニャから少し時間が欲しいと頼まれ、ダンテは「ペスの頼みなら」と二つ返事で了承していたのだ。

ダンテはペストーニャの姿に手を振って挨拶すると、後ろのブレインに気付きスプーンを咥えたまま不思議そうな顔をした。

 

 

「……アングラウス、だったか?」

 

「はい、アインズ様よりダンテ様にこの方を外に連れ出して頂きたいと伝言を承っています。わん」

 

「……こいつの武技に関しての調査はもういいのか?」

 

 

ダンテはアインズから直接話がなかったことを不思議に思いながらも、当初の計画について尋ねた。

 

 

「ひとまずは…だそうです。わん」

 

「ふーん……」

 

 

 

 

 

 

その後、ストロベリーサンデーを食べ終えたダンテはピッキーにお礼を言ってバーを辞した。

ペストーニャに地表まで見送られ、ブレインと二人で早々にナザリックを後にした。

 

ダンテはアルベドで遊んでからシャルティアに送ってもらおうと考えていたのだが、残念ながら、アインズと守護者各位はトブの森で何かをしているらしく、アルベドとシャルティアもナザリックに不在だったため暇つぶしも、ゲートでアーウィンタールまで送ってもらうことも出来なかったのだ。

 

 

「さて、どこへなりとも行っていいぞ?」

 

「は?いい、のか?」

 

「ここのことを漏らさなければいいぞ?」

 

 

どうでもいいような調子で答えるダンテにブレインは困惑していた。

ダンテはブレインがここで何をさせられていたか、あるいは何をされていたかは知らないが、ブレインの強さからすれば化け物しかいないようなナザリックのことを触れ回る勇気はないだろうと踏んでいた。

 

 

「あんな場所の存在、誰かに言ったって信じてもらえるもんか…」

 

「じゃあ、好きにしな」

 

「アンタはこれからどうするんだ?」

 

「アーウィンタールへ帰る」

 

「帝国へか?あんたエ・ランテルの冒険者じゃなかったのか?」

 

「冒険者…あぁ、そんなこともしてたな…でもまぁ、人を待たせてるからな」

 

 

ケルベロスを置いて出てきたときのクレマンティーヌとレイナースの何か言いたげな顔を思い出す。

 

 

「なぁ、付いて行っていいか?」

 

「…好きにしな」

 

 

簡単なやり取りの後、二人そろってアーウィンタールへ至る街道を歩き始めた。

 

戦闘大好きなダンテと強くなることに執念を燃やすブレインは普通に意気投合していた。

道中は戦いの話に終始している。

中でもブレインは刀を使っているため、初めてダンテと出会ったときに見た居合いの技が気になって仕方がなかった。

ブレインがダンテに刀の扱いの極意を尋ねると。ダンテはシレっと「知らね」と答えた。

ダンテ曰く「見よう見まねでやってみただけだから教えろとか言われてもわからん」とのこと。

ブレインは目を開いて驚いた。そしてダンテの続く言葉に目に涙を浮かべながら大声を上げて笑った。

 

 

「大抵の武器の扱いは見よう見まねだ」

 

 

確かに誰かに師事したわけではなく独学と言える。

最初はゲームDevil May Cryの映像を見てトレースしたに過ぎなかった。

しかし幾度となく繰り返した戦闘によって、真似事は最適化され、やがて自らに合った形へと変貌を遂げる。

いまやそれはオリジナルダンテの真似ではなく、自身のスタイルへと昇華されている。

当然といえば当然といえる。ゲームのように一定のパターンだけで戦えるほど現実は単純ではない。

もっともユグドラシルもゲームではあるのだが…

 

 

身体能力による決定的な違いこそあるものの技を見ればダンテもまだまだ成長の余地はあるのだ。

それが嬉しくて戦うことをやめられない。

欲を言えば、もう少し歯応えのある相手とやりたいのがダンテの正直な気持ちだった。

 

 

「ブレイン、お前はその刀にこだわりがあったりするのか?」

 

「こいつか?」

 

 

ブレインはダンテの問いに腰に提げていた刀を触って確認する。

 

 

「こだわりっていうか、刀は異常なまでに高くてな……こだわる余裕なんてないというか、こだわれる程刀を見てないのが正直なところだな」

 

「へぇ……なら、お前に俺の刀を一本やるよ」

 

「いいのか?」

 

「使っていない刀だしな……」

 

 

ダンテはそう言うとアイテムボックスの奥底に眠っていた、閻魔刀によく似た刀を取り出した。

元々シンプルな閻魔刀をさらにシンプルにしたような意匠の刀をブレインに放り投げた。

 

 

「閻魔刀試作型だ」

 

「試作型?ダンテの持っていた刀に似ているようだが?」

 

「俺の刀を作る前に試作品として作った刀だからな」

 

「…本当にいいのか?それこそ思い入れとか」

 

「気にするな」

 

 

実際、思い入れはある。とはいえ、閻魔刀の試作品は実は5本あり、ブレインに渡したのは試作の2番目で思い入れは1番目よりなく、性能的にも1番目とさほど変わりないもので試作の5番目と比べればゴミといえるものだった。

 

それでもブレインの今持っている刀に比べれば天と地程の差では表現しきれないほどの性能なのだ。

ブレインの強くなりたい気持ちが分かるダンテはなんとなく渡そうと思っただけだった。

 

 

「ありがとう。大切にする」

 

「あ?大切にしなくていいから使え。刃毀れしたり折れたりは多分しねぇから」

 

 

ヘロヘロさんの酸でも貰ったら壊れるだろうけどとダンテは心の中で苦笑した。

その横でブレインは刀を抜き放ち刃面をしげしげと眺めていた。

 

 

「………」

 

「ダンテ?どうかしたか?」

 

 

ブレインはふと立ち止まって目的地のアーウィンタールとは違う方向、正確に言えばカッツェ平野の方を見ているダンテに声をかけた。

 

 

「……ちょっと寄り道するぞ。楽しそうな気配だ」

 

「お、おい。ちょっと待てよ!」

 

 

ダンテはブレインの制止の声を無視して街道をそれてカッツェ平野方面へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁはぁ…くっ…らあああああ!!」

 

 

ヘッケランが迫ってきていたモンスターをメイスで叩き潰す。

普段よく使う二本の剣を使用せず、スケルトンに対し効果的なメイスを利用していた。

 

 

「キリが無いっ!」

 

「大丈夫ですか!?ヘッケラン!」

 

 

ヘッケランと並び同じくメイスでスケルトンを砕きながらヘッケランの安否を確認するロバーデイク。

数が多すぎて叩き潰したスケルトンがただのスケルトンなのか戦士級なのかメイジなのか判別がつかない程前衛二人に殺到するアンデッドの群れ。

 

 

「ヘッケラン!もう矢がないわ!」

 

 

主に、動死体(ゾンビ)に対して矢を放ち続けていたイミーナも肝心要の矢が尽きてしまい、副武装の短刀を引き抜きながら叫ぶ。

 

 

「──撤退しよう!」

 

 

アルシェの提案に一もニもなくお互いの顔を見てひとつ頷くと全員で背を向けて駆け出した。

 

 

フォーサイトの面々はカッツェ平野へアンデッド討伐に来ていたのだが、不意に大量のアンデッドの集団に遭遇してしまっていた。

数えるのも億劫なほどの集団ではあったのだが、比較的弱いスケルトン系のモンスターばかりだったため粘ってしまったのが始まりだった。

 

気付けば、動死体(ゾンビ)をはじめ、骸骨戦士(スケルトンウォリアー)骸骨の魔法使い(スケルトンメイジ)などの種が増え始め、アストラル系のモンスターも集まりだしてしまったのだ。

戦い始めた当初の約20倍もの数となってしまっていた。

数が多すぎて流石に手に負えないとなったところで死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を目にしたアルシェの一声が掛かったのだった。

 

ここまでの数になる前から撤退しようとしていたのだが、タイミングを見ているうちに乗算でもしているかのような増え方をされてしまったのだった。

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が出現してしまった以上、これ以上は無理だろう。

 

骸骨の魔法使い(スケルトンメイジ)死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の魔法にさえ警戒していれば、幸い相手は足の遅いアンデッドである。

逃げ切れる可能性はあるはず。

 

 

「イミーナ!!」

 

 

最後尾を懸命に走るヘッケランがいち早く上空の影に気付き、イミーナに飛び掛った。

 

 

──ズーン!

 

 

間一髪、ヘッケランはイミーナと地面を転がり押しつぶされることを回避した。

ヘッケランが顔を上げると、土砂を巻き上げながら降り立っていたのは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)だった。

 

後続のアンデッド達はまだ追いついてきてはいないが、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を相手にしていれば確実に追いつかれてしまう。

かといって骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を無視して逃げ切れるはずもなく。戦うとしてもこの疲弊した状態では危険である。

 

 

 

「──まずい」

 

 

体勢の整わないヘッケランとイミーナに対し骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は大きく尻尾を振り上げていた。

 

 




お久しゅうございます。

大変お待たせして、申し訳ないです。
少しずつ投稿速度を上げていけるよう、がんばってみます。


たくさんのお気に入り、感想、評価。本当にありがとうございます。

また次回もお付き合いいただければ幸いです。

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