「ゼェッ…ハッ…ハッ…だ、ダンテ……あんた、バケモノかよ……」
ダンテを追いかけ息も絶え絶えなブレインが目にしたのはダンテと女性の5人組だった。
中でも、ダンテと仮面を被った小さい子供(?)が睨み合っているようにも見える。
否、仮面の子供は顔が全く見えないので睨んでいるかもしれないが、ダンテはいつものニヤニヤと人を小馬鹿にしたような顔で仮面の子供を眺めていると言った方が正しい。
「………」
「………」
「え?ちょっとイビルアイ?どうしたのよ?」
白銀に金の装飾のあしらわれた鎧を装備した金髪の女性が二人の間に漂う不穏な空気を感じ取り、仮面の子供に問いかけていた。
「ラキュース、少し黙っていろ」
「ふぅむ……」
イビルアイと呼ばれた仮面の子供が高圧的にラキュースと呼ばれた白銀の鎧の女性を制す。
一方でダンテは顎に手をやり何かを考え込んでいた。
「鬼ボス、カッパープレート」
双子なのか同じ顔した軽装の装備の一見ニンジャに見える二人の片割れがラキュースの外套を引っ張りながらダンテの首元、コートの襟に引っ掛けられている冒険者としてのプレートを指差していた。
「……なんだ、仲間内か」
ダンテはポリポリと頭を掻きながらそう言うと、方向を変えて歩き出した。
「待ちな!」
いかにも重装の戦士といった感じの男に見まがうような、男に比べても遜色のない体つきをした女からダンテに対して制止の声がかかる。
「一体なんだってんだ?説明くらいあってもいいだろうがよ?」
「……めんどくさ」
振り返ったダンテは
「おいダンテ!あいつら蒼の薔薇だ」
ブレインがデカイ女戦士の顔を見て思い出したかのようにダンテに告げた。
ブレインは女戦士ガガーランとガゼフとの御前試合を覚えていたのだった。
「そう、私達はアダマンタイト級冒険者の蒼の薔薇よ」
ブレインの言葉を聴いて、これでやっと話が出来るだろうと考えたラキュースが自己紹介とばかりにチーム名を告げた。
ラキュースはダンテが自分達の顔は知らなくてもチーム名くらいは知っているだろうと考えたのだが…
「………あ?」
「マジかよダンテ」
ダンテは首を傾げていた。思わずブレインも突っ込んだ。
「あー、ブレイン知り合いか?」
「いや、別にそういうわけじゃないが・・・」
「なら後は任せた」
ダンテは知り合いというわけではないというブレインの返事も聞くことなく丸投げしてひらひらと手を振りながら今度こそ去って行ってしまった。
「……しっ!」
──ヒュッ!
「ティア!!」
ラキュースはニンジャの片割れがダンテに向かってクナイを投げたのを見て叫んだ。
叫んだところで投擲されたクナイが止まるわけもなく、ダンテに刺さると思われた次の瞬間。
「──へっぶしっ」
ダンテがくしゃみをして身体を折り曲げたためクナイはダンテの頭上を通り過ぎていった。
ダンテは何かが頭上を通り過ぎたのを認識しているのか、キョロキョロとあたりを見回すが特になにも見つけられなかったの為、首をかしげながら遠ざかって行った。
「ちょっとなにしてるのよ!?」
「イラッとしてやった、後悔はしていない」
シレっと答えるティアを尻目にガガーランがブレインに話しかけた。
「ウチのが悪かったな、ブレイン・アングラウス」
「いや、まぁ…」
ブレインとしては、ダンテがあんなクナイにやられるところなど想像もつかなかったため曖昧な返事をしてしまった。むしろ刺さっても平気な顔しているんじゃないだろうかとさえ考えてしまうのだった。
「…ふぅ、改めて私は蒼の薔薇のラキュース。ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラです。かの王国戦士長に匹敵すると言われるあなたに会えて光栄です」
「……ブレイン・アングラウスだ」
どこへ行っても、ガゼフに匹敵だのなんだのとガゼフを引き合いに出される対応に若干うんざりしながらブレインは自己紹介をした。
「いくつかお尋ねしても?」
「まぁ、構わねぇけど……」
ブレインが言い淀む。正直なところダンテとの付き合いも長いわけでもなく、ダンテが何をしに寄り道をし始めたのか分かっていないので答えられる気がしなかった。
「あの方はどなたですか?」
「名前はダンテ。エ・ランテルで冒険者やっている…ハズだ」
「ハズ?」
「俺も実際に見たわけじゃないんだ」
「ここへは何をしに来たの?」
「さぁ?ダンテの目的は正直わからねぇ」
死を撒く剣団の塒に襲撃に来たからブレインはダンテのことをエ・ランテルの冒険者と思っているだけなのだ。
しかも、これからアーウィンタールへ向かうところだったわけで、ブレインには何が何やらだった。
「王国の冒険者の癖に俺達のことを知らないとか正気か?」
ガガーランのもっともな認識にブレインは苦笑いを浮かべる。
「流石に俺も知らないとは思っていなかったんだがな」
実際、冒険者でもないブレインが知っているのだ。
いや、ブレインは傭兵家業のこともあり、そういった情報は積極的に集めていたので知っていて当然なのだ。
蒼の薔薇については街で暮らしている一般の人たちにも知れ渡っている。
蒼の薔薇が活動拠点としている王都は当然として、辺境の村や町はともかく、少なくともエ・ランテルでは知られている。
「多分興味がないんだろう」
「はぁ?ダンテって奴ぁホモなのか?」
女ばかりのパーティに興味がないとか…とブツブツ呟くガガーランに対してブレインは心底苦い顔をして答えた。
「違うはずだ・・・というか違っていて欲しい。多分だけど俺と同じなんじゃないかと思う」
「…戦いたくて戦いたくて仕様がないってことか?」
ここまで黙って話を聞いていたイビルアイが口を挟む。
「あぁ」
ブレインがここまでの道中ダンテと話をして感じたことは、ダンテはかなりの戦闘狂だろうということだ。
ブレイン自身がガゼフに勝利するためだけに戦闘技術の練磨に心血を注いだそれを遥かに凌駕するだろう経験を積んだとしか思えないダンテの強者振り。
冒険者組合は冒険者同士で戦うことを基本的に禁止しているため、必然的に犯罪者かモンスターが戦いの相手となる。
冒険者の数に比べ犯罪者は少ないし、モンスターも基本的には取り合いだ。
きっとダンテは戦いに飢えているのだろうとブレインは考えた。
ブレインの考えは正しい。
実際、ダンテがこの世界にきて一番楽しかった戦いはナザリックに初来訪したときのコキュートスとシャルティアの二人とやったときだけだった。
それ以外の戦いは不完全燃焼だった。より正確に言えば、コキュートスとシャルティアの二人との戦いも本気ではないので不完全燃焼ではある。
さらにダンテの基準での優先順位は、仲間≧戦い>(越えられない壁)>ストロベリーサンデー>ピザ>ワイン>(越えられない壁)>その他となっている。
しかも仲間と戦いは限りなくイコールに近いのだ。
女がその他のカテゴリーに属している時点で興味の薄さは分かる。
とはいえ、アーウィンタールではクレマンティーヌやレイナースが待っている現実を考えれば全く興味がないという訳でもないと察することはできるだろうが、その二人の存在を知らないブレインには興味が無いのだろうと考えるほかなかった。
「…そうか」
イビルアイは何かを納得したように頷いた。
「さて、そろそろダンテを追いかけたいんだが、いいか?」
「えぇ、同行させていただいても?」
「いいんじゃねぇか?」
ダンテを追いかけるブレインにラキュースは同行を申し出た。
先ほどダンテにクナイを投げたニンジャのもう片方がダンテを追跡しているため、いつの間にかこの場から姿を消していた。
どちらにせよ、追いかけて合流する必要があったのだ。
「待て、ラキュース」
ダンテの向かった方向に歩き始めたブレインについて行こうとしたところでラキュースはイビルアイに呼び止められた。
「どうかした?」
「あのダンテという男、おそらく私の正体を見抜いているぞ」
「そんなはずはっ!?」
「声が大きい」
ラキュースが驚くのも無理はなかった。
イビルアイはかつて《国堕とし》と呼ばれた吸血鬼なのだが、マジックアイテムでその気配などを丹念に隠している。
それほど念入りに隠蔽しなければならないほど、この世界でアンデッドは忌み嫌われている。
それが伝説級の者ともなればなおさらのことである。
未だかつて誰にも気付かれたことのないイビルアイの正体を会って碌に話もしていない人物が見破ったと聞かされれば動転もする。
「本当なの?」
「さっきから言っているだろう、おそらくと」
「……なにか根拠は?」
「ダンテという男の発した言葉を覚えているか?」
イビルアイの問いにラキュースは考え込む。
「『めんどくさ』…?」
「……違う、いや確かに言っていたが、それより前に『なんだ、仲間内か』と呟いていた」
「………」
確かにおかしいと言われればおかしい発言ではある。
しかしラキュースはそれがイビルアイの正体にまで波及するとは思えなかった。
「いいか?奴の言葉そのものをそのままとらえれば、『蒼の薔薇の5人が仲間である』と思っていなかったことになる」
「誰かが敵、もしくは別勢力同士の集まりに見えていたってこと?」
「そう、そしておそらく私だけが敵に見えていたのだろう」
吸血鬼対冒険者4人という構図になとイビルアイは言葉を繋いだ。
「種族まで厳密に気付いていたかはわからないが、現に私とラキュースのやり取りがあって初めてあの男は私たちが仲間同士であると認識した」
「それがその『仲間内か』ってセリフということ?」
「あぁ…」
確かにラキュースがイビルアイに声をかけ、それに対しイビルアイが『黙っていろ』と返したそのやり取りはお互いが険悪であるか、またはよほど気心の知れた仲でないと出ないやり取りといえるだろう。
ダンテはそれを後者であると認識したように取れる。
「だとしても、イビルアイだけが敵と思っていた証拠にはならないわ」
「……私だけが警戒されていたとしてもか?」
「……それは」
ラキュースはイビルアイの勘違いだろうと考えたが、それは思い直した。
イビルアイ本人が警戒されていたと言うのだからそれを信じた。
そして、確かにラキュース自らが警戒されていたようには感じなかったのも事実だった。
「身動きひとつとれなかった…」
イビルアイはダンテが十分に離れるまで身動きができなかったことをラキュースに告げた。
「私が人間ではないと見抜いていたからと考えるのが自然だ。そして私がラキュース達に危害を加える素振りを見せればあの男は……」
「…イビルアイを殺していた?」
「…………」
イビルアイはラキュースの回答に黙って頷いた。仮面に隠れてその目を見ることはかなわないが、ラキュースはイビルアイが怯えているのだと思った。
「イビルアイを怯えさせる程の戦士であるということね」
ラキュースは一息ついて、イビルアイの言うことがすべて事実だったとしたら…と続けて告げた。
「彼はイビルアイが人間ではないと知りつつ、攻撃してこなかった。逆にいえば、イビルアイが人間であってもそうでなくても構わないということだと思うわ」
「希望的観測ではあるけどな……」
イビルアイはふっと笑って頷いた。
ラキュースもニコリと笑うと二人は、ダンテを追った仲間たちの向かった方へ走って行った。
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──ゴゥッ!!
イミーナは迫り来る
その尻尾の向こう側には自分達を追ってきたであろうアンデッドの大軍が見えていた。
いつの間にか増えに増えたアンデッド達はフォーサイトが逃げ出したときの倍になろうとしていた。
その中には巨大なタワーシールドに
そのモンスターの威圧感は今まさに危機にさらされていない、ロバーデイクやアルシェの戦意をそぎ落とすに十分なものだった。
そんな中でもヘッケランはイミーナをかばうように防御態勢を整え
「死んでたまるかあぁぁ!!」
ヘッケランは咆哮し、全身に力を込め。次の瞬間自らに襲い来る衝撃を覚悟した。
「良い覚悟だ、坊や」
ふと聞こえた声に思わず閉じた目を開くとヘッケランの目の前には赤いコートが翻っていた。
そこには
「………ダンテ?」
「そこを動くなよ?」
ダンテはそう言うと、
多くのアンデッドが
「
ダンテは感心しながら、引き抜いたショットガンで
ダンテは
「Foo~!!」
ダンテに投げられた
何発もの銃弾が
周囲のアンデッド達も次々と地面に撃ち抜かれ倒れていく。
ダンテはそのまま銃を乱射しながら
「Yeah!!」
次の瞬間、ダンテは手にした閻魔刀でボード代わりだった
「「・・・・・・・・・」」
「・・・なに、あれ?」
ちょうどそこへ、追いついてきた蒼の薔薇とブレインがダンテの姿を見上げ言葉を失っていた。
認識できる限りで、ダンテは閻魔刀を一振りしかしていない。
にも拘らず、
一方で、ブレインは再びこの絶技を垣間見ることの出来た喜びに打ち震えていた。
しかし、ダンテの攻撃はこれで終わりではなかった。
細切れとなった
ダンテは踊るように背中から赤く光る魔力の剣を取り出しバラバラになった
ダンテが投擲した魔力の剣は突き立った
爆発に目を取られていると、ダンテはイフリートを装備しており、突如ダンテが激しい炎に包まれた。
地上でダンテの方を見上げている者からはダンテの姿が見えないほどの勢いで燃えさかっている炎が見える。
そのままダンテは空中から急降下し地面に拳を突き立てる。
──インフェルノ
ダンテを中心に巨大な爆炎が上がる。
その炎はダンテの周囲に集結していたアンデッドすべてを巻き込み盛大な火柱を上げた。
その熱量は少し離れた場所にいたブレインや蒼の薔薇も思わず防御姿勢をとるほどだった。
彼らよりダンテの近くにいるフォーサイトの面々は地面に伏せて暴力のごとく襲い来る熱に耐えるよりほかなかった。
ダンテによって発生した熱風が通り過ぎると、イビルアイは周囲の惨状を見て絶句した。
あちらこちらで土がめくりあがってクレーターができており、最後に火柱が立っていた位置は元々が土の地面であるにも拘らず光沢を放っている。
あまりの熱量にガラス化していたのだ。
そんな破壊をもたらした張本人は、前方でうずくまっていた4人に歩み寄りながら何か声をかけているようだった。
「あいつら生きてるのか?」
イビルアイと同様に前方の4人を見ていたブレインが呟いた言葉にラキュースがはっとし、慌ててダンテの下へ走っていった。
残された蒼の薔薇のメンバーとブレインは回復に向かったラキュースを追った。
「で?一体何があったんだよ?」
ブレインはラキュースによって回復されたフォーサイトの4人に問いかけた。
正直何があったかと聞かれても困るところだった。
カッツェ平野でのアンデット退治はいつものことだし、撤退のタイミングを誤り追い詰められたところでダンテが乱入し、あとはダンテ無双。
事情もなにもあったものではない。
「──ダンテに助けられただけ」
アルシェがポツリと答えた。
そうとしか言い様がない。
ヘッケランがアルシェの言葉継いで、ダンテに助けられるまでに自分達の置かれた状況について説明した。
「そう、危ないところだったのね」
ラキュースがヘッケランと話をしている間、ダンテはじぃっとアルシェを眺めていた。
「──何?」
アルシェが自分の身体をかばうように腕で隠しながらダンテに問うた。
「取って食いやしねぇよ…10年後なら考えるがな」
ダンテはハンと鼻で笑ってひらひらと手を振る。
と、ダンテにしては珍しく真面目な顔でアルシェに問いかけた。
「やっぱり悪魔の匂いがするな」
「──は?どういう意味?」
特にアルシェが答えたわけでもないが、ダンテは再びニヤニヤと笑みを浮かべた。
匂いといっても実際何かの匂いがするわけでもなく、ダンテの勘に過ぎないのだが、なんとなく分かるのだった。
「まぁ、今はいい。帝都に戻ったら事務所に来な」
ダンテはアルシェにそう言うと、近寄ってきていたガガーランに向き直った。
「よぉ、あんた強いんだな?」
「まぁな」
ガガーランの言葉にダンテは特に謙遜することもなく答えた。
「それだけ強くて、なんでカッパーなんだ?」
「カッパー?」
「は?冒険者なんだろう?」
「あぁ、そうだったな」
ダンテの返答にガガーランは困惑した表情を浮かべた。
ダンテは身分証明的な意味合いで登録しただけだったことを思い出していた。
(現状を考えれば全く意味のない肩書きだな)
冒険者としての依頼は殆ど受けていないし、そもそも登録したエ・ランテルに今は住んですらいない。
住む場所にしても、アーウィンタールのスラムにグリーン・シークレットハウスを設置したので特に不便はない。
金銭についてはこれから考える必要があるが、今のところ身分証明が必要になるような事態が無かった。
(大していいこともないし、辞めちまってもいいかもな)
ただ、最下級のカッパーで諦めたみたいに思われるのは面白くない。
「どうしたらランクって上がるんだ?」
「そりゃ、依頼を数こなすこった」
ガガーランの返答にダンテが苦虫を噛み潰したような顔をした。
めんどくさすぎる・・・それがダンテの感想だった。
周回系ゲームで全く必要のないステージを周回するようなダルさ。
「簡単に上げる方法は?」
「難しい依頼を達成するとかだな」
「・・・・・・受けさせてもらえないのに?」
「依頼じゃなくても、ギルドが認めるような偉業を達成すればランクアップできますよ?」
ヘッケランとの会話を終えたらしきラキュースがダンテに告げた。
「偉業?」
「ギガントバジリスク討伐とかだな」
ガガーランは「俺一人では支援なしじゃ厳しいレベルだな」と笑った。
現実にアダマンタイト級冒険者のガガーランが厳しいとなれば、十分な偉業だろう。
「ギガントバジリスクの難度はどれくらいなんだ?」
「そんなことも知らないのか?」
「83よ」
ガガーランの言葉を諌めながらラキュースが答えた。
「83…?」
(レベル27、8ってとこか?つくづくこの世界はレベルが低いな…)
ダンテは、冒険者は辞めずに資格だけ持っておこうと考えた直した。
高々レベル30程度を倒したくらいでアダマンタイトになれるなら、時間の問題だろう。
実際、モモンに聞いたアダマンタイト級冒険者への依頼料は魅力的だった。
あくせく働いていたリアルに比べれば、容易に大金を手に入れられる下地があるのだから使わない手はない。
もっともダンテの場合は倒すことそのものより、倒した証拠を残すことの方が難易度が高い。
事実、偉業に数えられるであろう
確かにモモンは冒険者組合からの依頼ではないエ・ランテルの墓地の件を片付けたことでオリハルコン級に上がっていた。
依頼にこだわる必要はないらしいが、そんな状況が転がっていることこそ稀だろう。
「まぁいい、そのうち上がるだろ」
「何か難易度の高い依頼でもあるのですか?」
「いや、勘だ」
ダンテはそう言うと問いかけてきたラキュースにニヤリと笑いかけた。
ラキュースはそんなダンテに薄ら寒いものを感じ、苦笑いを返すしか出来なかった。
依頼によるものではなくランクがあがる事態。それは突発的な事件などの解決によることが殆どであり、ダンテほどの強者が予感する事件など未曾有の大災害に近しいものなのではないかとラキュースは感じてしまったのだ。
「そうですか、ところでダンテさんはこれからどうされるのですか?よかったらご一緒にエ・ランテルまで戻りませんか?」
「あー、いや、帝国へ向かっている途中なんだ」
ダンテはそう言いながらもラキュースをじぃっと見つめた。
先ほどまでのにやけた笑いを引っ込めた、いたって真面目な顔でダンテに見つめられたラキュースは若干頬を染めた。
「えっと・・・?」
「ブレイン、蒼の薔薇と一緒に行ってくれ。で、楽しそうなことが起きそうなら教えてくれ」
「「は・・・・・・?」」
ラキュースと突然話を振られたブレインの気持ちが一致した。
「ちょっと待ってくれ、一体どうやって知らせるってんだ?」
「あー、気合い?」
「考えてなかったのか…」
思いつきで発言したダンテはブレインに指摘されて初めて方法について考え出した。
アインズから聞いた話でも、この世界において
そもそも純粋な戦士であるブレインが魔法を使える可能性は推して知るべしだろう。
何か使えるアイテムが無かったかと思考を巡らせるダンテ。
「イビルアイ」
「なんだ、ラキュース?先に言っておくがお断りだ」
ラキュースがイビルアイに声をかけるが、イビルアイはラキュースが言わんとすることを正確に理解したうえで即答した。
ラキュースはイビルアイが転移で知らせることができることを提案しようとしたのだが、取り付く島もなかった。
直後、イビルアイは手間を惜しまず、協力すべきだったと後悔した。
「仕方ない、ネヴァン!」
ダンテが声を上げるとその手には青いギターが収まっていた。
その光景に驚きの表情を隠せないイビルアイを除く青の薔薇、フォーサイト、ブレインはこれから何が起きるのかを眺めていた。
「…………」
イビルアイは直感的にダンテの持つそのリュートのようなモノに対して驚きよりも恐怖を覚えていた。
「ネヴァン、ブレインに付いて行って面白そうなことがあったら知らせに戻って来い」
ダンテが手に持ったギターにそう話しかけると、ギターは光を放って女の姿に変化した。
白いを通り越して青白いといえるほどの肌に鮮やかな赤の髪、ほぼ裸の目に毒とも言える妖艶な女がダンテの腕の中に現れた。
「「…………」」
しかし、ネヴァンの異様な圧力はその場にいるダンテを除く全ての者に恐怖を与えることとなった。
フォーサイトは4人全員が腰を抜かしその場にへたり込み、蒼の薔薇とブレインはへたり込みこそしなかったがガタガタと足が震えていた。
ネヴァンにじゃれつかれながらもその様子を見ていたダンテはややあってその惨状がネヴァンの垂れ流しの力のせいだと理解し、ネヴァンにギターの形を取るよう指示した。
そして、そのギターをブレインに差し出す。
「………マジかよ」
ブレインは蒼の薔薇の面々を見るが揃って顔を背けられてしまい。泣く泣くネヴァンを受け取った。
「じゃあ、あとは頼んだぜ」
ダンテはそう言うと、腰の抜けているフォーサイトを引き連れてアーウィンタールへ向かって歩いて行ってしまった。
残されたブレインと蒼の薔薇は互いの青い顔を見合わせて、盛大な溜息を吐きながら曇天の空を仰ぎ見た。
(ネヴァンにブレインの精気を吸い取らないように言うの忘れてたな……まぁいいか)
ブレイン君ハーレムルート突入(嘘
ネヴァンに搾り取られないことを祈るばかりでございます(笑
たくさんのお気に入り、感想、評価。本当にありがとうございます。
おかげさまでまだまだ頑張れそうです。
次回は感想でリクエストいただきました。ナザリックのシモベ達のダンテへの好感度(?)をSecret Missonという形でお届けしたいと思います。
また次回もお付き合いいただければ幸いです。