皇城のジルクニフの執務室。
仕事を行う為に機能的に整えられ、かつ華美な装飾や調度品が主張しすぎない程度に配置された部屋にジルクニフとその秘書官のロウネ、それからレイナースの姿があった。
「レイナース、その後赤い男…ダンテと連絡は取れたか?」
「いいえ、どうやらアーウィンタールから出てしまっているようです」
「どこへ行ったかは?」
「エ・ランテルへと向かったそうです」
「何のために?」
「そこまでは……」
矢継ぎ早にダンテのことを問うてくるジルクニフにレイナースは内心辟易としていた。
ダンテに仕えると言っていたレイナースが未だここにいる理由は単純にお金の為だった。
ダンテがエ・ランテルへ出かけた後、留守番のケルベロスの圧力に耐えきれなかったレイナースとクレマンティーヌは這う這うの体でDevil May Cryから逃げ出した。
数日の間はレイナースの住居で身を寄せ合って夜を過ごし、その恐怖を乗り越えようとしていた。
一緒に窮地を抜け出したレイナースとクレマンティーヌの間には固い絆が結ばれており、語り合う中でDevil May Cryの現状を確認した。
クレマンティーヌの話ではDevil May Cryは悪魔討伐専門の請負業者であるが、表向きはいわゆる「なんでも屋」だった。
実際のところはともかく、表向きの事業としてはワーカーとやっていることが同じだった。謂わばワーカーチーム《Devil May Cry》である。
もちろん最近立ち上げたばかりで知名度はなく、依頼もさっぱりなので自転車操業にもならないし、火の車どころか火すら点かないのが現状である。
今のところ唯一の収入源がクレマンティーヌが《レン》名義で登録している闘技場のファイトマネーだった。
しかしそれも、近頃は連戦連勝しすぎて対戦者がいないので対戦カードが組めず収入も不安定になってしまっていた。
余談ではあるが、武王とのカードを期待する声も上がっているという。
では、これからどうやって収入を得るかと言えば、考えるまでもなくレイナースが変わらず皇帝に仕えるのが手っ取り早い上に安定して高収入なのだ。
その日食べる物を買う金が無い日もあったと聞き、レイナースはダンテの為と思い、皇帝に引き続き仕えることを決めた。
これまでの蓄えで十分やっていけるのだが、お金はあって困るものでもないし、暇を持て余すのもすわりが悪い。
実は飲み食いどころか睡眠すら取らなくても問題ないアイテムを利用しているという事はつゆ知らず、健気に働いているレイナースなのだった。
「首に縄をかけても連れて来い。と言いたいところだが……」
「罪人であればともかく、それは難しいと思いますわ」
レイナースは苦笑しながら応えた。
そんなレイナースをジルクニフは冷めた目で観察していた。
ダンテに招待状を届けに行ったレイナースはしばらく皇城に姿を見せなかった。
もちろん、謁見予定の夕刻にダンテが姿を見せることもなく。招集したレイナースを除く四騎士やフールーダ、秘書官達は待ちぼうけを食わされたのだった。
レイナースが次に姿を見せた時には呪いが解呪されており、音信不通を謝罪してはいたが晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
ジルクニフはレイナースの呪いを解いたのは十中八九ダンテとみて間違いないだろうと考えていた。
聞けば招待状はダンテにしっかり渡しているという。
証拠と言う程でもないが、その際にダンテと言う名前を聞き出したと報告を受けていた。
招待に応じなかったのはダンテの意思だろうとレイナースは述べた。
また、すぐに皇城に戻ってこなかったのは呪いの解除できる人物の居場所を聞いた為、居ても立っても居られずその人物を探していたとのこと。
ジルクニフにはレイナースが本当のことを言っているとは到底思っていなかった。
しかし、そもそも自分の身が最優先という条件でレイナースを雇っているため、そこに文句が言えないのがなんとも腹立たしかった。
本当に呪いを解いてくるというのも非常に都合が悪い。
ジルクニフは「本当に余計なことをしてくれたものだ」と、見知らぬ解呪者(推定ダンテ)を呪いたい気分だった。
レイナースが登城しなかった間の真実は、ケルベロスに怯えてクレマンティーヌと肩寄せ合っていただけなのだが…。
唯一の嬉しい誤算は、呪いさえ解ければ皇城から去ると思っていたレイナースが残ってくれたことだろう
曰く「これまでの御恩もありますし、引き継ぎも含めてもうしばらくはお仕えさせていただきますわ」とのこと。
これでしばらくはいいとしても、レイナースが皇城に残る理由を何か作らないといけないなとジルクニフは考えていた。
「次は招待状を出すなどと生温いことは言わず、徴発状を出すことにする」
「承知いたしましたわ」
それでもよほどの気まぐれでダンテがその気にならない限りは来ることはないだろうとレイナースは確信していた。
短い付き合いながらレイナースはダンテと言う男を理解していた。
と言うよりは、ダンテがわかりやすいのだ。
1日でも同じ時を過ごせば誰でも同じ結論に至るだろう。
「そもそも皇帝陛下の招待を断る人間が徴発状で来るでしょうか?」
「おそらく来ないだろうな」
ロウネの言葉に心底おもしろくなさそうに呟くジルクニフ。
そもそも国のトップが招いているのに来ないというのがあり得ない。
よほどの馬鹿か権力をものともしない力を持つ人間かのどちらかだろうとジルクニフは考えている。
ジルクニフの中でダンテは前者として認識されている。
「これで来ないのなら今度こそ首に縄かけて連れてくる理由ができるだろう?しっかり手順は踏むさ、俺は暴君ではないからな」
「………」
「ここは笑うところだろう?」
ジルクニフはニヤリとロウネに笑いかけた。
逆にロウネは若干引きつった笑みを浮かべただけだった。
レイナースはふと違和感を感じて窓の外を見た。
しかし、何ということもない青空が広がっている。
普段であれば窓の端に見えるだけの尖塔が窓の中央にズズズと寄っていっていることを除けばである。
常識的に考えて建造物が動くはずはない。
「え……?」
「一体、どうし……は?」
呆気にとられたようなレイナースの声を聞き、ジルクニフもレイナースの見ていた窓を見た。
いつもであれば空が見えるはずの景観には城の壁がいっぱいに見えていた。
そう、いつもであれば外から優しい日差しが差し込むこの部屋が陰で暗くなっているのだ。
思わずジルクニフも呆気にとられたが、次の瞬間、窓いっぱいの壁は青空に変わった。太陽の暖かい日差しも戻ってきた。
酷い地揺れと轟音と共に……
ジルクニフは目頭を押さえてフルフルと頭を振った。
そう、きっと疲れてるのだと自らに言い聞かせるように。
気を取り直して、再び窓の外を見ればもうもうと土煙が上がっている。
どれほどの時間呆気にとられていただろうか、気がつけば執務室にノックの音が響き渡っていた。
「陛下!!ご無事ですかい!?」
ノックに対する返事が無かったことを異常に思ったバジウッドが慌てて部屋に入ってきた。
「あぁ…俺は問題ない」
「そりゃあ何よりです」
「一体何事だ?」
「いや、俺にもよくわからんのですがね?城の一部が崩落したようで」
「崩落だと?」
「今、調べさせてますんで、しばらく待ってください」
その後、報告に来た兵士によって事故の詳細が知らされた。
バジウッドの言うとおり、尖塔の上部の崩落による轟音および地揺れだった。
しかし、続く報告に執務室にいた面々は驚愕することになった。
「尖塔の上部が何か鋭い物で切り落とされていました。あまりにも滑らかな切り口の為、魔法の作用を疑ったフールーダ様が調査中です。その第一報では魔力的な残滓はなく物理的に切り落とされたらしいとのことです」
「「………」」
その報告を聞いていた、ジルクニフをはじめとする者達は唖然とした。
「巻き藁や人形じゃないんだぞ?一体誰がそんな芸当を…」
バジウッドがあり得ないと首を振りながら報告に来た兵士に掴みかかる。
「げ、現在調査中です」
「被害状況はどうだ?」
ジルクニフがバジウッドを手で制しながら、努めて冷静に報告の続きを促す。
「はっ、奇跡的に人的被害はありません。尖塔はもとより崩落による軽微な被害を含め損害額は現在見積中です」
「引き続き原因の調査を続けよ」
「はっ!」
兵士はビシっと返事をすると執務室を退室した。
ジルクニフは兵士が出ていくのを見送ると、椅子に深く腰掛け大きな溜息をついた。
頭が痛かった。思い切り頭を掻き毟りたい衝動に駆られそうになるがぐっと堪える。
「バジウッド、レイナースどう思う?」
「どうとは?」
ジルクニフの質問の意図がつかめず思わず聞き返すバジウッド。
「自然に起きることではない。明らかに何者かがやったとしか思えない。それが人なのかそれ以外の何かはわからないが……魔法以外の手段、つまり物理的に同じことを起こすことは可能か?」
「無理でしょうな」
「同意見ですわ」
「まぁ、そうだろうな……」
ジルクニフは特に、落胆した様子もなく予想通りといった風に溜息をついた。
それ程大きな尖塔ではないが、それでも両断するとなればどれ程大きな剣が必要だろうか。報告通りの滑らかな切り口にする為にはどれほどの斬れ味の剣、または力量が必要だろうか。
あり得ない、そう結論を出さざるを得なかった。
「魔力の残滓を残さずに魔法で同じようなことをできると思うか?」
「それこそフールーダ様にお尋ねしたほうがよろしいかと思います」
「…それもそうだ、じいを呼べ」
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
皇城尖塔切断事件の少し前、暇を持て余していたクレマンティーヌは一人歩いていたところイミーナを見かけた。
クレマンティーヌは以前Devil May Cryに来たことがあった人物だと思い出して暇つぶしにと飛びついた。
「きゃあ!ちょ、ちょっと何!?」
クレマンティーヌに後ろから抱きかかえられる形で半ば羽交い絞めにされたイミーナは何が起きたのか分からず混乱した。
「お姉さん暇なんだけどぉ、遊ばない?」
「ほ、ホントに誰ぇ!?」
(ってか、力が強い!? 全く抜け出せそうにないんだけど!?)
イミーナはジタバタと足掻くが、クレマンティーヌはびくともしなかった。
「そんなに嫌がられちゃったらお姉さん寂しい……」
クスンと泣き真似をしながらイミーナを開放するクレマンティーヌ。
ようやく解放されたイミーナは勢いよく、振り返る。
「あなたは……レン!?ダンテのところにいた…」
「そっちは闘技場の名義ね、あたしはクレマンティーヌ。よろしくね」
イミーナは羽交い絞めから抜け出せなかったことに少しだけ納得した。
イミーナはレンもといクレマンティーヌが闘技場で連戦連勝していたのを見ていたため、その強さは自分が逆立ちしたところで勝ち目のある人物ではないと理解していたからだった。
「おーい、イミーナ!」
「ヘッケラン…」
駆け寄ってくるヘッケランに疲れた目を向けるイミーナ。ヘッケランの少し後ろにはロバーデイクが歩いていた。
ヘッケランはイミーナのその様子を不思議に思いながらもイミーナの隣にいるクレマンティーヌに目をやる。そこへ追いついてきたロバーデイクが声をかけた。
「おや、あなたはダンテの事務所にいた…確かクレマンティーヌさんでしたか」
「自己紹介していないのによく知ってたね?」
「ダンテが一度あなたの名前を呼んでいましたので、覚えていました」
クレマンティーヌの疑問になんでもないように答えるロバーデイク。
「ところで、そのクレマンティーヌさんがイミーナに何をしていたんだ?」
若干険のある表情でクレマンティーヌに問いかけるヘッケラン。
クレマンティーヌのことを知っている人間から見れば、ヘッケランを命知らずの死にたがりかと思うところだが、ダンテと出会ってからクレマンティーヌは基本的に殺人を犯してはいなかった。
その理由についてダンテはもちろんクレマンティーヌ本人にも分かっていないのが微妙なところではある。
「ダンちゃんがいなくて暇だっただけ、そんなところに見知った顔が歩いてたから…ねぇ?」
「ダンテなら昨日一緒に帝都に帰ってきたけど、また出かけたの?」
「え?ダンちゃん帰ってきてたの?」
イミーナの話に「何それ知らなかった」と驚いた様子のクレマンティーヌ。
フォーサイトの面々はそういう連絡が一切ないのはダンテらしいなと短い付き合いながら納得していた。
クレマンティーヌも「ダンちゃんってそういうところあるよね」とぶつぶつ呟いてはいるが、特に怒っているというわけでもなく、どちらかといえば諦めた風でもあった。
──ズズーンッ!!
轟音が一帯に響く。
クレマンティーヌとフォーサイトの面々は咄嗟に体勢を低くし身構えた。
「な、何?」
「わからん!」
イミーナとヘッケランが言葉を掛け合いながら背中合わせに武器を構える。
そんな二人を余所にロバーデイクがある方向を見遣りながら呟いた。
「……なんですか、あれは?」
ロバーデイクの向いている方向に目を向ければ、土煙がもうもうと立ち上る空が見えた。
方向的には皇城のある方向だった。
「とりあえず、行ってみよう」
ヘッケランの言葉に頷くイミーナとロバーデイク。
「クレマンティーヌはどうする?」
「もちろん行くよ」
クレマンティーヌ達が皇城に辿りつくと、騎士たちが皇城の出入り口を警備していた。
それになによりも、皇城に辿りつく前から城の異変は見えてはいたが、至近で目の当たりにするとその異様さが際立つ。
「すげぇバッサリいってるな……」
「折れたってわけじゃなかったのね」
ヘッケランやイミーナの感想どおり、尖塔は折れて横倒しになったのではなく、何か鋭利な物で袈裟斬りにされ、その傾斜を滑り落ちたように見える。
尖塔の先端部分は切断面を下にして地面に刺さり、一見新しく建物を建てたようにも見える。
野次馬達の声を聞いても、何が原因なのかという話題に終始している。
人の身で不可能と思えることであれば、魔法が原因ではないか。
魔法が原因とするならば、一体誰が?フールーダがやるとは思えない。
フールーダではないとするのであれば、一体誰がこれほどの魔法を行使できるのだろうか?評議国のドラゴンの仕業ではないか?
「んー、本当に魔法なのかな?」
「いやいや、さすがに人が物理的に塔を斬るのなんて無理だろう」
ポツリとクレマンティーヌが呟いた言葉にヘッケランが反応した。
「確かにそうなんだけど、ダンちゃんがやったって言ったら納得できない?」
「「あぁ、やれそう」」
実際、クレマンティーヌはダンテが遠隔の悪魔を切り刻む姿を見たことがあった。
もちろん、クレマンティーヌはダンテが今回斬られた尖塔程の大きさのものを斬ったところを見たことがあるわけでもないし、閻魔刀によるものではなくリベリオンの《Drive》による斬撃を見たことがあるだけなのだが、やはりダンテがやったと言われれば納得できそうに思った。
「でもま、これだけ騒ぎになっているのに来ていないんじゃ、近くにはいないのかも」
クレマンティーヌはそう言いながらぐっと背伸びをして周囲をキョロキョロと見回す。
「あ、レイちゃん発見」
クレマンティーヌはレイちゃんことレイナースを見つけた途端駆け出した。
それに気付いたらしいレイナースが飛びついてきた彼女を抱きとめて微笑んだ。
「ふふ…クレマンティーヌも見に来たのね」
「まぁね」
「何か気付いた事はないかしら?」
「ないかな?すっごい土煙が上がってたから来ただけだし…」
「目撃してはいないのね…」
レイナースは尖塔が斬れる瞬間を目撃した人物がいないか探しているようだが、難航している様子だった。
レイナースは少し逡巡して、意を決したようにクレマンティーヌの耳に口元を寄せた。
「魔法的手段以外でこんなことが出来そうな人や事象に心当たりはないかしら?」
「……魔法じゃないんだ。フールーダがそう言ったの?」
コクリと頷くレイナースを見てクレマンティーヌはますますダンテじゃないかという思いが強くなっていくのを感じた。
とはいえ、ダンテがやった証拠もないし。仮にダンテがやったとしてそれがバレた場合、どれほど金を請求されるかを思い描いたクレマンティーヌは首を振った。
「やっぱり……」
「ダンちゃんならやれそうな気はするけどね」
しょんぼりした様子のレイナースを見たクレマンティーヌはポツリと呟いた。
しかし、レイナースが聞き逃す事はなく「まさか」と苦笑いを浮かべた。
「流石のダンテ様もそこまでは……それに今はアーウィンタールにいないはずですし…」
「昨日帰ってきたらしいよ、今どこにいるかはわからないけどね」
「ホントですか!?……こほん、ダンテ様の帰還はともかくあれをやってのけるのは流石に無理では?」
一瞬嬉しそうな顔を浮かべたが、気を取り直したレイナースは改めて疑問をぶつけた。
「そっかレイちゃんはダンちゃんが戦ってるとこってみたことないんだっけ?」
「確かにありませんが、証拠もない事を言うべきではないでしょ」
「まぁね、でも本当にダンちゃんだったら?」
「どうもしませんわ、調査もこのままなら原因不明で終わりそうですから」
談笑する二人を尻目にフォーサイトの面々は情報を集めようと周囲に知った顔がないか確認していた。
「クレマンティーヌが重爆と知り合いだなんて、情報はあっちだけで十分そうね」
「かもな……それにしてもダンテって何者なんだろうな」
「冒険者なんでしょ?」
「その割には依頼とか受けてる様子もないですが……」
「Devil May Cryって言ったっけ?ぶっちゃけワーカーみたいなことしてるしな」
「考えても分かりませんね」
三人揃って首を振って苦笑しているところにクレマンティーヌが戻ってきた。
「なーんの話してたの?」
「いや、ダンテは何者なのかなって?」
「貴女はダンテのとの付き合いも長いのでしょう?何かわかりますか?」
「さぁ?実際そんなにダンちゃんとの付き合い長くないし…」
「あ、そうなんだ」
残念そうに首を振るクレマンティーヌにヘッケランは当てが外れたなと思った。
「ま、これからあたしはレイちゃんを待って一緒にDevil May Cryに帰るし、いろいろ聞いてみようかな」
「それ、俺達も一緒してもいいか?」
「良いと思うけど……」
「カッツェ平野でのお礼もまだしていませんしね」
「何か面白いことでもあったの?」
目をキラキラとさせて身を乗り出すクレマンティーヌにヘッケランは少し悔しそうにしながらも答えた。
「なんにも面白いことなんてないさ……俺達は危ないところをダンテに助けられたんだ」
「ふーん…そっか、助かってよかったじゃん」
珍しく優しい微笑みを浮かべたクレマンティーヌに若干見惚れたフォーサイトの面々はあのときのダンテの戦いを思い出していた。
半ば死を覚悟した
羨ましく感じないわけがない。
「ヘッケラン……」
押し黙ったヘッケランの肩にイミーナは手を置いたが、かける言葉が思いつかないようだった。
そんな微妙な空気はレイナースが合流しても変わらず、Devil May Cry到着まで引きずった。
微妙な空気をぶち壊してくれたのは子供の無邪気さだった。
Devil May Cryで一行が目にしたのは、二人の小さな子供に纏わり付かれて困った表情を浮かべるダンテとその前で頭を下げているアルシェという光景だった。
入ってきた一行に気付いたダンテは「なんとかしろ」と言わんがばかりの表情でこちらを見ている。
「──みんな、どうして」
ダンテに次いで一行に気付いたアルシェが驚きの表情を浮かべた。
「アルシェ、今日の用事ってダンテと一緒だったのか?」
「──うん。実は……」
アルシェは未だにダンテに纏わり付いているウレイリカとクーデリカを悪いと思いながらもダンテに任せたままフォーサイトとしてけじめをつけるべく、今日のことをメンバー全員に話した。
自分の家が元貴族だったこと、両親のせいで多額の借金があったこと、カッツェ平野でダンテに言われたこと、両親が悪魔に取って代わられていたこと、それをダンテの助けを得て倒したこと。
そして今は、妹二人とフルトの屋敷を出たが行く当てがないのでダンテにしばらく置いてくれるよう頼んでいたところだという。
その話を聞いたイミーナはため息をついて言った。
「馬鹿アルシェ!なんで私達に言わないのよ!」
「──それは、みんなには迷惑ばかりかけてたから。借金のせいで装備も整えていない私のことに何も言わなかったり、それに私はもうワーカーとしては……」
「どう思う?ロバー」
「これはお説教が必要ですか…」
「そうね」
「──みんな……」
ダンテはフォーサイトの様子を眺めていた。
ウレイリカとクーデリカはレイナースに任せて漸くいつもの定位置に座って落ち着くことができた。
そんなダンテの後ろから抱きつくようにクレマンティーヌがのしかかる。
「ダンちゃんって意外とああいうの好きだよね」
「……」
「何~?ダンちゃん照れてるの~?」
「うるさい」
ダンテは机の上に放置していた本を開いて読むフリをする。
背後でニヤニヤしているらしいクレマンティーヌとソファーでウレイリカとクーデリカを相手しているにも関わらずこちらに気付いてにこやかに笑うレイナースを若干煩わしく思った。
「ところでダンテ、皇城の斬られた尖塔見たか?」
「あぁ、アレな。アルシェの家にいたから詳しくは知らないが…」
唐突にヘッケランから投げかけられた問いにダンテは読んでいた本を少しだけ持ちあげて顔を隠すようにして当たり障りないの回答をした。
「やっぱり分からないか……何となく金になりそうな雰囲気があったんだけどな」
「そうだな、金の匂いがするな」
残念そうに呟くヘッケランに同意するダンテ。
しかし、2人の指す金は収入と支出という意味で向かう先が全く違うのだった。
まだ、アインズと接触してないのにジルの毛根に深刻なダメージが……
たくさんの閲覧、お気に入り、感想、誤字脱字修正ありがとうございます。
また次回、お時間ありましたらお付き合いください。